第三章 ネトデラ少女(2)
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。
ジン
クラスメイト。男。クラスのリーダーで、優しい
佐竹
クラスメイト。女。クラスのボス。
次の日。
佐竹と、ナディアの家の前で、時間丁度に落ち合う事にした。学校の奴らに見つかるリスクを減らすためだ。
lineで送ってもらった地図を頼りに辿り着く。
うちのマンションからはほぼ直線だったけど、歩きだと15分くらいかかった。
スマホ見ながら自転車は、お母さんに怒られるので仕方ない。
ナディアの家、ここだったのか。
僕は市内なのに庭まである、この大きい家に見覚えがあった。
友達と少し大きい公園まで行くときに通りかかったことが何回かある。
印象は、なんというか、カメラがあちこちにあって、要塞っぽい。
「うおい」
佐竹も時間ピッタリに現れた。
学校の時のスカートから、キュロットと軽くフリルのついたブラウスだ。
僕は、下はジャージ、上はナイキの長袖Tシャツといういつもの格好。
うちの小学校は私服、制服どちらでも構わない。
「林堂……女子の家に来んのに、何さ、そのやる気のない服。マジないわ」
「何言ってんだ、見ろ。switch一式とプロコン、GCコンまで持ってきたんだぞ? やる気の塊だっての」
「……いや、もう、死のうよ」
言い返してやろうとした、丁度その時、扉が開いて、ナディアが顔だけ出した。
ぼくらを認め、しばらくためらった後、手招きしようとしてやめた。
薄い褐色のほおが、離れててもわかるくらい赤い。
何かに気づいたらしい、佐竹が門を開けてスタスタ歩いて行って、二人共、扉の陰に消える。
何かボソボソと言い争う声がして、ナディアだけ、突き飛ばされて出てきた。
「あっ!な、何すんじゃ!」
扉を閉めて、鍵までかける音がした。誰んちだよ。
ナディアが、オロオロと扉と僕を交互に見て、怒ってるんだか何だかわかんない顔で僕を睨む。
女子の理不尽には慣れてるけど、ナディアが涙目になる気持ちはいくらか分かった。
被り物をしていない髪と、カッチリした、ブレザーの前を手で隠そうとしている。
一番驚いたのは、同じ黒のスカートから、脚がむき出しになってたことだ。
僕は、マジで仰天した。
「フハハ、どうだね? お嬢様学校の制服っぽい私服、その破壊力は!」
ドアの向こうから、エラそうな佐竹のこもった声が聞こえた。
「エンジ色のタイと、桃色のカッター、白ストライプが一本入ったスカートだ!全身、レピピで来るとは、おねえさんマイッタ! 見習え林堂!」
「ちがうて!ママがこれしかダメ言うきに」
「感想だ!感想を述べよ、林堂!……あ、こんにちは、お邪魔します」
ホントは無視したかったけど、服を選んだナディアのお母さんが来たみたいだし、こう言うしか無いな。
佐竹には口止めするとして。
「ん、まあ、めっちゃ驚いたけど……似合ってるんじゃないか……知らんけど」
僕は恥ずかしくてナディアから目をそらした。視界の隅でナディアが凍っている。
ガチャリとドアが開き、
「オラアー!」
叫びながら佐竹がウキウキと飛び出してきた。
「ナンダヨ、林堂、やればデキる子じゃん!いったあ!なにすんじゃテメー!」
蹴られた脛を抱えて、ピョンピョン跳ねる佐竹に、僕はキレそうになるのをコラえて言った。
「お前は、ニワトリか?教室で、自分が言ったこと覚えてる?」
「うっさい、私はいいんだよ!」
叫びつつケツに回し蹴りしてきた。いってえ。
ドアの内側にいるらしいお母さんと話してたナディアが慌てて言った。
「二人とも、とりあえず中入れ。騒いでたら近所迷惑じゃきに」
「あ、ゴメン。私用事あるからここまで」
「「えっ?」」
佐竹は胸を張ってフフンと鼻を鳴らした。
「これからダンスのリハがあるから、伊高で」
伊高とは僕らが鬼ごっこしたり、バラ当てしたりしてる少し大きい公園だ。
「あの塀のとこで集まってるアレか?……いっつも思ってたんだけど、なんでオマエラ、壁の方向いて踊ってんの?」
「うっさいな、それより、お菓子かなんかないの?私の分」
「家から持ってきたプリンと、かっぱえびせんなら」
おお!と叫ぶ佐竹に、お母さんに持たされた、プッチンプリンと、お菓子の小袋を渡す。
「んじゃ、若いもんは若いもん同士で」
佐竹は、お邪魔しましたーとか叫んで走り去った。
僕とナディアはボンヤリとそれを見送った。
目が合うと、慌ててドアを開いて僕を招く。
「マ……母さんじゃ。母さん、この子」
「勿論覚えてますよ、よく来てくれたわね」
玄関の上がり口でニコニコしてるナディアのお母さん。
色白で三つ編みを一本だけ垂らしている、どう見ても日本人だ。
美人で、ナディアに結構似てる。
「あ、お久しぶりです」
僕は、頭を下げた。
ナディアのお母さんと会うのは2度目で、あのジェイクの件以来。
静かだけど、なんか、スゴく芯が強そうなイメージだった。
「って言うか、この子しょっちゅう林堂くんの話してるから、今更紹介されても、ねえ?」
「ママ、だまって!」
「あー…」
僕は返事に困った。
いや、ほとんど話した事なんかないはずだけど?
「林堂、こっちじゃ!ママ、部屋入って来んといてや!」
僕の手を引っぱって二階に急いで向かう。ナディアの気持ちは分かる
親ってなんであんなに子供の黒歴史を晒したがるんだろう。
まあまあ、ナディア、胡座かいちゃダメよ、うっさいわ!
の会話を聞きながら、ナディアからする、いつもと違ういい匂いにとまどっていた。





