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女尊男卑 ~女性ばかりが強いこの世界で、持たざる男が天を穿つ~  作者: イノセス
第5章~逡巡篇~

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116話~皆様のお陰だと思います!~

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

お陰様で、150万PVを到達しました。

…いえ、していました(過去形)


…え~。気を取り直して、

今回も、他者視点となっております。

では、どうぞご覧くださいませ。

良く晴れた夏の昼間。

私は、ベランダに干した洗濯物に囲まれながら、一枚ずつ洗濯籠の中へと取り込んでいました。

本当に良く晴れていて、先ほど干したばかりなのに、厚いタオルケットまでカラカラに乾いてしまっています。

それは嬉しい事なのですが、少し外に出るだけで汗ばんでしまうのは困りものです。


早く取り込んで、冷房の効いた部屋に帰りたい。

そんな事を思いながら手を動かしていると、私のポケットに入れた携帯が短く振動しました。

電話でしょうか?

そう思って取り出してみましたが、違いました。

アラーム機能が働いたみたいです。


一瞬、どうしてアラームをセットしたのでしたっけ?と思い出そうと首を捻りますが…直ぐに思い出すことが出来ました。

それと同時に、急いで洗濯物を回収します。

急がないと、間に合いませんから。

私はそのまま、小走りでリビングを横切り、テレビの前まで駆け寄り、テレビを付けました。

確か、地方テレビでの放映だったと思いましたが、番号は何番でしたっけ?

迷いながらもリモコンのボタンを押していくと、お目当ての番組に辿り着きました。


『さぁ、始まりました。関東中等学校ファランクス選手大会、決勝戦!今大会は異例中の異例…』


私が子供の頃よりも、随分と薄くなったテレビの向こう側で、そんな元気な女性の声が響きます。

普段よりも少し画質の荒い映像が、青々と伸びているだろう芝生と、そこを踏み歩く少女達を映し出しています。

大手放送局では無い地方番組なので、画質は仕方がないにしても、せめてもっと多くのカメラを使って、多角的に会場周辺を映して欲しかった。


私は無理だと分かっていながら、そんな愚痴を思い浮かべてしまいました。

異能力大会は、とても厳しい情報規制が掛かっています。

その為、個人での撮影は全て禁止。公式のテレビや記者の撮影も、厳しく制限が掛かっているのです。

例えばこの映像も、全体を遠目で撮るだけの絵しか取れません。

ズームアップする等、異能力が詳細に分かる映像は、公共の電波に乗る際に規制が掛かることが多いのです。


それでも、私は必死に画面に目を凝らします。

彼は何処にいるのだろうと、画面の端っこばかりを覗き込んで探していました。

でも、なかなかベンチの様子までは映してくれないみたいです。

映像は、フィールドばかりを映しています。

そこに彼がいるとは到底思えません。だって、彼がフィールドに出ることはないのだから。

ユニフォームを貰えて、背番号も決まったと喜んでいたあの子でしたが、異能力戦で男の子は殆ど出場することはありません。ベンチで女の子を応援するのが精々だと、雑誌にも書いてありましたから。


こんな事なら、現地に行って、試合前にでもお声掛け差し上げれば良かったと、今更ながらに後悔する私。

そう思いながらも、手にした洗濯物は着々と折りたたまれ、綺麗な洗濯物のビルを形成していきます。

しかし、それから数分経った時の事。


『来たァ!紫電だ!開始早々のブリッツ!桜坂の防衛線が薄い、左翼に襲いかかる!』

「あら?」


私は、たまたま顔を上げた時に、気になってしまいました。

シデンと呼ばれている、かなり強い子についてではありません。

そもそも、大規模異能力戦…ファランクスについては、雑誌をパラパラと流し見した程度の知識しかないのです。

今見ているのも、私の雇い主…だった人の子供が所属しているチームが戦っているから。

坊ちゃまが帰ってきた時に、おめでとうございます、か、残念でしたね、くらいの会話はしたいと思ったからです。


でも、今シデン…君?と戦っている子。この子、もしかして坊ちゃまと同じクリエイトシールドではありませんか?それに、背格好もかなり似ている…と思うのですが…。

勘違いでしょうか?クリエイトシールドはさして珍しく無い異能力だし、たまたま大柄な女の子という可能性も十分にあります。

坊ちゃまは1年生ですし、出ているはずがな、


『Cランクの96番!桜坂の96番、黒騎士選手!Bランクの盾役すらも翻弄する、紫電選手の速攻を、絶妙な盾捌きで防ぐ!防ぐ!防ぐ!』

「きゅうじゅう、ろく?」


私は、あの時の彼が言っていた番号を思い出そうと、画面を睨みます。

あれ?96番じゃなかったかしら?69?いえいえ、そんな卑猥な番号を、彼が付けるはずがない。

…えっ?まさか…。


「く、蔵人様?」


私が恐る恐る、その子の方を見ると、その子は盾を作り出しました。

まるで最初からその場にあったかのような、素早過ぎる盾の生成に、私は息を詰まらせました。

これ程早く生成できる人は、彼しかいない。

小学生の頃のDランク戦。そこで見ていた勇姿と、画面の向こうにいる戦士の姿が重なりました。

もう間違えようが無い。

巻島蔵人。まさにその人が、今フィールドの上で殴られている。


大変だ!直ぐに助けないと!

