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インド式





 寝てる間にかぶらされていた、フルフェイスのヘルメットが、息苦しさにターボをかける。


 思い出した。


 僕は今、関空から、大正区の大阪大会会場に向かってるんだ。

 

 父さんに、注射を射たれて、意識を無くして………


 心臓の音で、胸が痛い。


 3台のパトカーから、険しい顔のお巡りさん達が、降りてきたんだけど、人数を見て僕は内股になった。


 10人はいるよ!? え、そんなに必要?

 ユンファさんは、危険人物だけど、僕なんか、小6だよ?いる?この人数?


 そういえば、中島らもって人の小説で、『警察の逮捕術、それは、手近のものを犯人に投げつけて応援を待つ』って、書いてあったけど、なんだよ、仲間呼ぶなよ、マドハンドかよ、ってツッコミたくなるよな。

 どうでもいい事かんがえてたら、年かさのお巡りさんが、こっちに歩いてきながら、怒鳴った。


「ヘルメットを脱いで、バイクから降りろ!」


「ユンファさん、何したの?」


「なんもしてねえよ……なんなんスかね?捕まるようなことしてませんぜ?」


「その後ろでグルグル巻きにしてるコはなんだ?落ちたらどうする!」


 あー、納得。僕は道路交通法なんか分かんないけど、何かには引っかかるだろうなあ、ガムテで固定されて、眠ってる人間と二人乗りしてたら。


 高速道路は、僕らのいるこっち側車線もあっち側も、割と空いてる。じゃなきゃ、パトカーが、追いかけてこれるわけないもんな。


「いや、時間が無いんですよ。後20分で受付始まっちまうから、助けて下さいよ。大正区まで、先導してもらえないですかね?」


 あ、いい考え。パトカーが、先導してくれれば、ワンチャンいけるかも!


 ぼくも、バイクにまたがったまま、頭を下げた。

 

「お願いします、みんなに迷惑がかかるんです!」


集まってきたお四人の巡りさんに、バイクの周りを取り囲まれた。


「そんな事してたら、急いでる違反者全員にそうしなくちゃならなくなるでしょ。ヘルメット脱いで」


 うわ、冷て。

 

 でも、ここで引き下がるわけには行かない。


 僕は、ヘルメットを脱いで、頭を下げた。


「お願いします、仲間に迷惑がかかるんです!す!大阪大か……」


「り……、おい、黙れ!」


 リーファさんに怒鳴られ、言葉を飲み込んだ。

 

今、『林堂』っていいかけたよな?

 余計なこと言うなってのは……

 余計な情報与えるなって事?


……つまり


 お巡りさんの声が厳しくなった。


「なんや、なんか聞かれたらマズイ事でもあんのか?」


 ユンファさん……逃げる気だ。


 僕は、ユンファさんを見上げて、お巡りさんからは見えない方の目を閉じて合図を送りながら言った。

 

「なんでさ!事情を話して協力してもらおうよ、結婚式間に合わなくなるじゃん?」


 一瞬おいて、ユンファさんが乗ってくれた。


「余計な事言うんじゃねえ。それより、高速道路でヘルメット脱ぐな!()()()()()()()()()()()()()()()()


「おい!バイクから……」


 その時だ。


 急ブレーキの音、連続して板金がひしゃげる音が朝日が強くなりつつある、青空に響き渡る。


 びっくりして音がした方を向くと、5台の乗用車が、玉突きで追突し、めいめい、勝手な方向に止まって道を塞いでいた。


 後続車も、次々とハザードランプをつけて、停車していく。


 何人かのお巡りさんが、血相を変えて走り寄るけど、事故った、5台の車からわらわらと降りてきたのは、全員浅黒い肌の外国人だった。


 大げさなジェスチャーを交えて怒鳴り合いを始めるのを、お巡りさん達は呆然と見ていた。


 警察の姿を見つけた彼らは、お巡りさんたちにわめき始めた。


 あ、これ、インド人の喧嘩の仕方だ。


あの人たち、周りの人に『こいつが悪いんだ、見てたろ!?』アピールをするんだよね。


 降りてきた外国の人達は、お巡りさんの数より多い。

 めいめい、警官を捕まえ、ギャンギャン喚いてる。


 ユンファさんの周りを囲んでいた、お巡りさん達も、手を引っ張って、事故現場に、連れてかてる。


 これ、ナディアん家の仕業?


「林堂、行くぞ」


 そっとつぶやくと、エンジンをかけるユンファさん。何人かのお巡りさんが気づいたけど、声をかけられる前に、ユンファさんと僕は、事故車の隙間を縫って、静かに離脱した。

 


 


 


 

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