殺手(シャーショウ)
頭領が、怪訝な顔で40インチテレビのスイッチを入れた。
監視カメラの映像らしいものが、9つのグリッドに別れて映る。
そのうちの一つが全画面に映し出された。
望遠カメラが、かなり鮮明に男たちの集団を捉えている。
目だけ出した被り物をした男が倒れたまま何か抗議している。
一瞬、音声が入ったが、強風の音しかしないので、すぐに無音に戻した。
飛び込んで来た男が、説明する。
「バイクであの男が来たんですが、ハシムの奴らに止められて、荷物を没収された様です」
地面に倒れた男は、銃を向けられ、手を上げながらも、必死で何か言っている。音声はないが、粗末な身なりが哀れを誘う。
ハシム達全員が何かの瓶を持っていた。
「行商人ですかね?コーラか何かを勝手に飲まれて、金を払えって言ってるみたいですが…」
頭領はつまらなさそうにテレビのリモコンを放り出した。
「奪われたのがコーラ程度で良かったじゃないか。ウチの客じゃないよ。呼ぶわけ無いだろ、こんな時に」
「ですよね…」
「録画してるな?」
私の問に皆が振り向いた。
眉を顰めて私の視線を受け止めていた頭領が、数瞬の後、眼を見開いた。
「あれ、アンタの仲間なんだね?もちろんだ」
私は口角がつり上がっていくのを感じながら、早口で指示を始めた。
「オリガくんを呼べ。ハシム家が奈落に落ちるのをライブで見たけりゃ、3分以内に出発だと伝えろ」
「あ、僕も行きます!この人がリーファのお父さんだって伝えてないから」
話の早い奴は好きだ。
護衛と一緒に駆け出す林堂君を見て私は満足した。
モニターの向こうで、命からがらポンコツのバイクで逃げ出すジェーン。
「このクソ暑さだ。冷えたコーラを見つけりゃ真っ先に飲むだろうよ」
事情を察した周囲に興奮が伝播していく。
私は腕時計のタイマーをセットした。
「トリカブトの毒が回るまで20分…ちょうどその頃に川べりの崖を走る様、奴らを誘導する。あの高さなら確実に死ぬ。この動画の使い途は…」
「盗んだコーラに中ったハシム家の跡取りが、運転ミスで川にドボン。これをハシムの本家に送ったら…葬式どころか、何が何でも事故で済まそうとするだろうねえ」
頭領があとを引き取って悪魔じみた笑いを浮かべた。
ジェーンが置いて逃げたクーラーボックスを漁っているハシム家の男達。取り出している
ものを見て、頭領が笑みを深くした。
「呆れたね、あれ、ビールだろ?」
私も笑顔を抑えられなかった。
「飲んでくれるならありがたい。この上、飲酒運転なら、万が一にもこっちに嫌疑はかからない」
オリガ君が、息せき切って駆け込んできた。
開口一番、
「ナンデモスルヨ!脱げばイイカ!?」
私は激怒して叫んだ。
「次言ったら……説教するからな!」





