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第25話 リリー視点

今日も読みに来て頂き、ありがとうございます!


皆様からの応援が執筆の何よりの励みになっています(*^^*)

 ディナー終了後、話し合いの時間がやって来た。


 わたしが今日一番頑張らなければならない時間だ。



 ディナーでの失態を取り繕いつつ、上手くやらなきゃ!


 何としてでもわたしのことを認めてもらわなければ。


 わたしはそんな決意に満ちていた。



 ベンのパパが既に食事も終わっているのにわざわざダイニングで話をする必要もないと言ったので、話はサロンですることになった。


 そして、ベンが伯爵様から預かった手紙はここでベンのパパの手に渡る。


 ベンのパパだけは手紙開封と手紙の内容の確認の為に一旦席を外し、サロンへは残りの全員でひとまず向かうことになった。 



 わたしはトーマス伯爵邸に足を踏み入れてから、屋敷の内部はベンの部屋とさっきまでいたダイニング除き、案内を全く受けていない為、まだ見ぬ部屋に行く機会があるのは嬉しい。


 将来的にわたしはここの女主人になるんだから、屋敷のことは出来るだけ把握しておきたい。



 サロンに到着し、部屋の中を見渡す。


 部屋の中は大きな長方形の机と椅子があり、わたしはベンの隣に座ったらいいと思って、ベンの隣に着席する。


 ベンのパパが来るまではゆっくりお茶を飲んで待つことになっていたけれど、正直に言うとさっきの料理でお腹がいっぱいでお茶はそんなに飲むことが出来なかった。


 おしゃべりしながら待つにしても、ベンのママとトビーが話をするような雰囲気ではなかったので、完全に無言だった。


 気まずい沈黙状態で待っていたら、やっとベンのパパがサロンに到着する。



 まずはディナーのときにはやらなかった自己紹介から始まる。


 ベンのパパの名前はゴードン、ママの名前はバーバラというみたい。


 よし、覚えたわ!


「わたしはリリー・バーンズ。バーンズ伯爵家の二女です。この度、アデレードお義姉様に代わり、ベンの新たな婚約者になりました」


 わたしも明るくにこやかに自己紹介する。



 その後、早速、話に入る。


「お前、そこの彼女のこと、どのくらい知ってるか?」


 ベンのパパがベンに質問する。


 ベンがわたしのことをどのくらい知っているのかですって!?


 ベンに嘘を吐いていたわたしにとって有り難くない方向へ話が進んでいるような……。



「どのくらいとは?」


「知ってることは何でもいいぞ」


「二年前に両親が亡くなって、バーンズ伯爵家に引き取られ、バーンズ伯爵閣下の養子になったこと。アデレードに虐められていて、バーンズ伯爵邸の離れに追いやられ、そこで暮らしていたこと。アデレードよりも一歳年下だということくらいでしょうか?」


 ……不味い。


 今、ベンが挙げたことはわたしがベンに伝えた嘘じゃない!


 まさかと思うけれど、このまま事実確認みたいなことにならないよね?



「思ったよりも彼女のことをよく知らないんだな。何でもとは言ったが、とりあえずこの場で重要と思われることだけを選んだのか」


「全く関係ないことを言っても仕方ないと思いましたので」


「まぁ、それは良い。ベン、それはきちんと事実確認はしたか?」


 わたしの願いも虚しく事実確認の方に話が向かっている。


 でも、まだそうと決まった訳じゃないと淡い期待をする。



「事実確認?」


「ああ。お前はまだ我が家に諜報部隊があることは知らないだろうからそれは使わなかったにしても、直接バーンズ伯爵に時間を取ってもらって彼女のことについて話を聞いて確認したか?」


「いいえ。だってリリー本人が泣きながら私に教えてくれたんですよ? 信用しない訳がないではありませんか」


 ベンがわたしの話を鵜呑みにして信じてわたしの味方になってくれたのは嬉しい。


 でも、この後の展開を予想するとキリキリとお腹が痛くなる。



「本人に言われたから、事実確認はしない。それは駄目だ。いくら本人にそう言われても、確認が取れない場合は話を鵜呑みにしない」


「わたしのことを疑っているんですか!? 失礼な!」


「私はベンと話をしているんだ。君は口を挟まないでくれ」


 思わず大声で怒鳴ったら、窘められちゃった。


「ベン。今、お前が私に言った彼女についての情報、間違っているぞ」


 予想はしていたけれど、やっぱりそんな展開になってしまった。


「は!? そんな訳が……」


「彼女が両親を亡くしてバーンズ伯爵の養子になったのは事実だ。しかし、伯爵が彼女を迎えに行き、養子にしたのではなく、彼女が伯爵家にやって来て伯爵に生活の面倒を見て欲しいと頼んだそうだ。それに養子にしたと言っても、特別養子縁組ではなく普通の養子縁組。バーンズ伯爵の実子同然の養子ではない」



 どうしてベンのパパがそんなことを知っているんだろう?



 わたしはそこではっと気づく。


 ベンが渡した伯爵様からの手紙ね!


 なんて余計なことを……!


 ケチなだけじゃ飽き足らずわたしの幸せの邪魔をしようとするなんて許さない……!



