第17話
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バーンズ伯爵とトーマス伯爵が執務室で話をしていた頃、バーンズ伯爵夫人とトーマス伯爵夫人、アデレードの三人はサロンでお茶会をしていた。
先程ランチが終わったばかりなので、三段のティースタンドに乗せられた本格的なスイーツと共にお茶を楽しむという形式ではなく、食べたい分だけさっと食べられるクッキーでお茶を楽しむことになった。
紅茶もしっかりとした風味と味のものではなく、軽い風味と味でさっぱりと飲めるフレーバーティーを選択する。
サロンの中の大きめの円形テーブルに三つ椅子が設置されており、三人はそれぞれ座る。
テーブルの上には上品な総レースのテーブルクロスが掛かっており、各々の席の前にティーカップとソーサー、テーブル中央に茶菓子としてクッキーが盛られている籠とシュガーポットが用意されている。
紅茶は厨房でメイドがティーポットに茶葉を適量入れて、お湯を注ぎ、ポットに蓋をし、茶葉を蒸らしている状態でティーワゴンに乗せてサロンまで運んで来る。
やがて、紅茶の用意を担当していたメイドがティーワゴンを押しながらサロンに入室し、三人のティーカップに淹れて来た紅茶を注ぐ。
これで、紅茶の用意も終わった為、三人のお茶会が始まる。
「この三人でお茶をするのも久々ね。うちの屋敷にアデレードちゃんが来てくれた時は、よく二人でお茶をするけれど、バーンズ伯爵夫人とは中々機会がなくて……」
「私がトーマス伯爵邸を訪問する時は、パーティーに参加する時ですからね。パーティーが始める前や後にお茶会もやるとなると、トーマス伯爵夫人に負担を掛けてしまうことになってしまいますので。ですが、今日は機会に恵まれて嬉しいですわ」
バーンズ伯爵夫人とトーマス伯爵夫人がこうして一緒にお茶をするのは、約一年ぶりだ。
今日は久々に夫人同士、ゆっくりお話する機会が出来た。
「このティーカップ、美しいわね。白磁に大輪のピンクのダリアが映えていて、とても素敵。どこの商会で取り扱っているのかしら?」
この茶会で使用されている白磁にピンク色のダリアが描かれているティーカップを観察しながら、トーマス伯爵夫人は尋ねる。
答えたのはバーンズ伯爵夫人だ。
「このティーカップは最近、バーンズ伯爵家の御用達商会であるステラ商会から新しくこのようなティーカップの取り扱いを始めたと紹介されたのです。最近、とある工房で新しく作り始めたのですって。気に入ったから、商人が紹介したその場で注文しました。ただ、在庫がどの程度ある等の情報は私達はわからないから、もし購入を検討しているならステラ商会に直接問い合わせるのがよろしいかと」
バーンズ伯爵家の御用達商会はいくつかあって、その中の一つがステラ商会だ。
ステラ商会は食器や茶器関係の工房と繋がりが強い為、食器を新調したり、新しいデザインの茶器が欲しい時はステラ商会に声をかければ間違いがない。
「そうなのね。では、屋敷に帰ったら早速ステラ商会に使いをやってみましょう。運が良ければ私も購入出来るということね」
「白磁にピンクのダリアが描かれているこのティーカップと同じデザイン柄のティーポットやシュガーポットもあるから、全部揃えると統一感もありますわよ」
「有益な情報をありがとう。それも合わせて商会の方に見せてもらおうかしら」
三人は話の合間にさくさくのクッキーを口に運びながら、紅茶を楽しむ。
クッキーは素朴ながらも実は材料に拘っており、小麦粉とバターと卵はバーンズ伯爵領内で生産された品質が確かなものを使用している。
その良質な素材を使用し、バーンズ伯爵家お抱えのお菓子作りに特化した料理人が丹精込めて作った自慢の一品だ。
「それはそうと、うちのベンが不甲斐ないせいでアデレードちゃんの婚約者がいない状態になっちゃったわね……」
トーマス伯爵夫人がしんみりと呟く。
「あれはベン様のせいだけではありませんわ。私にも非はあったと思います。手紙のやり取りは全くなかったし、二人でどこかに出かけたこともなかったし、誕生日の贈り物も私は毎年自分で選んでカード付きで贈っていたけれどベン様からは何も贈っては頂けなかった。そこで私は根気強くベン様と交流するのは諦めたのです」
「あの馬鹿息子……! アデレードちゃんの誕生日のお祝いの贈り物も何も贈らなかったの!?」
実はベンはアデレードの誕生日の贈り物をする為の代金は毎年トーマス伯爵夫妻から預かっていた。
渡された金貨で、トーマス伯爵家御用達の商人が来た時に注文して購入するということになっていたのだ。
