第21話 リリー視点
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相変わらず思ったような生活を送れなくて、わたしはイライラしながら日々を過ごしていた。
そんな中で、わたしにある出会いが訪れる。
――この時のわたしは、ベンのことを救世主だと信じていた。
ベンという救世主に出会わせてくれたことを神様に感謝していた。
***
その日は、わたしがバーンズ伯爵家に来てから約一年経った頃だった。
本邸のお屋敷の方ではアデレードの誕生日パーティーが開かれていた。
わたしは当たり前のようにそんなものは開いてもらったことがない。
あのツンと澄ましたアデレードが沢山の誕生日プレゼントに囲まれ、そして沢山の人にお誕生日おめでとうと言われる場面を想像するとムカムカする。
わたしもあの時に顔を合わせたアデレードが来ていたような綺麗なドレスを着て、パーティーを開いてもらって、沢山の誕生日プレゼントとおめでとうの言葉が欲しいな。
今日も散歩の許可が出たので、いつも通りのコースを散歩する。
今の季節は夏。
離れの付近には小さな向日葵が沢山咲いている。
今日も変わり映えのない風景だと思っていたら、違った。
向こうにある大きな木の下にぽつんと置いてあるベンチに見たことがない男の人が座っている。
気になったわたしは大きな木の方へ足を運ぶ。
近づいてみると、その男の人はベンチに座った状態で、すぅすぅと寝息を立てて寝ていた。
気持ちよく寝ている人をわざわざ起こすのは忍びないので、男の人の隣に座る。
それから十分位すると、その人はぼんやりと目を開け、うーんと両腕を頭の上に伸ばす。
「ふぁあ、よく寝た。……って君は誰? 初めて見る顔だな」
目を開けたこの男の人は、燃えるような赤い髪に紺色の瞳のイケメンだった。
「わたしはリリー。バーンズ伯爵家の娘よ」
「そうなんだ。私はベン・トーマス。トーマス伯爵家の長男」
「ベンって言うんだ? ところで、ベンは何でこんな場所に?」
「今日はアデレードの誕生日パーティーが開かれていて、家族全員で招待されたんだ。私はあまり乗り気ではなかったんだが、私はアデレードの婚約者でさ。流石に婚約者の誕生日パーティーに参加しない訳にはいかなくて。渋々参加したんだが、ちょっと顔を出したからもう十分だろうと思って、パーティーから抜け出してここに来たんだ。ここなら本邸とは遠いから、連れ戻しに来る人はいない」
ふーん。
アデレードの婚約者かぁ~……。
伯爵家の長男でイケメンの婚約者までいるとか狡いな。
まぁ、でも、婚約者と言っても、渋々パーティーに参加したとか言ってるあたりあんまり仲は良くなさそうね。
「へえ~そうだったんだ。わたし、あの人に婚約者がいるなんて知らなかったな。ベンが自分のことを教えてくれたから、わたしも自分のことをベンに教えるね」
この人はわたしが悲惨な扱いを受けていると知ったら、どんな反応をするんだろう?
ここで会ったことも何かの縁。
もしかしたらチャンスかもしれない。
「わたし、去年、このバーンズ伯爵家の令嬢になったの。両親が死んでしまって途方に暮れていたところに伯爵様がわたしを引き取って保護する為に迎えに来てくれて、バーンズ伯爵家の一員になった。伯爵様に養子にしてもらったのに、アデレードお義姉様が”バーンズ伯爵令嬢は自分一人で十分だ”なんて主張して、わたしを虐めるようになったのよ。今、着ているワンピースだって、”あなたにはドレスは勿体ない。これがお似合いよ”なんて言われて、ドレスを買って貰えないように意地悪をされているし、住んでいる場所だってお義姉様から手を回されて本邸のお屋敷ではなくこの場所から近いところにある離れに追いやられている。わたしが気に食わなかったんでしょうね」
実際の出来事を自分に都合の良いように変えてベンに伝えてみる。
そして、さりげなく意地悪な姉に虐められる可哀想な妹になってみた。
昔、姉が妹に意地悪をして両親が問答無用で姉を叱るという光景を見た。
その時、年下は無条件に庇護されると気づいた。
だから、今回はそれに倣ってみる。
実際はどちらが年上なのかは知らないけれど、見た目的にアデレードの方がわたしより年上に見えるから問題ない。
ここで、しんみりとした表情を浮かべ、涙を一粒ポロリと零す。
この涙は嘘泣きしたものだけれど、ベンはちゃんとわたしの涙を見ていた。
これは良い感じじゃない?
