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【第1章完結】定時上がりの複業文官~残業しろ? いや、そっちの仕事は副業なので~  作者: 晩夏ノ空
第1章

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29 魔力譲渡の方法


 イーリス──全ての魔力型に適合する、アウルムよりさらに希少な魔力の型だ。

 その特徴は外見に現れる。

 目の中に宿る虹色の輝き。見るのは初めてだが、なるほど確かに目を惹く色だ。


 …もっともオウルの場合、それ以前に顔立ちが異常に整っているので、目の中の色彩はオプションくらいの印象しかない。黙って立っていたら近寄りがたいくらいの美青年だ。

 まさか一番気の置けない仲間であるオウルが、ここまで非現実じみた超絶美形だったとは。


「オウルはこの魔力型の影響で、色々と苦労しておっての」


 パイソンがしみじみと呟く。


「まあ今回はそのお陰で助かったんじゃ。感謝するんじゃぞ」


 見上げると、オウルは何かを恐れるようにほんの少し目を逸らしていた。


 狩人はほぼ全員が貴族で、その貴族は魔力を重んじる。この容姿で幻と言われているイーリス型の魔力持ち、そして現在は専業の名持ちの狩人、哨戒部隊の長で、他の狩人に指示する立場。

 オウルも貴族だろう。どう考えても平坦な人生を送ってきたとは思えない。


 それでも素顔を見せてくれたのは、信頼の証というやつだろうか。こんなことを思うのは不謹慎かも知れないが、正直、ちょっと嬉しい。


「オウル、ありがとう」

「…っ…別に、礼を言われるほどのことじゃない」


 私が頭を下げたら、何故かオウルは狼狽(うろた)えた。でもこれは普通に礼を言うべきことだと思う。


 確か貴族は、よほどのことがない限り魔力の譲渡はしないと聞いたことがある。まあそもそも型が違ったら魔力譲渡はできないし、その方法もアレ──……ん?


 ……ちょっと待て。オウルから、魔力譲渡を受けた?

 …………どうやって?


 私はパイソンを見遣り、オウルを見上げ、自分の両手を見下ろして、考える。


 パイソンは私の表情に何かを察したらしくニヤニヤしているし、オウルはそっぽを向いている。

 が、オウルの耳ははっきりと赤くなっていた。私に礼を言われたからって、ここまで動揺するものだろうか。


 頭の中に、魔力譲渡に関する知識はある。が、それと現実が上手く結びつかない。というか結びついたら色々ヤバい気がする。


 必死にブレーキをかけようとする心とは裏腹に、無駄に回転の速い頭が非情な──いやこれ非情って言っていいんだろうか。ある意味オウルにとっては非情かも知れないけど──現実を突きつけてくる。

 魔力譲渡とは、つまり。


 ブワッと全身の毛が逆立った気がした。


 いや、待て。今ここで変に動揺するのはまずい。ダメだ。落ち着け私。


 背中に脂汗が滲んでいる自覚はある。気付かないでくれと念じていると、パイソンがよっこらしょと立ち上がった。


「──さて。入院するなら色々と準備が必要じゃな。お前さん、一度家に戻るか?」

「え、戻っていいの?」

「阿呆。すぐこっちに帰って来るに決まっとる。少なくとも数日は入院じゃから、色々必要なものはあるじゃろう? 着替えは要らんのか?」

「要る。じゃあちょっと歩いて…」


 言った途端、オウルとパイソンが真顔になった。


「歩けるわけないだろ」

「オウルに送って行かせるに決まっとるじゃろうが」

「えっ」

「えっ?」


 オウルが泡を喰った表情でパイソンを振り返った。仮面がないとものすごく分かりやすい。

 パイソンは真面目な顔でオウルを見上げる。


「歩けないんじゃから誰かが送迎するしかないじゃろ。それともアレか? オウル、お前さん、キャットの素顔を晒したまま他の狩人に任せる気か?」

「……」


 パイソンの目が意地悪く笑っているのは気のせいじゃないと思う。オウルはぴたりと動きを止め、低い声を漏らした。


「……それはダメだ」

「えーと、私も他の狩人はちょっと…」


 私は右手を上げて主張する。


「面倒だし、自宅はなるべく知られたくないから」

「オウルならいいんじゃな?」

「もう顔見られてるし」


 即答したら、オウルが何故か一瞬肩を落とした。半眼でこちらを見遣り、ぼそりと呟く。


「……顔を見られた狩人なら、45番…他にも何人かいるが」

「え、絶対イヤ。あいつ嫌い」


 ただでさえ文官として終業間際に仕事を持って来られるとか散々迷惑を被っているというのに、プライベートの領域まで踏み込まれるなんて冗談じゃない。思い切り眉間にしわを寄せて答える。


「…そうか」


 オウルの目元がちょっと緩んだ。そこで、救護室の扉がノックされる。


「お取込み中、申し訳ありません。オウルとキャットの状況報告がまだ上がってきていないのですが──」


 申し訳なさそうな声。管理事務所の受付スタッフの一人だろう。オウルが素早く仮面をつけ、フードを被ってカーテンの向こうへ出て行く。


「キャットは絶対安静だ。報告は後日に回してくれ。俺はこれからすぐに向かう」

「承知しました。お願いいたします」


 やり取りする声は、いつも通り整った冷静な響きだ。

 が、カーテンを開けてこちらを覗き込む時には、仮面越しなのに申し訳なさそうな空気がありありと感じられた。


「すまん、なるべく早く戻ってくる。準備をして待っていてくれ」

「分かった」

「わしも行こう。キャットの体調について報告が必要じゃからな」


 大人しくしているようにと念を押され、ベッドに押し込まれる。




 2人が慌ただしく出て行った後、私はゆっくりと右手で顔を覆った。


 思考が戻ってくる。

 顔が熱い。自分が今どんな表情になっているのか分からない。鼓動が耳の中で聞こえる。

 憮然(ぶぜん)とした表情で顔を背けたオウルの真っ赤な耳が、望んでもいないのに脳裏に浮かぶ。



「…………魔力譲渡って、つまり()()じゃん……!!」



 ダメだ。想像するな自分。オウルとキ──だから想像するなというに…!!


 独り、ベッドの中で唸り声をあげながら悶える。


 ──これから先、あの顔を見て平静を保てる自信がない。

 …狩人の仮面にこんな理由で感謝する日が来るとは思わなかった。









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― 新着の感想 ―
これが色男にたいする女性の反応。 中年男相手だったらセクハラ告訴。
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