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2-07 処刑された首無し聖女が、ダンジョンの最下層から生き返って戻ってくるわけないだろ?

【この作品にはあらすじはありません】

 馬車が森の中を駆けている。

 手綱をとっている従者はなにも関わるまいと言いたげに口を真一文字に結んで、馬の進むほうに視線を向けている。

 従者の背後には、二人の騎士がいた。

 一人は長身の男。頬に傷がある。一人は小男。長身の男の顔色を窺っており、おどおどしている。

 二人の間には棺桶がある。

 黒い棺桶。とても高級そうな色合いの棺桶だ。

 一人の従者と二人の騎士。

 三人からは息の詰まるような沈黙が漂っていた。

 その時だ。

 ドッ! ドッ!

 と、棺桶から鈍い音が響いた。

 小男はビクっと肩を振るわせ、長身の男は苦々しい顔をした。

 棺桶から音がする。二人の騎士はその単純な事実を認めたくない。

 しかし、従者は振り返り、言った。

「旦那、棺桶から音がしますぜ」

「風の音だろう」

「いやいや、旦那。あっしは確かに聞きましたぜ。この音は馬車の中で響きました」

「どこかにネズミが入り込んだのだろう」

「いやいや、旦那ーー」

 長身の男は剣を従者の首筋に突きつけ叫んだ。

「棺桶からは音がするわけがねぇって言ってるだろうがァァッ! テメェの口をこの剣で縫い付けてやろうかァっ! まち針みたいによォォォ!」

 男の言葉に、従者はギョッと目を剥いた。

「申し訳ありませんが、持ち場に戻ってくれませんか。あなたは気にせず前を見ててください」

 小男が従者に釘を指すと、従者は恐る恐る前を見る。

 長身の男の荒々しい言葉とは打って変わって、小男はとても丁寧な言葉遣いだった。

 小男はまたおどおどとした様子で、長身の男に恐る恐る話しかけた。

「ヘンゼル隊長、そんなにイラつかないでくださいよ……」

 小男の言葉に、ヘンゼルはふん、と鼻を鳴らした。

「これがイラつかずにいれるものか。アイツ、あの棺桶から音がしたって言ったんだ。そんなことがあるものか。誰がなんと言おうとあの棺桶の中には……」

 ドンっ!

 言い切る前に音が響いた。音は棺桶から確かに響いた。

「隊長、なぜ私と隊長だけなのですか? 他に応援が必要だったのでは?」

「応援だと? お前はまさかこう言いたいんじゃないんだろうな? ただの棺桶のために、王国の兵士たちが軍団になって運ばなければいけない、と! この棺桶のために? 王国の兵が! 必要だとでも!? いいか? これは国を挙げての葬儀じゃないんだ。運搬なんだ。俺たちは邪魔になった棺桶を一つ、遠くの山奥に捨てにいくだけなんだ」

「しかし、この棺桶になかにいるお方は……」

「お方だと! ポットル! 貴様は何を言っているんだ!」

 ヘンゼルの言葉にポットルはビクリと肩を震わせた。

「この棺桶にあるのはただの死体であり、特別な人物でもなんでもないんだぞ!」

「しかし、どう考えてもなかにいる……ものは生きています!」

「いいや、死んでいる。生きているはずがない。偉大なる王家の名の下で、教会が魔女と認定した罪人を、国民の前で正式に処刑したのだ! その後で生き返ったなんてことがあるはずがない! そんなことはあってはならない!」

 ヘンゼルは拳を叩きつけた。

「そんなことが起きてしまえば! 奇跡が起きたということになってしまう! 神格化されてしまう! 魔女ではなく、聖女だったということになってしまう! だからこそ! こいつは遺体や蘇った化け物としてでなく、ゴミとして処分せねばならんのだ!」

