第20話 リリー視点
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「離れに到着しました。ここが今日からあなたが住む離れになります」
おじさんの言葉で目の前にある建物に目を向ける。
さっきまでいた大きなお城みたいな屋敷からすると、びっくりするくらい小さい。
外から見た感じは二階建ての一軒家みたいな建物だ。
元々住んでいたぼろぼろの小屋よりは全然良いけれど、せっかく伯爵家に来たのにこの建物には住みたくない。
ここはわたしが住む場所として相応しくない。
伯爵様は何を言っても全く通じなさそうだけど、使用人にならわたしの不遇な状況を情で訴えかければ、どうにかしてやろうと思って、伯爵様に取りなしてくれるに違いない。
さっきの伯爵様の話をさっぱりわかっていない風を装いつつ、情で訴えればどうにかなるだろう。
そう思ったわたしは早速案内してくれたおじさんにここではなくあちらの大きな屋敷で暮らし、お嬢様として扱われたいとお願いしてみた。
答えは速攻でノーの返事だった。
このおじさんも伯爵様と同じで、わたしを伯爵令嬢とは認めていないみたい。
それどころかおじさんに正論で言いくるめられてしまった。
その後、おじさんは大きな屋敷に戻って行った。
要求が何も通らなくてふて寝してやろうと思ったら、メイドらしき人が来た。
見たところ二十代半ばくらいの年齢の女性だ。
「初めまして。私は今日から離れの管理を任されることになりました。食事を運んだり、衣類の洗濯、離れの中の清掃を担当します。わたしの他にあと一人いますが、今日は彼女は体調不良でお休みしているので、ひとまず私が一人で来ました」
使用人を寄越してくれるなんて気が利いているわね!
……ということは食事の片づけや洗濯、掃除はしなくてもいいのか。
現状に不満だらけだけれど、使用人がいる生活はお嬢様らしくていいわね。
後で色々命令しよう!
わたしの命令を聞かなかった場合は、甚振ってやるのもいいかもしれない。
「よろしくね。わたしはリリーと言うの。今日からここで伯爵令嬢として暮らすことになったのよ。あなたのお名前は? 勤続何年目なの?」
可愛いと言われた自慢の笑顔でにっこりと挨拶をする。
「私はエマと申します。途中休職を挟みますが、勤め始めて九年程になります」
彼女はわたしの事情なんかは良く知らないはずだ。
だってわたしは今日、伯爵家に来たばかりだから。
だからわたしのことをよく知らない今の内に上手くやれば、わたしを可哀想に思って、わたしの為に境遇改善に走り回ってくれるに違いない。
「わたしね、伯爵令嬢になったのにこんな場所に追いやられてしまったの。わたしもあっちの大きな屋敷で暮らす権利があるのに、伯爵様はお前に相応しいのはこの離れだと言って、わたしの意見は取り合ってくれなかったの。エマから伯爵様にわたしを離れから大きな屋敷にお引越しさせるよう頼んでもらえないかしら?」
いかにもしょぼくれた顔で今にも泣きそうな表情を作り、悲し気に言う。
わたしみたいな可愛い女の子が悲しそうににしているんだから同情してくれるはず。
「お断り致します。私も旦那様からあなたのことについて事前にお話は伺っております。旦那様からの指示にあること以外は致しません」
にべもなく断られた。
エマはわたしのことをよく知らないとばかり思っていたけれど、知っていたんだ。
全く本当に余計なことをしてくれるわね!
「あなたが勘違いしないように最初に言っておきますが、私はあなたが快適に過ごせるようにここに派遣された訳ではありません」
「え……? わたしが快適に過ごせるようにする為のメイドじゃないの!?」
「違います。私がここに派遣されたのは、離れの管理という点からです。あくまであなたの世話ではなく、管理目的です」
「わかったわ。じゃあ、エマ。早速だけど、わたしにフルコースの料理を用意してちょうだい! お腹が空いちゃって……」
「それは致しかねます」
「何でよ!? わたしの食事を運んで来るのは仕事だって言っていたじゃない」
「私がやるべき仕事内容であれば、全てあなたの命令通りにやる訳ではありません。平民の生活水準という点は変更なしです。フルコースの料理は平民の生活水準ではありませんよね?」
「くっ……!」
この後も色々命令してみたけれど、どれ一つとしてエマは命令を聞いてくれなかった。
何を言ってもはいはいという感じであしらわれ、全く相手にされなかったのだ。
相手にされないから、わたしの命令を聞かないということで、甚振ることも出来ない。
初日にはいなかったもう一人のノラっていうメイドもエマと同じで、私が何を言っても相手にしないタイプの人間だった。
***
それからも、事ある毎にエマに命令やおねだりを色々してみたけれど、全くダメだった。
繰り返ししつこくしつこく言えば、エマの方が根負けして言うことを聞くかと思ったのに、全く堪えた様子はない。
そんな中、わたしはようやく外に出られるようになった。
伯爵様が寄越してきた先生の字の読み書きと基本的な計算の授業を真面目に受ければ、外に出て散歩して良いとのことだった。
時間制限付き、散歩できる範囲は決まっていたけれど、離れに籠りっぱなしで鬱屈していたから、少しだけでも外に出られるのは嬉しい。
伯爵様からの許可が下りたので、早速出歩いてみる。
離れに初めて来た時は周りの景色とかは全く見ていなかったし、興味もなかったけれど、いざこうして散歩してみると、雑草が伸び放題になっているのではなく、きっちり刈り込まれて整備されていたり、お花畑があったりと案外手入れがされていてびっくりする。
久々に外の明るくて気持ちの良い日差しを浴びながら、ゆっくり歩いているとわたし以外の人がいるのが目に入る。
あれは誰だろう?
