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女尊男卑 ~女性ばかりが強いこの世界で、持たざる男が天を穿つ~  作者: イノセス
第15章~深想篇~

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405話〜なんや聞いとりますか?〜

「と言う事で、文子ちゃんは雷門様に引き取られて、今でも軍部との説得に苦戦しているらしい」


長きに渡るGW(ゴールデンウィーク)が明けた登校日。蔵人は空き教室で若葉さんと林さんを集めて、ディさん達の話を伝える。

若葉さんには、音張さん経由で雷門様を呼んで貰ったので、今話したことの大半は知っている話だと思うが、何も知らない林さんも居たので、沖縄で尚様と邂逅した時の事から話した。


とは言っても、文子ちゃんの記憶については殆ど教えていない。彼女が戦時中の記憶を持つ、特殊な人形だとだけ伝えている。雷門様と縁がある人の魂が宿っていると。

きっと2人からすると、そっち系の存在なのだと受け取っている事だろう。聞いている2人の顔が、なんだか微妙な色だし。

納得できない顔色の若葉さんが、疑問を口にする。


「でもさ。文子ちゃんの持ち主だったお爺さんはどう思っているの?確かあの人形は、奥さんの形見だって聞いてたけど」

「ああ、それはね。直接、当人同士で話し合いの場を設けたらしいよ」


あの日は、ディさん達軍人が詰めかけていた事もあり、そのまま文子ちゃんと飛んで行ってしまった雷門様だが、後日改めて宿を訪問し、文子ちゃんについてを話し合ったそうだ。

その時に何を語ったかまでは分からないが、結果的に雷門様が文子ちゃんと共に暮らす事で、お爺さんも納得されたらしい。


別件だが、宿の修繕も軍部が手を回して、今まさに始まっているそうだ。ディさんが引き戸を壊してしまったからね。文子ちゃんの件もあり、全面修繕となるみたいだ。

あれはあれで味のある宿ではあったのだが、綺麗になって大衆に受ける方がいいだろう。折角人気になったのに、宿の機能が死んでいる今までが勿体なかったのだ。


「そっかー。身近に心霊スポットが出来たと思ったけど、それも軍が接収しちゃったんだね。じゃあ、初等部にもいずれ、軍の手が入るのかな?」

「それも同種の者だとしたら、そうなるだろうね」


もしくは、既に動いているかだ。

動く人体模型。それもきっと、意識を保ったままアグレスになった人である。文子ちゃんの存在に気が付いた軍部が、動かない筈はない。特に、初等部の件については、宿で口に出してしまった。きっとこちらを監視している者達にはバレているので、今行った所で無駄足になるだろう。

人体模型の人には、悪いことをしたな。


「でも、なんだか可哀想だね」

「えっと、可哀想ってのは、人体模型がかな?」


林さんの零した言葉に反応すると、彼女は小刻みに首を振る。


「えっと、戦時中の記憶を持ってるお人形さん達…っで良いのかな?辛い記憶を背負って、ずっと生きてきて、それで最後は軍に捕まっちゃうなんて…」

「まぁ、そうだな」


彼女達には言えないが、人形達は既にアグレスとなっており、軍としても見過ごせない存在となってしまっている。

だから余計に、人形達を不遇に思う。アグレスを退治する為にと奮起した結果、己がアグレスになってしまっているのだから。


「林さんの記憶の中には、そういう人達について覚えている事は無いかな?」

「う〜んと…動く人形とか、前世を持つ人とかっていう表現はなかったと思う…」


まぁ、そうだろう。あったら、別ゲーになってしまうだろうし。


「でも亡霊と言うか、過去の因縁で動く人は結構いたと思う。昔に起きた大戦のせいで無茶苦茶になったから、復讐してやる!みたいな人達が敵キャ…悪い人として出てくるって言うのが結構あってね」

「どっかの議員さんみたいだね」


うん。若葉さんの言う通りだ。

ギデオン議員。彼もまた、Fの犠牲となった1人であろう。能力熱を解明する研究に没頭した祖母と、その功績に苦しめられた母親。その2人から無視された彼の少年時代が、今の反女性社会的な思想を彼に抱かせた。Fさえ開発さえなれば、それらが起こらなかったかもしれない。

その彼は、去り際に何かを言い残そうとしていた。

〈悪魔の実験〉

ディさんの話では、政治犯の男性達を使った治療実験だと聞いていた。能力熱を解明する為の実験だったと。


だが、本当にそれだけだったのだろうか?

