第34話
今日も読みに来て頂き、ありがとうございます!
皆様からの応援が執筆の何よりの励みになっています(*^^*)
三つ用意されているテーブルには、ルグラン侯爵とバーンズ伯爵、ルグラン侯爵夫人とバーンズ伯爵夫人、ローランとアデレードとアンリエットという組み合わせでそれぞれ着席する。
今日は庭園で食事をするということで、屋外でこそ楽しめるメニューの内容になっている。
庭園に持ち運び式のグリルを設置し、炭と木材を利用して火を起こし、グリルの上部に置かれた網に肉や野菜をのせて焼く。
つまりバーベキューが今日のランチだ。
肉や野菜を焼くことで発生する煙や匂いの問題、さらに一歩間違えると火災の危険性もあるので、庭園といっても、草花を沢山植えているような場所ではなく、隅の方の何か不測の事態が起きても問題がない開けた場所で行う。
また、それらの問題への対策として、グリルの設置場所とテーブルの間も十分な距離は取っている。
屋外で肉を焼き、その場で焼き立ての肉を食べるのは美味しいということは貴族階級の間でも知られていることだが、どうしても煙や匂いが発生し、火災が起こり得る危険性、道具類の設置と後片付け等を総合的に考え、やりたがる者はそう多くはない。
バーンズ伯爵夫妻も例に漏れず、バーベキューは自分の屋敷ではやったことがなく、他人の屋敷にお呼ばれした時にほんの数回だけ楽しんだことがある程度だ。
火を起こし、肉や野菜を焼き、テーブルまで焼いた肉と野菜を運ぶのは料理人と使用人が協力して行い、ルグラン侯爵家の面々とバーンズ伯爵家の面々は専ら食べるのみである。
大人達には肉によく合う赤ワインが提供されており、ローランとアデレードとアンリエットには雰囲気だけでも赤ワインに近いものをということで葡萄ジュースが提供される。
ランチということもあって、ライトボディで赤ワインの中では口当たりが軽いタイプのものだ。
「今日はバーベキューにしてみました。我が家の料理人が最適な焼き加減で、食材の味を最大限に楽しめるように調理しますので、しっかり堪能して下さい。では、乾杯しましょう。乾杯!」
ルグラン侯爵の乾杯という言葉に合わせて、それぞれのテーブルではグラス同士を合わせたカチンという軽快な音が鳴る。
「アデレード嬢、私達も乾杯しましょう」
ローランが葡萄ジュースの入ったワイングラス片手にアデレードに乾杯を提案する。
「ええ。乾杯」
アデレードもワイングラスを右手で持ち、ローランが持っているグラスに軽く当てる。
乾杯が終わった後から、肉と野菜を焼く作業は始まった。
肉は牛肉と豚肉、野菜は玉ねぎやピーマン、キャベツやカボチャ等が人数分用意されている。
焼き始めて少しすると、肉が焼けるジュージューという香ばしい音と共に段々と辺りに食欲をそそる美味しそうな匂いが漂い始める。
そして、ついに焼けた肉がグリルの網から大きめの丸い白皿に移され、それぞれのテーブルに運ばれる。
運ばれた後、料理人がナイフでサッと手際よく切り分け、切り分けられた肉が各々の皿の上に盛り付けられる。
切り分けられた肉の表面は綺麗に網目が付いた状態で焼かれており、肉の断面から判断して、焼き加減はミディアムレアのようである。
アデレードは早速ナイフとフォークを使って、一口サイズに切り、口へ運ぶ。
「初めてこのような形式で焼いたお肉を頂きましたが、凄く美味しいですわね!」
アデレードはあまりの美味しさに感動して、つい興奮気味にローランに味の感想を言ってしまう。
「久々に頂きましたが、美味しいですよね。味付けは塩胡椒だけですが、シンプルで一番美味しさを感じられる味です」
次々と運ばれてくる焼いた肉と野菜に全員、舌鼓を打ちながらどんどん食べる。
アデレードはうっかり食事に夢中になってしまっていたが、アンリエットにローランの話を聞こうと思って話しかける。
「アンリ、ローラン様のことを教えて下さい。アンリにとってローラン様はどんなお兄様なのですか?」
「ローランお兄様はこう見えて意外と感情丸出しなところもあるんですよ。見た目はいつも麗しの微笑みの貴公子なのに」
ローランは整った美しい顔立ちで麗しく微笑んでいることが多い為、密かに”麗しの微笑みの貴公子”というあだ名で呼ばれている。
「ちょっとアンリ。何をアデレード嬢に吹き込む気ですか!?」
ローランは自分の妹のアンリエットが何か良からぬことをアデレードに吹き込むのではないかと慌てて止めようとする。
今でこそ学園の関係で一緒には暮らしていないが、アンリエットは妹であるだけにローランのこともよく見ている。
「……ほら、そういうところですわ。心配しなくてもおかしなことは言いませんわ。この前、学園で寮生活を送っているはずのお兄様が急にこの屋敷に帰って来ていて、その時は何があったんだろうと思ったのです。そしてお兄様を観察すると、何かどことなく浮足立ってそわそわしているように見えましたの。だから、私、お母様に何の用事でお兄様が戻って来たのが聞いてピンと来て。例の初恋の人に会いに行くのかと直球で聞いてみたら、一瞬で真っ赤になってしまって……」
(あの日のローラン様は微笑みはあってもお顔を真っ赤にすることはありませんでしたが……ご自分のお屋敷ではそんな感じだったのですわね)
アンリエットの暴露にローランは顔を赤くする。
「アデレード嬢、今しがた妹がおかしなことを言いましたが、あれは嘘です。気にしないで下さい」
「ローラン様、そんなお顔で言われても説得力が皆無ですわよ。でも、ずっと微笑んでいるお顔よりもそちらの方が人間らしくて好ましく思えますわ」
「良かったですわね、ローランお兄様。浮足立ってそわそわしていたお兄様でも受け入れてもらえそうで。この分だと私の将来のお義姉様はアデレード様になる日も近いかもしれませんわね」
アンリは屈託のないにっこりとした笑顔で告げる。
「それはまだお互いのことを良く知ってからということになっていますので……」
アンリの言葉にアデレードが答える。
「……ふーん。でもお兄様にも言えることですけれど、アデレード様も婚約者がいない状態だと広まったら恐らく引く手あまた。あんまりもたもたしていると、他の方に奪われてしまいますわよ? お兄様も今、あちこちから猛攻を受けてさらりと躱していらっしゃいますが、いつまでもその状態という訳にもいかないでしょう?」
アンリエットの発言にアデレードは気づかされたことがあった。
アデレードはゆっくり時間をかけてお互いのことを知っていき、その上で判断すれば良いと思っていたが、ゆっくりしている間に他の人に奪われる可能性があるということを全く考えていなかったのだ。
(よくよく考えてみたらローラン様みたいな侯爵家の跡取りで美しい人がいつまでもフリーの状態だなんてある訳がないですわ。ローラン様が私ではない人に愛を囁くなんて想像すると胸がズキっとする気がする……)
その後、ローランがアデレードに何かフォローするような言葉を言ったが、アデレードは上の空で、話を聞いていなかった。
もし読んでみて面白いと思われましたら、ブクマ・評価をお願いします!




