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第41話 

体調不良で本日分の更新が大幅に遅れまして、大変申し訳ございません。


明日は15時までに更新出来るようにしたいと思います。

 今日はアデレードが楽しみにしていたローランの訪問日だ。


 ローランは昼過ぎにバーンズ伯爵邸に到着する。



 アデレードとローランは伯爵邸の応接室で再会を喜び合う。


「王都で会って以来ですから、少しお久しぶりですね。またアデレードの顔をこうして見れて嬉しいです」


 ローランはその整った(かんばせ)に極上の笑みを乗せながら告げる。


「ご機嫌よう。確かに会うのは少し久々ですが、手紙のやり取りはずっとしていたから、そんなに久々な感じはしませんわね。それでも私もローランに会えて嬉しいですわ」


「今日は、アデレードがバーンズ伯爵領の中を街を案内して下さるとのことで楽しみにして来ました」


「あまり多大な期待を寄せられても困りますが、一応、街の中で普段私が行くような場所を中心に案内しようと思っていますの。いつもこの街に行く時はお忍びですので、とりあえずまず着替えましょう。明らかに貴族という出で立ちで行くとかなり周囲から浮きますし、要らぬ厄介事や揉め事に巻き込まれる可能性があります」


 明らかに裕福な金持ちだと分かるような恰好で行くと、身代金目的の誘拐やカツアゲ等のターゲットになりやすい。


 世の中には善人ばかりではなく、良からぬことを考える(やから)もいる。


 用心するに越したことはない。



「私もお忍びでルグラン侯爵領の街中に行くことがありますので、わかります。お忍びで出掛ける用の服は持って来ていますので、着替える場所だけ提供して頂ければ後は自分でどうにか出来ます。裕福な平民に見える服装という感じで大丈夫ですか?」


「裕福な平民が着るような服装で大丈夫ですわ。実際に我が家と取引のある商人の息子や娘も街中には普通にいらっしゃいますので。着替える場所は客間の一室をお貸ししますわ。メイドに案内させますので、彼女について行って下さいまし」


 この場にいたメイドがさっと一歩進み出て、ローランを客間まで案内する。



 アデレードはローランを出迎えた時点で、もう既にお忍びで出掛ける為の格好に着替えている。


 彼女はボルドー色が基調になっているチェック柄のワンピースにキャラメル色のロングコートを羽織っている。


 そのワンピースの首元はボウタイブラウスのような造りで、大きなリボン結びが出来るようになっているので、アデレードはリボン結びにする。


 靴はこげ茶のショートブーツで、寒さ対策はばっちりだ。



 アデレードは応接室で紅茶を飲みながらローランの支度が出来るのを待つ。


 約二十分後にローランは応接室に戻って来た。


「お待たせしました。さぁ、行きましょうか」


 ローランは茶色のチェック柄のシャツの上に赤いカーディガンを羽織り、ベージュの長ズボンを履いている。


 その上から紺色のダッフルコートを着ている。



 アデレードとローランはバーンズ伯爵家の馬車に乗り込み、街に向かう。


 あいにく今日の天気は晴天ではなく、曇り空だが、雨が降っている訳ではないので予定通り街に出ることになった。


 今回の同行者は護衛が二人である。


 アデレードとローランは書面上で正式に婚約者になり、バーンズ伯爵もローランの人柄を信用してお目付け役としてメイドを付けることはしなかった。



「今から向かう街はシャトロワという街ですの。バーンズ伯爵領内では一番の中心街ですわ。王都とは比べてはいけませんが、地方の街としては賑わっていると思います」


「バーンズ伯爵邸から馬車でどのくらいで到着の予定ですか?」


「大体十五分程度かしら。それ程伯爵邸から離れている街ではないので、少し息抜きに出かけたい時には程よい距離感ですわ」


「アデレードはお忍びの時はそういう格好をするのですね。いつもドレス姿だから新鮮に感じます。とても似合っていて可愛らしいですね。このコーディネートはアデレードが自分で選んでいるのですか?」


「いいえ、メイドが選んでおりますわ。彼女はファッションがとても好きで、私を着せ替え人形のように思っている節があるので、好きなようにやらせていますの。自分が選ぶより彼女に任せた方が確実だと思って。ローランこそ貴族らしいかっちりした装いをしているところしか見たことがないので、そのような装いも似合うのだなと感心しております」


