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女尊男卑 ~女性ばかりが強いこの世界で、持たざる男が天を穿つ~  作者: イノセス
第5章~逡巡篇~

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104話~意趣返しということか!~

やられた。

蔵人は苦々し気に口を歪め、前橋陣営へとゆっくり走り出した小栗選手の背中を見送る。


小栗選手。いや、前橋の中衛4人は、見事な連携であった。

異能力飛び交う前線を跳び超えるという、斬新な戦略。

1人を確実に送り出す為に、瞬時に自身の身を切る潔さ。

そして、託された重圧に負けることなく、轢き殺される恐怖に打ち勝ち、目的を達した胆力。

敵ながら、天晴(あっぱ)れと言いたい。


『黒騎士ちゃん!』


鶴海さんの声がする。

見ると、彼女はベンチで何か合図を出していた。

彼女の異能力、アクアキネシスによって、水を好きな形に変形させて、それによって合図を出している。

今の形は…。


〈96 ▷▷ 3〉


いつもは分かりやすいように、声とこの図によって指示を飛ばしてくる彼女。

だが、今は図だけだ。声を出さない理由は、恐らく相手に聞かれたくないからだろう。

つまり、96番が蔵人の事で、3番と言うのが相手。小栗選手の事を示している。


小栗選手を追え。それも、彼女に気付かれずに。

どうも、前橋前線へと戻ろうとしている小栗選手を、秘密裏に尾行しろと言っているみたいだ。

その狙いは、恐らく…。


「了解」


蔵人は頷き、駆け出そうとする。

だが、そこで「待った」の声がかかった。

ベンチからではない。今日の相棒からだ。


「ちょっと待てよ蔵人。あいつを追うのか?」

「ええ。監督からの指示ですから。なるべくバレないように背後に付きます」


蔵人がそう言うと、サーミン先輩はニヤリと笑って、彼自身を指さす。


「だったらよ。いい方法があるぜ」

「良い、方法ですか?」

「ああ」


怪しく微笑む先輩。

何か、嫌な予感もする蔵人だったが、取りあえず話を聞くのだった。



蔵人は走り出す。

全速力ではない。相手に気付かれないように、慎重に足を運ぶ。

全速力で走れば、鎧がこすれて音を立ててしまう。それを防ぐために、蔵人は鎧の隙間にEランクの膜を埋め込んだ。

こうすることで、音は殆ど発生しなくなる。

冒険者時代には、布を挟んで音を殺したりもしていたのだが、膜の方が楽で効率的であった。


桜城領域を軽いジョギングで走っていた小栗選手に対し、2m後方まで近づく蔵人。

相手は、全く気付いていない。

幾ら音を殺して、気配も殺しているとはいえ、流石に気付かれないのはおかしいだろう。

仮令(たとえ)小栗選手が気付かなかったとしても、他の選手が、観客が気付くと言うもの。


だが、誰も蔵人に気付いた様子は無かった。

いや、その表現は正しくない。

正しくは、蔵人達に気付かない、である。


蔵人は今、サーミン先輩を背中に負ぶっている。

蔵人の背中にしがみついてもらい、彼の背中とお尻を盾で支えているのだ。

そして、サーミン先輩と蔵人は、片手同士で繋がっていた。

…勿論、あっち系の話ではない。


サーミン先輩の異能力リフレクトは、彼の体だけではなく、着ている物や”手に持ったもの”も透明化することが出来る。

即ち、今、彼の手に触れている蔵人を透明化しているのである。

とは言え、蔵人の体から離れた盾などは、透明化することは出来ない。

よ~く目を凝らせば、蔵人の体に付随させている水晶盾に気付くだろう。

また、新たに蔵人が異能力を使えば、2人の透明化は切れてしまう。


蔵人が攻撃しようとしたら、その段階で存在はバレてしまうのである。

それでも、今は十分だ。

この作戦を遂行するのには、最適な状況であった。


「小栗!こっちだ!」


声がする。

見ると、前橋選手の前衛が、手を挙げて小栗選手を招き入れようとしている。

そこは、桜城選手が少ない中央より少し右翼側の位置。


「はい!」


小栗選手が、元気に返事をして、そこの場所に向かって少し速度を上げる。

蔵人達も速度を上げて、小栗選手の後方1mまで詰め寄る。


小栗選手のウィニングランを、周囲の桜城先輩達が苦々し気に見送る。

見事にファーストタッチを取られたことに対する悔しさか、無敵状態の相手を恐れての顔か。

少なくとも、先輩達も蔵人達の事は認識できないみたいだ。


…間違って、仲間同士の衝突事故とか起こさないように、小栗さんの後をしっかりと付いて行かねばな。


小栗選手に当たった風が、不規則になって蔵人にも当たる。

かなり近づいているが、彼女は全くこちらに気付かない。

それは、彼女がかなり疲れているからかも知れない。

敵陣のど真ん中を50m近く本気で走り、しかも、両サイドからは弾丸が、後ろからは盾の化け物が迫っていた。

体力的にも精神的にもすり減っている状況では、探知能力の欠如は仕方がない。


そんな彼女の、唯一安心できる場所が、目の前に並ぶ仲間たちの前線。

それは、彼女にとって堅牢な城壁に見えていることだろう。自身と敵を分つ、唯一の絶対防御に。


「前線を広げろ!小栗を通すぞ!」

「「おおっ!」」


前橋の盾が、桜城前線を前へと押しこくり、隙間を作る。

小栗選手が中立地帯に入り、前線のど真ん中へ足を踏み入れる。

彼女は嬉しくて、両手を挙げた。

勝利の凱旋。

まさにそれである。


「翼ナイス!」

「小栗良くやった!少し休め」

「はい!」


小栗選手が前橋前線を越える。

前橋の選手達は、走り行くその背中を振り返り、称賛の視線で彼女の背中を叩いた。

よくやった、と。


それと同時に、絶対防御の城門が、ゆっくりと閉じようとしていた。

そこに、

蔵人は突っ込む。

背中のサーミン先輩を、桜城前線にパージして、自身の前に水晶盾を展開する。

途端、蔵人の透明化が切れる。


前橋盾役達が、小栗先輩に向けて声を掛けようとした。


「小栗!後1分で追加の騎馬隊を投入する。そしたらもう1回…」


もう1回?また特攻するぞ!とでも言おうとしたのだろうか。

しかし、その続きは永遠に聞くことはなかった。


彼女達は指示を出しながら、前を向き、そして、黙った。

目を見開き、その目で見たのは、いきなり目の前に現れた白銀の騎士だった。


「お、おうじょっ!ぐぁあ!」


前橋の盾役は、突っ込んできた蔵人のシールドを、自分のシールドで何とか受けた。が、猛スピードの突進に敢え無く吹き飛ばされ、シールドごと地面を二転三転、転がった。

彼女の反対側にいた、近距離役の女子生徒達は、蔵人の突撃をもろに喰らい、宙を舞う。

その様子を、実況が叫ぶ。


『前橋5番と6番が吹っ飛んだ!ベイルアウトだぁ!2番も地面を転がり、かなりのダメージだ!桜坂96番!また黒騎士様のご活躍だぁ!前橋3番の後ろに張り付き、敵陣にまんまと斬り込んだぞ!』