もう少しだけ近づいてみると、それは金髪の少女と少年だった。
太陽の光できらきらと輝く金髪が羨ましい。
わたしもこんな茶髪じゃなくて、きらきらの金髪に生まれたかったな。
自分の顔立ちは気に入っているけれど、この茶髪だけはどうにも頂けない。
ママ譲りの茶髪だからあまり文句は言いたくないけれど、絵本のお姫様は金髪が相場と決まっているんだから、わたしも金髪が良かったな。
それはさておき、さらに二人をよく見る。
少女はわたしの憧れのドレスを着ているし、少年の方も明らかに良家のお坊ちゃんが着てそうなフリル付きのシャツに繊細な刺繡入りの上等な上着を着ていた。
あれ?
もしかしてこの二人、伯爵様の子供?
上等な洋服を着ていて、わたしと歳は近く、それでいて伯爵邸の敷地内にいるとなると、伯爵様の子供で間違いない。
よし、これはチャンスだ。
この二人と仲良くなれば、この二人とわたしが一緒に大きな屋敷で過ごすのはおかしいことじゃない。
伯爵様も自分の子供から、わたしを離れから大きな屋敷の方へ移してとお願いされたらお願いを聞くはずよ。
エマとノラに言っても全く効果がなかったから、今度はこの子達に託そう。
そこまで考えたところで、二人の方へ走って向かう。
途中、エマがわたしに制止するような声が聞こえたような気がしなくもないけれど、無視する。
間近でみた少女はまさに本物のお姫様だった。
金糸の刺繡の入った上品な薄紫色のドレスに首元には大きなダイヤモンドのペンダント。
毛先だけくるくるに巻かれたきらきらで艶々した長い金髪に、薄い水色の切れ長の瞳。
シミ一つない真っ白でつるつるのお肌に、ぷるんとしたピンクの唇。
何もしなくても美しい顔立ちに、うっすらとお化粧までされている。
わたしとの差よ……!
わたしは自分で着替えられる質素なワンピースに、飾り物は何も無し。
わたしには髪の毛をくるくるに巻いたり、艶々になるようにケアしてくれたり、化粧をしてくれるメイドはいないから必然的にそういうのは一切無し。
悔しさと羨ましさでぎりぎりと歯軋りしてしまう。
でも、この子と仲良くなれればわたしもこの子と同じように扱われる。
その為なら悔しさには今だけは目を瞑ろう。
そう思いながら二人に声をかける。
けれど、反応が芳しくない。
声をかけた瞬間、二人とも顔を引き攣らせたように見えたんだけど、気のせい?
わたしなりに精一杯、感じよく笑って明るく仲よくしようと言ったんだけどな。
二人はわたしを除け者にして、二人だけで何やら小声で相談しているみたいだけれどわたしには内容が聞き取れなかった。
そして、相談が終わったのか少女の方がわたしに向き直る。
少女と少年は予想した通り、伯爵様の娘と息子で合っていた。
名前を教えてくれたということはわたしと仲良くしてくれるということかな?
でも、アデレードの口からはわたしが期待した言葉は出て来なかった。
失礼な人と仲良くする気はないですって?
わたしのどこが失礼な言い方をしたと言うのよ!
それにあんな冷たい言い方しなくてもいいじゃないの!
わたしは彼らを引き留めて、何とか挽回しようとしたけれど、二人はそのままさっさと何処かに行ってしまった。
いつかアデレードから今の立場を全て奪ってやる!
覚えていなさいよ!
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