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【第1章完結】定時上がりの複業文官~残業しろ? いや、そっちの仕事は副業なので~  作者: 晩夏ノ空
第1章

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11 平日の朝


 前日夜に狩人としての出動があろうとなかろうと、その日が平日である限り、文官として出勤しなければならない。


「………休みたい…」

《まだ碧玉よ。さっさと起きなさい》


 狩人の緊急出動の翌朝。目覚ましの音で起こされベッドの上で呻いていたら、ウィッカの冷たい念話が降ってきた。


 この国にも曜日に相当するものがあり、1週間は6日間。

 順に石英、黄玉、碧玉、青玉、紅玉、黒曜で、石英が安息日、つまり休日だ。


 …といっても、私は青玉と紅玉と石英の夕方から夜半までは狩人のシフトが入っている。その時間帯は、デモンが出る出ないに関わらず、自宅ではなく黒の隔離地に隣接する狩人の管理事務所の待機室にいなければならない。

 文官は隔週で黒曜の日も休みになるから、その日だけは丸一日フリー。つまり魔鉱細工作り放題──()()()()()()()()()()


「……休みが…遠い……」


 今週は黒曜の日も出勤日なので、休日はまだまだ先だ。毛布からもぞりと手を出すと、その甲にぷにっとした何かが押し付けられた。ウィッカの肉球だ。

 あ、気持ちいい、と頬を緩めていると──


《早く起きないと、こうよ》


 バチィッ!


「いっだー!!」


 肉球の触れた場所から肩まで、一気に衝撃が走った。ウィッカの得意魔法、静電気の超強力バージョンだ。

 毛布の中でもんどりうって悶絶した後、私はのっそりと身を起こす。

 ばさりと毛布がベッドに落ちると、じーっとこちらを見詰めるウィッカと目が合った。まだ薄暗い中、全開になったまん丸い瞳孔はただの生理現象だと分かっていても可愛い。


《起きたわね。さっ、早く身支度なさいな》


 中身は容赦がないが。


「…もうちょっと弟子に優しくしようとは思わないわけ?」

《貴女、優しくしたらつけ上がるでしょ》


 うっ。否定できない。


「……()()()()師匠を持って私は幸せだよ…」


 よぼよぼと呟きながらベッドから降り、クローゼットを開ける。

 文官仕事の日は決まった服を着まわすだけなので、服装で迷うこともない。いつもの服に着替えて、髪をざっくりと縛ると、ようやく頭がはっきりしてきた。


「…よし!」


 気合いを入れてカーテンを開ける。窓の外は裏通りで、方角の関係上朝日が入ってくることはない。ちょっと寂れた対面の建物の壁が見えるだけだ。

 でもまあ、気分の問題で。


 寝室を出ると、キッチンでお湯を沸かしながら目玉焼きを作る。ついでにウィンナーも一緒に加熱。

 ちなみに私は、目玉焼きの黄身は半熟派である。トーストの上で黄身を崩して白身と混ぜて食べるのが一番美味しいと思っている。お供は粒マスタードとマヨネーズ、塩コショウでも良い。


 …などと私がこだわりを持っていることからも分かる通り、この国、食文化が結構発展している。

 パンも米もあるし、各種加工肉もワインもビールも、何だったら醤油や味噌もある。野菜の名前は前世と共通しているものも多い。

 転生者は結構多いというし、多分そういう人たちが滅茶苦茶頑張ったんだろう。

 お陰で私はその恩恵に(あず)かれる。ありがたいことだ。


 なお、発展しているのは食文化だけではない。生活に便利な道具もたくさんある。

 コンロもあるしポットもあるし冷蔵庫もある。ただしこれは電気ではなく魔力を内包する石──魔石を動力として動く『魔法道具』だ。原理は違うが、使い勝手は前世の電化製品とそれほど変わらない。


 トイレは水洗だし給湯器はあるし、湯船につかる文化もあるし、何に、とは言わないけどちょっと影響されすぎじゃね? と思ったりもする。まあお陰で清潔な生活を送れるわけだが。


《セラ、まだ?》

「はいはいお待ちをー」


 小さなダイニングテーブルの横、丸椅子に座るウィッカが、尻尾をぱたんぱたんとクッションに打ちつけている。

 ウィンナーと目玉焼き、トーストとカットしたトマトを皿に盛り、スープと紅茶と共にトレイに載せる。別の皿に温めた鶏ささみのスープをよそい、その皿とトレイを持ってささっとダイニングテーブルへ。


「お待たせいたしました。セラフィナ特製、鶏ささみのスープです」


 ウィッカの前に丁寧にスープ皿をサーブする。ウィッカの席にはクッションが敷かれているので、テーブルの上の皿はウィッカの目線より少し下、良い感じに匂いが漂う位置にくる。


《昨日と同じだけど、まあ良いわ》


 文句を口にしつつも、ウィッカはペロリと舌なめずりした。

 これは無意識の行動だ。前に指摘したら怒られたし。


「これでスープは食べ終わるから、今夜新しいのを作るよ」


 ウィッカの食事は鶏や豚のスープが定番だ。大鍋で一度にたくさん作り、そこから一部取り分けて味付けや具材を追加し、人間用のスープに流用したりもする。

 …料理するのが面倒臭くて手抜きしているわけではない、決して。


《次は羊肉が良いわ》

「羊肉…どっかで売ってたっけ…?」

《昼のうちに買ってきておいてあげるから、お金寄越しなさい》

「承知」


 そんなやり取りをしながら朝食を済ませ、片付けと身支度をして、


「行ってきます」

《行ってらっしゃい》


 いつもの挨拶を交わして、家を出た。











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