 ヘンゼルの言葉にポットルは黙ってしまった。

 馬車の中はまた重い沈黙に包まれる。

 その時だった。

 馬車が大きく揺れた。

 馬が足を止めたのだ。

「なんだ! どうした!」

「旦那方! 前を見てくだせぇ!」

 そこにはゴブリンの群れがいた。

 ヘンゼルとポットルは前に出て、剣を構えた。

「グギャッ!」

 ゴブリンたちは棍棒を振り回して、前に飛び出す。ヘンゼルは避けて、腹に切りつけた。ゴブリンはにぶい声をあげて倒れた。

 しかし、ゴブリンは次々とやってくる。

「クソ! 何十匹もいやがる! 一匹一匹は弱いが、こう何十匹も来られちゃっ!」

 言いながら、ヘンゼルたちはゴブリンたちを切り伏せる。彼らは次第に追い詰められていた。

 その時、一匹のゴブリンが振り下ろした棍棒がポットルの剣を叩き落とした。

「ひぃぃぃぃっ!」

 ポットルは叫んだ。脳裏にこれまでの走馬灯が駆け巡り、死を覚悟した。

 目を瞑り、その瞬間を祈りながら待った。

 その時は来なかった。不思議に思い、目を開けると、目の前には彼岸花が咲いていた。

 森の中に咲き誇る真っ赤な彼岸花が周囲に咲き乱れる。こんな真夜中に、たくさんの彼岸花がなぜ咲いたのか。

 いや、それは彼岸花ではなかった。赤い彼岸花はその茎を伸ばし、ポットルの頬にあたる。生暖かい感触。

 そう、花だと思われたのは鮮血だったのだ。

 ゴブリンたちは突如、破裂して絶滅した。

 彼岸花は地面と同化し、あたりは血の海となった。

 ホタルのような光が血の海から浮かび上がり、馬車の中に入っていった。ヘンゼルは馬車の中に入る。そこには棺桶があった。

「やっぱり聖女さまだっ! 聖女さまが俺たちを守ってくれたんだ!」

 ポットルが感極まった声で叫んだ。

「バカやろう!」

 ヘンゼルはポットルを怒鳴りつける。

「なにがバカやろうですか!?」

「あの魔女が今、なにをしたと思う。あの光の粒子! ありゃ、回復魔法だぞっ!」

「それに何の問題が?」

「大アリだっ! アイツは、回復魔法でゴブリンを殺したんだ! 本来なら殺傷能力のない回復魔法でだっ!」

 ヘンゼルは続ける。

「回復魔法とは、人々を癒す力である! 国家の騎士は剣を持ち! 魔法学会は魔法を操り! 教会は回復魔法で癒す! それぞれが違う方向の力を持つからこそ3つの権力はバランスをもつ! そのバランスの要となるのが、3つの組織の頂点となる勇者、賢者、聖女なのだ!」

 長々と叫んでもなお、ヘンゼルは苦々しい顔で続けた。

「勇者は剣で何者をも切り裂く、しかし魔法は使えない! 賢者は魔法で遠くのものを攻撃できるが剣を持つことができない! 聖女は他者を害せぬが勇者や賢者にはない癒しの力を持ち、人々からの信仰を集める!」

「バランスって! それじゃあ、社会のバランスのために、彼女は魔女にされて処刑されたということですか!」

「それだけのハズがないだろうがっ! いいか! あの魔女が回復魔法で魔物を殺したのは3歳の頃、まだ男の子が剣すら持たせてもらえない年頃! その頃から、回復魔法で人を殺せるという発想を持てたのだぞ! 邪悪だろうがっ! 魂がっ!」

 ヘンゼルは吐き捨てるように言った。

 二人の間に、また沈黙が訪れた。

「もういい、馬車に乗るぞ」

 そう言って、ヘンゼルとポットルは馬車に乗り込み、森の中を馬車は駆けた。

 しばらくして馬の蹄の音がやみ、静かになった。

「ようやく目的地に着いたな。棺桶を運ぼう」

 ヘンゼルとポットルは棺桶を運んで外に出た。馬車の外には巨大な穴があった。どこまでも深い穴だった。

「ここに放り込むぞ。穴の奥はダンジョンの最下層。落ちてしまえば、二度と上には戻ってこれまい」

 ヘンゼルとポットルは棺桶を穴に落とした。棺桶は穴の奥深くに落ちていった。

「よし、帰るぞポットル。これで安心だ」

「本当に大丈夫でしょうか。もし、あれが生きていたとするならば」

「何を言ってるんだ」

 ヘンゼルはため息をついて言った。

「ギロチンで処刑された首無し聖女が、ダンジョンの最下層から生き返って戻ってくるわけないだろ?」

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