刺さった?
壁際の大窓から入ってくる、都会の明かり以外は、真っ暗だけど……
相変わらず無表情な、ジャス子の顔はよく見えた。
「………おまっ」
ハッとしたぼくは、ジャス子を突き飛ばして、起き上がる。
Tシャツの左袖が、こぼれたピーチティーで濡れ、肌に張り付く。
冷房が余計に沁みた。
スカートがめくれ、パンツ丸見えで後転すると、何事も無かったかのように、ペッタリ座り込む。
ジャス子の右手が、スマホの上を高速で滑る。
iPhoneの画面に照らされた、ジャス子が舌打ちする。
「そっか、この五人のグループは無いから……チョクで送信……と」
ぼくのlineが、一度鳴った。
ジャス子を問い詰めるより先に、ぼくは慌てて、スマホを確認する。
ジャス子から、送られてきたURLを開こうとする。
猛烈にイヤな予感。
「オマエ、まさか……」
「そ」
暗い画面に、服がこすれる雑音。
酷い画面ブレ。
僕の、ののしり声。
蹴り倒されて、歪んだ顔が画面を横切り、ジャス子の白くぼんやり光っている、スカートが画面を埋める。
それがブレた後。
ぼくたち二人の、横顔をうつすアングルで、画面が止まる。
暗くて、表情はみえなくても……
僕とジャス子が、唇でつながってるのが、大窓の明かりに、浮かぶ輪郭で分かった。
これを、他の三人にも、送ったのか!?
「ヨカッタ! 浮気現場バッチリ撮れてる」
「ふざけんなよ、テメエ!」
マジギレしたぼくは、スマホを床に投げ、ジャス子の胸ぐらを掴んだ。
女子に、こんな事したの、初めてだ。
窓の外に光る、街の宝石に照らされたジャス子は、半眼でぼくを見つめている。
「やーん、これ以上は、別料金」
ぼくは、頭が怒りで真っ赤になったけど、さすがに年下女子を、殴るのは無理。
なんだよ、一体?
ジンたちの前で、パンツ持って来たとか、叫ぶのとは、次元が違うぞ!?
サラサラの金髪からする、フローラルの香りも、全然怒りをやわらげなかった。
「何がしたいんだよ、オマエは!?」
「……何がしたいと思います?」
その時、玄関の方から、ガチャガチャ鍵を開ける音が聞こえた。
「……え?」
何人かが、廊下を駆けて来る音。
ドア画開いて、廊下の光が、人型の影を浮かび上がらせた。
「二人とも、何しちょる!? スイッチはどこじゃ?」
「ナディア!?」
まだ、帰ってなかったのか?
「タシカ……アレクサ、ライト・オン!」
オリガの声で、灯りが灯る。
ジャス子のえり首を掴んでるぼくを見て、オリガとナディアは、目を見開いている。
それは、怒ってると言うより、ビックリしてるカンジだった。
「放して、ベルさん……安心しなよ、他のみんなが、代わりに、ボコってくれるって」
「え、いや……」
反射的に、ぼくが手を放すと、ジャス子は、服を整えながら立ち上がった。
ゆっくりと、恐れる風もなく、オリガたちに歩み寄るジャス子。
「……どういう事じゃ、ジャス子?」
ナディアもオリガも、眉を寄せ、なんというか、不安そうに……いや。
心配そうに、ジャス子を見ている。
ジャス子は、ナディアの問いかけに答えず、ぼくらに聞こえるように呟く。
「二人には刺さった。肝心のねえね……」
廊下で、ドアの開く音がした。
ナディアたちが、そちらを向いて、呟いた。
「リー……」
「……にも、刺さった。さ、何発殴られるか、ジャス子、ドキドキ」
ナディアたちが、気圧されるように、入り口から退くと、ゆっくりとリーファが現れた。
能面に、泣きはらした眼、片手にはiPhone。
無言で、ジャス子を見つめてる。
静かに、ジャス子の前に立ち、見上げるジャス子を見下ろす。
あれ……リーファ、メッチャ怒ってないか?
ぼくは、ジャス子を引き離そうと、立ち上がった。
確かに、度を越した悪ふざけだけど、リーファにぶん殴られるのは、まずいだろう。
ジャス子何考えてんのかわかんないけど……
次の瞬間、ぼくだけじゃなく、ナディアたちも、口を開けて固まった。
「ねえね、ナディアさん達に、言う事があるでしょ?」





