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第24話 リリー視点

今日も読みに来て頂き、ありがとうございます!


皆様からの応援が執筆の何よりの励みになっています(*^^*)

 ようやくダイニングにベンの両親が姿を現す。


 ベンのパパらしき人はベンと同じ燃えるような赤い髪で少々厳めしい顔立ちで、ママらしき人はベンと同じ紺色の瞳でおっとりとした垂れ目の可愛らしい顔立ち。


 この人がベンの話にあった優しいママね。


 確かに見た目は優しそうな感じがする。



 わたしはベンの両親に明るく自己紹介しようと思ったけれど、二人ともわたしを一瞬ちらりと視界に入れてふいっと視線を外し、そのまま所定の位置と思われる席に座る。



 あれ……?


 もしかしてわたしは歓迎されていないのかな?



 そんな訳ないよね?


 何だか自己紹介するような雰囲気ではないみたいだから、一旦諦めた。



 そんなことを思っているうちに、ディナーが始まる。


 給仕の人がわたしを含め、皆の席に料理を置く。


 真っ白な大きめのお皿に一口、二口で食べ終わっちゃうような量の料理しか盛り付けられていない。



 たったこれだけなの?


 量はさておき、とりあえず手で掴み、口に運ぶ。


 う~ん……味は美味しいのに量が全く物足りないわ。



 ここで伯爵様がひとまず話をするより食事をするという提案をし、誰の反対もなかったので、その提案が通る。


 わたしもその提案に異論はなかった。



 全員がその少な過ぎる料理を口にした後、給仕はお皿を下げ、また新たに料理が盛り付けられたお皿を置く。


 今度は三種類の料理のようね。


 さっきの少な過ぎる料理はバケットにサーモンのスライスとトマトが乗っていたから、手掴みで食べるのが適当だった。


 でも、今、出されたこの三種類の料理はどう見ても手掴みでは食べられず、ナイフやフォークを使って食べるのが適当だと判断する。


 そこで自分の席を改めて見渡すと、お皿を中心に左側にナイフ、右側にナイフが置いてある。


 わたしは早速ナイフとフォークを手に取ろうと思ったけれど、あることに気づく。


 ナイフもフォークも数本置いてあって、一体どれを使えばいいのかわからないということに。


 わからないことは変に悩んで時間を消費するよりも素直にわかる人に教えを乞うた方が良い。



 そう思ったわたしはベンに質問する。


「ねえ、ベン。このナイフとフォークはどれから使えばいいの?」


 

 その瞬間、わたし以外の全員がバッと勢いよくわたしを見る。


 皆、信じられないものを見るかのような顔をしちゃって一体何よ?


 わたし、そんなに変なことを質問した?



「え? それは一番外側にあるナイフとフォークから使っていくんだが……もしかして知らなかった?」


 今まで食事をする時に、こんなにたくさんナイフとフォークが並んでいるような場面は一度もなかった。


 初めてなのにわかる訳がないじゃない!


「食事をする時にこんなに沢山ナイフとフォークが並んでいるのなんて初めて見たの。わかる訳ないわ」


「こんな初歩のことも知らなかったのか……? 噓だろう……? バーンズ伯爵家ではアデレードに虐められていたけれど、伯爵令嬢としての勉強はしていたと言っていたじゃないか」



 ……げっ、不味いことになった。


 ここでベンに嘘の物語を語っていたことが裏目に出るなんて。


 ベンに語った物語ではわたしは伯爵令嬢としての勉強は一生懸命やっていたことになっていたが、実際はそんな勉強なんて一切していない。


 適当に嘘をついてもバレないと思っていたのに!


 どうしよう、どうしよう……?


 何か上手い言い訳をしないと……!



 そうだ! 


 緊張して全部頭から吹き飛んだことにしよう!


 これなら大丈夫だ!



 ……でも、それで誤魔化されてくれる人はいなかった。



「そこのお嬢さんはテーブルマナーはよくご存知ではないのね。アデレードちゃんの義妹だと聞いたから、てっきりマナー関係は完璧に出来るお嬢さんなのかと思っていたけれど、そうではないのね」


「そうだな。伯爵令嬢だと聞いていたからテーブルマナーは大丈夫だろうと思って、いつも通りのフルコースの料理にしたのだが。この様子だと無駄な気遣いだったようだ。君の分だけもっと簡単に食べられる料理を出すべきだったかな」


 ベンの両親は表情だけはにこやかに嫌味を言ってきた。


 特にベンのママ。


 アデレードを引き合いに出すなんて……!


 それにベンのパパもわたしのことを馬鹿にしてるの!?


 もうっ、頭に来るわね!


「今日はちょっと調子が悪いだけで、いつもは完璧に出来るんです! それにわたしとお義姉様を比べないで下さい! お義姉様には良い感情はないから、比べられたら物凄く気分が悪いです! あと、わたしだけもっと簡単に食べられる料理を出すべきだったなんて、間違ってもそんなことを言わないで下さい!」


 言われっぱなしなんて腹が立つから言い返してやる!