能力熱は確かに危険な病気だが、病気を一つ克服しただけで、大貴族にまで成り上がれるとは思えない。

能力熱とアグレスの間に何かあるのなら、話は変わってくるだろうけど。


「私は、その議員さんと会った事が無いけど、でも、やっぱり大陸側と言うか、ヨーロッパにはそんな話が多かったイメージがあるよ。大戦がどうのとか、嘗ての因縁がどうとかって人が」

「異能力はドイツが発祥だって言うし、何かあるかもしれないね。じゃあ、次はドイツを調べちゃう?」


若葉さんが乗り気だな。ご家族と同じで、将来は海外を飛び回るジャーナリストになるのではないだろうか?

蔵人が若葉さんの将来を思い描いていると、教室の扉がスイィーっと空いた。

そして、そこから銀色の天の川が入室する。


「おっ、いたいた。よぉ、ボス。それに情報部のお2人さん」

「うん?鈴華。何か用だったか?」


どうも我々を探していた様子の彼女にそう聞くと、鈴華は「あったり前だろ?」とでも言うように、胸を張ってこちらに近付く。

そして、


「祝勝会をやろうぜ!」


そんな事を言ってきた。

うん。なんの?


「CECに決まってんだろ?あたしらすげぇ大会で優勝したのによ、まだそのお祝いしてないじゃん」

「いや、ホテルで盛大に祝ってくれなかったっけ?ほら、お前さんがゲストのマジシャンに『種教えろよ、コノヤロー』って突っ込んで行ったの覚えてないか?」

「あれはアメリカでの事だろ?この学校じゃまだ、お祝いしてもらってねぇじゃん」


うん。まぁ確かに、学校側からはまだ表彰すらされていない。オリンピックの事とかもあったから、落ち着いてからするつもりなのかもしれない。

アメリカでの優勝と言う功績と、桜城の名前を世界に響かせたのは大きな事で、祝われる可能性は高いだろう。

だが鈴華よ。それを当然と思い、それを我々から言ってしまうのはおこがましいと思うのだが?


「祝勝会だけじゃないぜ、ボス。みんなでオリンピック選手に選ばれたんだから、その激励会も一緒にやっちまうってのがいいんじゃねぇかって思ってさ、こうしてみんなに声掛けてるんだよ」

「なるほど。次に向けた決起会だな。それは良い」


思えば、選考会では後ろ向きな考えに囚われたままだったから、気の利いた事の一つも言うことが出来なかった。

世界中の強豪が集まる大きな舞台に挑むみんなに、不安がない訳がない。その不安を払拭し、世界一を共に目指そうと激励する場が必要である。


我々は、世界に示さねばならないから。

今の日本が技巧に富み、それがあらゆる壁を突破するのだと。

もう二度と、魔力(エフ)に頼らない世界を目指す為にも。


「よぅし。ボスが乗り気になりゃ、こっちのもんだ。みんな集めてド派手にやろうぜ。今週末とかな」

「今週末か。早い気もするが、善は急げだからな。場所はどうする?普通の店は止めた方が良いぞ?外国人が、俺達を狙っているからな」


ロシアとか、ロシアとか、あとアメリカとかな。

そう考えていたら、ディさんが言っていたことを思い出してしまった。

結婚…怖い…。


「ちょいまち。お2人さん」


蔵人が別方面で悩んでいると、若葉さんが止めに入った。

うん。なんでしょう?


「もしかして忘れてない?今週末は早速、オリンピック選手の合同練習会があるんだよ?」

「「あっ」」


そうだった。そういえば、そんな話もあったな。

これから定期的に行われる練習会の一発目。今回は各ブロックに別れて行われるらしい。関東は東京特区。関西は大阪特区。九州は博多特区。また全員を集めた練習会も開かれるらしいが、それはもっと先の話。


