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女尊男卑 ~女性ばかりが強いこの世界で、持たざる男が天を穿つ~  作者: イノセス
第15章~深想篇~

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412話~まるで未来予知だな~

何故、伏見さんがここに居る?もしかして、レオさんが呼んだのか?強化合宿中、妙に意気投合していたのは知っていたけど、家にまで招待していたのか?


「どないしました?お爺さん。もしかして、女性恐怖症やったりしますか?」


蔵人が固まっていると、伏見さんが心配そうに語りかけてきた。

おっと、しまった。

蔵人は慌てて頭を下げる。


「(低音)これはとんだご無礼を。まさか、お客様が居らしていたとはつゆとも思わず、驚いてしまいました」

「そりゃまぁ、いきなり家に押しかけたのは確かやからな。そこはうちが悪いわ。すんませんでしたわ」

「(低音)とんでもない。お客様が来て下さるのは嬉しい限りです」


蔵人が全肯定すると、レオさんも「そうだぜ」と乗っかって来る。


「もうお前は俺たちのダチだからな。何時でも来てもらって構わねぇよ。なぁ、今日は夕飯も食ってくだろ?寮長と爺さんが作る飯は美味いんだぜ?」

「それは流石に、迷惑になるんやないです?」

「構わねぇよ。なぁ!寮長!」


レオさんが台所に声を掛けると、台所の窓から大野さんの顔が現れた。


「あぁ、まぁな。柏木の奴が急用で帰れねぇみたいだから、1人分余ってた所だ。食って貰った方が、食材も変に余らなくて丁度いいだろうよ」

「ほらな。決まりだ」


という事で、急遽晩御飯に伏見さんが追加された。

大丈夫か?

蔵人の胸の内は不安でいっぱいだったが、兎に角夕飯の準備だ。今日の献立は、豚のしょうが焼きとけんちん汁とのこと。

ディさんのお仕事で、柳さんの帰りが遅くなっているみたいなので、久しぶりに大野さんとの男子キッチンである。


チャチャチャと、手際よく大野さんと二人三脚で料理をこさえていると、キッチン窓から視線を感じた。

見上げると、伏見さん達が覗き込んでいた。


「あっ、すんません。男の人が料理作ってくれてるなんて、なかなか見れん光景やったさかい」

「まぁ、そうだよな。俺たちは大野さんが居るから慣れちまっていたけど、かなり特殊な状況だよな」

「そうね。特区で男性を見かける事自体が少ないもの。余程高級なレストランか、貴族の家くらいにしか居ないんじゃないの?」


伏見さんの発言に、レオさんと恵美さんが相槌を打つ。

確かに、似たような話をビッグゲームの初日に聞いた覚えがある。

あの時を思い返していると、伏見さんも懐かしそうな顔をする。全く同じ場面を思い出しているようだった。


「うちら桜城ファランクス部にもカシラが()るさかい、特別感が若干薄れとります。ビッグゲームでも、カシラが美味い飯を作ってくれたもんですわ」

「へぇー。黒騎士って飯も作れるのか」

「まるでお爺ちゃんみたいだね!」


おーい!美来ちゃん?それ以上はダメよ?こっち来てアイスでも食べるかい?うん?


「そう言われたら、なんやお爺さんの顔、カシラに似とる様な気もして来て…」

「(低音)はっはっは!私の様なロートルを捕まえて、何を言われますか。私などと比べては、黒騎士選手が()ねてしまいますよ?」


ヤバいって。ほら、伏見さんが疑い出してしまっただろ?

