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第38話 

今日も読みに来て頂き、ありがとうございます!


皆様からの応援が執筆の何よりの励みになっています(*^^*)

 入学試験前日の昼前。


 ローランの方がアデレードが宿泊している宿まで迎えに来た。



 王都に来たのが初めてのアデレードはどこに何があるかなんてよくわからない。


 その点、半年間サノワ学園に通い、週末は王都で散策する習慣のあるローランの方が王都のどこに何があるのかは詳しい。


 だから右も左もわからないアデレードと王都で待ち合わせをするよりもローランが迎えに行った方が確実だと判断された。



 それに、アデレードが王都までやって来た目的は学園の入学試験を受けることだ。


 肝心の入学試験前に余計なことで精神的・肉体的に疲れさせないようにするという配慮もある。


 道に迷うとどうしても精神的にイライラしたり、不安になり、また、身体的にもあちこち歩き回り過ぎて足が痛くなるという弊害も起きてしまう。


 それらを防ぐ配慮だ。



 アデレードは宿の予約が取れた時点でどの宿に宿泊するのか手紙でローランに教えていた。


 その情報を元に、ローランはアデレードが宿泊中の宿を探したのだ。



「こんにちは、アデレード嬢。遠路はるばるお疲れ様です」


 三ヶ月ぶりに会うローランは相も変わらずきらきらした美青年だった。


「ご機嫌よう、ローラン様。今日はせっかくのお休みなのに私の為にごめんなさい」


「私が貴女に会いたかったのです。知り合いがいない初めて行く場所はどうしても心細く、気が張るでしょうから、私が会いに行くことでそれが少しは緩和されたらいいなと思いまして。それに、せっかく王都まで貴女が来たから少しだけでもデート気分を味わいたかったのです」


「お父様もお母様も同行しておりませんので、やはり少し心細く不安には思っておりました。ですが、ローラン様にお会いしてほっとしました」


「今日はランチをして、その後サノワ学園に行きましょう。試験情報の漏洩という点から校舎の中には入れませんが、門から校舎の外観を見ることは出来ます」



 二人は宿を出発して、ランチをするお店に向かう。


 メイドのリノアと護衛は二人の後ろを邪魔にならない程度の距離感で追う。



「今日、行こうと思うお店はカフェです。料理もスイーツも両方楽しめるお店になっています」


「ローラン様は実際にそのお店に行ってお食事をされたことがありますの?」


「私は行ったことがありませんが、王太子殿下の婚約者の公爵令嬢とマクシムの婚約者の侯爵令嬢が二人でそこに行って良かったという話をマクシム経由で小耳に挟みまして。せっかくならアデレード嬢と行ってみたいと思ったのです」


「それは楽しみですわね!」


 アデレードは明るく弾んだ声で返事をする。



 二人で大通りを歩いていたが、ローランは王都でも女性の視線を集めているようで、先程から”見て見て、あの人かっこいい!”とか”ちぇっ、彼女連れかぁ……”とか”あの綺麗なお兄さん、彼女連れみたいだけど声かけてみる?”とかすれ違う女性が連れに話している声がアデレードの耳にも届く。


 それを聞いてアデレードは少し嫌な気持ちになった。


(私はローラン様の婚約者でもなんでもないから、ローラン様の交流関係に口を挟む資格はない。なのに、どうしてかしら……ローラン様は私のものだと言いたくなってしまうわ。それにアンリがローラン様について言っていたあの時と同じ胸の痛みを感じる……。やっぱり私、ローラン様を他の人に奪われたくないほどには好意的に思っているみたいね。これがローラン様に言われた言葉の答えなのかしら)



 その一方で、アデレードは全く気づいていないが、アデレードの方もすれ違う男性の視線を集め、ローランをやきもきさせていた。


 こちらは”すっげー美人な子がいる!”、”おいおい、その子の連れの男を見てみろよ。連れも滅茶苦茶美青年だ。お前、あれと張り合えるのか”というようなやり取りが多い。


 ローランはあまり己の美貌には執着していなかったが、この時ばかりは己の美貌がアデレードに言い寄ろうとする悪い虫に対する防波堤になることに感謝した。



 アデレードは無意識にローランの左腕をぎゅっと掴む。


 その姿は彼は私のものと主張しているかのようだった。


「……どうされましたか、アデレード嬢?」


「何でもありません。ただ、何となくこうしたいと思ったのです。ダメ……でしたか?」


 アデレードはローランと目を合わせようとしたが、身長差で自然と上目遣いになる。


「全く構いませんよ。……と言うかむしろ嬉しいです。さあ、目的のカフェまであと少しですので頑張って歩きましょう」



 それから数分後、カフェに到着する。


 カフェは店の外観と内装共に淡いパステルカラーを基調とした色合いで、内装はフリルやレースが多用されており、若い女性が好んで足を運びそうな様相だ。


 ローランが事前に店と交渉していたようで、アデレード達は個室に案内された。


 個室はテーブルの大きさから判断して、十名程度までなら利用することが出来る。


 ローランとアデレードが向かい合うように座り、テーブルの一番隅にリノアが座る。


 護衛は一人は個室内で、二人は個室の外で待機することになった。



 テーブルに設置されていたメニューをアデレードはローランと二人で覗き込む。


 メニューによると、料理はサンドウィッチやパスタ、ハンバーグ、スイーツは季節の果物をふんだんに使用したパンケーキやハニートースト、パフェやケーキが注文できるようだ。


