第42話
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※今回の話は人によって苦手に感じる可能性のある描写があります。
嫌な予感がした方は***があるところまでで読むのをやめることを勧めます。
一言で言うならヒロインが襲われて酷い目に遭う前に救出されます。
ローランはいくつか屋台を回り、数種類の食べ物を購入して、アデレードと待ち合わせた場所に向かう。
彼は肉の串焼きを五本と小麦粉と吸入と砂糖を混ぜた生地を丸めて油で揚げて、砂糖をまぶした揚げドーナッツを二つ購入した。
大きく口を開けて食べざるを得ないようなものを彼女が食べるかどうかローランには判断出来なかった為、今回は外す。
待ち合せ場所に向かったローランはアデレードがいないことに困惑した。
彼女は飲み物だけを購入することになっており、いくつかの屋台を回らなければならなかったローランよりも早く待ち合わせ場所にいることが予想出来た為だ。
それでも長蛇の列が出来ていて、時間がかかっているということも考えられた為、ローランは待つことにした。
しかし、待てど彼女が戻る気配がない為、ローランは護衛と共に彼女が並んだ可能性のある飲み物の屋台に行ってみるが、彼女の姿はなかった。
「アデレードは事件に巻き込まれたのかもしれませんね。あなたはバーンズ伯爵家に戻り、伯爵夫妻への説明とアデレードを捜索する為の人手集めをお願いしてもよろしいですか? 捜索するにも人手が足りないと発見するまで時間がかかりますので。私はその間、聞き込みをして捜索の手掛かりになるようなものがないか探します」
「わかりました。私は至急伯爵邸に戻ります。馬貸しの店で馬を借りますので、三十分から四十分程度でまたこの街に戻れると思います」
「私も今いるこの場所から遠くへ離れるつもりはありませんが、万が一、私と上手く合流出来なかった場合は、私よりアデレードを探す方を優先して下さい」
ローランと護衛はアデレードの捜索に向け、動き出した。
「アデレード、無事でいて下さい……!」
ローランは祈るような気持ちで自分のやるべきことをする。
***
一方、その頃のアデレードは古ぼけた小さい小屋の中にいた。
小屋は長時間使われていなかったのか、中はあちこちに蜘蛛の巣があり、どことなく埃っぽい。
アデレードの手足は縄できつく縛られている。
(ここは一体何処……? それに頭がくらくらする……)
アデレードはローランと別れた後、飲み物を販売している屋台に行こうとした。
すると、一緒にいた護衛が懐から鋭利なナイフを取り出し、”刺されたくなかったら、大人しく私の言う通りにして下さい”とアデレードに突きつけてきた。
信頼していた護衛からナイフで脅されると思ってもいなかったアデレードは恐怖を感じ、抵抗もせず、屋台のある場所から裏路地に連れて行かれ、そこから馬車に乗せられた。
馬車の中で喉が渇いただろうからと護衛にジュースを差し出され、飲んだら気を失い、気づいたらここにいたという訳だ。
アデレードは小屋の中を観察するも、脱出出来そうな窓や入り口は見当たらない。
そうこうしていると、聞き覚えのある声が聞こえる。
「気分はどう~? アデレード。あんたのそんな無様な姿が見られるなんて嬉しいなぁ!」
「あなた、は……」
アデレードの目の前に現れたのはリリーだった。
痩せこけていてアデレードが知っている姿とは違うが、その瞳には狂気的な笑みが宿っている。
「ふふっ、良いざまね。あんたを守るはずの護衛が裏切ってこんなことをするなんて夢にも思っていなかったんでしょう?」
「あの護衛の方は今、どこに……?」
「アイツならもう既にここにはいない。アイツはあんたをここに連れて来るまでが仕事。アイツの病弱な妹を人質にとって言うことを聞かせていたの。アンタを裏切ったことでもう二度と伯爵家には戻れないだろうから、人質と一緒に解放した。今頃、妹とどこかに逃げているんじゃないの?」
(大切な家族を人質に取られていたのならこの状況も仕方ないですわね……。仕えている家の令嬢より自分の家族の方が大切だもの)
「そもそも何でこんなことを計画したのですか?」
「何で……? それはあんたが気に食わないからよ! あんたは伯爵家令嬢として大切に育てられ、わたしが欲しかった綺麗なドレスも宝石も何でも持っている。最初、ベンがあんたを捨ててわたしを選んだ時、わたしはあんたに勝ったんだと有頂天になった。でもそれは間違いだった。結局、わたしはベンの相手として認めてもらえなかった。そこからまたバーンズ伯爵家にお世話になろうとしたけれど、話も聞かず、門前払い。わたしは門前払いされたことに腹が立った。でも、そこであることを思いついたの。あんたを消して、わたしがあんたの居場所に座れば良いと」
リリーの自分語りは続く。