蔵人は必死に演技する。すると、伏見さんの目が鋭さを失った。


「そいつは大丈夫ですわ。カシラは懐が広いから、きっと面白がって話に乗ってくれると思います。自分の祖父になってくれとか何とか言うてな」

「まぁ、怒りはしなさそうよね、あの子なら」


良かった。伏見さんも恵美さんも、黒戸爺さんと黒騎士が同一人物とは見ていないみたいだ。

蔵人はホッと安心して、美来ちゃんの口にスティックアイスを突っ込むのだった。



そうして、夕食の時間となる。

身バレするかとヒヤヒヤしたが、一度信頼を得てしまえばこちらのものだ。

蔵人は安心して、夕食の席に着いた。

のだが、


「そんでもって、カシラは一直線に薔薇の姉ちゃん目掛けて突っ込んだんや。いやぁ、あの一撃は、今思い出しても痺れてまうわ!」


伏見さんが、CECの様子を力説する。

レオさん達も護衛として現地には居たが、護衛だからしっかりとは観れなかったという話から、こんな話題が展開されてしまった。

なっているが、これはとても恥ずかしい。出来る事なら、話題を切り替えたいくらいだ。

だが、下手に伏見さんを止める事は出来ない。止めようものなら、こちらの正体がバレる可能性が急上昇するからだ。


だから、橙子さんや大野さんは心配そうにこちらをチラ見する。

美来ちゃんは面白がって、こちらをガン見している。


ダメだ。

笑っちゃダメだ。

耐えろ、俺の表情筋。


「ねぇねぇ、お爺ちゃん。黒騎士選手って凄いね。アメリカのエースを倒しちゃったんだってよ?お爺ちゃんも出来る?」

「(低音)とんでもない。私では想像もつきませんよ」


うぉおお!なんというキラーパス!思わず表情筋が緩みそうになったぞ!

なんだ?スティックアイスじゃ不満だったのか?ハーゲンダ○ツか?ハーゲンダ○ツをご所望だったのか?


「なんや、爺さんも格闘技かなんかしとるんですか?」

「(低音)いえ、昔取った杵柄と言いますか。今はもう体が錆び付いていますので」


蔵人が力無く手を振ると、レオさんがそれを鼻で笑う。


「んな事言ってるけど、俺はアンタが只者じゃねぇって知ってるぜ?俺の裸を見ても一切動じなかったしよ」

「えっ!?裸!?」


ああ!そんな事をここで暴露しないでくれ!恵美さんが凄い顔でこっちを見ているじゃないか…。

どう収集付けようかと考えていると、玄関から足音が聞こえた。そして、リビングの扉が開かれる。


「ただいま戻りました、皆さん」


それは、柳さんだった。

助かった。話題が逸れてくれる。

そう思った蔵人だったが、それも一瞬のことだった。


「あれ!?カシラのお袋さんやないですか!?何で姉さんと一緒に住んどるんです?カシラと一緒に住んどるんやなかったですか?」


しまった!皆にはまだ、柳さんと分かれて住んでいる事を言っていなかった。それも住所特定の一因になるかと思って秘匿していたけれど、ここに来て伏見さんに疑いを持たれてしまうとは…。

どうする?この場を、どうやって切り抜ける。


「(低音)あ…」


いや、言うべきではない!少なくとも、この件に関して黒戸爺さんが発言する方がおかしい。

くそっ…。ここは、音切荘の面々に頑張ってもらうしかあるまい。

蔵人が祈る気持ちでみんなを見回していると、顔をニヤケさせた美来ちゃんと目が合う。

…えっ?


