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2-21 元聖女です。お店を始めたら、常連客が魔性のものばかりなんですが!?

元聖女シャロンは、小さな雑貨屋を始めた。

ところが聖女の称号を剥奪されたと知れ渡っているようで、お客が来ない!

ようやくやって来たお客は吸血鬼、キツネ、ウィスプや食人種。


なんで私のお店に魔性のものが集まるの???

でもお金を払ってくれれば大歓迎です!

お店の維持のため、生活のため、今日も商売に勤しみます!

 念願のお店を開いて一か月。

 本当は喫茶店をやりたかったんだけど、聖女仲間からシャロンは味オンチだ、料理は作るなと言われていたので、雑貨屋にしたわ。

 まあ、私は聖女の称号をはく奪されたけどね……!


 そして現在、なけなしの金でお店を始めたのですが。

 客が来ない。

 聖女資格をはく奪されたと、噂が回ってしまったみたい。なかなか誰もお店に入ってくれません……!

 つまり売り上げはゼロ。

 そろそろ本当に、別の収入源が必要かも知れない。公園で吟遊詩人の隣りに座って、『回復します』と札を立てて、座ってようかな……。

 本日何度目かのため息をついていたら、扉が開いた。

 客!? 客なの!??


「いらっしゃいませー! どうぞご覧ください、そして買ってください!」

「……ずいぶん聖なる気にあふれた店だな」

 三十歳前後で、銀髪に赤い瞳の男性だ。スラッとして背が高く、黒いコートがよく似合う。

「珍しいなあ、こんな街中に昼間から不死人アンデットが現れるなんて」

「私を見抜くとは、なかなかの実力者のようだ。迷惑なら去ろう」

「お金さえ払ってくれれば、お客さんは人食いオーガでも大歓迎です!」

「招き入れれば町が混乱に陥るのでは?」

「他人より自分の利益、明日の私の生活ですよ」

 口に牙が生えてたわ。吸血鬼ね。

 魔力の多い吸血鬼、つまり長生きして金持ちの可能性大。大っ歓迎です。吸血鬼の男性は苦笑いしながら店内を進み、商品棚を眺めている。

「商品があまりないな」

 木彫りの熊を持ち上げながら、ぼそりと呟いた。木彫りは私が彫っている。木を削る時にムカつくヤツの顔を思い浮かべれば、ずっと続けられそうよ。


「お望みでしたら、お金を払えば血を吸わせてくれる貧しい女を紹介しますよ。紹介手数料は頂きますが」

「君に倫理観はないのかい?」

「お金がないとお店を維持できませんし、生活もできません。犯罪以外は何でもやる覚悟ですっ!」

「覚悟の在り方が間違っている」

 吸血鬼も長く生きると、理屈っぽくなるのねえ。

 とにかく逃がさないように、私が扉側にいた方がいいかな?

「そうだ。“鮮血の死王”と自称する吸血鬼が、この近辺に現れたらしいです。気を付けてくださいね」

「……噂を聞いたよ。それはいつ頃から?」

「一ヶ月くらい前に最初に聞いて、でもその時は聖女でしたから情報が早いんですよね。一般人の間に広まったのは、この半月くらいの間かと。若い女性の被害者が、数人出ているそうです」


「……貴重な情報をありがとう。ところで、聖女だったとは?」

 つい余計な発言をしたばかりに、聞かれてしまった。まあいいわ、真実を話したいところだったのよ。

「聖女が聖プレパナロス自治国の中央神殿所属の女性神官の中で、回復や浄化が得意な者に与えられる称号なのはご存じですか? 私達は、お金を積んだ国や貴族に派遣されます」

「身もふたもない言い方だ」

「山岳地帯にある最小国ですからね、稼ぐ手段が欲しいんですよ。で、私も高額でパーティーの回復役として契約させられまして。一緒に冒険した公爵の息子が、聖女としての力も資格もないと教会に嘘を報告したせいで、はく奪されたんです!」

 回復が弱いって言うのよ。回復じゃなくて浄化が得意って、最初に説明しましたが。

 お布施をたんまりくれる公爵の息子の証言だったんで、効果てきめんで私が追放された……。悔しいったら!


「とりあえず君が、追放されて野放しになっていることは理解できた」

 引っかかる言い方をするわね。でもお客だから、我慢せねば。

「どうぞゆ~っくり選んでくださいね、その分たくさんのご購入をお待ちしています」

「……何故こんなに負の感情が籠っているんだ、この木彫り達は……」

 鋭いな、さすが魔性の中でも高貴な吸血鬼だわ。不死者の中でランクが上なのよ。

「こちらにガラス製品が……」

 これは私達の神殿がある国から仕入れたガラス工芸品よ。この国ではなかなか買えないの、と自慢げに勧めるが、外で大声がして声がかき消されてしまった。

「随分騒がしいな。この国はこうなのか?」

 人々が走ったり立ちすくんだりして、逃げろだの助けてだのと大声で叫んでいる。

「魔物でしょうね~、すぐに警備がきますよ。私は単なる店主なんで関係ないです」

「そうも言っていられないようだ」

「ぴょ?」


 ドバン!

 大きな音とともに扉が乱暴に開かれ、黒い髪に黒いマントの痩せた男が、店内に飛び込んできた。口元から赤い血が流れていて、服が鮮血に染まっていた。

 ……こいつも吸血鬼!

