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バロチスタン編  序章 

《登場人物》


 林堂 凜

 主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。


リャン 健一ジェンイー

日本名、橘 健一。リーファの父。

台湾人。民間軍事会社の社長で、梁財閥の長男。リーファを溺愛している。



 梁 梨花リャン・リーファ 

 小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。主人公が好き。


 香咲 ナディア=マフディー

 小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。


ジェーン

リーファの父の相棒。


オリガ

ロシア人の小6。ナディアの実家のメイド。親戚でもある。


     〜バロチスタン編〜


バロチスタン。パキスタン西部、その地に住む部族達が治める広大な地域。

政府の法は及ばず、部族の掟が支配するため、トライバルエリアとも呼称される。




『幸せな家庭の形は似通っているが、不幸な家庭には、様々な形がある』と言ったのは誰だったか?


私の娘……梁 梨花、そして最近できたという友人、香咲ナディアの家庭を見れば、如何に至言か分かろうと言うものだ。


私は咥えていたタバコを指で弾いた。


現地で調達した色褪せたランクルのボンネットで跳ねる。

ドライヤーの様な熱風がその吸い殻を彼方へとさらっていってくれた。

口の中も砂だらけで、味などない。正直ただの意地だけで吸っていた。


少年が砂嵐に戸惑いながらも後部座席から降りてきた。


「橘さん、マナーよくないですよ」


砂まじりの突風に顔をしかめながら、リーファの友人   


ーあくまで友人だー


林堂凛が轟音に負けじと叫んだ。



私は彼を苦々しく思っている。

何故なら、嫌いではないからだ。


娘が憎からず思ってる、それだけでも男親としては気分が悪いと言うのに、あろう事か別の少女を追いかけてこんなとこまで……


だから、ここに来たのはこの少年の為ではない。

娘にお願いされたのだ。


『お父さん、あのバカを助けて。行きたがってた遊園地1日付き合うから』


そんな理由で、業務を急遽入れ替えた私の方が、どちらかと言えば、馬鹿だろう。


目の前の少女と見紛う顔立ちの少年は、本当に周囲を振り回す。


「今の吸い殻で、誰かの家が火事になったら、謝りに行く。尤も」

私が顎で指す方向を、彼は振り向いた。


「向こう5キロ四方、家と言えばあそこしかないがね」


小学校程もある敷地に建った、白亜の建物が、砂で煙っている。

ここから500mほどか。

視界は悪く、向かい風だが、足許は悪くない。

問題は、蜂の巣にされずにたどり着けるか?


視線の先、屋敷と我々の間で、ピックアップトラックが道を塞いでいる。銃器を抱えた中東系の男たち6人。即席の検問と言う訳だ。身体に弾帯を巻き付けたリーダーらしき男が、招き猫と逆の仕草で何か叫んだ。