私がどうしたら良いか分からずに、中腰になったり、ポケットから携帯を取り出したりしてアタフタしている間にも、試合が進んでいきます。

次第に形勢が蔵人様の方に傾き、素人の私でも分かるくらい、蔵人様が相手を圧倒し始めました。


「す、すごい…!」


自然と口から漏れる感情。

凄く強いと言われているシデン選手を、これ程圧倒してしまうなんて。

まるで、小学生の時に出場された、全日本選手権の様です。


思えば、蔵人様は生まれた頃から規格外でした。

何時も泣き喚いていた頼人様の横で、まるで死んでいるのではと思ってしまう程、静かに目を閉じていたあの頃。

かと思えば、ちょくちょく脱走して、書斎で本にイタズラしていた彼。


今思っても、やはり異常な事でした。

特に、本を開いている時の真剣な目は、本当に本の内容を理解しているのでは?と思う素振りでしたから。

多分、その通りなのでしょう。


その後の、頼人様との戯れや、年末の本家祝賀会を見ても、とても幼子が取る行動ではありませんでした。

周りの人達は、頼人様は天才だと、もてはやしていますけれど、蔵人様こそ、本当の天才だと私は思っています。

それは、いずれみんなが分かるだろうと思っていた事。

思っていましたが、


『き、決まったぁ!左翼の激闘を制し、ファーストタッチを決めたのは、桜坂96番!黒騎士選手!桜城の黒騎士様その人だぁ!!』


まさか、こんなにも早く、蔵人様の才能が開花するなんて。


私は、食い入る様に画面を見続けます。

まるで、その姿を脳内に焼き付ける様に。

頼人様の時の様に、いずれ離れなければいけなくなる事を予感する様に。


蔵人様は、蔵人様に駆け寄ってきたチームメイトに揉みくちゃにされ、次の瞬間には宙を舞っていました。

胴上げですね。

その体が上がる度に、会場からは「バンザーイ!」と言う掛け声が上がっています。


蔵人様は戸惑っているのか、手をバタつかせています。

でも、最後の方は嬉しそうに両手を上げました。


普段見れない、彼の子供っぽい姿が見れて、私も嬉しくなってしまいます。

彼は色々と抱え過ぎていました。生まれた瞬間から、頼人様と比較されて、母親にも冷遇されて。


蔵人様の胴上げが終わると、今度は別のチームメイトが胴上げされました。

その子の真下にいるのは蔵人様。

多分蔵人様が、その子も上げようと提案したのでしょう。周りの選手達からは「ミハラ先輩!」と言う声が上がっています。

もう1人、サクライ先輩と言う子が、恥ずかしがりながら胴上げされていると、直ぐに画面が放送席に戻されてしまいました。


もう少し、彼らのはしゃぐ姿を見ていたかったですが、仕方ありません。

無事に試合を終えられたことが分かっただけでも、良かったと思いましょう。

私は、ずっと握っていた携帯を、その時漸くポケットに戻しました。


関東大会優勝。それがどれ程凄い事か、私には分かりません。

ですが、蔵人様の周りに集まった子共達の喜ぶ様子を見れば、それがどれだけ尊い事なのかは十分に理解できました。

解説らしき女性も、桜城にとっては8年ぶりの優勝だと力説しています。

その一端を担ったのが、蔵人様です。


『放送席、放送席。こちら関東大会を優勝した、桜坂聖城学園の皆様に来て頂いています』


実況と解説の2人が力説していた画面が切り替わりました。

青々とした芝生はなくなり、企業のロゴが入った壁と、赤い絨毯が敷かれた特別ステージの上に、先程胴上げされていた3人の姿が映っていました。


『8年ぶりの関東大会優勝ですが、エースのミハラ選手、如何でしたか?』


良く肌が焼けた、色々と大きな子がマイクを向けられて、ビクッと肩を跳ねさせました。


『ひゃ、ひゃい!その、す、すごく、嬉しい、です…』


かなり緊張している様子ですけれど、仕方ありません。

地方とは言え、多くの人が見ているテレビのインタビューを、いきなり受けることになったのですから。

その容姿や成した偉業の前で忘れそうになりますが、彼女達はまだ中学生なのです。

スラスラ感想を言える方が、ビックリしちゃいます。


『ありがとうございます。続いて、部長のサクライ選手は、如何でしたでしょうか、今試合を振り返ったご感想を教えてください』


ミハラと呼ばれた子の隣にいた、黒髪が綺麗で、これまた中学生とは思えない豊満な子が前にスっと出て、リポーターからマイクを受け取りました。


『とてもいい試合でした。私たち桜城ファランクス部は、関東大会優勝と言う名誉に恥じない様、全国大会でも実力を発揮して、勝ち進んでいく所存です!』


まるで原稿を読んでいるのではと思うほど、スラスラと言葉を並べ、満足した様子でリポーターにマイクを返すサクライ部長さん。