 客の吸血鬼と同じタイプの魔力だもの、すぐ分かったわ。ただ、ケタが違う。この吸血鬼も強そうだけど、客はそれ以上に違いない。

「……しけた店だな」

 第一声がそれかい。ケンカ売ってんの? あ?

「去れ。礼儀を知らん若輩者よ」

 客の男性は手にしていたガラスの器を丁寧に棚に戻し、吸血鬼を睨んだ。相手は力量を読めないのか、不敵に笑っている。

 買ってもらえるチャンスだったのに!

 この恨み、晴らさずでおくべきか……!


「帰ってちょうだい! 買いものをしない人は客ではありません!」

「うるさい、女! 俺を誰だと思っている!?」

「知るかボケ! 商売の邪魔をする、ろくでなしの吸血鬼よ!!!」

 一瞬沈黙が流れた。

 扉の前に立つ吸血鬼の白かった顔色が、怒りでみるみる赤くなる。外では店を遠巻きに人々が眺めていて、誰かがこっちですと警備兵を呼んでいた。

「ろくでなしだと!? 聞けっっ! 俺は“鮮血の死王”の異名を持つ、偉大な吸血鬼だッ!」


 鮮血の死王。

 二百年前、隣国で猛威を振るった吸血鬼。この国でも未だに恐怖とともにその名を語り継がれている。姿などは伝わっていないわ。

 自らそう名乗る吸血鬼が現れたと注意喚起されたけど、私は半信半疑だった。名前の分からない彼を人々がそう呼んだだけで、本人からそう名乗った記録はないのだ。

 目の前の吸血鬼は、十年も語り継がれればいい方だわね。騙りに決定。


「だから何? 消えたくなければ去りなさい」

「貴様ああぁ!!!」

 怒った自称死王が、足を踏み出す。ブワッとマントが浮かんだだけで、道では悲鳴が響いた。

「……君が“鮮血の死王”?」

「そうだと言って……」

「それなら私は誰なのだろう?」

 サアッと客の体が霧になり、逃げられたと思った次の瞬間には吸血鬼の後ろにいた。赤い瞳が怪しく光る。

「え、あ……?」

 動揺している首に、手がかかった。

「そうとも、私こそ“鮮血の死王”と呼ばれた者。最近この近辺に私が出没するとの不可解な噂を耳にしてね、確認に来ていたわけだ」

「まさか……!? く、逃げるか……」

 吸血鬼はガクガクと膝を震わせつつ、抵抗を試みてコウモリの翼を広げた。


「逃がすか営業妨害! 天にまします我らが神よ、この痴れ者に罰を与えたまえ。私の売り上げが満たされますように。言葉こそ神たる力の発露なり、我が言葉に聖なる力を宿したまえ!!!」


 浄化の祈りを捧げると、まばゆい光が吸血鬼を刺した。聖女は人間が与える称号なので、はく奪されても能力は変わらない。

 客は直前に再び霧になり、私の隣へと移動している。

「うわああぁあ!!!」

 吸血鬼は逃げる暇もなく光に撃ち抜かれて、灰の塊へと変わった。一件落着ですよ。

「……私も巻き込むつもりか! 恐ろしい女だな、君は」

「まさか。あんなに素早く移動できるのに、簡単に当てられませんよ」

 当たってもこっちは倒せないんじゃないかなあ。


「魔物はここですか!??」

 全て片付いてから、警備隊が到着。ある意味タイミングのいい人達だわ。

「吸血鬼でした、その灰です。処理しておいてください」

「た、倒したんですか……?」

「もう弱っていたみたいですよ。きっと最後の悪あがきだったんでしょう」

「ああ、なるほど……」

 私は聖女を剥奪されて力がないと勘違いされたままでいたいので、適当に誤魔化した。力があると分かったら、面倒な仕事を押し付けられかねない。

 警備兵は丁寧に灰を片付けている。

 布袋に詰めてから、簡単な事情聴取をして帰っていった。ちなみに商品を買わなければ何も話さないとごねて、なんとか一つ売ったわよ。

「商魂たくましい」

 吸血鬼は不思議な生き物でも見るような眼差しで、私を眺める。店内にはまた、私と彼の二人きりだ。

「見物料取りますよ」

「私も何か購入するよ」

「いくらでもご覧ください!」

 やだなあ、先に言ってよ。お茶でも出しちゃおうかな? いそいそしていると、再び扉が開かれた。


「あの〜、ここお姉さんのお店?」

 扉から入ってきたのは、二本足で立つキツネだった。

「そうよ、私は店主のシャロン。キツネさんがどうしたの?」

「キキュ!? どうして私がキツネだと……!?」

「だってキツネだもの」

 見たまんま、薄茶色いキツネだ。尻尾は三つありますが。

「……あ。変身が解けちゃってる!」

 キツネは慌てて女の子に変身した。十三歳くらいで、肩までの茶色い髪にワンピースを着ている。


「変身上手だね、お買い物? 何が欲しいのかな?」

「ちがうのー、お願いがあってきたの」

「客以外のお願いは聞きません」

 客じゃない。私は手の甲を向けて、追い払うようにパッパと振った。キツネ助けしている場合じゃないのだわ。

「お金になる話なの」

「全て私に任せて。義を見てせざるは勇なきなり!」

 かぐわしいお金の芳香! キツネの話を聞かねば。

「……君は本当に見事な人間だ」

「死王さんは商品を選んでくださいね。二つ以上です」

「分かった分かった」

 ようし、儲けるわよ!


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