第23話 リリー視点
活動報告で予告はしておりましたが、昨日は更新をお休みして申し訳ございませんでした。
今日からはまた一日一話ペースで更新していきたいと思いますので、お付き合い下さると嬉しいです!
ベンの家であるトーマス伯爵家に到着した。
馬車移動は初めてだったけれど、長時間乗ると馬車の揺れでお尻と腰が結構痛くなるのね。
一つ勉強になったわ。
馬車を降りたら、そこには大きな屋敷が目に入る。
バーンズ伯爵邸とは違う石造りの堅牢な屋敷で外観は全く違うけれど、ここの屋敷もバーンズ伯爵邸に負けず劣らず大きな屋敷だ。
平民出身だったわたしがここの屋敷の次期女主人になるのだと思うと、人生って良く出来ているんだなぁとしみじみ思う。
人生で悪いことがあったら、悪いこと続きじゃなくて、良いこともある。
まるで物語のようね。
虐げられていた少女がお城の舞踏会で王子様に見初められ、王子様と結婚して幸せな生活を送る。
自分がこの有名な童話の主人公の少女になったような気分だ。
童話と違って相手は王子様じゃないけれど、それでも十分。
ベンについて行くと、玄関らしき場所に到着し、ベンは大きな扉に付いているドアノッカーを数回鳴らす。
出てきたのは中年のおじさんだった。
どこのお屋敷でもおじさんの使用人を抱えているのかな?
ベンはわたしのことをアデレードの義妹で、ベンの新たな婚約者だとおじさんに紹介する。
その後、おじさんはわたしに自己紹介し、お嬢様として丁寧に接してくれた。
凄く嬉しいな。
わたしを伯爵令嬢扱いしなかったバーンズ伯爵家はやっぱり変なのよ。
でも、わたしがこの屋敷の女主人になった暁にはおじさんはクビにして、若くてかっこいい男の人ばかりで揃えたいな。
毎日見る顔ならそりゃあ草臥れたおじさんよりイケメンよ。
ベンには悪いけれど、若いイケメンは目の保養だし、イケメンにチヤホヤされながらかいがいしくお世話されたいじゃない?
わたしも家令のおじさんに自己紹介する。
ベンの婚約者はアデレードではなくこのわたしだということを強調した。
それと早速ドレスと宝石付きのアクセサリーをおねだりする。
バーンズ伯爵家で着ていたワンピース姿でベンのパパとママに会うのは恥ずかしいし、ベンの婚約者という立場ならいくらでもドレスとアクセサリーをわたしに用意してくれるはず。
やっと念願のドレスが着れるんだと期待に胸を膨らませ、ドキドキしながら、肯定の返事を待つ。
でも、このおじさんはドレスは用意してくれなかった。
ベンもわたしに加勢してくれたけれど、効果はなかった。
現時点でわたしが正式にベンの婚約者になったかどうか判断がつかないからですって。
ベンのパパに事実確認もなしに伯爵家のお金を使って高級なものをわたしに用意するということは出来ないらしい。
そして、ベンの個人的な財産からなら、ベンのパパの確認は要らない為、今すぐ用意することは出来ると言う。
ベンはわたしの為に用意してくれるかなと期待はしたけれど、口をつぐんでいることからお察しだ。
ベンがいくら伯爵家の息子だといっても、それでもドレスを買うにはお金が足りないのかぁ……。
内心とてもがっかりしたけれど、それは言わなかった。
ここでがっかりしたのを表に出して、ベンがわたしを婚約者にしたいという何よりも大切な気持ちが消えてしまえば元も子もない。
話を聞いていると、わたしはベンのパパに婚約者として認めてもらえたら、いくらでもベンの婚約者としてドレス等を買ってもらえる可能性があるみたい。
なら、ベンのパパに認めてもらおう。
それが一番のドレスへの近道だ。
早速ベンの両親に会って、認めてもらおうとおじさんに掛け合ったけれど、今すぐには会えず、会えるのはディナーの時間になると言う。
それまではベンの部屋に待機することになった。
「リリー、私の部屋はこっちだ」
わたしはベンのエスコートで彼の部屋へ向かう。
もしかするとベンは部屋で恋人らしいことをするつもりなのかもしれない。
部屋にはわたしとベンの二人きりで、バーンズ伯爵家で婚約者だと認められたばかりだ。
初めて結ばれるにはもってこいの状況だった。
心なしかベンもそわそわと浮足立っているように見えたから、もしかすると同じことを考えているのかもしれない。
実はわたしとベンは部屋の中で二人きりという状況になったことは一度もない。
バーンズ伯爵邸での逢瀬はいつも離れの中ではなく外だったから。
なので、恋人らしく部屋でイチャイチャするということはまだだったりする。
もしかして、もしかしてその時が来ちゃった感じ?
