第27話
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※若干の更新遅れ、申し訳ございません
「伝え忘れていたけれど、二週間後に私のお友達とそのご子息様がお客様としてバーンズ伯爵邸に訪れる予定だからそのつもりでいて頂戴ね」
とある日のディナーでバーンズ伯爵夫人から唐突に来客予定の情報がもたらされる。
「二週間後、……か。その日はたまたま何も予定がないから良かったようなものの、せめてもう少し早く伝えて欲しかった。伯爵である私が不在だったら先方への印象が悪いだろう」
「伝えた気になっていて、伝えていなかったのよ。ごめんなさい」
「わかりましたわ、お母様。来られるお友達とはどなたですの?」
「ルグラン侯爵夫人よ。女学園時代の私の友人」
貴族の子女は15歳から二、三年程どこかの学園に通う習わしがある。
学園は目的別で選べるようになっており、絶対にどこどこの学園を卒業しなければならないというような決まりはない。
また、絶対に学園に通わなければならないという強制的な決まりもない為、学園に通わず、ずっと家庭教師で勉強する者もいる。
あくまで習わしであって、強制ではない。
自分が将来何をしたいのか、何になりたいのかによって自ずと選択肢が決まる場合もある。
貴族令息の内、長男は法律や経済、領地経営など貴族として生きる上で身につけておくべき知識を総合的に学べる王立サノワ学園に通うことが多いが、二男や三男など両親から継ぐべき領地や爵位がない者で騎士になって生計を立てようと考えている者は士官学校に通う。
貴族令嬢は、大半が貴族の夫人としての技能やマナーを学べる女学園を選択し、学問が好きな者や優秀な者はサノワ学園に通う。
どこの学園に通ったとしても、学園時代は人脈作りも当然のように兼ねているので、ここで良き友人を得るというのも学園に通う目的に含まれている。
学園時代に得た友人と卒業後も定期的に連絡を取り、卒業してから何年も交流が続いているという者も多い。
バーンズ伯爵夫人とルグラン侯爵夫人も女学園で友人になり、卒業後も連絡を取り合い、時にはお互いの屋敷に訪問している。
「お母様が未だにお手紙のやり取りをされている方ですわよね? 以前、この屋敷に来られたことはある方ですか?」
「彼女が前回訪問したのは確か十年程前だったかしら。アデレードも彼女に会って挨拶をしたことはあるけれど、あの時はまだ四歳だったし覚えてないわよね。ウィリアムも二歳だったから覚えている訳がないわ」
「母様。そのルグラン侯爵夫人のご子息様は何歳なのですか?」
ウィリアムが質問する。
「今回、彼女が連れて来るのは長男のローラン様。年齢は15歳。だからアデレードよりも一つ年上ね」
「そうなのですね。お客様が来る日が楽しみです」
***
客人が来る日がやって来た。
やって来たルグラン侯爵夫人とその子息をバーンズ伯爵一家総出で出迎える。
まず、ルグラン侯爵夫人が挨拶する。
「御機嫌よう。久々ね、アイリス。貴女に会えて嬉しいわ。バーンズ伯爵閣下も今日は私達の訪問を許可して下さってありがとうございます」
「此方こそカトリーヌがここまで訪ねて来てくれて嬉しいですわ。久々だから積もる話も沢山ありますし、今日はゆっくりお話ししましょうね」
「いつもアイリスがお世話になっています。アイリスもルグラン侯爵夫人が来られることをとても楽しみにしていた様子だったから、久々に友人同士で楽しく過ごして下さい」
ルグラン侯爵夫人とバーンズ伯爵夫妻は和やかな雰囲気で訪問の挨拶をする。
バーンズ伯爵夫妻に挨拶したルグラン侯爵夫人は、夫妻の隣にいるアデレードとウィリアムに目を向ける。
夫人と目が合ったアデレードとウィリアムは自己紹介する。
