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ぼくが何か、気ががりな夢から目を覚ますと、たくさんの人の気配がした。


 何人かの、あっ、と言う驚きの声。


「ダーリン!」


 ボンヤリとした視界に、金髪の華やかな笑顔。

 それが急に引き戻される。


「イッテ、放セ、ナディ、ハゲルダロ!?」


「どうどう。隙あらば、掴みを狙う……スマブラーの鑑じゃの」


「ハイハイ、離れるッスよ……起こしちゃいましたね、みんなが一目見てから、帰るって言うから」


 

「え……」



 ぼくを覗き込む、たくさんの顔。


  頭が、ぼうっとする。

 

 状況が飲み込めない。


 ここは……

 

 ぼくんちじゃ、無いよな?

 

 夢か?


 サトシの父さんの横で屈んでる、ハスマイラさんの顔が張り詰める。


「林堂くん……私の名前が分かるッスか?」


 ……あ、心配かけてるのか。


 ぼくはボンヤリうなずくと、言った。


「……ハス」


 声が枯れてて、口パクになった。

 頭痛に顔をしかめる。


 ハスマイラさんが、ニッコリ笑う。


「オッケー。点滴、注射、全部ここに揃ってるけど……平日だし、無難に病院行きましょ、熱下がらないし」


 皆が、ぼくに、何か言ってくれるけど、頭がぼうっとして、意味が素通りして行く。

 みんなが一斉に喋ってるから、なおさらだ。


 ジャス子が、ぼくの手をとって、真剣な顔で何か言ってる。


 目もとは腫れてるし、少し顔が赤いけど、元気そうだ。


 ……よかった。


 ぼくは、意味も理解しないままうなずいた。


 泣きそうな顔で、一瞬、僕の手を頬に当てると、顔を背けて立ち上がった。


 ハスマイラさんに促されて、皆が部屋を出て行き、ぼくは目を閉じた。




 

 どれくらい、眠っていたんだろ?


 眼を開けて、飛び込んできたのは、布団の横で寝そべる、リーファの白い顔だった。

 

 いつも片目を覆う、サラサラの黒髪。いまは、じゅうたんの上に軽く広がってる。


相棒は目を細め、ニッコリ笑った。


「今、ハスマイラが、病院に連れてく、準備してるから。それまで役得……あーん」


 ぼくの口もとに、何かを差出す。


 開いた口に押し込まれ、いつもの龍角散ドロップだってわかった。


 リーファがクスクス笑う。


「飲み込めなかったら言ってね? アンタ、口臭スゴく気にするもんね……レスリングのコーチ達、クサいからなあ」


 んーっと、伸びをする相棒。ノースリーブの左腕から、ワキにかけて、赤く腫れてる。


 ……なんで?


 ぼくが、その部分をボンヤリ見てると、リーファが、視線に気づいた。


「あ、これ? シャワー浴びた時、擦り過ぎちゃった。あのデヴに触られたとこ、気持ち悪くって……さ」


 リーファの顔に、一瞬、暗い陰が落ちた。


 すぐに、明るい顔に戻ると、笑って言った。


「今、自分の体でイチバン、嫌いなところ……かな?」


 すぐに天井を向いて、鼻歌を歌いはじめる。


 ……何言ってんだ、コイツ?


 デブって……だれだっけ?


 思った以上に、頭が回らないけど……


 ぼくは、赤くなってる、キメの細かい肌に、手を伸ばす。


「クヤシイから、言えなかったけど、オリガ達のモデル、サマになってたよねぇ……ひゃっ!?」


 ぼくは、その赤くなった、部分に手を触れた。


 何言ってんだ?

 めちゃめちゃキレイじゃんか……コイツの腕。


「り、凜? くすぐったい……」


 ぼくは、すこし、にじりよって、驚いてるリーファの反対側の腋に、手を伸ばす。


 バンザイしてるリーファを抱き寄せ、ワキのところに、鼻を寄せた。


「り、凜!? んふっ!」


 いい匂いがする。

 石けんでも、香水でもない……


 思い出した。


 熱っぽい頭が、更に熱くなって、視界が赤くなる。


「凜!? ダメだよ!……んっ…… 力……強いし……」


 小さい頃から嗅ぎなれた、リーファの匂いだ。


「あっ……んっ……」


 ぼくは、鼻を擦り付けながら思った。

 でも、なんか、今は違う意味があるような……


「んっ、ふっ、んっ……!」


 右手で、頭を抱き寄せられ、ワキに押し付けられた。


 リーファの聞いたことのない声で、頭がシビれ、気づいてみたら、ぼくは彼女の二の腕と、ワキを舐め回していた。


「あっ、あっ、ダメ、ダメだよ……!」


 ……ダメなのか?

 

 そっか。


 ぼくは、のろのろと、横になったまま、唇を離し、リーファの顔を見た。


 コロ……と、口の中で飴が転がる。


 真っ赤な顔で視線を、入り口と僕の顔、交互に行き来させてる、相棒。

 

 左腕だけ、バンザイしたまま。


 信じられないものを、見つめる様な、潤んだ眼。

 

 もう一度、首を反らし、怯えた顔で、扉を見てから……


 自分の左手の甲に噛み付いて、僕をさっきみたいに抱き寄せた。


 いいのか。

 そっか。


 ぼくは、また、リーファのワキを舐めはじめた。


「んっ、んっ」


 リーファの肌から、飴の味がする。


「んっ、んっ、んっ、んっ」


 口の中の飴、邪魔だな。


 顔を真っ赤にして、眉を寄せ、手の甲に歯を立てる相棒を見上げた。

目尻に涙が光っている。

 

 心臓の鼓動にあわせて、頭がガンガンする。

 脳内で、工事でもしてんのかってくらい、騒がしい。


 さっきより、さらに、頭が回らないのに……何かが、僕を突き動かす。


『飲み込めなかったら返せ』


 そうだったな。


 ぼくは、失敗しながら、身を起こす。


「……はんっ……凜!?」


 慌てて囁き、身を起こしたリーファに、ぼくは、歯に挟んだ飴を見せながら、顔を近づけた。


 返すぞ?


 抵抗しない、リーファに深く唇を押し付け、舌で飴を押し込んだ。


 


 

 

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