なんでやねん
「……なぁ、ジャス子。あの二人、なんかあったのか?」
ハスマイラさんの運転する四駆に、ぼくと、リーファ、ジャス子。
開けっ放しのサイドウィンドウから、幹線道路の騒音と、排気ガス、傾いた日差しが、遠慮なく入って来た。
メグのマネージャーさんの運転する乗用車には、メグ、オリガ、ナディア。
ナディア、来る時は、リーファと一緒に来たんだぜ?
アイツ、サッサと、メグの車に乗り込むから、ぼくは、はみ出る形で、リーファの車に乗せてもらったんだ。
後部座席、僕の隣で、ボロボロの漫画を読んでるジャス子が、キッと顔を上げた。
「キン肉マンの、23巻を読んでるジャス子に、うっかり話しかけないで!」
スマン。キン肉マン、わからん。
「……面白いのか、ソレ?」
「途中から読んでるから、全然わかんない」
「なんで、持ってきたんだよ!?」
「クソ親父に、1巻から投げつけてたら、たまたま……」
「22冊ぶつけたんかよ!?」
「キン肉マンは。その前に、こち亀……」
「いや、いいわ。聞きたくない」
「とにかく、これを持ち出すのが精一杯だった……」
「家宝みたく言うなよ……」
コイツに聞いた、ぼくがどうかしてた。
助手席で、ふてくされてる、リーファに同じことを聞いてみる。
「……わかんない。ジャス子、マジでどうなの?」
ジャス子は、パタンと漫画を閉じた。
あからさまにぼくと反応違うよな?
「……一つだけ。ジャス子は、いつでも、ねえねの味方」
麦わら帽子をツッコんである、トートバッグに漫画を投げ入れると、静かに続ける。
「ねえねにとって、ベストな方法を取るから……今は、信じて何も聞かないでほしいかな」
聞こえてくるのは、すれ違う車の風切音。
広がる沈黙。
リーファの家に着くまで、ハスマイラさんは、無言だった。
「話せば長くなるから、手短に言うと、にいにと、ジャス子は、お母さんが違うの。父は○チガイ、母は行方不明」
「……どんな顔しろってんだよ?」
リーファん家のリビング。
スマブラを練習する場所。
ローテーブルを囲んで、ぼく、ナディア、リーファ、オリガ。
メグは、ぼくらを送り届けて帰った。
アイツの事も、心配だ。
フツーの5年生にはキツイ修羅場だったもんな。後でlineしよう。
ハスマイラさんは、離れたソファで聞いている。
ジャス子は、フツーに言うけど、内容はかなり重い。それでも、ツッコめるのは、コイツのキャラなんだろうなあ。
「ソレデ? ワタシも似タよーなモンダヨ?」
オリガが、堂々と言う。
ぼくら三人は、なんとも言えない顔で聞くしかなかった。
ジャス子は、頷いて続けた。
「道理で、オリガさん、歌上手いはず」
「ソ、ボッチダカラネ」
アミーゴ、とかつぶやいて、手を合わせる二人。
なんで、無表情やねん。
「結論から言うと、二、三日泊めてほしい。そうしたら、父は、また、茨城県に戻る」
「そうなのか? サトシは大丈夫なの? ぼくと電話した時、自分自身の事は何も言って無かったけど」
「大丈夫じゃない……けど、殴られたりはしない。ひたすら、うっとうしいだけ。沙菜ん家に逃げ込むと思う」
「なんで、ジャス子は、沙菜ん家に行かなかったんじゃ?」
「前の日、ケンカして気まずい。晩御飯、大抵、沙菜ん家で食べるんだけど、沙菜が、唐揚げにレモンかけるから、エビフライにタルタルソースかけたら、激おこで、追い出された」
「平和だな……」
ぼくは呆れて言った。
「お互い機嫌が悪かった。バカ親父が来るから」
「それは、いいけど……」
リーファが、ハスマイラさんの方を向くと、頷き返して、許可してくれた。
まだスーツのままだ。
多分、リーファが寝るまで、あの姿なんじゃないか?
「これ、ナーと、オリガ、呼ぶ必要あった?」
「勿論。だって……」
なんの前触れもなく、ジャス子は、爆弾を落とす。
「ねえね、lineくれたじゃん。『凛にはしばらく休暇って事で、ナーと合意した』って。なら、なんで、USJ、一緒に回ったの? 説明しないと、こじれたままでしょ」
……あ。
ナディアと、オリガが、不機嫌そうにリーファを見た。
「あー、あー、はいはい……そういう事か」
橘さんが、USJの事を口にするまで、ナディアも、オリガも知らなかったんだな?
ぼくが、感心した様に頷くと、今度は、ナディアたちが、ぼくにキツイ眼を向ける。
「うち……もう、四の五の言わんって決めたけど……流石に人間不信になりそうじゃ」
「ワタシも、抜け駆けはアタリマエデモ、ウソハ、キライダヨ。ヤリ方キタナクネ?」
呆然としてたリーファが、何か言う前に、ぼくは言った。
「オマエラの為にやったんだよ。リーファに謝れ」
「「……エ」」
「パキスタンに行く時、リーファのパパが、ぼくの護衛をしてくれたろ? その報酬。リーファ、パパと遊園地、一日付き合うって約束したんだ」
………いい話だよな?
でさ。
ここから、ジャス子とキスする展開……想像できる?
……女子って、僕には、難しすぎだよ。





