トラブルには原因がある
『Game Set!』
クロムが崖外から復帰するのを、上空からの落下・鍵攻撃で、奈落に突き落とし、画面左に映る僕は、何事もなかったかのように席を立った。
ニコニコ動画の画面を流れる、無数のコメントは、僕らを称賛するものばかり。
『はっやww』
『連続3タテww』
『無敵がすぎる』
『イロモノじゃなかった』
『全員きゃわわ』
さっき試合を終えた僕らは、ニヤニヤしながら、その試合動画を流す、リーファのiPhoneをのぞき込んでいた。
あの後、セッティング係のお姉さんに、私語を注意され(こういう事を予測してか、試合中、選手の声を拾わないよう、マイクは設置されてないないんだ)急に大人しくなった相手チーム。
まあ、無口になった理由は、ナディアの腕前にビビったからだろうけど。
リーファは、1分以内で相手のガノンを片付け、腕を絡めていたナディアから、さり気なく僕を引き剥がして、着席する。
僕も負けてられないので、相手のクロムを崖外に放り出し、空後カメで復帰阻止。ゼロ%キルと、メテオを決め、リーファよりも短時間で決着を着けた。
スゴスゴときまり悪そうに、ステージから降りる相手チームを早送り。
もう、こんな奴らどうでもいい。
ひと通りコメントをチェックしたけど、僕の正体がバレてない事にホッとする。
うさ山さんによれば、警察は、関ジャニ推しスタッフさんの口車で、何とか追い返す事ができたらしい。
当然、警察に通報した人達は、説明を求められたけど、
『人垣でよく見えなかった。でも、手遅れになるといけないので、とにかく通報した』
『女性の悲鳴を聞いたから、通報したけど、男性の悲鳴もあった』
『何人かが、走っていたので、どれが犯人だったのか、よくわからない』
という、警察としては、そんなので通報すんなよ、とも言えない内容ばかりだったので、急に興味を失くしたみたいだった。
『さっきまでそこに座っていた母娘は?』と聞かれ、関ジャニ推しさんが、
「放っておいて下さい、って言って、エレベーターの方に行きましたけど、どうします?」
と答えたのが、止めだったらしい。
イタズラとも言えず、被害者もおらず、警察は、何かあれば連絡を、と言ってサッサと帰ったらしい。
マジかよ、あの状況で何とかなるなんて……
警察って、ホント、少しでも事件を無かったことにしたいんだな、父さんの言ってた通りだ。
次の試合まで、少し時間が出来たけど、考える事が一杯あり過ぎだ。
まず、ナディアパパにさらわれた大男の事。
ナディアの姉、鈴香さんは、無事。東京から、配信見てるとの事。僕らのコスプレの方がよっぽど驚いたって笑ってたらしい。
リーファの、
「この周辺も、鈴香さんの周りも、正式に依頼を受けたパパの会社の人が配置についた」
って言ってるから大丈夫だろう。
大男は、病院らしい。それ以上は、ナディアママ、何も言わなかったし、僕らも聞きたくなかった。この先あいつがどうなるかも、一生知りたくない。『あいつは死んでない、僕らが殺したんじゃない』それでエンディングにしたいんだ。
残った、最大の問題、コスプレ・女装問題だ。
うさ山さん達とハイタッチして、他のスマ勢と雑談をかわす。僕は、1歩引いて、控えめに笑っていたけど、他のスマ勢にバレるんじゃないかってヒヤヒヤしてた。
うさ山さん達、さっきは距離をとるって言ってたのに、どうしたんだろう……
うさ山さんは、ニッコリ笑って、僕に言った。
「はじめまして、キミがベルくんの代理?メチャクチャ強いじゃん!後でオネーサンたちと遊ぼう……って時間だ。仲間の応援行ってくるわ。3人ともまたね」
そう言って、ウソの補強をして去っていった。そういう事か!
これで少なくとも、ここにいた人達は、この、エルコンドルパサーが林堂じゃないって、信じてくれるだろう。
でも、何か、大事な何か見落としてるような……
何だっけ?
僕らは壁にもたれて座り込んだ。
疲れた……
後にしよう。
正直、次の試合の事も考えたくない。
なんで、こんなにトラブルが寄ってくるんだ、よりによって今日。
頭が重く、体も重い。
次の試合相手も、さっき程度のレペルなら問題ないけど……
メグが当たり前の様に、寄って来て座り込んだ。
「ヒヤヒヤしましたよう、クララ姉さん」
ナディアが顔をしかめて言った。
「ヒヤヒヤしたもん、持ってきてくれんか、メグ……ちょっとヒザがの」
僕らは慌てて、ナディアの、下着がスカートから見えないように伸ばしている、膝を見た。
赤いのをこえて、黒く変色して来てる!
「ちょっと、なにこれ……ナー、まさか、あのヒザ蹴りの時!?」
「歯ァ、トバしてやったけの……」
メグが悲鳴を上げた。
「きっと、バイ菌が入ったんだ!あの、汚らしい大人の!」
なんだ、汚らしい大人って。
80年代か?
盗んだバイクで走り出すんか?
僕は冷静に言った。
「いや、打ち身のヒドいヤツだ……痛むか、ナディア?」
ナディアは顔をしかめっ放しだ。
「さっきから、痛かったんじゃが……」
嫌な汗をかいた、ヒシアマゾンが、自分の手首を握り、新しいトラブルを告げた。
「すまん、左の手首、捕まった時にぐねったとこの方がヤバイ」
Oh、どうしよう?





