よっちゃんイカ
「しもた! くっ………ぶはははは!」
「グララ、なにやっでんのさ!……げほっ」
リーファ自身も、むせながらナディアを責める。
梁家の方針なのか、リーファはめったに笑わない。そのリーファを……こんな大事なときにここまで笑わせるなんて……!
バーニング学園・お嬢様部、何て恐ろしいヤツラだ!
そういう僕自身も、両手で、口を押さえてるから、内圧で耳のこまくが、破れそうになってる。
だめだろ……
あそこで、よっちゃんイカは、ズルいだろ!?
あっ、うさ山さんまで、声も出ないほどヤられて、床転がってんじゃん!?
突然の大爆笑に、驚いたのは、相手チームだ。
ポケモン使ってる子も、ギョっとして、ナディアの方を見たけど、年上のメンバーから「いいから、行け行け!」と叱られ、ゼニガメに、チェンジ、CFに襲いかかる。
リズムをガタガタに崩されたナディアは、あっという間に、50%まで持っていかれた。
さすがに、ぼくらの笑いも止まる。
大分遅いけどな!
ファルコンの体が光り始めた。この切り札の使いどころで勝敗が決まる!
ゼニガメに浮かされたCF。
突然、右拳を、怪我している右膝に打ち下ろすナディア。
短い悲鳴を上げる。
「クララ!」
「……目ェ覚めたワ」
苦しげに呟くと、フシギソウに変わった相手が、上スマで追撃して来るのを、回避でかわし、逆に、下から蹴り上げる。
サマーソルト、サマーソルト……
そこだ!
ナディアが、切り札を発動。
フシギソウをとらえた。
愛機、ブルーファルコンで、もう、何ていうか、思い切り、フシギソウをひき逃げする。
フシキソウは、遠いお星様になってゲームセット。
『見事な逆転劇!一勝目は、チーム・クラリス・ベルが、もぎ取りました!』
GCコンを置き、右膝を抱える、ナディア。
「あんの、クサレガキィ………あ、君の事ちゃうからね!ごめんのう、途中、集中乱してもうて。ホンマすまんで」
不安そうにしている、年下の対戦相手に、ペコペコするナディア。
慌てて戻って来た、セッティング係のお姉さんが、2試合目に備えて矢継ぎ早に指示を出す。
右足を引きずりながら、席に向かうナディアとタッチする、リーファ。
ため息をつきながら、言った。
「クララ、ヒヤヒヤさせんじゃないよ」
ナディアは、冷たい眼でリーファを見下ろし呟いた。
「………よっちゃんイカ」
音速で顔をそらすリーファ。
「な、無理じゃろ?思い出し笑いして負けたら、シバくぞ?」
その心配なく、リーファは、次のパックンフラワーにストレート勝ち。
三戦目。
僕の番だ。
3人目の太った子、後がないから、表情が硬い。
選んだのはリドリー。
随分渋いキャラだな?
強力な技を持つ、大型キャラだけど、切り札は強くない。
ガチガチの相手に対して、僕は余裕だった。
万が一にも負ける気がしない。
頭にあるのは、決勝で当たるだろう、サトシ達の事だけ。
観てるかどうかあやしいけど、サトシたちに、揺さぶりをかけてやりたい。
うまく行くかどうかわかんないけど……
『ルイージィ……!』
僕が選んだキャラに、何も言わない二人。
相手選手の動揺が伝わる。
ゲムヲだと思ったろ?
『3,2,1,……Go!』
ステージは、ヤマブキシティ。
中央に大きなビル、左右に細いビルがあり、その屋上がステージだ。
どこだろうと関係ない。
最速で決めろ。
僕は疲れも、痛みも、頭から追い出した。
ぼくはビルの上、相手はビルの下。
ぼくは、リドリーの攻撃をかわし、相手の左側に回り込む。適当に、弱い攻撃を当て……
行け。
相手に吸引ポンプを発射。失敗。
かわしてもう一度。
そうだ、失敗すれば、もう一度挑戦すればいい。
今度は掴んだ。
吸い寄せ、ヒップドロップ、すかさず、ドリルキック、ジャンプキック、ドリルキック、ジャンプキック……走り込んで、スーパージャンプアッパー。
かかった。
キュイーンと言う効果音とともに、バーストするリドリー。
相手があっけにとられているのが分かった。
ルイージの即死コンボ。
ゼロ%近くから、相手をバーストする高度なコンボだ。
相手が、ビビっているのがわかる。
思ったとおり、掴まれるのを恐れて、遠間から、炎を吐いたり、ダッシュ掴みをしようとするけど……
どれも、僕の計算通り。
そんなの、僕にあたりっこない。
今度は、普通にダメージを与えて、トドメのジャンプアッパー。
お星様になる、リドリー。
最後は、切り札で決めた。
どうだ!
………後で考えたら、かなり無茶な、賭けだった。
出てきたステージ狭かったし、僕、左側からしか、ルイージの即死コン出来ないんだよね。
もう、やんない。
がっくりと背中を丸める、相手選手には悪いけど、ぼくは、拍手する観客席を見回し、サトシ達を探す。
まだスタッフさんに、怒られてるって事はないだろう。
いた。
ただし、サトシじゃなく、カレン。
金髪のオカッパが独り、観客の後ろの方で立ち尽くしていた。
何を考えてるのか分からない、眠そうな碧眼と視線が交差する。
華奢なネス使いは、口からはみ出している、キャンディの棒をはずすと、こちらに口パクで言った。
……よっちゃんイカ。
僕は衝撃を受け、怒りとも闘志ともとれる何かが肚の底で燃え上がるのを感じた。
アイツ………あの時、わざと聞こえるように、言ったんだな?





