由々しき事態ですわ
『一戦目、勝ったのは、『バーニング学園・お嬢様部』のバーニングさとし選手!パーフェクトゲームで決めました!』
……ぶふっ
僕らは、蒼白になりながら、不覚にも笑わされてしまった。
「お嬢様部て………メッチャサムライ顔……ぼほっ」
試合を終えた、さとし選手を見て、ナディアが、吹き出し、リーファが、くッ、とかいいながら、顔を逸して、口許を覆う。
アイツ、試合前の格闘家みたいな顔のまま、パーティーでかぶる、安っぽい三角帽に、丸い鼻眼鏡を掛けたんだ。
しかも。
呼吸に合わせて、両耳のところから、吹き戻しがピロピロと伸びたり丸まったりするヤツだ!
真面目くさった顔と背筋を張った姿勢が、たまらなくアンバランス。
こんな力業……笑うなって方が無理だろ!?
明日、ゲムヲが、ナーフされるって言われても、笑うわ!
観客席から、爆笑が起こり、握手を求められた選手でさえ、ショックを隠せないながらも、それに笑って応えてる。
普通、おちょくってる様にしか見えないはずなのに……
なんか、カッ、カッ、シャキッ、って感じの動きにイヤミがなく、次に控える選手や、セッティング係のキレイなお姉さんでさえ、笑っている。
リーファが、ナディアを振り返って、鋭く言った。
「笑ってる場合じゃないよ、クララ………その手で勝てる?」
いや、アンタもわろうてましたやん。
僕もだけど。
ナディアが、痛みに顔をしかめながら言った。
「笑うと、傷に響くのう……言いたくないけんど………無傷でも、キツイ」
「…………だよね」
ぼくは、最初から、試合を見てなかった事を後悔した。もう少し情報が欲しいとこだけど、配信を巻き戻してる場合じゃない。
さっきも言ったけど、普通、1番目の選手より、二番目の方が強い。
『2戦目、スマブラ突撃隊からは、クマ選手!バーニング学園・お嬢様部チームからは、カレン班長・一日外出券選手!』
………カイジやん
元ネタを知ってるスマ勢達から、大爆笑が起こる。
「ちくしょう……ちくしょう……」
リーファが俯いて、震えている。
ナディアまで唇を噛んで!?
いや、知ってるんだ、それにビックリだよ!
笑いの波状攻撃に、僕らは必死で逆らう。
マジで、笑わされてる場合じゃない!
心の底で、重い石を呑んだ様なストレスと焦りを感じながら、僕は次の選手たちを見た。
相手のスマブラナントカチームだって、二人目はもっとバカ強いかもしれない。
スマブラナントカチームの二人目は、メガネをかけた、大人しそうなヤツだった。
問題の方のチーム、二人目は……
不機嫌な猫っぽい、メッチャオシャレな女子だった。
ボーダーのニーソックスに、ベレー帽、ミニスカートからは、ショートパンツと、長い足がのぞいていた。
互い違いの長さのオカッパ頭は、ブロンドで、ダルそうに細められた瞳は碧眼。
身長は、ナディアより小さいかもしれない。
ただ、ブカブカのᎢシャツにデカデカと描かれた、半泣きでビールを飲むカイジが全てを台無しにしてる……
コイツもまた、ロックなヤツだった。
巨大なゴシックで書かれた、
『犯罪的なッ………うまさッ………!』
の文字にナディアがこらえきれず、しゃがみこんだ。
「あかん……なんで、配信で、あのTシャツが着れるんじゃ……」
「すみません……元ネタ全くわからなくて……」
メグは、オロオロしてるだけ。
いや、オマエがフツーだよ。
幸運なことに、相手はハンチョウを知らなかったみたいで、緊張した顔のまま、ダルそうなカレン選手と握手しただけ。
………この大会、圧勝しても、僅差で勝っても、星が一つ付くだけだ。
もちろん、それは大事なんだけど、次の試合と前の試合は、何も関係ない。
2試合目がはじまった。
クマ選手はリンク、カレン選手は、ネス。
リンクは、『ゼルダの伝説』の主人公で、飛び道具が、メインのキャラ。
ネスは、復帰とリーチの無さが弱点だけど、強力な火力を誇る、ガキンチョキャラだ。
結論から言えば、リンク使いは大した事ない選手だった。勿論、上手いんだけど、小学生にしては、だ。さっきのジョーカーに、比べたら全然甘い。
けど、カレン選手は手練だった。
燃やして掴み、また、燃やしては、空中に放り投げて着実にダメージをためる。
リンクは広いステージを利用して、飛び道具で対抗するけど、バットで上手く打ち返され、逆にダメージを喰らってる。
……リーファと同じくらいの実力か。
僕は嫌な気分になった。
こんな事、考えたくないけど………
一戦目、ナディアが勝つのは、かなり厳しい。
三戦目、僕が勝てるとしたら、二戦目のリーファ、カレンの闘いで、優勝の行方は決まる。
3先だから、例えばリーファが勝っても、4戦目に出てくるのは、サトシってやつだとして………
僕は世界がぐにゃりと歪んだ気がした。
僕が、5年生以降、初めて感じた 恐怖。
スマブラで、誰かに負けるかも、じゃなくて、『コイツ』に負けるかも、は同じ小学生に対しては記憶にない。
僕は、サトシ選手に勝てるだろうか?





