通りすがりのオッサンは頼まれる。その1
「えっほ、えっほ、えっほ」
オッサンは走っていた。風のような速さで。走り始めてから、かれこれ三時間は経過していた。しかし、特に休む事もなく走っていた。
ふう。えーとあの山が見えるって事だから・・・・百キロは軽く走ったかな?
目印のとんがり山を見ながら。今この辺りかなと、頭の中の地図で確認する。目指す公国まで、行程の十分の一にも達してない。
「もうちょいペースをあげるか」
オッサンのフルマラソンは、以上の速さ。百メートルを世界記録よりも速く駆け抜けるほどだった。
「えっほ、えっほ、えっほ」
それにしても、さすがに走ってだと大変だな。兎に角、日暮れまでに出来るだけ進もう!
「えっほ、えっほ、えっほ」
*****
「ふう、今日はここで寝泊まりするか」
山奥の大木の根本で、キャンプを始めるオッサン。森の中は真っ暗で、焚き火の明かりのみが、辺りを照らしいた。
「さて、メシの準備をするか」
焚き火の火を使って、簡単な夕食作りを開始する。マジックバックから、ベーコンとソーセージを串に刺し。焚き火の近くに置き、じっくりと火を通す。後はパンと果物、酒はやめておくかな。いつも通りの旅。オッサンにとっては、慣れたものだ。
しかし、それは突然起きた。問題が発生したのは、夕食を食べた後。デザートにリンゴを齧っていた時だった。
「もし、もし」
「ん? 今声がしたような・・・・気の所為か」
「もし! もし!」
「うおっ、またか。でも・・・・誰も居無いよな? ゴーストか? それとも幻術の類いとかか?」
「もし! もし! こちらでございます!」
「ん? 真上から声が・・・・うわっ! えっ、ピクシー?!」
オッサンの頭上に、パタパタと飛ぶピクシー、妖精がいた。
「旅のお方! 助けて欲しいのです!」
「妖精・・・・」こっちに転生してからと言うもの、色んな凄いものを見たが、妖精は初めてだ。
「あの、どうかしましたか?」
「いえ、妖精を見たのは初めてなもので・・・・」
「そうですか・・。旅のお方、助けて欲しいのです」
「助け?」
「はい」
妖精に助けを求められるとは・・・・何て言うか、ファンタジーって感じだな。
「それで君は俺にどうして欲しいんだ?」
「はい、それは・・・・」
「ん?! 何だ、何か来る!」
オッサンは、妙な気配を感じとる。音も無く、森は静けさを保っている。しかし、何かが近づいて来ているのは確かだった。
妙な気配だな。この気配が、妖精が助けを求める原因か?
「来ます。恐ろしい者が!」
妖精は怯えて、オッサン後ろに隠れてしまう。
「コイツは・・・・ゴーストじゃねぇーか!」
オッサンの目の前に現れたのは、数十体を超えるゴーストの群れだった。
「な、なんだこの数? おいおい!」
「旅のお方! どうにかして下さい!」
「どうにかって・・・・まあ、俺に出来る事は一つだけなんだが」
「出来るなら、ちゃっちゃとやって下さい!」
「そんじゃあ、ほいっと!」『パーーーーーン』
「「「「「「ほへぇーーー」」」」」」
オッサンが手を叩くと、ゴーストが一斉に空に飛んでいく。
ある者は叫び。またある者は喜び。またまたある者は恍惚の表情を浮かべながら。天へと昇っていった。
「な、何をなされたのです?!」
「えっ? 成仏させただけだが? まあ、強制的に・・・・」
妖精は「信じられない」と目を点にして驚いていた。小さいから本当に点だが。さらに、俺の周囲を飛び回り、ジロジロと俺を見て来た。そして、確認が終わったのか。「この方ならきっと」と呟いた。
「あの! お名前を伺ってもよろしいですか?」
「あぁ、いいけど・・・・その前にいいか?」
「はい、何でしょうか?」
「君の名前は?」
「これは失礼しました。私はこの森に住む妖精、エリエルと申します」
「俺はルド、ルド・ロー・アスだ。冒険者をしている」
「ルド・ロー・アス様ですね」
「ルドでいいよ」
「では、ルド様! お願いでございます! 妖精の隠れ里、アーナンを! そして、大精霊様をお救い下さい!」
・・・急いでる時にコレかよ。でもまあ、仕方ないか。こんなチッコイ子が、助けを求めてる訳だし。・・・・よし、やったろうやないか!
「うん。いいよ」
「あ、ありがとうございます! さあ、こちらへ!」
「おう」
男気のあるオッサンは、基本、困った人のお願いを断らない・・・・いや、断れないのである。