「実子同然の養子ではないから、自分の立場を勘違いさせない為に彼女はバーンズ伯爵は離れで暮らさせることにしたそうだ。アデレード嬢の虐めで離れに追いやられた訳ではない」


「離れに追いやられたのはアデレードの虐めではない!? 出鱈目を言うな! いくら父上でも言っていいことと悪いことがありますよ! リリーが本邸に立ち入らせてもらえず、離れに追いやられたのはアデレードのせいだ! なっ、そうだよな、リリー!?」


「そうよ! アデレードお義姉様が手を回してわたしを離れに追いやったのは事実です! 他にも食事を抜かれたりしました。お義姉様がわたしを虐めていたのは間違いありません!」


 ベンに話を振られたから、精一杯ベンの言葉を肯定する。


 具体的な証拠は何もない。


 なら、アデレードがわたしを虐めていたと力強く言ってしまえば、わたしのことを信じてくれるはずよ!


「バーンズ伯爵からの手紙にはそう書かれているが。ついでに言うと、君の主張する虐めの内容については、自分の待遇が気に食わず、伯爵が君の待遇に合わせて用意したものをアデレード嬢からの虐めだと一部事実を捻じ曲げて勝手に解釈しているだけで、彼女が君を虐めたという事実はないとも書かれている。私は君よりバーンズ伯爵の方を信用している。特別養子縁組でないなら、離れで暮らさせることは納得だ。私がバーンズ伯爵だったとしても同じようにするだろう」



 わたしよりも伯爵様の方を信じるんだ……。


 どうして伯爵様の方を信じるのよ!?


 都合の良い嘘を吐いているかもしれないじゃない!?



「特別養子縁組ではないなら、確かに本邸で暮らさせる意味はないわね。本人の気質も考慮してそうしたのだろうけれど、うちの屋敷に来てからの言動を見る限りそれも納得だわ。本邸で暮らさせていたら問題しか起きなさそうだもの」

 

 ここでベンがさっきからちょいちょい話に挙がっている特別養子縁組について質問する。


 その質問にはベンのパパが答えた。


「簡単に言うと、実子同然の扱いにする養子縁組だ。跡取りの問題が発生した時に利用されるのが主だ。それに対して、普通の養子縁組はただ後ろ盾になるというだけで、実子同然の権利は何もない。謂わば名ばかりの伯爵令嬢もしくは居候だ。それに、いつでも養子縁組は解消出来る。バーンズ伯爵は彼女が成人するまで生活の面倒を見て、その後は養子縁組を解消するつもりのようだ。だから貴族としての教育は受ける必要がなく、ベンに嘘をついた結果があのテーブルマナーだな。勉強していないのが丸わかりだった」



 この答えによってベンにわたしのバーンズ伯爵家での正確な立ち位置がバレてしまった。


 その証拠にベンは呆然とした様子で”リリーは名ばかりの伯爵令嬢……。そしてアデレードの虐めは事実ではない……”とブツブツと呟いている。



「それにまだ、訂正しないといけないことがある。君がさっきから言っている”アデレードお義姉様”という言葉。本当は君の方がアデレード嬢よりも年上だろう?」


「リリーの方が年上だったのか……?」


「違います! わたしの方が年下です! ベン、お願い! 信じて!」



 ここでまたわたしにとって都合の悪い情報が出て来た。


 もう、何なのよ!?



 わたしは確かにアデレードと正確な年齢差は知らなかった。


 アデレードに虐められている可哀想な義妹として振る舞おうとしただけ。


 なのに実際はわたしがアデレードよりも年上だったせいで、ここに来てまた一つ嘘が発覚してしまった。



「バーンズ伯爵は君の出自についても手紙で教えてくれていてね。君が真実を知っていたのかどうかは知らないが、アデレード嬢の方が年下で、血縁上は従姉妹になる。君はバーンズ伯爵の養子といっても、立場的には名ばかりの伯爵令嬢。本物の伯爵令嬢であるアデレード嬢と姉妹とは到底言えまい」


「わたしは名ばかりの伯爵令嬢ではなく、本物の伯爵令嬢です! だからアデレードお義姉様とは姉妹です!」


 泣きそうになりながら必死になって主張しても誰も信じようとしてくれない。


 ベンすらもわたしを庇うようなことを言ってくれない。


 必死になっているわたしにベンのパパがさらに追い打ちをかけて来た。


「まだ否定するのか。では、今、カーテシーをしてみてくれ」


「カーテ、シー……? それ、何ですか?」


 それって何?


 初めて聞く単語だからどんなことをするのか全くわからない。



「カーテシーはお辞儀のことよ。貴族令嬢は知っていて当然のもの。知らないということは……ね?」


 ベンのママが正解を教えてくれた。


 それは、もし、本当にわたしが貴族令嬢としての教育を受けていたのなら知っていることだった。



「君が否定しようがしまいが、事実は動かない。さて、ベンと新たに婚約したということについてだったな。バーンズ伯爵も認めたようだが、いいぞ、私も認めよう」



 ベンのパパはここで唐突にわたしのベンの関係を認める発言をする。


 今までの話がわたしの嘘の暴露だったから、これには本気で驚いちゃった。



 えっ、嘘を訂正した上で認めてくれたということ!?


 わたしの頭の中では勝利のファンファーレが鳴り響いていた。



「ただし、二人ともトーマス伯爵家を出て行ってから好きにしてくれ」

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