「しゃあねぇな。じゃあ、その練習会が終わった後にやるか」

「練習会は土日どっちもやるみたいだよ?」

「んじゃ来週か。分かった。それまでに会場を押さえとくぜ」

「鈴ちゃんの家はダメなの?大きいって言ってたでしょ?」


若葉さんがそう聞くと、鈴華はとても嫌そうな顔をした。


「うちは無理だ。みんなを不快にさせちまう」

「ふーん。そうなんだ」


若葉さんは意味深に頷く。


「なら、何かあったら相談してよ」


そして、意味深に返す若葉さん。

そうか。鈴華も、色々あるみたいだ。


「おう。Thank youな、若葉」

「うわぁ、鈴華さんの発音、凄く良くなってる」


林さんが目を丸くすると、鈴華は怪訝な顔になる。


「んあ?まぁ、アメリカに1週間も行ってたからな。そりゃそうだろ?」

「普通、アメリカに1週間行っただけで、そんなに流暢な英語が飛び出したりはしないんだけど…」


林さん。鈴華に我々の普通は通用しないよ。

蔵人は、非常識な鈴華に悩む林さんの肩を叩いて、彼女を慰める。



そうして、週末になった。

場所は、去年のファランクス東京都大会が開かれた武蔵野WTC。そこの中央競技場に今、選手とサポーターが集まっていた。


「よぉ、黒騎士」

「アニキ。GWぶりで」


とは言え、選手の殆どは面識がある。桜城のメンバーが大半を占めており、他も天隆や冨道の選手ばかりだ。

それ以外の学校から来ているのは、アニキ達だけなんじゃないだろうか?


「よぉ〜し、みんな!練習を始めるぞ!」


今回の練習会のヘッドコーチは、大会運営副委員長の川村さん。相変わらずのタンクトップに短パンという出で立ちに、頭にねじり鉢巻きを巻いたお祭りスタイルである。彼は陽気に手をパンパン叩いて、みんなの注目を集める。


「そんじゃ先ずは準備運動してから、早速異能力練習に移っていくぞぉ〜」


川村のさんの方針では、走り込みなどの基礎練を省くらしい。

時間も限られるので、体力錬成等は各々で行い、ここでは異能力の技術を伸ばす方針なのだとか。


「別に、体力が無くてもいいって意味じゃねぇからな。努力が足らん奴は、バシバシ落としてくから、そのつもりで付いて来るんだぞぉ〜」

「「ひぇえ〜」」


つまり、練習に着いて来られなかったら、そのまま選手を降ろされるって事か。

選手に選ばれたからって胡座をかくなよ…ということらしい。


これは、自分も気が抜けないな。

そう思う蔵人だったが、周囲を見回して気が付いた。鈴華の姿が見えないのである。


「なんや聞いとりますか?カシラ」


伏見さんも気が付いたらしいが、俺に聞かれても分からんよ。

蔵人は準備運動中にみんなから外れて、サポーターとして記録を取っていた鶴海さんに聞いてみた。

でも、


「いいえ。私も分からないわ。この記録用紙にははっきり、鈴華ちゃんの名前も載っているから、会場が違うって事でもないでしょうし」

「まさか、寝坊やったりせんやろな。あいつ、選ばれてると思うて気ぃ抜いとるんとちゃうんか?」


伏見さんはそう言って鈴華を非難するが…どうだろうね。彼女はあんなキャラクターだけど、意外とそういう所はしっかりとしているよ。

蔵人は関東大会の時の鈴華を思い出し、寝坊の線を選択肢から消す。そうすると、余計に彼女が来ない理由が分からなくなる。

何かあったんじゃなければ良いのだが…。


「じゃあ次は、ワンオンワンするぞ!みんな、一列に並べ!」


彼女は心配だが、練習もこなさねばならない。ここで落とされたら、世界一なんて夢のまた夢になってしまうからね。


そう思ってフィールドに出たのだが、何故か自分の前には3人のサポート選手が並んでいる。しかも、その内の1人はレオさんで、彼女の後ろには鶴海さんもいる。

ワンオンワンは何処に行ったの?


「黒騎士君は強いからな!3人を相手にしてもらうぞ!」


いや、川村のおっちゃん。それって不公平じゃない?


「その分、君の評価は3倍だぞ!」


うむ。それならいっちょ、やったろうじゃないですか。

蔵人は肩をブンブン回す。

それを、レオさんがギラつく目で見回す。


「やる気だな、黒騎士。俺も全力を出すから、覚悟しろよ?」

「黒騎士ちゃんの弱点は機動力と威力の両立が難しい点ですよ、鍋島選手。ミラブレイクなどの大技は、相手が止まっていないと出せない技ですから」


鶴海さんが痛いところを(えぐ)ってくる。

ぐっ…。敵に回すと厄介だな、鶴海さん。


「加えて、私もサポートします」

「おう。またあの、ウリ何とかってのを頼むぜ」

「今はティアマトではないですから、何処まで出来るか分かりませんけど…やってみます」


うぉお!最悪だ。鶴海さんを敵に回すと痛手過ぎる。

これは、こちらも本気にならないと。


「タイプ(ワン)龍鱗(ドラゴスケイル)