多分、優勝した時の事を考えて、ある程度準備していたのでしょう。

そんな事まで頭が回る程、この子は頭が良いのが伝わってきます。

それに、物怖じ(ものおじ)しない度胸もある。

流石は名門校の部長さんだと、私は感心しました。


『サクライ選手、ありがとうございました。全国大会での活躍を期待しています。では、最後に、今大会で大活躍し、優勝のキッカケを作った選手、黒騎士選手にお話お聞きします。黒騎士選手、如何でしたでしょうか、今試合を振り返ってのご感想をお願いします!』


来た!

私は、知らずと画面に顔を近づけてしまいます。

蔵人様。何か一言でも良いんです。取り敢えず放送事故にならない程度に言葉を発して、無事に帰って来て下さい!

私は必死に願いました。

ですが、


『そうですね。全体的には実力も出せて、いい試合が出来た印象を持っています。しかし、幾つか反省点も見られた試合だったと思います』

『ほう!と言いますと?』


『私個人の話になりますが、1番の反省点は、チームとの連携不足が挙げられます。筑波戦や前橋戦、それに今の如月戦もそうでしたが、チーム内で連携して動くと言う認識が、私には足りなかったと思っています。特に今の試合では、殆ど1対1で戦闘していました。先輩方がフォローしてくれたから勝てたものの、独りよがりな戦い方を改善していかないと、全国では通用しないのではと、個人的に危惧しています』

『なるほど、チームとの連携ですか。ですが、全日本Cランク王者の紫電選手を打ち破ったその実力は、凄まじいものであったと思います。何か、秘訣があるんじゃ無いですか?』

『秘訣…そうですね。やはり、私を支えてくれた皆さん、チームの先輩方、私を育ててくれた柳さん、そして、今日こうして応援に来ていただいた応援席の皆様のお陰だと思います!』


「「「うぉおおおおおお!!」」」

「「「くろきしぃいいい!おめでとー!!」」」

「「「くろきしさまぁああ!!かっこいいぃ!!」」」

『黒騎士選手、とても為になるお話を、ありがとうございました!是非とも将来、報道関係のお仕事に就いて頂きたく思います。以上、現場からのヒーローインタビューでした!』


私は、ほっと安心したのが半分、圧巻したのが半分の入り乱れた感情の中で、腰を下ろします。

やはり、蔵人様は天才だ。あんなにスラスラと言葉なんて出てこない。

まるで、公衆の面前で話すことに慣れているとでも言うようなその様子に、私の中の彼がまた一回り、大きくなった気がしました。

…何故か、黒騎士という名前で呼ばれていましたけど、これは男の子だからと名前バレを恐れての事ですよね?黒騎士って、ご自分でつけられたのでしょうか?


そして、後になって気付きます。

蔵人様が、私の事を名指しで呼んでくれて、感謝を述べてくれた事を。

その事に気付いた途端、ジワジワと胸の奥深くから、何か暖かいものが込み上げてきて、目頭が熱くなってしまいました。


いけない。

私は、急いで涙を拭います。

歳を取ったのかもしれない。だって、こんなに涙脆くなっているのだもの。

感動物は厳禁、特に、子供が絡んだ物には気を付けようと、心に誓う私。


それでも、今の試合は録画しておけば良かったなぁと、視線を落とします。

すると、そこにあったのは、涙を拭いたタオル…じゃない!蔵人様の体操着だ!


「あっ!ああ!!」


気付くと、周りはヨレヨレの洗濯物で溢れています。

あれだけ綺麗に積み上げたタワーが、興奮して動きまくった私のせいで、台無しになってしまいました。


「ああ、もうっ!私ったら!何をしているのかしら」


私は、急いで洗濯物を掻き集めて、洗濯し直すのでした。

柳さん…。

やはり、主人公が異常な事を、最初から気付かれていたのですね。

それでも、主人公を支えて下さっていた。


「あの母親とは、えらい違いだな」


…そう言えば、あの母親はどうしたのでしょう?

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― 新着の感想 ―
 柳さん、69番を英語読みしたら駄目だ……いつか来るとは思っていら、本当に来たのたけれど。
[一言] あの母親はなー。もう出てこなくていいよ、という気分です。 過度のざまぁをするタイプの話でもありませんし、成功してても構わないので後日談だけ聞こえてくればいいんじゃないですかね、とか思っていた…
[良い点] 柳さんが報われて本当によかった。これからも執筆楽しみにしています!
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