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第39話 

今日も読みに来て頂き、ありがとうございます!


皆様からの応援が執筆の何よりの励みになっています(*^^*)

 翌日。


 今日はとうとう入学試験が実施される日だ。


 空模様は青空が広がっており、太陽の光がこれから頑張るのだという活力を与えてくれる。



 アデレードは宿の食事処でしっかりと朝食を摂り、筆記用具と受験票、参考書を大きめの革製の鞄に詰め込み、昨日ローランに教えられた通りの道を通り、学園に向かう。


 受験票と筆記用具が間違いなく鞄に入っていることは、出発する前に何度も確認したので、忘れ物の心配はない。



 アデレードは校門前に到着し、受付らしき場所で他の受験生同様に列に並ぶ。


 受付で講師が受験生の受験票を見て、試験への出欠の確認をする為だ。


 アデレードは少し早めに到着したので、比較的早く順番が回ってきた。



「はい、次の方。受験票を提示して下さい」


 アデレードが目の前の男性講師の指示通りに受験票を渡す。


「アデレード・バーンズさんですね。ルグラン君、リストにチェックを」



 そこでアデレードは初めてローランの存在に気づく。


 ローランは学園の制服を着て、男性教師の隣に座り、講師の手伝いをしていた。


 制服のトップスは白いカッターシャツに赤いネクタイ、ボトムは黒のスラックスだ。


 本来なら白いカッターシャツの上には黒いジャケットを着用することになっているが、今の季節はジャケットではなく、カーディガンやベストを着用することも可能である。


 ローランは少しだぼっと緩めにキャラメル色のカーディガンを羽織っていた。


 男子生徒用制服と女子生徒用制服はボトムがスラックスかスカートかの違いだけで、色は変わらない。



「おはようございます、ローラン様。昨日仰っていたお手伝いとはこのことだったのですわね」


「アデレード嬢、おはようございます。そうですね。一緒に学園生活を送ることを楽しみにしているので、今日の試験は頑張って下さいね。あまり緊張せず、普段通り落ち着いて問題を解けば大丈夫です」


「応援ありがとうございます。あまりお話していたら、次の方のご迷惑になりますので、私はもう行きますわね」


「はい。では、試験後は昨日言ったように校門前で落ち合いましょう」



 アデレードは校舎前の掲示板で自分が受験する教室を確認し、向かう。


 たどり着いた先は四十人程が座れる教室だった。


 その教室は黒板と教卓のある前方中央から教室の後方に向けて徐々に座席の位置が高くなっていく造りだ。


 アデレードは自分の受験番号が書かれている席を探し、着席する。



 それから彼女はぱらぱらと参考書を読んでいたが、試験開始時間になると、問題用紙と解答用紙を持った講師が入室する。


「今から、試験を始めます。参考書等の類は鞄の中にしまい、机の上には筆記用具のみ置いて下さい」


 講師の指示に従い、受験生は全員、机の上に筆記用具のみ置く。


「では、今から試験問題と解答用紙を配ります。私が指示するまで決して中を開かないように。私が指示したら、問題用紙を開き、解答用紙に解答を始めて下さい。問題用紙に解答を記入しても無効ですので、間違えないよう注意して下さい。また、解答用紙への氏名の記入漏れも同じく無効となりますので、確認は必ずして下さい」


 講師は教室内の座席一つ一つに試験問題と解答用紙を配布していく。


 それから少しすると、ゴーン、ゴーン……という重厚な鐘の音が校舎内に響く。

 

 この鐘の音は試験開始の合図だ。


「それでは始めて下さい。途中、筆記用具を誤って床に落としてしまった場合は静かに手を挙げて下さい。私が拾いに行きます。その他、何か問題が発生した場合も静かに手を挙げて下さい」



 アデレードも開始の合図と共に問題用紙をぱらぱらと捲る。


(勉強したところが沢山出ていますわね。これなら大丈夫そうですわ)


 そう思ったアデレードは落ち着いてペンを動かし、一問ずつ解答用紙の解答欄を埋めていく。



 試験は一つの科目ごとに行うのではなく、一冊の問題用紙に様々な科目の問題が出題されている。


 なので、一冊の問題用紙に語学の問題、計算の問題、地理の問題、歴史の問題等が多数混在している。


 二時間でこの一冊の問題用紙を解き、得点が高かった者上位120名が合格だ。


 学園側から受験予定人数は事前に公表されており、今回は例年とほぼ変わらず約200名が受験予定である。



 二時間後、鐘の音が鳴り響き、試験終了時間を迎える。


「はい、そこまでです。筆記用具は置いて下さい。今から私が問題用紙と解答用紙を回収しますので、それまで着席してお待ち下さい」


 講師は試験開始前と同じく、一つずつ座席を回り、問題用紙と解答用紙を回収する。


「これで入学試験を終了します。お疲れ様でした。結果は、受験案内に記載のあった通り、それぞれのご住所宛てに送らせて頂きます。では、解散」


 解散の合図と共に受験生は離席し、校舎を後にする。


 友人や知人と一緒に来た者は、今日の試験の出来栄えについて会話をしながら校内を歩いている。



 アデレードは皆がある程度教室を出てから、退室し、ローランとの約束通り校門に向かう。


 校門には誰かを囲んだ数人の入学試験終わりの女子の人だかりが彼女の視界に入る。


 入学試験を受けに来た者は服装自由なので、学園の女子生徒ではないという区別はつく。



 アデレードは人だかりの方とは離れた位置に立ってローランを待つつもりだったが、きゃあきゃあと騒ぐ女子に囲まれているのがローランだと気づいたので、急遽人だかりの方に向かう。


