−40℃なら、バナナで釘が打てる
「優勝するよ!」
「おー!」
10分前まで、スマブラしてたステージの上で、ポーズを取る僕らに、顔を上げたカメラマンが、テヘッ、てカンジで言った。
「……あのー、そこ、『優勝するでぇ!』になんないかな? ホラ、大阪代表なわけだし」
「えー……大阪弁、ヤなんですケド……」
リーファが、顔をしかめて抵抗する。リーダーは、ぼくだけど、未だウマ娘のカッコなので、しゃべりは、相棒におまかせだ。
「アリス姐さん、そんな事より、三人のポーズ揃ってません! クララ姐さん、ベル姐さん、疲れた顔しない!」
もう、すっかりマネジャー気取りのメグが、イヤそうな顔のカメラマンをシカトして喚く。
これで撮り直し六回目だ。
リーファとナディアが、嫌っそうに言った。
「言われた通り、やってるじゃんよ」
「膝、痛いんじゃ」
そうだ、そうだ。
「へー、いいんですか? 全国大会で、延々使われるムービーですよ、一生残るんですよ、Fischer'sに間違いなく見られるんですよ、分かってます?」
「「……押忍!」」
みるみる顔色の良くなった、二人の眼がキュピーンと光る。
僕は、そんなのどうでもいいから、げんなりしただけだ。
……結局、このカッコで行くことになってしまった。
それが、ベストとは思えないし、そもそも、ゲムヲとむらびとを使った時点で、スマ勢には、バレてるだろうけど……
着替えてる時間が、もらえそうにないから、これ一択なんだよ。
優勝したコーフンで、賞状と、大阪代表の
Tシャツ授与を乗り切ったけど、三人共、段々、電池切れになってきてる。
正直、今でもあんまり頭が回っていない。
涙を堪えて、ステージを降りた、サトシ達のチームとも、話していない。
準優勝チームは、優勝チームが何かの理由で、辞退した時の控えになるから、その説明を受けるまでは、帰らないはず。
……アイツラと、話してみたいんだ。
あんな強い同級生、はじめてだし、向こうもそう思ってるはずだ。
ようやく、撮影を終えた僕達を、ナディアママ、そしてスマ勢達が取り囲む。
笑顔のナディアママ、そして、スマ勢達と一緒に写真をとりまくる。
僕は、うさ山さんに、気になってた事を聞いた。
「ん? ああ、バレてるよ。ゲムヲと、むらびと出した時点で、ベルくんの事知ってるスマ勢達なら、そりゃ気づくわ」
重い体が、さらに重くなった。
何より……
顔が熱くなった。
恥ずかしい。
終わった。
ぼくのスマブラ人生、終わった。
「そんな顔しなくても、大丈夫。アイツラ、ベル君が、嫌がる事を広めたりしないよ。大人だもん、ヲタだけど」
そう……なんだ。
ぼくは、心に細い光が差してくるのを感じた。
そうだよな! みんな20歳過ぎた大学生とかだもんね。
JSに鼻息荒くしたり、使用中の縦笛の取り合いで、醜く争ったりしてるけど全部案件だよチクショウ。
「ガールズ!」
みんなと写真撮り終えるまで、笑顔で待ってたオリガが、まず、ナディアを抱きしめた。
「ナディ、オメデトウ……カワイイヨ、似合っテル」
「オリガ……アンガトな、色々」
二人とも、気持ちを伝え合うように抱きしめ合ってから、オリガは、リーファに向き直った。
「リーファ……カッコ良かったヨ」
「当たり前。誰に言ってんのさ」
二人は笑いあって、目の高さで手を握りあった。
そして。
「ベル……Я люблю тебя.(大好き)」
長い間抱きしめられ、ぼくはどうしていいか分からず、背中をトントンした。
「……長いって」
頬を染め、目を細めたオリガが、ゆっくりと離れた。
そうっとナディア達を見ると、さっきの優しい笑顔のまま、ぷるぷるしてる右拳の手首を、左手で握りしめている。
こえーよ。
スマ勢達は、新たな美少女の登場と、百合な
世界に「ドキがムネムネ」していた。
ナディアママが、笑顔でトートバッグを漁る
「いる?」
「あ、うまい棒だ……メグ、これ好きなんです!」
ナディアが、天井を見て、大きく息を吸うと、パン、と手を叩いた。
「よし、みんな寄れ!婆っちゃんに優勝した写真送るけん」
「ワタシ、撮ル! お館サン、マタ一晩中、花火アゲテ、AKブッパナシテ、オマツリするヨ!」
……マタ?
「ベル、アリス、もっと寄りんさい! ええけん、ベルが、真ん中じゃ 3…2…1…勝ったぞ、婆っちゃん!」
真ん中に立った僕に頬をくっつけ、二人に抱き寄せられた、スナップショット。
僕らは、最高の笑顔をしていたと思う。
目を細めて、スマホのシャッターを切るオリガ。
「オリガ、バッチリかの?……ん、なんじゃ?」
笑顔のまま歩いてきたオリガ。
僕を引き剥がすと、取り出したハンカチで、リーファ達とくっついてた、僕の両頬を拭く。
ついでに、リーファ達の腕が巻き付いていた肩のあたりを払うと、僕を抱きしめ、頬にキスし、べったり頬ずりして来た。
会場の温度が、氷点下に下がった瞬間だった。





