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第19話 リリー視点

今日も読みに来て頂き、ありがとうございます!


皆様からの応援が執筆の何よりの励みになっています(*^^*)

 伯爵様の言葉にわたしは絶望しかけたけれど、神様は私を見捨ててはいなかった。 


「ところで君は今、何歳なんだ?」


「13歳です」


「……そうか。わかった。先程はああ言ったが、君を私の養子にして、君の生活の面倒は伯爵家で見よう。三食付きの生活は保障する」


「本当ですか!」


 伯爵様の気が変わったのか何なのかわからなかったけれど、生活の面倒をこの大きな屋敷で見てもらえることになった。


 わたしは喜びでいっぱいだ。


「君の待遇について私は妻と家令と今から相談してくる。その間、君は別室で待機だ。相談が終わったらまた話をする」


 伯爵様はそう言うなり、メイド(恰好から判断した)を呼び出し、わたしを別室に案内するようメイドに言いつけて、自分はさっさとどこかに行ってしまった。


「旦那様からの指示で、あなたには今から別室に案内させて頂きます。私について来て下さい」


 メイドに付いて行って案内された先は小部屋だった。


「私はお茶を淹れて来ますので、そのままここにいて下さい。誰もいないからと言って、くれぐれも勝手に抜け出して屋敷をうろうろしたりしないで下さいね」


 退室したメイドがカートらしきものを押して部屋に戻って来た。


 そしてわたしが座っている椅子の前のテーブルにカップと小さいお皿を置き、カップにお茶を注ぐ。


「はい、どうぞ。待っている間はお茶を飲みながらお過ごし下さい。お茶菓子としてクッキーもありますのでご自由にお召し上がり下さい」


 クッキーと聞いて、わたしのテンションは最高潮に上がる。


 ママ達との暮らしでは甘いものなんて買ってもらえなかった。


 甘いお菓子は高いから。


 誕生日の日だけクッキーを買ってもらって食べていたけれど、年一回のお楽しみだった。



 籠の中には沢山のクッキーが入っていて、一つ手に取って食べてみるとサクっと軽い食感で、しっかりバターの風味がした。


 誕生日の日に買ってもらっていたものよりも遥かに上等なものだとわたしでさえわかる。


 自由に食べて良いってメイドが言っていたから、貪るように全部食べてしまった。


 クッキーをひたすら食べた後、口の中をリセットする為にお茶に手を伸ばしたけれど、こちらも初めて飲むような味だ。


 美味しいかどうかは正直わからなかったけれど、これが貴族が飲む飲み物なんだなと思いながら味わう。


 こうやって美味しいお菓子とお茶を飲んでいると、わたしはお嬢様になったんだなぁとしみじみと思う。



「旦那様がそろそろ話をすると仰っています。もう一度、先程までいたお部屋に戻りましょう」


 またメイドに連れられ、さっきまでいた部屋に戻る。


 そこには伯爵様と最初にわたしを案内していたおじさんがいた。



「さて、今後について話そうと思う。先程、君を養子にして、生活の面倒を見ると言ったが、注意事項がいくつかある。もし聞いていなかったふりをしたり、話を理解出来ないふりをしたりしても私は一切取り合わない。そして、後からごねて、”そんな話は聞いていない”、”話が違う”とか無効を主張しても無駄だ。今から話すことは重要なことだから心して聞くように」



 伯爵様は脅すようなことを言っているけれど、大したことじゃないんでしょう?


 いざとなればごねにごねたら、伯爵様もわたしの言うことを聞かざるを得なくなる。


 理解出来ないふりとごねることで、わたしの思い通りになるはず!



「まず、養子縁組の手続きについて先に話しておく。私と養子縁組はするが、私の実の子同然の扱いになる養子縁組ではない。先程、兄貴の娘だからということで権利がどうのこうの主張して、私が君に主張できる権利は何もないと言ったが、私と養子縁組したことで、君にバーンズ伯爵家に関する権利が発生する訳ではない」


 パパの娘であることで権利が認められるかと思えば認められない。


 そして、伯爵様の養子になっても権利は認められない。



「わたしには何も権利がないの……?」


「そうだ。今回の養子縁組はバーンズ伯爵家が成人するまで君の後ろ盾になるということを示すだけのもの。つまりバーンズ伯爵家において、君の立場は形ばかりの伯爵令嬢だ。所謂、居候の扱いだ。バーンズ伯爵家に連なる者ではあるが、バーンズ伯爵家の正式な一員ではない。だから、伯爵令嬢として権力を振りかざすということは一切出来ないし、バーンズ伯爵令嬢として社交で活動させることも一切ない」


「わたしを伯爵様の実の子同然の養子にしてもらうことは出来ないんですか? 話を聞いている限り、伯爵様の実の子同然の養子になれば私もれっきとした伯爵令嬢になれると思うのですが? わたしは形ばかりの伯爵令嬢じゃなくて本物の伯爵令嬢になりたいんです!」


 話を聞いていると、どうもわたしが望んでいるような展開にならないみたい。


 でも、希望はガンガン伝えておかないと!