 そう思って思いっきり怒鳴りながら言い返した。


 でも、わたしが言い返した内容はさらに状況を悪化させた。 



 大声で怒鳴ったからか、ベンのママに水を勧められたので水を飲む。

 

「少しは落ち着いたかしら?」


「はい……」


「ならいいわ。お水を飲んで頭も冷えたでしょう。では、お話をしましょうね。あなたの言い分は伝わったわ」


 ベンのママはにっこりと微笑んでいたし、わたしの言い分は伝わったという言葉にほっと安堵する。


 わかってもらえたようで良かった!


 ……でもその後に続いた言葉にわたしは返事をすることは出来なかった。


「でもね、あなたの言い分には無理があり過ぎよ。あなたはベンに質問される前は”沢山ナイフとフォークが並んでいるのは初めて見た。どの順番から使うのかわかる訳がない”と言っていたわ。その後、勉強していたんじゃないのかという質問にはこう答えていたわよね? ”勉強はしていたけれど、緊張で全部頭から吹き飛んた”と。そして今しがたこう言ったわよね? ”今日はちょっと調子が悪いだけでいつもは完璧に出来る”と。本当にちゃんと勉強していつもは完璧なら、沢山ナイフとフォークが並ぶことは当然知っているはずだし、いくら緊張していたんだとしても、そんな基本的なことを忘れる訳がないわ。言っていることが滅茶苦茶よ」


 うっ……わたしの主張は無理があり過ぎたみたい。



 それにアデレードとの比較についても言ってきた。


 ”比較するなというのは無理がある”ですって?


 どうしてよ!?


 「だってどんな事情や経緯があったのかは知らないけれど、あなたがベンの新しい婚約者になったのでしょう? 前の婚約者と新しい婚約者を比較するのは人間の(さが)よ。あなただって古いものを捨てて新しいものを買った経験くらいはあるでしょう? その時、前のと比べて新しいのは……、と比べなかったかしら? それと同じことよ。そして、アデレードちゃんを押しどけて新たな婚約者の座に収まったのなら、あなたのどんなところが彼女よりも優れているのか親として気になるわ」



 わたしがアデレードより優れているところと言えば、可愛いところ。


 あと何よりもベンのことを愛しているところ。


 ベンのママだって息子が愛されていることを知れば、わたしへの印象はきっと良くなるはずよ。


 そう思ってその二つを挙げたけれど、嘲笑された上に一刀両断されてしまった。


「可愛いことは役には立たないわ。ベンを愛しているのかどうかも正直二の次ね。伯爵夫人として上手くやっていける手腕があるのかどうか。この一点を最重要視しているわ。テーブルマナーの初歩で躓くようなお嬢さんには無理なお話ね」


 可愛いところもベンを愛しているところも重視していないの!?


 内心落ち込んでいたところに、さらにベンのパパからも追い打ちがかかる。


「私も言いたいことを言わせてもらう。”自分だけもっと簡単に食べられる料理を用意するべきだったなんて間違っても言うな”と言われても、私にそう思わせたのは君自身だろう? ベンに言った通り、真実バーンズ伯爵家で伯爵令嬢としての勉強していたのなら、あんな質問が出る訳がない。出来ないことを出来ると嘘をつくのは感心しないし、信用出来ない。それだけでなく、正直に勉強していないと認めずに、無茶苦茶な言い訳を重ねる姿勢が見苦しい」



 何とか誤魔化そうと話の筋の通っていない言い分を重ねたことが悪印象を与えてしまったみたい。


 こんなことならベンに嘘の物語を言わなければよかった。


 学んでいないことを学んだと嘘をつくと、いざ学んだことを示す機会がやって来た時に嘘つきだと証明されてしまい、信用を失う。


 あの時、後先考えずにあんな嘘を吐かなければ……と思ったところでもうどうにもならない。



 わたしの一言がきっかけで食事どころではなくなってしまった空気を何とかしようとトビーがベンの両親を説得する。


 その説得の中で、これ以降はわたしの食事中にどんな失敗をしても一切指摘しないという約束をしてもらえた。


 さっきみたいなことになったら美味しい料理も美味しく頂けない。


 だからとても有難かった。



 その後、スープに魚料理、デザート、肉料理、紅茶と何故かもう一度デザートが出て来たけれど、全部自分の思うままに食べた。


 魚料理は全部食べていないのに下げられてしまうという意地悪な目に遭ったけれど、その他は何も問題はなかったように思える。


 デザートが二回も出てきたのには首を傾げてしまったけれど、美味しかったから文句なんて何もない。



 わたしはこの時、自分のことしか考えていなかったけれど、ベンの両親、トビーはわたしの食事中の言動で必死に笑いを堪えていたなんて全く気づかなかった。 

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