「思いついたはいいけれど、わたしだけでは実行することは出来なかった。そこで街の不良グループの男達と仲良くなった。その男達がわたしに手を貸してくれたの。不良グループは人身売買もやっていてね。あんたのことを話したら喜んで手を貸してくれたわ。あんたを変態趣味の金持ちに売ってその金でわたしは贅沢をする。これって最高に気分が良いと思ったのよ。色々探っている内にあの護衛の弱みを握り、伯爵家の情報を吐かせた。そしたら今日、あんたが新しい婚約者とこの街に来るっていうじゃない? だからあの護衛にあんたと同行するよう言いつけたっていう訳。それにしても狡いわ。ベンに捨てられて惨めな思いをしてるかと思ったら、ベンよりさらに格上の男を捕まえていたなんて。まあ、アンタが消えた後、その男はわたしが貰ってあげるから安心してよ」
「おい、リリー。そろそろいいか?」
ここに来て、唐突に知らない三人の男が姿を現す。
「いいわ。ねぇ、アデレード、これを飲んで?」
リリーがガラス製の小瓶をアデレードの目の前に出す。
「これは何ですの?」
「クスリよ。飲んでも死にはしないわ。ちょーっと気持ちよくなっちゃうクスリよ。変態趣味の金持ちに売る前に身体を調教しようと思ってね。それにこれは彼らの協力への見返りよ」
「俺らも少しくらいは良い思いをしたいワケよ。貴族令嬢なんて俺らにはお目にかかる機会なんてないし、あんたはびっくりするぐらい上玉の嬢ちゃんだ。味見するくらいは許されるだろう?」
男はそう言ってニヤニヤとした卑下た下品な笑みを浮かべ、舌なめずりする。
アデレードは貞操の危機を感じ青ざめ、目に涙を浮かべ、がたがたと身体を震わせる。
「おーおー、可哀想に。震えちゃってさ。でも、だいじょーぶ。このクスリを飲めば気持ち良いことしか考えられなくなるからよ」
「さあ、口を開けて。アデレード。あとは彼らに身を任せればいいの」
リリーが小瓶の口をアデレードの口に当てて中の液体を飲ませようとするが、アデレードは断固として口を開けようとしなかった。
焦れたリリーがアデレードの鼻を摘まみ、強制的に口を開けさせて液体を流し込もうとする寸前にドンっという大きな音が鳴り、ぞろぞろと小屋に人が入って来る。
ドンという大きな音は小屋の出入り口を無理矢理破壊した音だった。
「アデレード、無事ですか!?」
先頭はローランだ。
「ロー、ラン……」
男三人に囲まれ、がたがたと震えながら涙を浮かべているアデレードを見つけたローランはすぐに彼女の元に駆け寄る。
その間、ローランが連れて来たバーンズ伯爵家の私兵達は素早く男達とリリーを取り押さえにかかる。
兵士として訓練を受けた者に、たかだか不良グループが勝てるはずもなく、あっと言う間に制圧された。
ローランはアデレードの手足の縄を持っていたナイフで切り、彼女をぎゅっと抱きしめて安心させる。
「もう大丈夫ですからね。ここから出ましょう。すみませんが、後のことはお願いします!」
「おうよ! 俺達に任せとけ!」
ローランはアデレードをお姫様抱っこで小屋から連れ出して、馬車に乗せて、さっさとこの場から離脱する。
まだ震えが収まらないアデレードをローランは膝の上に乗せ、アデレーの首元に顔を埋める。
「貴女が無事で本当に良かったです。あの光景を見て、生きた心地がしませんでした」
「どうしてローランはあの場所が……?」
「私に付けて下さっていた護衛の方を伯爵夫妻への事情説明と応援要請の為に一時的にバーンズ伯爵邸に帰したのです。そしたらちょうどそこに街でアデレードを護衛していた方が居合わせて、貴女の居場所を教えて下さいました。人質を取られて共犯者になったけれど、アデレードを助けたいと。後で必ず然るべき処分は受けるが、今は見逃して欲しいと嘆願したそうです。それが伯爵閣下に聞き届けられて、彼の案内で貴女の居場所まで辿り着きました」
「無事な状態でローランに会えたのは彼のお陰だったのですわね……」
「怖い思いをしたばかりだから、疲れていると思います。アデレードはゆっくり休んで下さい」
ローランはアデレードを抱きしめたまま、背中をとんとんと優しく叩く。
「そうするわ……」
アデレードは力のない小声で返事をすると、そのまま静かにすぅすぅと寝息を立てて眠る。
彼女が眠ったのを確認したローランは温和な表情から冷酷な表情へと一瞬で表情を変える。
「さて、あの女と男達はどう処分するか考えましょうか。しっかり罰を受けてもらわないと」
ローランは、もし到着が遅かったらアデレードが男達に襲われていたかもしれないという事実に憤りが隠せなかった。
今回の件はバーンズ伯爵にお願いして、リリーと男達の処分に口を挟むつもりでいる。
ローランはその瞳に獰猛な光を宿していたが、アデレードがそれを知ることはなかった――。
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