「「「やったぁああ!!!」」」

「黒騎士さまぁあ!」

「「「くっろきし!くっろきし!」」」


声援が爆発する会場。

その中で、悲痛な声が一つ、上がった。

蔵人の後ろ。


「穴だ!穴を塞げ!」


吹き飛ばした前橋の2番が、上半身を起こしながら必死に叫ぶ。

その視線の先は、前橋前線。

蔵人がこじ開けた大穴に向かって、相手2番の悲鳴のような声がフィールドに響き渡る。


「桜城が入ってくるぞぉお!!」


その声とほぼ同時に、


「「「ぉぉおおおおお!!」」」


雄叫びが、空気を震わせる。

前橋の前衛ではない。そのもっと向こう側から。

そして、次の瞬間、

見えたのは、白銀の大雪崩。


「黒騎士に続け!」

「セカンド、サード取るぞ!!」

「俺も行くぜ!」


桜城の先輩達の姿が、その大穴から次々と飛び込んできた。

蔵人はそれを見て、前を振り向き、走り出す。

加速する。

目指すは、敵の円柱。

ではない。


『桜坂の前線が、一気に前橋へ雪崩れ込んで来たぞ!11番、8番、20番が、黒騎士様を追うように前橋円柱へ殺到する!』


先輩達が円柱へと向かってくれているのなら、それを支援しなければ。

蔵人は、目標を前橋円柱からシフトする。

目指すは、前橋の対空砲。

円柱から迎撃に出て来た、2人の相手選手である。


「ちょ、来た!こっち来た!」


前橋の円柱役が2人。蔵人の射線上でアタフタしている。

だが、直ぐに持ち直し、攻撃を開始する。


「エアロシュート!」

「ファイアボール!」


濃厚な風と炎の弾が、蔵人に襲いかかる。

だが、蔵人は前方に掲げた2枚の水晶盾を三角に折り、弾を受け流す様に進む。


「ぜ、全然効いてない!」

「にげ、逃げよう!」


2人は背を向けるが、

もう、遅い。


「シールドバッシュ!」


蔵人から放たれた水晶盾が、


「うぁっ!」

「きゃぁっ!」


逃げ始めていた2人を真横から吹き飛ばし、そのままベイルアウトさせる。


『前橋18番、19番ベイルアウト!またもや黒騎士様だ!黒騎士様たった1人に、前橋中はBランクを2人、Cランクを4人もベイルアウトされてしまったぞ!これが黒騎士なのか!一瞬で6人ものキルを取ってしまう。こんなこと、Cランクが出来る筈ない!でもやってのける!憧れてしまうぞ、黒騎士様!』

「「「くろきしぃいい!」」」


桜城応援席からの声援が、実況の声と共に響く。

チラリと目線を送ると、吹奏楽部の皆が楽器を片手に総立ちだった。

中には、楽器を持っている事も忘れたのか、フルートらしき物を振り回しながら興奮する男子生徒も見られた。


良い声援をありがとう。だがな、学校の備品を壊さないでくれよ?

蔵人が内心で心配していると、

後ろから、視線を感じた。


タタタタタタッという、駆ける足音。

見ると、そこには、


「く、くそっ!よくもっ!」


こちらを睨みながら走る、小栗選手がいた。

なるほど。タッチを狙う桜城選手よりも、こちらに来たか。

ならば。


蔵人は、小栗選手を背後に抱えながら、走る。走る!