「アデレード嬢、やっと来て下さって嬉しいです。さあ、行きましょう」


 ローランの方もアデレードに気づき、声をかけ、アデレードと共に素早く人だかりから離れる。


 その際、アデレードはローランを囲んでいた女子達から鋭く睨まれたような気がしたが、気づかなかったことにした。



 アデレードとローランは学園から離れるように通りを進み、小高い丘に来ていた。


 辺り一面に広がる青々とした草花が風に吹かれて揺れている。


「ここは私のお気に入りの場所です。王都の中にあるのにここは殆ど人が来ない隠れ穴場スポットなのです。主に一人になりたい時にここに来ています」


「ここから王都が一望出来るのですわね。あそこに学園も見えますわ」


 二人はぽつんと一つだけ設置してある古びたベンチに腰掛ける。


「ローラン様、何だかお疲れですわね。先程女子に囲まれていたのは一体何だったのですか?」


「アデレード嬢をお待たせしないよう、試験終了時間より少し早めに校門で待とうと思っていたのです。そしたらいきなり取り囲まれて、”誰か待っているのですか? これから私と一緒に遊びましょう”と声をかけられました。正直に待っている人がいるから離れて欲しいと言っても聞いてもらえず、”本当は待っている人なんていないんでしょう”とか言われていた時に、貴女が来て下さったのです。学園内で久々にあんな目に遭いました」


 ローランは本当に疲れたように説明する。


「……ローラン様。昨日、ローラン様に申し上げたいことがあるとお伝えしましたわよね。以前、ルグラン侯爵邸を訪問した時にローラン様から言われた言葉をずっと考えておりましたの」


「……それで?」


 ローランは静かにアデレードに相槌を打つ。


「昨日、やっと答えが出たような気が致しますの。ローラン様が昨日のカフェに行くまでの間に道行く女性の視線を集めていたり、先程の学園で囲まれていた時、嫌な気持ちになりました。現状、私はローラン様とは恋人や婚約者など名前がある関係ではない。良くて知人や友人。だからそれらに対して、何も言う権利はない。でも、それじゃ嫌だなぁ。ローラン様は私のものだと主張したいなぁ……と思いましたの」


 アデレードはここで一旦区切り、ローランの顔をしっかりと見つめる。


「ローラン様、私、あなたとの婚約をお受けしようと思います。勿論、ローラン様が私で良いと仰るならですが……」


 ローランはアデレードの腰に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。


 そして満面の笑みを浮かべる。


「ちょっとローラン様! 一体何を……!」


「余りにも嬉しくて。もっと時間がかかると思っていたのです。では、これからは婚約者同士ということでお願いしますね」


「こ、婚約者同士……」


 アデレードは言葉に出すと急に恥ずかしくなり、顔がほんのりピンク色に上気する。


「そうそう、婚約者同士なのですからこれからはローランと呼んで下さい。私もアデレードと呼びますので」


「ローラン様の方が年上ですのによろしいのですか?」


「いいですよ。貴女になら呼び捨てで呼ばれたいです」


「ロ、ローラン……」


 アデレードはローランを初めて呼び捨てで呼ぶ緊張から小声で呼んだ。


「アデレードに呼び捨てで呼ばれると気分が良いですね。呼び捨てで名前を呼び合うと特別な関係になったのだと実感出来ます」



 二人はしばらく抱き合っていたが、時間的に空腹を感じた為、丘から降りて、ランチをやっているビストロに向かった。


 そして少し遅めの時間の美味しいランチを摂り、ビストロを後にする。


 ビストロから宿に向かう途中、二人は極自然とぎゅっと手を繋いで歩く。



「私は明日王都からバーンズ伯爵邸に向かって出発します。今日の入学試験の合否がわかったらお伝えしますわね。ローランのお陰で楽しく王都に滞在出来ました。ありがとうございました」


「私の方こそありがとうございます。婚約の件は私から私の両親とバーンズ伯爵に伝えておきますね。今度は冬季休暇でバーンズ伯爵邸にお邪魔します」


「ローラン、少し屈んで下さい」


 ローランは疑問に思ったが、言われた通りに少し屈む。


 すると右の頬に何だか柔らかい感触がし、それがアデレードからの頬へのキスだと気づいた時に、口元に手を当てて(うずくま)る。


「いつも私ばかりドキドキさせられているような気がしたので、お返しですわ。では、また会える日を楽しみにしております」



 こうして、アデレードは翌日、王都からバーンズ伯爵邸に向けて旅立った。

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