久々に手ごたえを感じる。
「伯爵はアデレードの虐めに対して何か対策を取ってくれたのか?」
「いいえ。伯爵様は姉妹仲には我関せずな人だから、黙認しているの。でも、一つだけ虐めを辞めさせる為に考えている方法はある」
「どんな方法だ?」
「伯爵令嬢としての振る舞いを完璧に身につけて、伯爵様にわたしを認めさせる。そして、父という立場からアデレードお義姉様を叱ってもらって、わたしに対する虐めを辞めさせる。……という方法よ」
「なるほど。上手く行っているのか?」
「いいえ。中々認めてはもらえないの。頑張ってはいるんだけど、伯爵様の求める基準が高くてね。でも、わたしがそうやって頑張っている間にもアデレードお義姉様からの虐めは止まらない。どうしたらいいんだろう……?」
最後に潤んだ涙目の上目遣いでベンを見つめる。
これはママから教えてもらった男を落とす技術だ。
それを活用する。
ママはこの手のことの研究に余念がなかったらしく、色々な技術を知っていた。
「くっそ、アデレードめ! こんなかわいい女の子を虐めているなんて性根が悪い女だな!」
ベンはアデレードに対して滅茶苦茶怒っている。
この様子ならわたしの味方になってくれるかな?
「リリー。お前は悪くない。悪いのはリリーを虐めるアデレードだ。今までよく頑張ったな」
ベンがわたしの頭をポンポンと撫でる。
わたしはすかさずベンに抱き着く。
ベンは一瞬驚いたようだけど、すぐにわたしを抱きしめてくれた。
「これからは私がいる。一緒にアデレードを懲らしめる方法を考えよう」
***
それ以降、ベンはバーンズ伯爵邸に来る度、わたしのところに会いに来てくれた。
会う度、わたしの相談に乗ってくれたり(相談内容は勿論でっち上げたアデレードからの虐め)、ベンの話を聞いたりして過ごしている。
ただ、わたしも離れから出るのに時間制限があるから、二人で時間を気にせずゆっくり過ごすことは出来なかった。
時間制限を破って、離れから出られなくなってしまったら本末転倒だ。
伯爵邸に来てからこんな風にわたしに優しくしてくれる人はいなかったから、わたしに会いに来てくれるだけで嬉しかった。
でも、ベンはわたしに会いに来る度、大抵何か贈り物を持って来てくれる。
それは決して大きな宝石が付いているような見るからに高いアクセサリーではなかったけれど、ベンの”私がこんな贈り物をするのはリリーだけだ。アデレードには何も贈っていない”という言葉にわたしは優越感を感じ、狂喜乱舞した。
ベンからもらった贈り物は勿論エマとノラに見せびらかして自慢した。
見せびらかして羨ましがらせる目的で。
でも、二人の反応はひどく冷めたものだった。
期待した反応が見られなくて残念。
これはもしかしたらアデレードから婚約者を奪える感じかな?
ベンは伯爵家の長男だって確か言っていたから、もし奪えたらわたしは次期伯爵夫人になれる。
そうすればわたしに何一つ望んだものを与えてくれないバーンズ伯爵家にしがみつく必要もない。
次期伯爵夫人として贅沢で優雅な暮らしをさせてもらえる。
そして、何より婚約者をわたしに奪われた時のアデレードの顔を見てみたい。
慌てて取り乱すのか、ぽかんとした間抜け面を晒すのか、あのお綺麗な顔を涙でぐしゃぐしゃにしてベンに縋りつくのか。
いずれにしても想像するだけで最高に気分が良い。
わたしが欲しいものを全部持っているアデレード。
婚約者くらいわたしに譲ってくれてもいいんじゃない?
そう思っていたら、この次の逢瀬でなんとベンからプロポーズされた。
場所は初めて出会った木の下のあのベンチで。
「リリー。わたしはアデレードに虐められても健気に頑張るリリーのことを愛している。私の真実の愛の相手はアデレードではなく、リリーだ」
「ええ、ベン。わたしもあなたのことを愛しているわ。わたし達、両想いね」
「でも、私は現情アデレードの婚約者だ。だから、リリーと結ばれる為にはアデレードとの婚約をどうにかしなくちゃならない」
「そうね……忘れかけていたけれど、ベンはアデレードお義姉様の婚約者だったわね」
「ああ。でも心配することはない! 今度、私はアデレードに婚約破棄を突き付ける。そして新たな婚約者にリリーを迎える。アデレードが婚約破棄はやめて欲しいと言ってきても、断固断る!」
「ありがとう、ベン! 上手くいくようにわたしも協力する!」
「なに、愛するリリーの為だからな。全ては真実の愛の為に!」
ざまぁみろ、アデレード!
お前の婚約者はお前じゃなくてわたしを選んだわ!
わたしは心の中で勝ち誇って高笑いをしていた。
――この時のわたしはアデレードに勝った気満々だった。
でも、わたしは事の重大さに全く気づいていなかった。
わたしの立場でアデレードの婚約者を奪うということが一体どんな結末をもたらすのか。
そして、自分がベンに語った嘘の物語のせいで、窮地に立たされることになるなんて全く思いもしなかった――。
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