ただ、前橋の円柱に向けて。


『こ、これはっ!再現だ!ファーストタッチの時と、全く逆の状況の状況だ!意趣返しということか!96番、黒騎士様!』


分かっているな、実況の人。

蔵人は微笑む。

微笑みながら、走る。

グングンと敵円柱の距離が縮まる。


既に、蔵人を抜かしたはずの先輩達に追いつき、追い越した。

円柱まで、もう少し。

後ろを見ると、顔を真っ赤にして、こちらに手を伸ばす小栗選手。

その手から、濃厚な風が生まれる。


「うぃ、ウィンド、ブラスト!」


先程の円柱役の娘よりも、強力な風が蔵人を襲う。

だが、蔵人は笑う。

そいつは悪手だぜ、と。


蔵人はそれを、水晶盾で受ける。

受け流さずに、盾を広げて受け止める。

まるで、ヨットの帆の様に。


当然、Bランクの攻撃をまともに受けた盾にはヒビが入り、蔵人にも多少の衝撃が伝わる。

だが、その少しのダメージと引き換えに、膨大な推進力を得た。

円柱が、一気に近づく。


蔵人はその推進力も加えて、加速する。

相手の円柱に、今、

手が届いた。

自軍の円柱よりも、少し大きい気がする青い円柱。

相手の前衛をこじ開けて、小栗さんとの追いかけっこを制したことで、達成感がそう思わせるのか。


『セカンドタッチ!桜坂96番!また彼だ!桜坂の黒騎士様!これで桜坂の支配率は48%まで戻った!(40%+400+400)更に…』


蔵人が円柱から素早くターンすると、倒れ込む様に芝生を滑る小栗選手と、その後ろから続々と現れる、桜城の先輩達。


『タッチ、タッチ、タッチ!!4連続桜坂の円柱タッチだ!これで形勢逆転!桜坂支配率が63%にまでなったぞ!(48%+200+100+50+400×3)』


先輩方が円柱に触れると、桜城の得点が爆発的に増加した。

セカンド、サード、フォース、フィフスタッチを連続で獲得し、更にCランク4人のタッチボーナスで、コールドまであと少しという所まで逆転することが出来た。


だが、まだ試合は続く。

Cランク4人を送っている桜城前線は、前橋前線と競り合っていた。

幾ら蔵人に間引かれた前橋とは言え、Bランクが2人とAランクも健在である。必死に耐えて、逆に押し返そうと奮闘している。


だが、


「こっちはめっちゃ有利っしょ」


サーミン先輩がそう言って、相手円柱にタッチし続ける。


「俺達4人がこうしてタッチしているだけで、30秒もしたら桜城領域は75%を超える。後はハーフの鐘で桜城の勝利って寸法よ」


相手円柱のタッチは、1人1秒で10点だ。後1150点で桜城の領域は75%となるので、4人でタッチするなら28.75秒だ。

相手がこれを防ぐには、桜城の円柱を奪取するしかない。

前橋円柱にタッチしている我々は、後100秒以上無敵状態であり、退かすことが出来ないからだ。

相手もそれが分かっているからか、桜城前線を必死に攻撃する前橋前線。

更に、蔵人が最初に倒した3人分の選手も投入され、彼女達も桜城前線へと走り出した。


人数的に、相手前線が有利となった。

このままでは、桜城前線が突破される可能性も出て来る。

残り25秒。

桜城前線を一部崩壊させ、そこから桜城円柱まで走り込む。

成功する可能性は極めて低い勝機だが、0ではない。


蔵人は円柱から手を離し、立ち上がる。

僅かの可能性も潰し、確実に桜城の勝利を得るために。

走り出す前に、一旦後ろを確認する。