「えっと、柳さんが黒騎士選手のお母さん?なのかは知らないんだけどね。柳さんは私達の大切な仲間だよ」

「へ、へぇ。なんや、奇妙なめぐり合わせやな。カシラ抜きで…いや、分かったで。カシラの護衛仲間っちゅうことやな?」

「うん、そう。それでね、護衛をしている内に、私達と仲良くなって、特に大野さんとラブラブになったの」

「へぇ?」

「お、おい!美来!お前、何を言っていやがる!」


台所で洗い物をしていた大野さんが、泡だらけのフライパンを片手に駆け寄って来た。

それを、美来ちゃんはニコニコ笑顔で迎える。


「え~?だって、本当のことでしょ?違う?」

「くそぉ…美来、こいつ…。デザートのプリン抜きにしてやるぞぉ…」

「ほぉーん。そう言う事やったですか」


おお!伏見さんが納得したぞ。でかした、美来ちゃん。

蔵人は静かに、拍手と賞品を美来ちゃんへと送る。


「わーい!ハーゲ〇ダッツだぁ!」

「おい爺さん!なんでそんなもんを美来に食わせる!?プリンの何倍すると思ってんだ!」

「(低音)対価は払うべきと思いまして」

「なんの対価だよ、爺さん、おい!」

「いいなぁ。私もアイス食べたいなぁ。黒戸さん?」

「(低音)では恵美さんには、プリンにアイスを乗せてご提供いたしましょう」

「やった!流石は黒戸さん」

「俺は要らねぇぞ?それよりもっと肉を寄越せ」

「(低音)はいはい。レオさんは肉だけお替りですね」

「甘やかし過ぎだ!爺さん。ポイポイ好物を出すんじゃねぇ!」


蔵人が勝手に給仕を進めると、みんなは大盛り上がりであった。

それを見て、伏見さんは乾いた笑い声を上げた。


「賑やかな食卓やな。鈴華の奴が好きそうや」


止めてくれよ?伏見さん。ここに鈴華を投入したら、本当に収拾がつかなくなるからね?

ここに来たのが伏見さんで良かったと、蔵人は胸を撫で下ろした。



その日は、伏見さんの訪問を無事に乗り切った蔵人。

だが、音切荘の存在自体は周知の事実となっていた。


「柳さんも楽しそうやったですよ。恐竜に変身する兄ちゃんと、よろしくやっとるみたいで」

「そうだったのか」


嬉々として昨晩の事を報告してきた伏見さんに、蔵人は興味深げに頭を上下させる。


「話だけは聞いていたんだが、伏見さんから見ても良好な関係であるならより安心したよ。教えてくれてありがとう」

「うっす。カシラの力に成れたんならよかったですわ。また姉さんから近況を聞いときます」


伏見さんはそう言うと、磨いていた訓練棟の床を更に気合を入れて磨き始めた。

その動きが何処か、褒められたワンちゃんの尻尾の様に見えて、微笑ましく思う。


「なぁ、ボス。聞くだけじゃなくてよぉ、一緒にその寮へ突撃しねぇか?今日の晩御飯はなんだぁー!っつってよ」


モップに寄りかかりながら、鈴華がそう提案してくる。

やはり食いついて来た鈴華だが…なんだろうな、そのノリは。隣の晩ごはん的な何か?

蔵人はゆっくりと、首を振る。


「鈴華よ。それは止めた方がいいだろう。護衛とは激務だ。そんな時、俺たち護衛対象が家まで押しかけてしまったら、息付く場所が無くなってしまう」


だから、頼むから君達まで来ないでくれよ?

蔵人はみんなを見回して、危険人物を特定する。

特に、人の感情を読める鶴海さんや、最近何かと勘のいい桃花さんは不味い。下手すると、特定されてしまうかも。そう言う意味じゃ、敏腕記者も不味いな。全力で阻止しなければ。


蔵人が願いを込めて視線を送っていると、部長達3年生もやってきて、いよいよ練習の時間となる。

でも、今日はその前に、


「都大会のメンバー発表をするわよ!」


そう、夏のビッグゲームに向けた大会。その第二段目となる東京都大会のスタメン発表が始まった。

…一段目の地区大会はどうしたかって?去年ビッグゲーム出場チームは、自動的に免除となっているのだ。我々は3位と輝かしい成績まで残したので、地区大会だけでなく都大会も1日目は免除だ。3回戦から開始のスーパーシード枠となっている。


そして、時期的にも早すぎると思うだろうが、今年は特別だ。8月10日から31日まで開催される東京オリンピックを受けて、ビッグゲームの開始時期も大幅に前倒しとなっているのだ。

去年であれば、都大会の開始が7月下旬。ビッグゲーム開始時期は8月下旬であった。

それが、今年は約2週間程前倒して実施される。なので、都大会まで残り1か月程度しか猶予が残されていなかった。


「主力となると思っていた巻島君達がオリンピックに引き抜かれちゃったから、スタメンの枠は大幅に増やそうと思っています。なので、かなり早めにスタメンを発表することにしました」


