どんぐりとサトシ
「サトシ、あんな奴らと口きくの、やめよーぜ」
「せや、デュエマも、ポケカも知らん野蛮人共が……俺から離れんな、カジられるぞ」
女子たちに蹴り回され、氷を背中に入れられたりする拷問を受けた、僕とサトシは、部屋の隅に撤退していた。
女子五人、ナディア、ジャスミン、沙菜、メグ、オリガはこっちを無視して盛り上がってる。
リーファは、京子さんと廊下で話してるはず。
……納得いかない。
沙菜を、ズッ友と言い切るサトシの無神経さが、責められるのはわかるけど、ぼく、何もしてないじゃんよ?
痛む首を押さえながら、サトシとカードゲームの話で盛り上がってると、リーファが、帰ってきた。
……顔色が悪い。
子犬のように飛びついた、ジャスミンも、それに気づいた。
「……ねえね?」
ジャスミンの頭を撫でながら、どこか上の空で呟くリーファ。
「大丈夫。さすがに疲れただけ」
化粧直しから戻って来た、ヨレヨレのナディアママが、お開きを告げる。
広間にある、女神像の抱える、電子時計は、20:04を指していた。
酔ってたはずの父さんが、テキパキと、テーブルの上を片付け始め、目を覚ました、サトシの保護者さんも、それにならう。
あっという間に帰り支度を整えて、全員フロントに集まった。
開け放しの入り口から、蚊取り線香の匂いと、夜の風が漂って来る。
全員、ナディアママに、ペコペコ頭を下げた。
ここに来る前に、支払いの件は、田舎の母が申し出てくれてるので、甘えましょう、で片付けてた。
……これ、スゴい額だよ、きっと。
プレステ5、2台買えるんじゃないの?
モンハンの事をボンヤリ考えてると、京子叔母さんが、珍しく、自分から発言した。
「凛くん、ナディアちゃん、リーファのパパの知り合いが、私の代わりに、リーファと暮らすことになりました」
突然過ぎて、ぼくらは黙り込んでしまった。
リーファは、表情を変えない。
聞いてるみんなも、なんて言っていいか、分からないみたいだ。
「突然、ごめんね。今、言っとかないと、次、いつみんなと会えるか、分からないから……今日は楽しかったです、みんな、これからもリーファと仲良くしてあげてね」
みんなが、ワイワイ、京子叔母さんに話しかける中、ナディア、オリガ、僕、リーファの事をよく知ってる奴らは、少し視線を落としたまま固まる、リーファを見つめていた。
……なんか。
……なんか、それって勝手すぎね?
子供にはわからん事があるのかもしれないけど。
僕だったら、突然、一緒に住む人がコロコロかわったらヤダよ。
……それに、今日、リーファが、ジャスミンの背中を押したばっかじゃないか。
今度は……リーファが、京子叔母さんに近づくきっかけかも、って思ってたのに。
ぼくらの視線に気づいたリーファが、吐き捨てた。
「平気だよ、慣れてる」
トコトコと歩み寄ったジャスミンが、正面から、リーファにしがみついた。
「ねえね、おうちに連れてって。このまま帰るのイヤ」
「おい、ジャス……」
振り返った金髪オカッパの眼に何を見たのか、サトシは、言葉を止め、そして、リーファに言った。
「迷惑だろうが、妹を、頼めんだろうか? タダとは言わない……つまらない物だがこれを」
カバンから取り出したドングリを、震える手で差し出す。
ホントにつまらないモノだね?
「幼稚園で使っていた通貨だ」
リーファが、口を開く前に、京子叔母さんが、ニッコリ笑った。
「いいわよ? 他のみんなも来る? 片付いてないけど」
「ちょ……」
リーファの抗議を、京子叔母さんが、遮った。
「部屋なら、いっぱいあるでしょ? こんな事出来るのも、最後かも知れないし……」
ぼくは、ナディアにアイコンタクト。ナディアは、ナディアママに。
二人が頷くのを確認して、京子叔母さんに言った。
「ぼくたちもいいですか? オリガ、来れる?」
京子叔母さんの、もちろん、に被さる様に、オリガが首を振った。
「マダ仕事、オワッテナイカラ……リーの事、タノムヨ」
オリガの意図がわかる。
彼女、まだ、そこまで、親しくない、自分が行くのは、逆効果って思ったんだ。
サトシ達とメグは、明日は用事があるからと、辞退した。
「これで終わりなんて、メグ、イヤですよう」
「クラベルのグループlineに入れたじゃろ? そっちこそ、オリガとの撮影会、招待わすれなや」
替え玉メグは、ナディアに頭を撫でられ、タクシーからブンブン手を振りながら、去っていった。
「重ね重ね、すみません、明日は独りで、帰れるはずですから」
「これで着替えを……」
恐縮する、コウタさん。
リーファにドングリを渡そうとして、喉を突かれて、むせるサトシ。
ぼくの父さんは、想像通り、「母ちゃんには、俺から言うとく。役に立って来い」と言って去った。
さて。
長過ぎる1日に、かなり、げんなりしてる、僕。
イベント詰め込みすぎだろ?
どこまで、働けばいいのさ?
それでも、相棒をほっとけないって奴らも、おんなじ1日を、過ごして来たわけだし。
メッチャ疲れてるし。
メッチャ眠いけど。
……第二ラウンドだ。





