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【第1章完結】定時上がりの複業文官~残業しろ? いや、そっちの仕事は副業なので~  作者: 晩夏ノ空
第2章

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41 挙動不審な名持ちの狩人


 クラペイロン公国クレメンティ領の夏は長いが、盛りを過ぎると急に、朝晩は上着がないと肌寒いくらいの気温になる。


 夜半過ぎ。狩人のシフトを終え、私は星明りに照らされた屋根の上を身体強化魔法を使って走っていた。

 深夜の領都は明かりが点いている建物はほぼなく、まばらに配置された街灯の白っぽい光だけがぽつぽつと存在を主張している。人の姿のない街の中、私が屋根を蹴るわずかな足音とマントが翻る音が、妙に大きく聞こえた。


 昼間はまだ汗ばむくらいの陽気だが、この時間帯の空気は澄んで、秋の気配が間近に感じられる。

 星が煌めく夜空は、タンザナイトよりなお色濃い紫紺──それを意識した瞬間、踏み出した爪先がずるりと滑った。


「う…っ」


 わ!? と叫びかけるのをギリギリで押し留めて反対側の足で強引に屋根を蹴り、何とか体勢を立て直す。

 思い切り大きな足音を立ててしまった。安眠妨害になっていないといいが。

 ヒヤリとしたものを感じつつ、自宅前の路地に降り立つ。


 黒いマントがばさりとはためき、身体を覆った。ひんやりとした空気が遮られて、私はホッと息をつく。

 改めて見上げると、吸い込まれそうな深い紫紺の空に、星が変わらず瞬いていた。その色合いでどうしてもルーカスを連想してしまい、急に落ち着かなくなる。


 ルーカス・ブレット。青み掛かった銀髪に、紫紺の目を持つ青年。

 私と同じ名持ちの狩人であり、狩人名は『オウル』。そして──その──私、セラフィナ・アッカルドの、婚約者、でもある。


 ……ああダメだ。意識したら何か余計に背中がムズムズする!


 頬が熱い。その場で頭を抱えて悶えそうになるのを何とかこらえ、私は足早に階段を上り、家の鍵を開ける。


 ルーカスの前では存外落ち着いていられるのに、一人になって意識した途端コレである。

 普通逆じゃね? と思わなくもないが、残念ながら前世でも今生でも色恋沙汰にはとんと縁がなかったので、どちらが普通なのか判断できる材料が手元にない。

 いや、前世の記憶はかなり曖昧だから、断言はできないのだが。恋愛経験はない。多分。きっと。


《おかえり、セラ》

「ただいま、ウィッカ」


 ドアを開けると、いつものように頭上から声が降ってきた。ケットシーのウィッカ。今日も白黒のハチワレ柄が美しい。

 狩人のシフトが入っていると、帰りは深夜になる。寝ててくれていいのにとも思うのだが、「おかえり」と言ってもらえるのは正直嬉しい。


 ちなみにウィッカに言わせると、出迎えているのには彼女なりの理由があるそうだ。

 以前、「貴女ちょっと目を離すとマントと仮面隠すの忘れるじゃないの」と苦言を呈された。実際に前科があるので否定できない。


《セラ、置き場所》


 回想しているそばから、ウィッカが半眼になる。

 いつものように玄関横の収納に放り込んだマントと仮面。それを慌てて取り出すと、収納の中には普段使い用の上着と文官仕事用のバッグが入っていた。


「…あ、あれ?」

《また開ける前に魔力流すの忘れてたわね》


 この収納は狩人の希望に応じて狩人管理事務所が貸与している特殊品で、登録した魔力を流すことによって隠し収納が開くようになっている。ちゃんと魔力を流したつもりだったのに、開いたのは『表側』の収納だった。


「…おかしいな…?」

《っていうか隠し収納の方は扉の開き方が左右逆なんだから、開ける時点で気付きなさいよ》


 ウィッカの突っ込みが痛い。

 私は笑って誤魔化しながら、改めて扉を閉めてからきちんと魔力を流し、正しい場所に狩人のマントと仮面を仕舞った。

 軽く伸びをして気分を切り替え──


《どうせまたルーカスのこと考えて気もそぞろだったんでしょ》

「へっ!?」


 切り替えるはずが華麗にUターンして図星を突いてきた。

 両手を中途半端に挙げた格好で私が固まると、ウィッカが溜息をつく。


《色ボケるのは仕方ないにしても、行動がおかしくなるのはどうかと思うわ》

「い、色ボケてなんかないよ!」

《どうかしら。大方、夜空を見て「ルーカスの瞳の色みたいだ」とか思ってたんでしょ。さっき、近くの屋根の上でやたら間抜けな足音がしてたし》

「うっぐう…」


 何でこうも的確に急所を突いてくるんだ。

 あと、それなりに遠かったはずなのに何で私が足音立ててたのがバレるんだ。地獄耳にも程があるでしょ…。


 可愛らしいケットシーの冷たい眼差しにダメージを受けていると、ウィッカがふいっと目を逸らした。

 ひらり、尻尾を一振りして、


《ほら、さっさとお風呂入って寝なさい。明日も仕事でしょ》


 ここで言う仕事とは、文官業務のことである。明日は紅玉。普通に平日だ。

 毎度毎度思うけど、時間が足りない。


「……今日も魔鉱細工いじれなかった……」

《狩人のシフトが入ってたんだから当然でしょ。ほら、さっさと動く!》


 ウィッカに急かされ、私は肩を落として風呂に向かう。



 外から、秋の虫の声が聞こえていた。










…というわけで、第2章、開幕です!


※注意※

第2章は、第1章とかなり雰囲気が異なります。

具体的には、重い話が出てきます。中盤、結構な文字数、重いです。

そこを抜ければ元のノリに戻りますが、苦手な方はご注意くださいませ。


またこれに伴い、更新タイミングを変更します。

第2章は、毎日1話ではなく、土日祝日に複数話更新します。

基本的には土日祝日の11時、13時あたりに更新していきますが、区切りの関係上、各週末に更新する話数は一定ではありません。


具体的な更新タイミングについては、作者のX(@banka_no_sola)で毎週土曜の午前に告知していきますので、気になる方はそちらをチェックしてみてください。


それでは、最後までお付き合いいただけますよう…!


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