つまり、このスタメンはまだ候補者と言うだけだ。候補に選ばれているから、ちゃんと意識と心構えをしっかりと持ってね?と言う意味らしい。

そうして選出される中には、一条様や雪花ちゃんの名前もあった。

1年生も選出されるから、覚悟を持つ為により早く公表する必要があったのだろう。


そうして、スタメンが選ばれた次は訓練だ。通常の訓練ではなく、都大会を意識した訓練。つまり、スタメン達を中心に組まれた特別メニューだ。今回は蔵人達もサポート側に回り、彼ら彼女らをトコトンしごくことになっている。


「うっ…オリンピック選手達が相手なの?」

「スタメン組より圧倒的に強いじゃん」

「私達…勝てるのかな?」


1年生達が尻込みしているが、そんな事でどうする。俺達に勝てねば、ビッグゲーム優勝は難しいぞ?


「巻島副部長、ちょっといいかしら?」


蔵人が仁王立ちでスタメンをイジメていると、部長がおずおずと話しかけて来た。

なんでしょう?と、蔵人は彼女に連れられて訓練棟玄関口まで赴く。


「ごめん。ちょっと訓練を抜けさせてもらうわ。先生に呼び出されちゃって」

「呼び出し…ですか?」

「ええ、そうなの」


部長は困り顔で頷く。

部長は成績優秀だと聞いていたのに、呼び出しとは穏やかではない。最終学年だから、進路のことだろうか。それとも、何か家の事情?

そう言えばこの前、湊音君が早退していたなと思い出す蔵人。

その間にも、部長はもう一度「ごめん」と言って訓練棟を後にした。

…呼び出された時間ギリギリまで粘っていたみたいだ。


「おーい!ボスー!そろそろ始まるぞー!」


おっと、訓練の時間だ。

部長の去った後を見詰めていた蔵人は、いかんいかんと首を振って、訓練棟の中へと戻った。


「やっと来たか、ボス。部長と何話してたんだよ?」

「うん?ああ。この後の方針とかだな」

「で?その部長は何処だよ?」

「先生に面談をねじ込まれたんだとよ。部長業務は大変だ」

「ふーん。まぁいいや。早くスタメン共をボコボコにしようぜぇー」

「おいおい。みんなを怯えさせるんじゃない」


まったく、鈴華の奴は。我々がサポート側だって忘れちゃいないか?

