今度は全力で
2試合目のカレンも圧勝。
3試合目のアケミ(37)の相手は強かったけど、クラウドの凶斬り、クライムハザード、後隙を埋めるスライディングキックや、超強い切り札で、メガネっ子が、勝ち星をあげた。
決して弱くは無かった、相手チームにストレート勝ちを収めたサトシ達。
スゴスゴと、退場する相手チームをよそに、ステージ上に、三人並ぶ。
場に張り詰めた緊張が走る。
スタッフ達の鋭い視線、観客席からの熱い期待。
ぼくは笑いそうになる。
さっきの試合より、熱気あるじゃん。
「さあ、決勝へ駒を進めます、バーニング学園・お嬢様部の皆さん。強いですねえ……皆さんは、6年生ですか?」
お姉さんのすぐ横でスタンバイしていた、アケミ(37)が柔らかく答えた。
「私とサトシ君が6年、カレンちゃんは5年生ですぅ」
やはりサトシは黙っていなかった。
いや、正確には、黙ってたけど……
観客席を向いて丁寧に答えてる、アケミ(37)の背後に、カレンと並んだんだ。
司会のレイさんの目許が一瞬ひくついたのを、僕らは見逃さない。
だが、僕には分かった。
振った話を途中で打ち切るのは、プロの意地が許さないんだな。
『かかってきなさい』
横顔がそう言ってる。
「そうなんですね。同じ学校なの?」
アケミ(37)の背後からカレンの無表情な顔が現れ……
大きく時計回りにぐるぐる円を描き始める。続いて、サトシも。
周囲から小さい笑い声と、EXILEや、の呟き。
定番すぎて、フツーならそこまで腹筋にクルようなネタじゃないのに、能面美少女と、への字口の仁王顔でやられると………
「………ふぼっ」
一番アタマに来てるはずのナディアが、背後で撃墜された。
うさ山さんが苦笑しながら、
「命かけてるねェ。スマブラの方が、オマケなんじゃ?」
ホントにそうとしか思えない。
ぼくはと言えば、何か、得体のしれない怖さを感じて、笑う気になれなかった。
あれだけ、スマブラ上手いのに、ホントに優勝とか、どうでもいいのか?
観客席の笑い声に、口許を引きつらせた、アケミ(37)だけど、
「あ、はい、そうです!みんな友達で……」
アケミ(37)の背後にピタリと戻ったサトシ達。
困り顔のメガネっ子の背後から。
「ふぶっ」
4本の手がフワフワと踊り出し、リーファが、陥落した。
慌てて、まとめようとした、アケミ(37)のセリフにあわせて、4本の手が、見事にキレのいいパントマイムで、感情を表現する。
「次も頑張って、勝てたらええなあ、思います。ありがとうございました!」
「ぬはははは!」
うさ山さんも、爆笑する。
ここに至って、観客席の湧きっぷりをスルー出来なくなった、司会さん。
「ん?何か盛り上がってますねぇ……サトシ選手、これまで、3ストック残しで勝ち続けてますが、次の決勝、自信の程は如何ですか?」
「地雷踏みに行った!」
うさ山さんが、コーフン気味に拳を握る。
いや………真の地雷は、オカッパ・カレンだろ?
ピタリと動きを止めた、サトシ。
窓の外を眺めるカンジで、刑事っぽく吐き捨てた。
「わからん…………今はな」
「はいっ!ありがとうございました!あちらの方へどうぞ〜」
レイさんが、勢い良く指したのは、また、さっきのスタッフスペース。
さっきより怖そうな顔をしたスタッフが、瞬きせずにスタンバイしている。
「え、ええっ!?うちら、何も悪いこと言うてませんやん!?」
「いいだろう!続けカレン、さっきの延長戦だ!」
「うちら、何も言うてへんのに〜!」
こんどは、サトシが、羽交い締めで、泣き喚くアケミ(37)を引きずり、カレンがすたすたと付いていく。
観客が、大爆笑するのを見て気付いた。
レイお姉さん、もう、乗っかる事にしたんだな?
堪えきれず、うさ山さんが、腹を抱えて、足をバタバタさせてる。
「くそっ、くそっ」
「ぢぐじょう……ぢぐじょう……」
リーファとナディアが、息も絶え絶えに罵る。
「あれは………いけないわ……」
ナディアママが、ハンカチで涙を拭きながら呟いた。
レイお姉さんが、何事も無かったかのように、ニコニコと言った。
「さあ、それでは、20分の休憩を挟みまして、いよいよ決勝です」
「オーダーの話だけど……」
「……言いたかないけんど、うちが負ける前提で延長戦の話せんと」
さっきお弁当を食べた、電光掲示板の前で、僕らは顔を突き合わせていた。
うさ山さん達は、自分の試合に戻っている。
ぼくらと、ナディアママ、メグの5人は、ナディアママが持ってきてくれてた、大学ノートを囲んでいた。
「ナー……クララがそうなったら、4戦目、サトシが出てくるって読みで……誰が出るかだね」
ノートに書くとよくわかる。
クララ✕ サトシ◯
アリス◯ カレン✕
ベル◯ アケミ(37)✕
ナディアは、自分からペンを握り、ためらわず書く。
僕達に、ナディア✕ なんて書かさないための気遣いだろう。
ナディアが、コツコツと、ノートをペン先で小突いて、いくつもの点々が罫線の上に書かれてく。
「僕が……」
「違うじゃろ、4戦目、サトシが出てくるなら、アリスじゃ」
「そうだね。私も勝てないと思うから、5戦目のベルで決める……」
ぼくが、反論しようとするのを、リーファが止めた。
「ベル、私達が2戦勝ったらの話だよ?1戦しか勝てなかったら、4戦目はベルが出るしかない、落とせないから。
それ読みで、向こうが、5戦目にサトシを据えたら………私達の負けだろうね」
そうだ、同じ選手は、1試合、2回までしか、出れないんだから。
「そこで、提案なんじゃが、4試合目になったら誰が出るのか探ろう。うちの座る角度なら、アイツラの様子が見えるけ……」
ナディアが、話を中断し、視線を鋭くした。
僕らが振り向くと……
サトシ達が僕達に向かって、歩いて来るところだった。
僕の心臓が、鼓動を早める。
サトシとアケミ(37)が、ナディアママに頭を下げ、サムライの様な顔が、ぼくを真っ直ぐに見て言った。
「……強いな、ジブンら三人」
リーファが警戒しつつ、答える。
「……アナタ達も」
「さっきは済まなかった。集中を削いでもうて…………次は」
手を差し出し、いい顔で笑うサトシ。
「全力で行く。全力で、勝ちに行くつもりやから…………よろしく」
アケミ(37)が、ホッとしたように息を吐いた。
ナディアが、不満げながらも、目をそらして、ため息をついた。許したんだな。
差し出された手をリーファが握り返す。
「私達も全力でいくよ?覚悟しといて…………よろしく」
ナディアママが微笑み、メグが、青春!ってはしゃいでる。
サトシが、最高の笑顔で言った。
「ああ、お互い全力だ」
……そう、最高の笑顔過ぎる事に、僕らは気付くべきだった。





