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第30話

今日も読みに来て頂き、ありがとうございます!


気づいたらもう30話。


皆様からの応援が執筆の何よりの励みになっています(*^^*)

「幼少期の頃のお話は私にとって確かに良き思い出でしたが、今のローラン様とその当時のローラン様とは何もかも違います。私は今のローラン様のことは何も存じておりません。そんな状態で新しい婚約者候補に加えて欲しいと言われても正直困りますわ。ローラン様も今の私のことをよくご存知ではないでしょう?」


「……そう、ですよね」


 ローランはアデレードの言葉を聞いて、眉を下げ、わざとらしく大袈裟にしょんぼりする。


(ローラン様にそんな表情をされると罪悪感が……これだから美形はお得ですわよね。表情一つで相手を自分の望む言葉を言わせたり、望む行動をとらせることが出来るのだから)


「でも、それは今の時点でのお話ですわ。これから交流してお互いのことを知っていき、その上で判断するということでいかがでしょうか」


 しょんぼりしていたローランは急にぱあああと満面の笑顔になる。


「ありがとうございます!」


「ただ、私自身がローラン様と婚約したいと思っても、最終的にお父様とお母様の許可が下りないと婚約出来ません。そのことはご承知おき下さいませ」


「それなら心配しなくても大丈夫ですよ」


 ローランはにっこりと微笑み、大丈夫だと言う。


「え……?」


「私の父上と母上は、私が自分の力でアデレード嬢の気持ちを掴み取れたら反対しないと許可をもらいましたし、バーンズ伯爵夫妻も同じくでした。バーンズ伯爵夫妻は貴女の以前の婚約者の件で心を痛めていて、次の婚約はあまり相手を選り好み出来る状況ではないと思いつつも、貴女を蔑ろにしないというのは絶対条件にしているそうです。なので、貴女が了承すれば婚約は成立します」


「わ、わかりましたわ。では、仮に婚約することになった場合、私の両親とローラン様のご両親に報告する必要はあっても、説得する必要はないということですわね」


「アデレード嬢は交流してから私のことを知りたいと仰っておられましたが、具体的にはどのように交流していきますか?」


 ローランの質問に対し、アデレードは右手を顎に当てて少し考える。


「ローラン様は今はどこかの学園に通っておられますか?」


「私はサノワ学園に通っています。今日は世間的には安息日だけれど、付き合いがあるという理由で学園を休み、ここまで来ました。学園からここにまでの距離的に馬車で二日から三日程かかる為、安息日だけで移動するのは不可能でしたので」


「学園には夏季休暇があるのではありませんか? もう少しすればそんな時期かと思いますが……」


 アデレードもどこの学園に通うか決める時期に入っている為、様々な学園の資料請求をして少しずつ情報を集めている。


 学園の資料を読むと、どこの学園にも夏季休暇と冬期休暇については記載があり、夏季休暇ががもうすぐ来るということはアデレードも知っている。



「夏季休暇まであと約一ヶ月もあります。それに夏季休暇が来るまで待ち、もたもたして出遅れたら後悔することになってしまう。後悔したくないのです。だから学園を休んでまで母上に付いて来たのです」



 貴族の子女が通う学園は、体調不良や怪我など身体的な問題で学園へ通うのが難しい場合の他に、社交の付き合いに参加するという理由で学園を休むことは認められている。


 この場合は社交の付き合いは冠婚葬祭が主だが、遠い領地に住んでいる者との個人的な付き合いでそこまで出向く場合も含まれている。



 移動手段は馬車しかなく、遠くの領地に住んでいる者に会う場合はとにかく移動に時間がかかる。


 その為、基本的には夏季休暇や冬期休暇などまとまった長期の休暇に社交関係は行うが、どうしても突発的に相手に会う必要がある付き合いも発生する。


 相手の方が学園の所在地である王都まで出向くならそこまでする必要はないのだが、相手との力関係でそれが難しい場合もある。


 そんな場合の為の制度だ。


 そのような場合は、安息日と学園に許可を貰った休暇を絡めて訪問するのが普通である。



 ただし、当然のことと言えば当然なのだが、学園を休んでいる間も通常通り講義は進むので、休む場合は休んでいる間の講義分は自力で勉強するなり、友人の助力を頼んだりしてちゃんと補う必要がある。


 なので実質は休んでも講義について行くことが出来る者しか制度は利用できない。


「私に会う為にそこまでして下さったのですね。ローラン様がサノワ学園に通っておられるということはわかりましたわ。それでは、私もサノワ学園に入学します。それが一番ローラン様を良く知れると思いますので」


「それは全く構わないし、嬉しいけれど、バーンズ伯爵夫妻は貴女の進学先についてはどうお考えになっていますか?」


「私が行きたい学園で良いと。ただ、バーンズ伯爵家の娘という自覚を持って選ぶようにとは言われましたわ。サノワ学園はサンティア王国中から優秀な者が集まると聞いております。なので、反対はされないでしょう」


「確かに優秀な者が集まっているから、周りと切磋琢磨しながら学園生活を送れます。サノワ学園は王都の中心地にあるので、放課後や週末に一緒に王都に出掛けることも出来ます」


「では、学園入学後については直接会って交流するということは可能なのですわね。学園に入学するまではお手紙のやり取りから始めましょう。特別なことは何も書かなくていいのです。ありふれた日常などで構いません。あとは都合が良い場合はお互いの屋敷で会うということで」


「是非、ルグラン侯爵邸にも遊びに来て下さい。私がアデレード嬢を案内します。それと、私は今、学園の寮で生活していますので、手紙の送り先は寮の住所になります。それは後でメモに書いてお渡しします」


「学園の寮で生活されているのですか? 王都に侯爵家のタウンハウスはあるのではありませんの?」


「ありますが、学園の寮に放り込まれました。自分のことは自分でやる生活を体験しろとのことでした。だから部屋の掃除や着替えなどは自分でやっています。料理と洗濯だけは学園側が配慮してくれていますので、後のことは全部自分でやるのです」



 アデレードとローランの話がひとまずまとまったと思われる頃合いを見て、ウィリアムがわざとらしく咳払いし、少し拗ねたように声をかける。


「アデレード姉様もローラン様も僕がいるということを忘れていませんか? 敢えて口を挟みませんでしたが、話さないだけでこの場にいるのです」


「ウィリアム君、申し訳なかったです。ついアデレード嬢と話し込んでしまったけれど、決して君のことを忘れていた訳ではないのです」


「ウィリアム、ごめんなさいね。あなたのことを蔑ろにしようとしていたのではないの」


「仕方ないから許します。ローラン様については僕がいる前でアデレード姉様の婚約者に加えて欲しいなんて言うくらいなんだから、真剣だということは僕にも伝わりました。でも姉様を傷つけたり、泣かせたりした時は許しません。父様に頼んで、このバーンズ伯爵邸を出入り禁止にしますのでそのおつもりで」


「中々手厳しいですね。ウィリアム君にも認めてもらえるように頑張らないと」


 ウィリアムの言葉にローランは苦笑いする。



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