「ルグラン侯爵夫人。バーンズ伯爵家が長女、アデレードでございます。今日はお母様の友人が訪ねてくるということをお聞きして楽しみにしておりました」
「僕はバーンズ伯爵家が長男、ウィリアムと申します。よろしくお願い致します」
「前回ここを訪ねた時はあんなに小さい子供だったのに、すっかり素敵に成長されましたわね。前回訪問したと言っても私のことを覚えておられないと思うから、今日が初めましてみたいなものですわね。私はカトリーヌ・ルグランと言います。アイリスの友人だから、あまり気を張らなくても構いませんわ。ローラン、あなたもご挨拶を」
「初めまして、バーンズ伯爵家の皆様方。只今、母より紹介に預かりましたルグラン侯爵家が長男、ローランと申します。よろしくお願い致します」
ローランは淡い金髪に紫陽花のような青紫色のグラデーションががった瞳の美青年だ。
男性ではあるが、美人という表現がよく似合う。
淡い金髪は左側で緩く結わえられており、薄い唇の右端に黒子があってそこはかとなく色気を感じさせる。
ローランが何もしなくてもその美しい顔に微笑みをのせて話す姿にアデレードは思わず見とれてしまっていた。
「こら、アデレード。いくらローラン様が素敵でも見とれない。御免なさいね、娘が失礼致しました」
アデレードはバーンズ伯爵夫人から窘められてしまった。
(うっ……だって正直ローラン様のお顔が物凄く好みと一致したのですもの。それに彼を見ていると昔、一緒に遊んだあの子を思い出すわ)
アデレードは子供の頃、バーンズ伯爵邸で当時のアデレードと同じ年頃の少女と一緒に仲良く遊んだ記憶がある。
バーンズ伯爵邸の庭園で四葉のクローバーを探したり、シロツメクサの花冠を作ってお互いの頭に飾った記憶だ。
アデレードはその時見つけた四葉のクローバーを押し花に加工した後、本の栞にして今でも大切に使っている。
(あの子の名前はもう覚えていないけれど、確かあの子も淡い金髪に青い瞳だったわね。今、どうしているのかな?)
「バーンズ伯爵夫人、私は不快に思っていないのでお気になさらないで下さい。それにそれを言うなら私もアデレード嬢に見とれてしまいましたよ。あの頃も天使のように可愛かったけれど、今はすっかり素敵なお嬢さんですね。私の方が気後れしてしまいそうです」
ローランが眩しそうにアデレードを見つめながら告げる。
ローランが過去にアデレードに会ったことがあるかのような言葉が混ざっていたけれど、アデレードは少女との思い出を回想していたので、聞き逃していた。
「ローラン様が気にしていないと仰られるなら私から言うことはございません。早速ですが、私はカトリーヌとお茶会をします。なので、アデレードとウィリアムはローラン様に庭園の案内をお願いね」
「わかりましたわ、お母様。私達のことは気にせず、ゆっくりお過ごし下さい。では、ルグラン侯爵夫人。私達はこれで失礼致します。ローラン様は私とウィリアムについて来て下さいませ」
「アデレード嬢、ウィリアム様。うちのローランのことをよろしくお願いします。ローラン、ちょっといいかしら?」
ルグラン侯爵夫人がローランをバーンズ伯爵一家のいる場所から少し離れた場所に連れて行き、耳に顔を近づけひそひそ話をする。
ルグラン侯爵夫人は厳しい顔で何かを言い、それに対し、ローランは嫌そうな表情をしていた。
話の内容はバーンズ伯爵家の面々には聞こえてこなかったが、バーンズ伯爵夫人だけは話の内容を察して少しだけニヤニヤしていた。
話を終えて二人が戻って来たので、バーンズ伯爵夫人とルグラン侯爵夫人は屋敷の中のサロンでお茶会、アデレードとウィリアムはローランを連れて庭園案内へと別れた。
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