スマブラ団体戦は3人、草野球は9人いる
「文句言うわけじゃ無いけど、何で、最初から車にしなかったんですか?」
床に固定されていた、別のバイクの計器のチェックをしながら、ユンファさんが面倒くさそうに答えた。
「関空から高速に乗るまでが、バカみたいに渋滞してたからだよ」
そうだったのか。
足元から、高速道路を飛ばすトラックの振動が伝わる。
警察から逃げた僕とユンファさんは、何キロか離れたパーキングエリアで待っていた、大型トラックの箱型の荷台にバイクごと飛び込んだ。 裸電球がボンヤリと照らす銀色の室内。
窓がないので、暑い。
機械油と、ダンボールの匂いがする
「体調は、良くなったのか?」
「あ……忘れてた」
少しだけど、熟睡できたせいか、頭がスッキリしている。まだ頭の芯は重いし、本調子じゃないけど、スマブラは出来そうだ。相手の強さがわかんないから、不安な部分はあるけど。
でも。
そんな事より、僕は体が痺れるようなどん底の気分だった。
見たくもないスマホの時計を見る。8時45分。
受付を開始して、15分経ってる。
涙で液晶が滲む。まだ、天保山、ここからでは間に合わない。10分遅れくらいなら許されるかな。
その時、スマホの画面が緑色になった。
lineの着信だ。
リーファから。
僕は、泣くのをこらえて、通話のボタンを押した。
雑音の後、相変わらず、落ち着いた相棒の声がした。
『凛、どう?こっちは、最後尾に並んでる』
……言い訳をしたい。
……大丈夫、ギリギリ間に合うって言いたい。
間に合うんなら、寿命が半分になってもいい、本気でそう思った。
今回、バロチに行った事。
ナディアにとっては、ある程度喜んでもらえる結果になったと思う。お婆さん達と和解できたんだから。
只、大会前じゃなければもっと良かった。
でも、リーファは?
僕に振り回されて、苦労ばっかりして……
『相棒だから』は虫が良すぎる。
僕は、絞り出すように言った。
「ごめん、今、天保山」
しばらくの沈黙の後、リーファがぽつりと言った。
「受付には間に合わないね」
その言葉は、深く僕の心に突き刺さった。
自分の勝手さが、恥ずかしかった。
大声で泣きわめきたかった。
僕らよりずっとヘタクソな奴らが、ドヤ顔で公式配信に映るのかと思うと、ぶん殴ってやりたかった。八つ当たりだってわかってる。
なにより、リーファに僕をぶん殴って欲しかった。
僕は……泣いてしまった
「ゴメン……リーファ。ホントに……ゴメン」
リーファが遮った。
「大丈夫、想定内だよ、凛」
信じられない言葉で。
「オリガから、聞いてない?10時の配信までに入れれば、何とかなる……ワタシとナー次第だけど」
ぼくは、ハンマーで頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。そうだ、オリガ、別れ際に何か言ってた、思い出した!
「ななな、なんで!?」
リーファが、声を潜め、列から離れる気配がした。
「マフディが、っていうか、オリガが替え玉を用意してた。スマブラ歴は3日だけど」
「……あ」
僕の頭が回転し始めた。
そうか!
僕はスマホを握りしめた。
体が熱くなり始める。
予選は2回連勝すれば確定で、3戦目は消化試合なんだ。先鋒のナディア、中堅のリーファが勝てば、いいんだ!
「10時からの、ブロック代表の決勝戦は、配信される。顔が映ると後々やりにくくなるから、なる早で」
僕は、また泣いてしまった。
でも今度は、うれし泣きだ!
オリガ、さすが!
お前は、最高のビジネスウーマンだよ!
替え玉に、後ろめたさがないわけじゃないけど、スマブラ歴3日なんだ、ズルってわけじゃないはず!
草野球でも、9人揃わないと失格だから、試合開始の挨拶の為だけに、そこら辺の散歩してる人を捕まえてきたりとかもあるんだぜ、メンバーが遅刻した時は。
「わかってる!最高だ、必ず行って勝つよ!」
「当たり前。こんなカッコしてるんだから、ボロ勝ちしないと恥ずかしい」
……え?
「こんな格好……?」
「いい忘れてた。替え玉は女の子だから。外見を寄せたら、それしかなかった」
「……はぁ!?」
思わず、大声を上げる僕。
ナニそれ!?
「おい、林堂」
気づかなかったけど、ユンファさんも、電話してたみたいだ。iPhoneを耳から離して、
低い声で、僕に言った。
「さっきの玉突き事故、やりすぎだったみたいだ……警察が、俺達との関連を疑って、本気で探し始めたらしい……最悪なのは」
ユンファさんは、顔を歪めて言った。
「中央区の大阪会場に、警察が来てるってよ。俺は大正区って嘘言ったのにな。林堂、仲間に迷惑がかかるって、警察に言っちまったろ?子供の団体のイベント会場、聞き込みして回ってるみたいだ」
「はぁぁぁぁ!?」