「アデレードのような美少女だったら着飾らせ甲斐もありそうですね。そのメイドの気持ちもわからなくはありません」



 馬車の中で二人でそんな会話をしていたらシャトロワに到着する。


 街の入り口は東西南北の四か所あり、それぞれに門がある。


 門があると言ってもシャトロワの入り口を示すだけのもので、門を通り、街に入る時に身分証を確認したり、通行料を徴収するという仕組みはない。


 形だけ門を設置している。



 アデレード達が到着したのは西側の門の手前である。


 ここで馬車を降りて西側の門から街に入る。



「それでは四時間後位にまたここに迎えに来て下さい」


「畏まりました、アデレードお嬢様」


 アデレードが御者に命じ、御者はまた馬車を操縦してバーンズ伯爵邸の方に戻る。



「ローラン、行きますわよ」


「はい、アデレード」


 ローランはさっと左腕をアデレードに差し出し、アデレードは右手をローランと繋ぐ。


 二人は微笑みを浮かべた幸せそうな表情で、西門から東門の方向へまっすぐ伸びている大通りを進む。


 初々しい恋人同士という雰囲気で歩く二人に要らぬちょっかいを出してくる通りすがりの者はいなかった。



 大通りは最も人通りが多いので、露店を含め、商店がずらりと立ち並んでいる。


 何を取り扱っているのかは店によって異なっているが、どの店も客を熱心に呼び込んでいる。


 大通りは確かに人通りは多いが、人の目に入りやすい分、店に立ち寄ってもらえるチャンスは人があまり通らない細い路地にあるお店に比べると多い為、大通りに店舗を構え、商売するにあたり、店主が街に支払わなければならない土地代は高い。


 街に支払われた土地代は最終的にシャトロワが属するバーンズ伯爵領を治めるバーンズ伯爵の元へ集まるが、バーンズ伯爵が度々街を訪れて、必要に応じて街を整備するのにその集まったお金の一部が使われる。


 土地代は一括で大金を支払うのではなく、月々決められた金額を支払う仕組みになっているので、店主たちはこの土地代を支払う為に、皆、熱心に商売をしている。



「まずは、文房具を扱っているお店に行ってもよろしいですか?」


「いいですよ。私もちょうどインクが足りなくなってきているので購入したいです」


 アデレードの案内で二人は文房具を扱っているお店に向かう。


 この店は大通りに並んでいるお店ではなく、大通りから一本外れた道にあり、その上、外観が黒塗りであまり目立たない店だ。


 しかし、扱っている商品の品質は高い。

 


 到着した二人は早速ドアを押して、入店する。


「私は万年筆のペン軸とインク、学園で使う用のノートを見て来ますので、ローランも好きに見てお買い物して頂いて構いません」


「店内で別行動ですね。わかりました」


 アデレードは勝手知ったる店内を歩き回り、無事お目当ての商品を見つけ、購入する。


 一方ローランはどこに何が置いてあるのかわからないので、接客の為に店内に控えている店員の助力を得て、インクを購入する。



 それぞれ自分が買いたいものを購入したアデレードとローランは、店を出て、通りを歩きながらそろそろランチにしようという話になった。


「今日はせっかくですので屋台で何か買って食べましょうか。東西南北の中心にあたる場所で、食べ物の屋台が沢山集まっておりますの」


「それはいいですね。色々購入して食べましょう」



 幸い、二人が今歩いている地点から目的地までは目と鼻の先だ。


 到着した二人はあたりをぐるっと一周見渡し、ざっくりと何の屋台があるのか確認した。


 串に刺した肉をタレに付けて炭火で焼いた串焼きや、小麦粉と牛乳を混ぜて薄く焼いた生地に生クリームとフルーツを乗せてくるくると巻いたクレープ、縦に長いパンの中心に切れ込みを入れ、そこに焼きたてのソーセージを挟んだホットドッグ等ジャンルは様々だ。



 食べ物ばかりでなく、飲み物を提供している屋台もある。


 飲み物を提供している屋台はオレンジや林檎を絞ったフレッシュジュースの系統を扱う屋台と、麦を原料としたしゅわしゅわと発泡する黄金色のお酒やワインといった酒類を扱う屋台に分かれる。


 平民は紅茶を飲むような習慣はないので、お茶を提供している屋台はない。



「私は飲み物を買ってきますので、ローランは食べ物の方をお願いします。飲み物はオレンジジュースでよろしいですか?」


「オレンジジュースでお願いします。食べ物は私が選びますが、何か食べられなかったり、苦手なものはありますか?」


「香辛料をたっぷり使った料理は苦手ですわ。それ以外は特に食べられないものはありません」


「了解しました。では、購入したらここでまた待ち合せましょう」


「ええ」



 アデレードとローランはここで別行動をすることになった。


 護衛は二人いるので、アデレードとローラン、それぞれに一人ずつ就く。


 アデレードは言うまでもなく彼らの仕えるべきバーンズ伯爵家の令嬢だが、ローランも他家から来た大切な客人だ。


 客人に怪我を負わせるなどあってはならない。


 なので一人ずつ護衛することになった。



 ――しかし、これが大きな間違いだった。

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