特別編成チームに向かって、蔵人は全力で飛び込んだ。



「ほーい!そんじゃあ、今日はここまでにするぞ!みんな、お疲れさん!」


川村さんの号令で、蔵人達は動きを止めた。

時間にしたら数時間なのだが、かなり濃密な練習内容となった。

特に、蔵人は途中からサポーター側に回って、各選手のアドバイスを行っていた。それ故に、他の選手よりも稼働率は高めとなっていた。


川村のおっちゃんが頼んできたからね。君の技術を是非、他の子供達にも学ばせて欲しいと。同じチームとなる彼女達がレベルアップするのは大歓迎な蔵人は、色々と口出しさせて貰った。

とはいえ、出したのは最初の一歩だけだ。君はどんな異能力なの?特徴は?君が思い描く最強の姿を教えて、と、相手に考えさせる様に誘導した。


何でもかんでも教えてしまったら、考える力が付かない。試合中はアドバイスが出来るかどうか分からない。その極限状態の時に、考える力がないと応用することが出来ないから。そうなると、結局は同じ事をしてしまう。つまり、異能力の投げ合いだ。そうならない様に、蔵人は己で考える様に仕向け、あとは褒めて、叩いて、伸ばすだけであった。


「いやぁ、良かったよ、黒騎士君。君はセンスがあるね。監督になるセンスが。選手が終わったらきっと、名監督に成れるぞ」


川村におっちゃんが肩を叩いて褒めてくれるが…選手の次に名監督って、どこの3番バッターですかね?

今は亡きあの人を思い出していると、伏見さんが腕を組んでやってきた。


「カシラ。結局あいつ、来んかったですわ」

「鈴華の事か?連絡とかもないのか?」

「それが全く。昼休みに電話しとるんですけど、全く出んのですわ」

「僕もRineしたんだけど、既読も付かないよ」


おお、桃花さん。いつの間にかスマホデビューしてるじゃないか。

あれか?オリンピック選手になって、お母さん奮発しちゃったのか?それとも、娘がアメリカ戦のテレビで活躍したから?

どっちもか。


しかし、電話もチャットもスルーとは、何があったのだろうか。電話が掛かるのなら、彼女が取れない状況であると考えるべきだ。


「どうしよう?鈴ちゃんの家に行ってみる?」

「そうしたいんは山々やけど、ごっつう嫌がっとったやろ?家に来られるんを。本人の許可なく行くんわなぁ…」


うん。伏見さんの言う通りだ。彼女は家に、家族にコンプレックスを抱えている。簡単に押し掛けていい状況では無い。


そう思って、その日の蔵人達は解散した。

だが次の日になっても、鈴華は現れなかった。


「何かあったんだよ!これは流石におかしいよ!ねぇ?早紀ちゃん?」

「近いて、モモ。よう分かったさかい、少し離れたってや」


きりもみする2人を遠目に、蔵人も嫌な予感がしていた。

なので先ず、大会運営の川村さんに聞いてみた。鈴華から連絡はなかったかと。

すると、


「結局本人は出なかったが、ご家族が漸く電話に出てくれてな。いきなり、オリンピックの出場を辞退すると言い出しよったんよ」

「えっ…」

「なに?」


絶句する蔵人達。

それに、川村さんも頷く。


「勿論ワシも、どういう事か説明を求めたんだがな。家の問題だから、もう電話するなと一方的に切らちまった」

「なんや、それ」

「随分と一方的ね。本人の意思表示もないのに」

「やっぱり、みんなで行ってみようよ!」


桃花さんの号令に、川村さんも「それが良いだろうな」と大きく頷く。


「練習が終わったら、ワシも行こう。軽トラだから、みんなは乗せられんのだが…」

「僕は走っていくよ!そっちの方が速いから、鈴華ちゃん()までの道案内もするね!」

「俺も盾で飛んで行きます」

「カシラ。盾に掴まってもええですか?うち、自走は出来んので」


という事で、みんなで鈴華の家に突撃する事となった。

桃花さん、蔵人、伏見さん、鶴海さん、そして川村のおっちゃん。長らく燻っていた久我家問題に、この大所帯で立ち向かう事となった。

電話に出たご家族って、誰なんでしょうね?


「さてな。行けば分かるだろう」


分かりたくない気もしますけど…。

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