だが、ベンは気に入らない婚約者に贈り物をするより自分のものを買った方が有益だと判断し、結局、誕生日の贈り物に使われるべきだったお金は全てベンが自分自身の為に使ってしまっていた。
なので彼にとっては、アデレードの誕生日は一年に一度の臨時収入がある時だという認識だ。
「ベン様からは一度も。そうですわよね、お母様」
「そうね。一度も届いてはないわね。アデレードの誕生日パーティーは毎年主催して、毎年トーマス伯爵家の皆様を招待しているけれど、パーティーの日にご子息様個人でアデレードに贈り物を用意して渡すこともなければ、後日配送されてくることもなかったわ。トーマス伯爵夫妻からの贈り物は毎年頂いておりますけれど」
「完全に私達夫婦の監督不行き届きだわ。ランチの時に言った件については気づいたけれど、まさか誕生日の贈り物までそんなことをしたなんて……! 誕生日の贈り物は頂くばかりで、アデレードちゃんの誕生日に何もお返ししていないなんて思ってもみなかったわ! 何てことよ……。今、謝っても仕方ないけれど、謝らせて欲しいわ。本当に申し訳ございませんでした」
バーンズ伯爵夫人は頭を抱えた後、謝罪する。
「頭を上げて下さい、トーマス伯爵夫人。私は夫人に謝罪をして頂く為に、言ったのではありません」
「そうですわ。婚約者から個人的にお祝いの贈り物を頂いたら、相手の時はお返しする。これは常識であり、ご子息様にその常識がなかっただけのこと。こんな常識的なことまで親が監督しなければ出来ないというのはあの年齢ではおかしなことです」
まだ十歳にもなっていないような子供ならいざ知らず、ベンの年齢で贈り物を頂いたらお返しするのを親に監視されなければ出来ないというのは年齢にそぐわない。
「お二人はそう仰ってくれているけれど、わざわざ私達が言わなくてもわかるだろうと言わず、確認しなくても購入代金はきちんと渡していると最後アデレードちゃんの手に渡るまで確認しなかった私達に責任があると思うの。夫ともこの情報は共有して、もしもこの先、機会があるならベンを問い詰めたい気分だわ」
「そう言えば詳しい話はまだ聞いていないのだけれど、あのお二人は結局どのような処断を下されたのですか?」
バーンズ伯爵夫人が質問する。
ランチ会では二人が結局どうなったのかという話はしなかったので、この場でトーマス伯爵夫人に尋ねようと思ったのだ。
「ベンは貴族籍を抹消。あの彼女と一緒にトーマス伯爵邸から追放しましたの。次期トーマス伯爵夫妻として彼らを認めないということね。貴族籍抹消の届け出はもう提出したから、そろそろ王宮から処理完了の通知が届く頃よ」
トーマス伯爵夫妻は今日、バーンズ伯爵邸に来るまでに既にベンの貴族籍抹消の手続きは完了させている。
王宮の関係部署が処理を終えたら、それを通知する手紙が届くので、届いたら名実共に除籍されていることになる。
つまり、ベンの身分は近々平民になり、もうトーマス伯爵邸に足を踏み入れることは出来ない。
強引に踏み入れようとしても、門の前で止められ、平民による不法侵入ということで憲兵のお世話になることになる。
「そうでしたのね。ではこれからは三人家族になるのですか」
「だから、トビーには頑張ってもらわなければ。今まではベンの補佐ということで勉強させていたけれど、後継者としての勉強に変更しなければならないわ」
「トビー様もベン様の飛び火で立場が変わりますのね。補佐の予定が後継ぎに変更するのは、本人にとって良いことなのかわかりませんが、頑張って欲しいですわね」
野心のある者なら、今のトビーの状況は運が回って来たと思うかもしれないが、そうではない者も一定数いる。
補佐だからプレッシャーを感じず生きていけたが、長男が死亡する等事情があって後継ぎの立場になると急に重責がのしかかってくるような感覚に襲われるという者も少なくない。
トビーがどちらのタイプかわからないが、彼もまたベンの尻拭いをしなければならない者の内の一人だ。
そんな話をしていると、サロンにバーンズ伯爵とトーマス伯爵、それからウィリアムとトビーがサロンに現れた。
「そろそろお話は終わったか?」
「ええ、終わったわ」
「では、帰るか。バーンズ伯爵一家の皆様。本日はお時間を頂き、ありがとうございます。ベンとアデレード嬢の婚約は解消とはなったけれど、それで付き合いも終わらせるのではなく、今後も付き合いを続けたい。これからもよろしくお願いします」
「此方も同じくだ。またパーティーを主催する時等には声をかけて欲しい」
こうして、トーマス伯爵夫妻とトビーのバーンズ伯爵家訪問は終わった。
そして、婚約破棄騒動も書類上の処理が終わり、一応は終息した。
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