「君を実の子同然の養子にする利点は全くない」


「全くない……? わたしは可愛いから、きっと綺麗な格好で着飾れば見栄えがすると思うんです! 可愛い娘がいれば伯爵家も評判になるはず!」


 これなら私をれっきとした伯爵令嬢にしてもらう理由として完璧だ。


 上手く行けば綺麗なドレスも着せてもらえるかもしれないしね。



 実はママから貴族の生活について話は色々聞いている。


 令嬢は皆、ドレスを着て綺麗に着飾っているんだって。



 自信満々でそう主張したら、伯爵様は手を額に当てて苦悩している。


「……話にならないな。それはただ単に君が着飾りたいだけだろう。跡取りに困っている訳でもない現状、平民上がりの少女を実の子同然の養子にして何の意味があるんだ? 特別に秀でているような実績があるなら考えなくもないが、実績が何もない者を実の子同然の扱いには出来ないし、やらない」


 伯爵様の言葉を聞いて、思わず舌打ちしてしまう。


 本当に舌打ちしていたら、それを理由に伯爵家に住めなくなってしまうかもしれないから何とか思いとどまった。



「それに娘なら飛び切り美人の娘が一人いる。あの子はどこに出しても恥ずかしくない自慢の娘だ。言い方は悪いが、娘に比べたら、君は石ころだ」


 そんなこと言っちゃって。


 絶対大袈裟に言っているだけよ。



 でも、実際にその娘と顔を合わせた時、伯爵様が言っていたことは決して大袈裟ではなかったことをこの時のわたしは知らなかった。



「養子縁組について、重要なことは全部伝えた。次は、君の生活についての注意事項だ。全部で三つある。まず、一つ目。君を養子にして、生活の面倒は見ると言ったが、期限付きだということだ」


「期限付き?」


「成人までは私の養子として、この伯爵邸で暮らすことを許そう。しかし、成人を迎えたら養子縁組は解消し、君は出て行ってもらう」


「え……? 成人を迎えたら出て行かなくちゃいけないの? ずっと面倒を見てくれるんじゃないの!?」


「流石あの兄貴の娘だな。言っておくが、バーンズ伯爵家と兄貴には確執がある。兄貴は責任を放棄して自分から出て行った癖に困った時は金の無心に度々来ていた。自分はまだ子供で生きる為に金を稼ぐのは難しいから生活の面倒を見て欲しいというのはわかるし、同情もする。しかし、私が兄貴の娘である君を引き取ってずっと面倒を見なければならないなんて私は御免だ。それに、私の家族もそれには納得しないだろう」


「そ、そんな……! 血が繋がっている家族であるわたしが困っているのに薄情じゃないですか!? ずっと面倒を見てもらうのが当たり前だと思います!」


「何とでも言えば良い。私が大切にすべきなのは自分の家族。自分の家族より兄貴の家族を優先するなんてあり得ない。ましてや兄貴はバーンズ伯爵家にいたという記録さえない。私が特別に君に配慮して良くしてやる理由がない」 


「じゃあ成人した後はわたしはどうなるの?」


「養子縁組は解消し、自分で働き口を探して、平民の社会に戻ってもらう。働き口が見つかっていないことを理由に居座り続けることは認めない。だから、真剣に働き口を探せ」


 思ったより厳しいな。


 ……と言うか時が経てば平民に逆戻りかぁ……。


 パパの弟だからわたしに優しくしてくれると思ったのに”ずっと面倒を見る”という言葉は出て来ないじゃないの!



「次、二つ目。私は君を養子にするが、私の実の子同然の扱いをされる養子縁組ではないということは先程伝えた通りだ。君には君に合わせた待遇で生活をしてもらう」

 

「わたしに合わせた待遇?」


 どんな待遇なんだろう?


「君が住む場所は今いるこの建物の中ではない。離れだ。そして、衣食住は平民の生活に合わせたものを提供する」


「平民の生活に合わせた衣食住!?」


「そうだ。平民に合わせた生活水準でも、今までの生活よりも格段に良いはずだ。それに君は将来的に平民に戻る。贅沢に慣れると自分の身を滅ぼしかねない。狂ってしまった金銭感覚は元に戻すのが大変だ」



 せっかく貴族の屋敷に来たのに生活は平民と変わらずなんて、がっかりよ。


 今までのお金のない貧乏な生活よりもマシなのは有難いけれど、そうじゃない。



 わたしが求めているのはお嬢様の暮らし!


 わたしがそう主張する前に伯爵様は次の話を始めてしまった。



「最後、三つ目。これが一番大事なことだ。自分の立場を勘違いするなということだ。あくまで、伯爵家の居候にすぎない。私の善意で生活させてやっている居候であって、本物の伯爵令嬢ではない。離れで暮らさせるのもその一環だ。あまり言いたくはないが、君の養子縁組を解消させてこの伯爵家から追放するのはいつでも出来る。それを忘れるな」



 伯爵様はそれだけわたしに言うと、少し離れた場所にいたおじさんを呼びつけた。


「テレンス、話は終わった。後は離れに案内してやってくれ」


「畏まりました、旦那様」



 こうして、わたしは離れに案内され、離れでの生活が始まった。

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