第45話
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それから瞬く間に約四年の月日が流れる。
長いようでいて、流れ星の瞬きのように一瞬で日々は過ぎ去った。
アデレードはサノワ学園に入学し、ローランとの仲は学園入学前と比べてさらに進展した。
アデレードは学生の本業である学業に励みつつも、放課後にローランと学園内の図書館で隣同士で座って一緒に勉強したり、昼休憩の時間は学園内のカフェテリアで一緒にランチをしたり、週末には一緒に王都で遊びに行ったりと青春を謳歌した。
時にはローランの友人とその婚約者と一緒にグループで交流したり、学園で出来た女友達と一緒に遊んだりもした。
物理的な距離というものは大切で、お互いに中々会えない環境にいるよりも、毎日のように顔を合わせて交流する距離にいた方が人となりを知る機会は多くなる。
勿論良いことばかりではなく、些細なことが原因で喧嘩もしたが、今となっては良い思い出だ。
それだけにローランが一足先に学園を卒業してしまった時は、アデレードはこれからは中々会えなくなるので寂しくなったが、”アデレードが学園を卒業したら、結婚しよう”とローランが満天の星空の下でプロポーズしたのでそれを励みに頑張った。
プロポーズの場所は、アデレードが入学試験の為に王都に訪れていた時にローランと一緒に行った丘だ。
二人の関係が婚約者に変わったあの思い出の場所である。
丘は地形的に市街地よりも空に近く、街灯等の人工的な明かりもない丘は、空が雲で覆われてさえいなければ、それはそれは見事な星空を楽しめる。
そして、つい先日、アデレードは沢山の思い出と共に晴れて学園を卒業した。
学園は卒業式典と共に卒業パーティーというものも主催している。
卒業式典は卒業する生徒達とそれを見送る学園の講師達しか参加は不可だが、卒業パーティーは卒業する生徒の家族や婚約者も参加が許可されている。
ローランは当然のように駆けつけ、アデレードとダンスを踊った。
その時のアデレードはローランから卒業記念ということで贈られたドレスやアクセサリーを着用して参加していたが、ローランの独占欲が丸わかりで、会場の皆から注目を集める。
青紫色を基調としたプリンセスラインのドレスで、金色の生地で小さめの薔薇をいくつも作り、胸元やドレスのスカート部分を彩ったデザインだ。
ローランは薄いグレイのタキシードを着ていたが、アデレードが誕生日祝いに贈ったネクタイピンとカフスボタンも小物としてさり気なく身に着けていた。
息ぴったりのダンスを踊る美男美女でお似合いの二人は沢山の人に祝福された。
***
爽やかな風が薫る初夏のとある日。
今日はローランとアデレードの結婚式だ。
ローランもアデレードも大規模な結婚式は望んでいなかったので、ルグラン侯爵領内の格式高い教会で親族のみを招待して行われる。
ごく内輪のこじんまりとした結婚式だ。
この教会の周りは森の中にあり、教会の大きなステンドグラスには温かく柔らかい木漏れ日が差す。
今回結婚式を挙げるに際し、アデレードがローランに嫁ぐので、バーンズ伯爵家側がローラン侯爵領に出向くという形になった。
結婚する当人の家族以外では、バーンズ伯爵家はバーンズ伯爵夫人の弟一家を招待し、ルグラン侯爵家はルグラン侯爵の妹一家とルグラン侯爵夫人の兄一家を招待する。
招待した親戚の中にまだ幼い女の子が二人いたので、その子達にフラワーガールの役目を任せることになった。
時間になるまで、ローランはアデレードの姿を一目見ようと花嫁控え室を訪れた。
花嫁控え室にはローランの妹のアンリエットもいる。
「あら、ローラン? どうかなさったの?」
ローランに気づき、彼の方に振り返ったアデレードは、再会した頃よりもさらに大人びて美しさが増していた。
結婚式の為の化粧やヘアセットを施され、純白のウェデングドレスを身に纏ったアデレードは息を吞むほど美しい。
「やっぱりそのデザインにして良かったですね。その白薔薇を見ると、貴女に再会したあの日を思い出しますね」
アデレードのウェデングドレスは、バーンズ伯爵邸のアーチに咲いていた可憐な白薔薇をイメージして作られたものだ。
ローランが友人のアレクシス王太子殿下からの結婚祝いで王家御用達のドレスブティックを紹介され、そこで頼んだ特注品である。
王太子殿下からの紹介ということで、通常なら二、三年待ちのところ優先的に制作してもらえ、三か月程前にようやくローランの手元に届いた。
王室御用達のドレスブティックはデザイナーのデザイン力もさることながら、お抱えのお針子の技術も段違いにレベルが高く、精緻なレースや刺繡がいくつもあしらわれている。
「あの日は薔薇の季節でしたものね。思い出に因んだドレスを作って頂いて感無量です。ローランも白いタキシードが決まっていて素敵ですわ」
「結婚式は花嫁が主役なのだから、ローランお兄様の衣装よりアデレードお義姉様のドレスの方が皆、注目されていると思いますわ。これ程見事なドレスは私も初めてお目にかかりました」
「王太子殿下のお陰です。殿下と仲良くなることで、色々融通してもらおうと思って友人になった訳ではありませんでしたが、こんなお祝いをして頂いて本当に有難いことです。今度、王都に行く時は、殿下に何かお礼をしなければなりませんね」
「久々にアレクシス王太子殿下とクリスタ様にお会いしたいので、その時は私も一緒に王都に行きたいですわ。それに学生時代に二人でよく通った王都のカフェにも行きたいですわ」
クリスタとはアレクシスの婚約者の公爵令嬢だ。
彼女は既にアレクシスと結婚しているので、今の彼女の地位は王太子妃殿下というのが正しい。
「行く時は勿論アデレードも一緒ですよ。学生時代の思い出巡りも良いですね」
アデレード達は三人で他愛もない話をしていたら、そろそろ挙式の時間だという連絡が入った為、三人は自分のいるべき場所に移動する。
教会の荘厳なパイプオルガンの音色が響く中、フラワーガールの少女達が花籠に入った花びらをふわふわと撒きながら先導し、アデレードはバーンズ伯爵のエスコートでバージンロードを一歩ずつ進む。
牧師の前で待っていたローランの場所までアデレードが到着すると、エスコート役はバーンズ伯爵からローランに代わる。
牧師はローランとアデレードに誓いの言葉を投げかけ、二人はそれぞれ如何なる時もお互いを慈しみ、愛することを誓う。
この後は誓いの口づけだ。
「アデレード、私は貴女を愛しています。貴女と結婚出来て良かったです。二人で温かい家庭を作りましょうね」
「私もローランを愛していますわ。笑顔の絶えない家庭にしましょう」
招待客が見守る中、ローランはアデレードのベールをそっと外し、誓いの口づけをする。
それはそっと優しく触れるだけの口づけだった。
結婚式を終え、参加者からの祝福を受けながら教会から出た二人にキラキラとした太陽の光が燦々と降り注ぐ。
その光はこれから二人は幸せな日々が待っていることを暗示しているかのようだった。
<完結>
これにて完結とさせて頂きます。
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