「凛くん、両手を上げて。顔はスカーフで隠せ…暗がりに連れ込まれたくないだろう?」


言葉の意味を理解したらしい。慌てて口元を覆うと、不安そうに私を見た。


「下を向いてろ。奴らと目を合わすな。何があっても大人しくしてろ」


羽織っている長袖のデニムの前を開いて武器をもってない事をアピールすると、両手を挙げて砂塵に逆らい歩を進めた。

サングラスをかけたところで、無駄だ。ゴーグルをかけても細かい粒子が入り込んでくる。


自爆を警戒してか、かなり手前でストップさせられた。

カラシニコフをこっちに向けた男に私は叫ぶ。


「マフディー家に用があるだけだ。通してくれ」


「チニー(中国人)が、あのブタ共になんの用だ?」


弾帯男が訛のある英語で吠えた。

台湾人である私にとっては侮辱だが、慣れている。


「友だちの娘を迎えに来ただけだよ。通してほしい」


2人ほど近づいてきて、乱暴にボディチエックを始めた。

3人目は、林堂くんに歩み寄り、被り物を剥がし、何か叫んだ。私自分より彼の身が心配だ。


彼に何かあったら、この連中の一族郎党、全て悲惨な死を遂げる事になる。

それは歓迎だが、巻き添えはゴメンだ。


身に寸鉄も帯びていないので、何かあっても彼を助けられないし、それはここに来る前に強く言い含めてある。


人は分を弁えない行動に出なければ、退屈だが長生き出来る。特に戦場では、身をもって知ることになる。


大抵は命と引換に。


被り物をした男は、林堂君の顎を掴んで上を向かすと、何事か言った。

少年らしい負けん気でその手を払うと、案の定平手打ちを食らって転がった。

私は顔を顰めて、下手に出た。


「おいおい、やめてくれ。逆らうつもりはないし、お家の揉め事に巻込まれるのはゴメンだ」


被り物をした男が、林堂君を引きずり起こして何か喚いている。バカな奴だ。

そしてついてない。


わたしのボディチェックをしている男の腹の前に挿された、古びたリボルバーで、3人までは倒せるだろうが、それが限界だろう。


…私一人なら。


林堂くんの顔が揺れる。一発。二発。

子供に逆らわれる事に慣れてないのだ。

私が口を開く前に、弾帯男が何か叫んだ。林堂君を殴っていた男は不服そうにこっちを睨むと、彼を突き飛ばし、車の中を探り始めた。


私は恐怖の表情を浮かべ、弾帯男を見た。

芝居は得意だ。


リーダーらしき男は嘲るように笑う。


「マフディー家の奴らは臆病者ばかりだ。だから、女しか産めない。我らハーシム一族は違う」


娘の顔が浮かび、反射的に脛を蹴り折りかけたが、あとの楽しみに取っておくことにする。


「通っていいか?パスポートと航空券以外なら何を持っていってもいい」


後で回収するけどな。


「なら、パスポートと航空券だけ置いていけ」


周りがどっと笑う。

私は渋面を作ったが、内ポケットから勝手に抜いた私の荷物をリーダーが回収した。


被り物をした男が車から私達の荷物をもって引き返してきた。私は努めて目を合わさないようにした。


私は、緊張した表情を作りながら呆れていた。


全員銃口を下ろしている。

面倒くさくなって来た。


ここで、全員殺すか?


私はさり気なく、右手の人差し指をのばした。

後ろで縛った髪の中で、発振器が2回震える。


NO。


不殺プーシャア…か。


私は心中、ため息をついた。

面倒な事だ。


「荷物はお前らが帰るときに渡す。アラーに誓おう」


全く信用しないまま、リーダーに向かって不安げな顔で頷いてみせた。


私は車にむかって後退った。

一人が憎々しげに私に向かってツバを吐く。

コントロールが悪くて届かなかったのが幸いだった。




運転席に戻った私は、助手席で腫れた顔を押さえている林堂君を見た。目に涙を浮かべ、顔を顰めている。


「…オリガ…ナディアのお婆さんも無事かな」


目に悔しさと、怒りを滲ませているのを見て、私は少し嬉しくなった。心は折れてない様だ



娘の好きな男だけはある。


「下を向いてろ。あれほど大人しくしてろと言ったのに」


私は、大きく男たちを迂回して、巨大な門扉を目指した。


煉瓦塀の上には鉄条網が張られ、何処から飛ばされて来た麻袋やビニールが死骸を晒していた。


私の背丈の2倍は有りそうな、錆びた鉄格子の扉の前で止まる。


武装した眼つきの悪い男が二人近づいてきて、門を開いた。


さっきのやり取りを見てた筈なのに、なんの助けもなしか。


自力で辿り着くのが約束とは言え、村の揉め事に巻きこんでおいて…


私はため息をついた。


2日ほど先に帰り着いた、オリガ・エレノワから、事情が変わったから絶対に来るなと言われ、人に頭を下げた事の無さそうな老婆が、彼のスマホの画面に出てきて謝罪するのを見た。


巻き込まれに行ったのはこっちだ。

この少年だ。


林堂君を、香咲ナディアの祖母の所まで連れて来るだけの仕事がなぜこうなった?




またしばらく間が開くと思います。

連載形式は初めてなので、書き直しもあるかもしれませんが、宜しくお願いします( ・ิω・ิ)

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