床受け身が出来る、DXプレイヤーを、君は知ってるか
「そ、それじゃ、手加減しねぇし!?」
裏がえった声で宣言し、大技のダブルラリアットで迫っていくゴリラを見て、僕はコーフンした。
うさ山さん達は、ぐるぐる回るゴリラを見て爆笑している。
いや、一番駄目なやつじゃん、ソレ。
笑いとろうとしてんのかよ?
これから、始まる大虐殺の予感に、ワクテカせざるを得ない!
案の定、ナディアは軽くステップでかわすと、後隙のデカイその技を狩りに走る。
キラン、とか、ポーズを決めてるゴリラを無造作に掴み、床に叩きつけると、さっきと同じサマーソルトで堅実に画面端に運び、殺し技の膝を叩き込む。
相手が軽量級のキャラなら、それで終わってたけど、重量級のドンキーはそれでは飛ばない。
相手は、デカイ団扇を拾って竜巻を起こしてくるが、ナディアのファルコンは、ヒョイとそれをかわして迫る。
フルホールドで団扇を振りかぶるゴリラの頭を踏んづけ、『ファルコンキック!』 斜め下に向かう飛び蹴りで、ゴリラを中央に向かって飛ばした。
さっきも行ったけど、このステージは、奈落に切り取られた真ん中が低くて両端が高い。
だから、真ん中は極端に狭いステージなんだ。
その狭い場所で、ナディアは、ゴリラを掴んでは叩きつけ、ヒザやファルコンナックルを面白いように当て続ける。
やっとナディアがさっきまでとは別人って気づいたのか、ゴリラは小さく、早い攻撃に切り替えてきたけど、上から踏みつけられ、素早い動きに翻弄されて、あっという間にダメージは100%を超えた。
そこからは、ナディアの宣言通り、相手ドンキーは、死に続けた。
『yes!』
ファルコン・ダイブを食らって、赤い致死エフェクトを出しながら吹っ飛ぶゴリラ。
普通なら、ゲームセットだが、高くなってる両端の壁にバウンドして、死なないで済んでいる……
いや、ナディアが死なせないんだ。
「ほうれ、どしたん?うちは、そばにおるぞ、おん?近いか、近すぎるんか?……お、一発当たった、エライぞ、ボウズ!」
NBAの選手のように、小声で煽り続けるナディア。
そうしながらも、ゴリラの攻撃を余裕でかわし、床に叩きつけては、大技で致死ラインを出し続けてる。
相手は、コロす、死ね!とか罵りながら、顔を真っ赤にして技を振り続ける。
ゴリラの技は重く強力だ。
加えて、アイテム戦は何が起こるか分からない。だから、相手は、遊ばれてても、あきらめ切れないんだ。
残り20秒。
相手は逃げに入った。
時間切れになったら、サドンデスタイム、1発先に当てたほうが勝ちのルールの短い闘いに突入する。
そっちの方しか勝ち目がないって分かったんだろう……
けど。
それは、悪手。
この狭いステージで、鈍速のゴリラが俊足のファルコンから、逃げれるかどうか、なんて冷静に考えればわかるだろ?
「飽きたの」
ナディアはボヤキ、軽々と、ゴリラに追いつく。
飛び裏拳と、スライディングキックで相手のガードを削り、不用意にジャンプしたゴリラを待ち構えて、フルホールドの、オーバーヒート・バックナックルで相手のガードを割った。
ゴリラの頭の上を、ピヨピヨと鳴きながらヒヨコが回る。
鬼の形相で、レバガチャする相手を無視し、
ナディアは椅子から立ち上がる。
こちらを振り返って仁王立ち。
客席は大盛り上がり。
リーファはガッチリとナディアの視線を受け止めた。
エアグルーヴを冷たい眼で眺めながら、プロコンを掲げ、ᗷボタンに手を掛ける。
「……じゃあの」
『ファルコォォン……』
客席のうさ山さん達が、拳を突き出し、ハモった。
「パァァンチ!!」
炸裂音のみ残して、ドンキーコングは消し飛ぶ。
『Game Set!』
大逆転に、実況の絶叫、観客席からの歓声が場内を包んだ。
ナディアは背中を向けたまま、プロコンを握った右手を突き上げる。
……あ!
僕は思い出した。
いつかナディアが見せてくれた、デラックスプレイヤーのアイコン。
その人は、GameSetのスクリーンが光る闇の中、背中を向けて、今のナディアと同じポーズをとっていた。
『かっこよかろ?ウチも大会で勝ったらこれやるんじゃ………え?……GCコンじゃ無くなっとる』
それはそうとして、相手選手は、何が起こったのか、わからない様子で固まり、あとの二人も凍りついていた。
ナディアが、ダルそうに告げる。
「オツカレ、少年……言うとくが、ウチこのチーム中で最弱じゃけ、後の二人、ハンカチ用意しときんしゃい」
リーファが、足を組んだまま、歌うように言った。
「分かってんじゃん、チビ?」
「本気にしなや、細目ェ……負けて煽られてきんしゃい。うち、ベルにもたれて休んどるけん」
互いの額を、ぐりぐりこすり付けながら、煽り合う二人。
観客からは、キスしてる様に見えるのか、変などよめきが上がってる。
お互い、素直に称えあうとか……できないのがコイツラなんだよな。