楽し気な表情を浮かべる鈴華を見て、蔵人は深く息を吐き出した。



そうして、都大会スタメン組とサポート組の練習試合が始まる。

スタメンの方は、秋山先輩やサーミン先輩、祭月さんや一条君、雪花ちゃんなどが並んでいる。

対するサポート組のオリンピック組は蔵人と慶太くらいで、後は1、2年生の部員達であった。

それでも、状況はかなり均衡していた。


「全員、左翼に攻撃を集中させて!黒騎士君の防御を破るよ!」

「「はいっ!」」

「あ~っ!だめだめ!左から3番目と4番目の盾だよ!本当に集中させないと、黒騎士君の盾は壊れないから!」

「「了解ですっ!」」


秋山先輩が音頭を取って、こちらを攻めてくる。

それに、蔵人は慶太とユニゾンをして、強固なシールドファランクスをより強固にしている。

イメージは、不動陣形の冨道中だ。あそこの前衛と武田主将のソイルキネシスが加われば、これくらいの防御力は出せるだろう。

まぁ、今年は武田主将も出てこないだろうけど、冨道の選手層は厚いから、代わりの人が出てくるかもしれないし。


「くっ!硬い!」

「うぉおお!私の爆発が滑ってるぅう!」


その冨道を再現した防御力を前に、スタメン選手達は顔を真っ赤にさせる。

秋山先輩や祭月さん、更には一条様の護衛まで加わって崩しにかかるが、壊れる気配も見せない盾達。

そりゃ、左翼だけランパートに切り替えているからね。そうそう簡単に壊せやしないよ。

必死になるスタメン達に、蔵人は気合いを入れて構える。

さぁ、どうするんだい?と期待を込める。


そうしていると突然、中央の盾が動いた。

誰かが押しのけたらしい。

誰がそんなことを?と中央に視線を戻すと、そこから小さな影が飛び出してきた。

一条様だ。


「やりますねぇ!」


蔵人は新たな盾を生成し、彼の行く手を阻む。

だが、一条様は盾が生成されるよりも先に、その盾の出現ポイントを回避して見せた。

ほぉ。


「ならば」


こちらの円柱へと走り込む一条様に、蔵人は生成した水晶盾を向かわせる。彼の背後からシールドバッシュを行い、彼を突き飛ばそうとする。

だが、この一撃も回避されてしまった。彼の視線は円柱の方へと向かっていて、こちらは一切見えていないと言うのに。


「まるで未来予知だな」


蔵人は再び水晶盾を向かわせる。また1発目は避けられてしまったが、切り返しで迫った2発目は見事に命中した。


「うっ」


足を止めた一条様は、そのままサポート側の選手達に囲まれて、その場でベイルアウト扱いとなった。

中々に、肝を冷やさせてくれた。

蔵人は中央の盾を撫でながら、彼の動きを振り返る。

左翼に意識を集中しているからと、右翼にも注意を向けていた。だから、目の前の中央は疎かになっていた。そこを、彼は突いてきた。

こちらの感情を読み取っていたとしか思えない彼の行動は、聞いていた以上に強力で可能性を秘めた力だった。


そんな一条様だが、戻ってきた時には少し元気がないように見えた。

どうかしたのだろうか?


「分かっていた。黒騎士の盾の動きは全て。一撃目は俺を追い込むための一手で、二撃目で仕留めるつもりだった事を」


ふむふむ。全くその通りでございますよ。

蔵人は満ち足りた笑みで肯定する。すると、一条様はポーカーフェイスの中で、僅かに瞳を揺らす。


「でも、動けなかった。俺の思い描く理想の道に、俺の体はついて来られなかった。俺は、弱い…」

「一条選手」


理想と現実の挟まで、一条様は悩んでいた。

彼の異能力は透視。運動能力には一切の影響がない超能力だ。

全てを見通せるが故に、人の僅かな隙も大きなチャンスに見える一条様。だが、そのチャンスに届く能力は持ち合わせていなかった。


「なぁ、黒騎士。俺は、何をすればいい?」


歯がゆい。

ただ指の隙間から零れ落ちる好機(チャンス)を、ただただ見過ごす事しか出来ない彼は、悔しさを吐き出す。


「あと何度走り込めば良い?あと何度走り込めば、そこにたどり着ける?教えてくれ黒騎士。巻島蔵人先輩。皆を強くしてくれるんだろ?俺は次、どうすればいい?」

「一条様…」


こちらを見上げる彼の瞳は、いつもと変わらず真っ暗な海の底の様であった。

だが、確かに一瞬光が見えた。

地獄の底で踊る灯篭か、宇宙の果てで燃え尽きる流星か。

儚い光が、一瞬だけ流れ渦巻く。


「一条選手。人の体には限界があります。貴方の筋力は、それが限界です」


しかし、蔵人はそれを否定する。

もっと鍛えたいと言う彼の言葉を、首を振って断ち切る。


「貴方の体は、まだ出来上がっていない。その状態で鍛え上げてしまうと、後々に響く大きな代償を支払う事になる。もっと大きく…そうですね、高校生くらいになるまでは、鍛えすぎるのも危険です」

「そうか…」


一条様の瞳から、僅かな光も失せる。

肩頬だけを吊り上げた状態で、シニカルに微笑む。

それに、蔵人は再び首を振る。


「ですが、それは貴方の肉体に対しての意見。貴方の力を最大限生かす道なら、残されていると思います」

「…どういうことだ?」


再び闘志を燃やした一条様に、蔵人は胸に手を当てて微笑む。


「体力がダメなら知力で補うんです。とある天才に、助力を願い出てみましょう」

見えているのに届かない手。

歯痒いでしょうね。


「全てを完璧に出来る者など居ない。求め過ぎても、体を壊すだけであろう」


でも、蔵人さんは何か考えがあるみたいですよ?

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― 新着の感想 ―
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