 また、料理やスイーツにセットでコーヒーや紅茶といった飲み物を付けることも可能である。


「私はこの林檎のパンケーキと紅茶のセットにしますわ。ローラン様はどれになさいますか?」


「私も正直あまり空腹ではないので、料理ではなくスイーツにします。チーズケーキと紅茶のセットにしましょう」



 店員呼び出し用のベルを鳴らし、やって来た店員に注文し、数分後に注文内容を届けに店員が入室する。


 アデレードが注文した林檎のパンケーキは、メレンゲを混ぜてふんわりと焼かれた三枚のパンケーキの上にバターと砂糖とシナモンで煮込んだ林檎と生クリームがトッピングされている。


 パンケーキは一つが直径十二センチ程の大きさなので、かなりボリュームがある一皿になっている。



 また、ローランが注文したチーズケーキは焼いているタイプのチーズケーキで、皿にストロベリーソースで装飾がされている。


 お好みでチーズケーキにストロベリーソースを付けて食べる仕様だ。



「思ったよりも大きなパンケーキでしたが、美味しそうですわね。頂きます」


 アデレードはナイフとフォークを器用に使って、パンケーキを適当な大きさに切り、切ったパンケーキの上に林檎と生クリームを乗せ、口に運ぶ。


「ローラン様、凄く美味しいですわ! よかったら一口どうぞ」


 アデレードはローランに味見をさせる為に再度パンケーキを切り、自分が食べた時と同じように林檎と生クリームも載せてフォークで刺し、ローランの口元に運ぶ。


「頂いてもよろしいのですか?」



 ローランは一応確認する。


 アデレードは彼女が使ったフォークをそのまま使って、ローランに食べさせようとしていたからだ。


 なるべくフォークには口内が当たらないように気を付けるつもりだが、下手したら間接キスになってしまう。


 そういう意味でいいのかと尋ねた。


「……? ローラン様に召し上がって頂く為に用意したのですけれど……」



 しかし、アデレードは全く気づいていなかった。


 しかもローランに食べてもらう為に用意したと言われてしまい、下手に断ったら失礼になってしまう。


 気づいていないのならわざわざ指摘することではないと思い、ローランは口を開ける。 


「では、遠慮なく。確かに美味しいですね。パンケーキはふんわりした食感で、林檎は少しシャキシャキ感が残っていて尚且つジューシーな味わいです」


「この林檎が美味しいですわよね。すごくボリュームがあるように見えましたが、あっと言う間に完食してしまいそうですわ」


 美味しそうにパンケーキを頬張るアデレードをローランは微笑ましく見つめていた。


「アデレード嬢。チーズケーキも食べてみますか? こちらも美味しいですよ」

 

 ローランは先程のアデレードと同じように、チーズケーキを一口サイズに切り分け、ストロベリーソースを付けた状態でフォークで刺し、アデレードの口元へ運ぶ。


「チーズケーキも味が濃厚で美味しいですわね。ストロベリーソースの酸味も良いアクセントになっています」



 二人して味見と称した食べさせ合いをしたローランとアデレードにリノアと個室の中にいる護衛は砂糖を吐くような感覚に襲われた。


 リノアは”食べさせ合いをするなんて……もうこれはお嬢様とローラン様は婚約者ということでいいのでは……?”とまで思っていた。



「ローラン様。私、ローラン様に申し上げたいことがありますの。だから、入学試験が終わった日。少しお時間を頂けませんか?」


 パンケーキを食べ終わり、紅茶を飲んでいたアデレードがぽつりと零す。


「ええ。予定もないですし、いいですよ。入学試験が終わった後、迎えに行きますので、校門で待っていて下さい」


「はい」



 全て完食したローランとアデレードは会計を済ませ、カフェを後にする。


 食事の代金は全額ローランが支払った。


 ”こういう時は大人しく奢らせておけばいいのです”と言ってさっさと会計を済ませてしまったのだ。


 奢られっぱなしというのは恐縮なので、アデレードは次回は自分が何かローランに奢ろうと決意する。



「さて、学園に向かいましょうか。学園はここから近いですよ」


 ローランの案内で、カフェからまっすぐ北に進み、右に曲がる。


 すると、すぐに白亜の城の如き大きな建物が佇んでいるのが視界に飛び込んで来る。


「これがサノワ学園なのですわね。こんなに大きな学園だったなんて……」


「校舎も大きいですが、同じ敷地内に寮も併設されていますので、寮も校舎の一部のように見えます。講義を受けるのが今、目の前にある大きな鐘が付いている建物です。明日の入学試験が行われるのもこの建物になります」


「ローラン様は明日入学試験のお手伝いをされるのですか?」


「詳しい内容は言いませんが、手伝いの予定は入っています。なので、学園内で私を見かけるかもしれないですね。今日、出来ることはここまでなので、宿に戻りましょうか。今から通る道を覚えたら、明日は迷うことなくここに来ることが出来ますので、しっかり集中して道を覚えて下さいね」


「ありがとうございます。頑張って覚えますわ」


 アデレードはローランの案内を真剣に聞き、通った道順と風景をしっかりと頭に叩き込む。


 その間、二人は手をしっかりと繋いだままだった。

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