蔵人と共に走り込んだ小栗選手が、円柱の後ろでへたり込んでいた。

青い顔をしているので、魔力切れかもしれない。


うん。これなら、後ろから挟撃されたとしても、対処出来そうだ。

蔵人は歩き出し、手甲同士を軽くぶつける。


「よし。今度こそ一気に狩り取って、前橋前線の士気を削ぐぞ」


蔵人は自分に活を入れる為に、そう言った。

だが、蔵人の発言に、


「「「了解!!」」」


先輩達が、同調した。

いつの間にか、蔵人の後ろに着いてきていた先輩方。


「よしっ!やっちゃうよ!」

「出来る。出来るよ!なんたってこっちには、蔵人がいるからね!」

「そうそう。頼んだよ!蔵人くん!」

「蔵人!俺はここで120秒、点数稼いでるぜ!あと、この3番も見張っとく!」


先輩達、目がギラギラしている。

それだけ、テンションが上がっているのだろう。

蔵人が1年の男子なのに、全く気にしていない。

それどころか、頼りにされている。

ここは、下手に弱腰ではダメだ。士気に関わる。

蔵人は、相手選手達を睨みながら、息を思いっきり吸って、声を上げる。


「桜城前線を脅かす敵を殲滅する!行くぞぉ!!」

「「「おおおおぉお!!!」」」


白銀の小隊が、桜城前線を壊滅させようと急行する前橋選手達に向けて、出撃する。

すると、相手も蔵人達の小隊に気付き、前線から数人をこちらに寄越す。

蔵人は前面に盾を展開する。

この時点で、蔵人の無敵状態は解除される。

先輩達も、手に手に異能力を出現させていた。


「シールドバッシュ!」


先陣を切っていた蔵人の盾が、前線へと走り寄っていた相手小隊のど真ん中を貫き、


「ファイアボール!」

「ストーンバレット!」


蔵人の突撃から難を逃れた選手に向かって、蔵人に追従していた先輩達が、異能力の礫を叩きこむ。

それだけで、相手の半分近くがベイルアウトしてしまう。

蔵人はとどめを刺そうと、Uターンを行う。

のだが、


パンッ!パンッ!


乾いた音が、夏の湿気た空気を割いて、蔵人達の耳元にも届いた。

その音の方向は、前橋ベンチから。


『試合終りょぉおおお!前橋サイドから、空砲がなりました!棄権です!前橋中棄権!勝ったのは桜坂!準決勝を勝利したのは桜坂聖城学園です!』

「「「うぉおおおお!!!」」」

「「「おうじょう!おうじょう!」」」

「「くっろきし!くっろきし!」」

「レオンく~ん!」


相手監督は、挟撃されたことで桜城前線を崩すどころか、前橋の選手が危険だと判断したみたいだ。

何とか勝てたな。

蔵人は構えた盾を解き、走り寄って来た先輩達とハイタッチを交わす。


ファーストタッチを取られた時はどうなるかと思ったが、何とか巻き返すことが出来た。

それも、的確な判断をしてくれた桜城ベンチと、異能力の使い方を熟知していたサーミン先輩のお陰だ。

やはり異能力は、出力ではなく技術が重要だな。

そう思う蔵人だった。

神谷先輩との連携で、見事に相手を出し抜きましたね。


「透明化は、用途が限られる技かと思ったがな。ファランクスにおいては奇襲にも使えるのか」


大人数の競技、例えばセクション戦なんかでも使えそうな戦法ですね。


イノセスメモ:

桜城VS前橋。 桜城領域:68%、前橋領域32%。

試合時間8分45秒で、前橋側の棄権により、桜城側の勝利。

決勝進出決定。

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