ドキドキと期待が入り混じった複雑な乙女心でいると、そこに水を差すような言葉がおじさんから告げられる。
見張りを寄越された上では流石にイチャイチャは出来ず、健全に過ごす羽目になってしまった。
***
メイドからお知らせを聞いて、わたしとベンはダイニングへと移動する。
ダイニングに移動して食事をするなんてバーンズ伯爵家では一度もなかったから、初めての経験にわくわくと明るく弾んだ気持ちになる。
ベンと話しながらダイニングに到着すると、そこには見知らぬ少年が一人いた。
この子は一体誰なんだろう?
見たところベンと髪の色と目の色が同じだからベンの弟なのかな?
そんなことを思っていたら、ベンと少年の会話が始まっていた。
ベンは今から両親と話をする予定が入っているのに、この少年がいることが気に入らなくて、退席するように説得している。
それに対し、少年は、ベンのパパである伯爵様が同席しろと言ったから自分はいるだけであって、退席を催促するなら伯爵様と交渉しろと主張している。
その主張に絡めた形でわたしのことが話題に上がった。
少年がベンにわたしのことを紹介するよう要求したのに便乗して、わたしはこの少年は一体誰なのか?という質問をベンにする。
ベンは少年に私の名前とアデレードの義妹であることを教え、わたしにはこの少年の名前――トビーというらしい――と、弟だということを教えた。
すると、トビーから思いもよらない質問が飛んできた。
「ふーん。アデレード嬢の義妹、ですか。”義妹がいる”なんていう話を僕はアデレード嬢から聞いたことはありませんけどね。本当に義妹なのですか?」
アデレードの義妹であることを疑われるなんて!
ベンの前ではアデレードに虐められた可哀想な義妹でいなければならない。
ベンに本当に義妹なのか怪しまれては不味い。
わたしは内心、心臓をバクバクとさせながら焦って大声で否定した。
怪しむような発言をしたトビーに怒ってもいたから、表情はほっぺを膨らませて唇を尖らせた怒りの表情丸出しだ。
この質問がトビーによるわたしへの試金石であったことになんてわたしはまるで気づけなかった。
わたしはベンの両親にさえ認められれば良いと思っていて、ベンの弟であるトビーがわたしを静かに見極めようとしているなんて思いもしなかった。
ベンがすぐに”変な言いがかりをつけるな”とトビーを窘め、アデレードとは婚約破棄し、わたしと新たに婚約するということを告げる。
そして、将来的にトビーはわたしの義姉になるとも。
すると、トビーに物凄く驚いた表情をされる。
もう、何でよ!?
「そうだ。リリーは私の真実の愛の相手なんだ。彼女はアデレードに虐められていて、その相談に乗っているうちに真実の愛に目覚めたんだ。なあ、リリー!」
「ええ! ベンはとっても頼りになるわ! 私達は真実の愛で結ばれているのよ」
ベンはわたしがアデレードに虐められていて、その相談に乗っているうちに愛が芽生えたという説明をトビーにし、わたしもすかさずそれを肯定し、ベンはとても頼りになると付け加えた。
トビーはわたし達の言葉を聞き、怪訝な表情を浮かべ、それ以降黙り込んでしまった。
その表情が”この二人、一体何を言っているんだろう?”と言っているように見えたのはきっとわたしの目の錯覚だ。
トビーとそんなやり取りをした後、いよいよお待ちかねのベンの両親との対面の時がやって来る――。
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