オッサンと山脈の主 その1
「なぁフィオ? ここって、結構危険地帯だよな?」
「ふえ? はい・・・・そうですぅ。一様、Aランク以上じゃないと入れないですぅ」
「リジー、油断は禁物だよ」
「でも姐さん、コレだよ!」
「「「「・・・・・・・・」」」」
皆の前には、ベゴン山脈へと真っ直ぐに道が続いていた。木々が生い茂る魔の森に、不自然な程の道が通っている。その光景に、皆何も言えない。
「ルド殿、一つよいか?」
「何でしょう殿下」
「この道は何なのだ?」
「何だと聞かれましても、道としか・・」
「いや、何故道があるのかと聞いているのだ」
「えーと、十年以上行き来してるからですかね?」
「行き来しただけで道が出来たと・・・・」
「「「「「・・・・・・・・」」」」」
皆黙り込んだ。重い空気の中、リサーナが口を開いた。
「ルド殿は、正真正銘の化け物だったのですね」
「「「「・・・・・・・・」」」」コクコクと黙ったまま、その意見に同意しますとばかりに、皆首を縦に振った。
何故そうなる。十年以上行き来すれば道くらい出来るだろ。獣道みたいなもんじゃん。
オッサンは心外だなと、内心思った。しかし、其処にあるのは獣道などとは比べられないものだった。幅六メートルの、舗装はされていないがとても平坦な道が通っていた。
「ルド、どうやったらこんな風になるんだい」
マリーダが呆れた様子で聞いてきた。
「どんなって、普通に歩いていただけなんだが? ただ、偶に魔物が襲って来るから、それを返り討ちにしたぐらいだぞ?」
「成る程、魔物を薙ぎ払いながら森も薙ぎ払ったと?」
殿下がふむふむと納得していた。何をどう納得したんだ?
「姫様、この道を利用すれば、ベゴン山脈一帯を開拓出来るのでは?」
「確かに、この道があれば人を大量に送り込めるな」
「あっ、殿下。それはやめた方がいいかと」
「ん? どう言う事だ?」
「ベゴン山脈一体を治めてる主が、黙って無いですから」
アイツ、そうゆうの五月蝿いんだよね。
「しかし、ルド殿はその主を倒せるのでは?」
「殿下、確かに倒せます。ですが、倒したらベゴン山脈一帯が無秩序になってしまいます。統率する者が居なくなったら、魔物がベゴン山脈一帯から溢れ出ます。比較的近い領地や王都は危険にさらされますよ」
「・・・・・・・・確かに、ベゴン山脈一帯の魔物が溢れたら王国は終わりですね。姫様、ベゴン山脈の開拓は無理そうですね」
「ふむ、開拓して得られる利より失う利の方が多いか」
殿下とリサーナが、考え込む様に答えた。王国に仕える者として心配なのだろう。こう言った問題はどの国も抱えている。何せ大半の国に魔物の領域があるだ。その一つからでも魔物が溢れれば、壊滅的打撃となってしまう。
「まぁ、安心しろリサーナ。ベゴン山脈の主は、比較的仕事してるし」
「なぁルドさん。主って仕事するのか?」
耳をヒョコヒョコしながら、リジーが聞いてくる。
「リジー、主が仕事なんてする訳ないですぅ。ルドさんの冗談ですぅ」
「そうだよな? 魔物が仕事なんてする筈が・・・・」
「いや、するぞ」
俺の反論にリジーの耳がピクっと反応した。フィオも「ふえっ!」と反応した。
ふむ、かわえぇのぉ〜ワンコ。オッサンは生粋の犬派である。
「ルド、主が仕事ってどう言う事なんだ?」
ミスリル製の戦斧を担いだマリーダが、意味が分からんと言った感じで聞いてくる。
「主ってのは強ければなれる訳じゃない。魔の領域は魔力が溢れていて、主はそれを調整する役目を負ってるんだ。領域にある地脈から、吹き出す魔力の間欠泉を調整して均衡を保ち、魔の領域一帯の安定をはかってる。主も意外に、大事な役目を負ってるんだ」
「「「「「へぇーー」」」」」
みんな感嘆の声を漏らした。リジーは「ルドさんすげぇ」
と笑い。フィオは「そんな話、聞いた事ないですぅ」と俺の話をメモしていた。マリーダは唯「へぇー、詳しいな」とそこまで感心が無いようだ。リサーナは「Sランク冒険者となれば博識ですね」と頷き、殿下に至っては「さすがはルド殿だ!」と目をキラキラさせていた。
・・・・殿下の眼差しが眩しい。
「ルド殿は、その様な知識を何処でお知りになられたのですか?」
「まぁ、仕事をしている内にな。それに、ファルガスのじいさんが色々教えるから覚えちまっただけだ」
「ファルガス様直伝ですぅ!」
「そんな大層なもんじゃ無いが・・」
「ルドさん! 少しは自分のおかしさに気づいてくださいですぅ」
「「「「「うんうん」」」」」
みんな、確かにという顔で頷いた。
おかしいとは何だ! おかしいとは! 俺は単に物知りなだけだ。ファルガスのじいさんのような、学者バカじゃ無いし。
「話はさて置き、急いだ方がいいんじゃないか? 道がある分歩きやすくはあるが、歩きながら話す時間はないぞ」
「そうだな、マリーダの言う通りだ。殿下、リサーナ。少し急ぐが大丈夫ですか?」
「ふむ、ルド殿。気にするな。妾とて戦姫と呼ばれるなりに鍛えている。リサーナも、妾の近衛隊の中では一番の実力者だから大丈夫だ」
「はい、姫様の言う通り問題ありません。伊達にルド殿の妹弟子ではありませんから」
「なっ、狡いぞリサーナ! 妾もルド殿の妹弟子なのだぞ」
「ですが、私より一日遅くですから」
「ぐぬぬぬっ、たった一日でわないか」
「たった一日でも、私が先です」
・・・・あのぉ〜、その辺でお願いします。
「じゃあ、行きますか?」
「「「「「はい!!」」」」」
俺達は先を急ぐ為、走り出した。かれこれ、三時間は走っている。チラッと、右横を走る紅き三ツ星を見ると。さほど、苦も無い様子で走っている。だが、左側を走っている殿下とリサーナは、少し疲れが見える。
そろそろ、休憩を挟むかな? いや、夜営の準備かな? 空を見ると陽が沈み始め、西の空が赤く染まっている。
ちょうどこの辺りだったよな? あの木。あっ、あった。
「よし、みんな! あの木の下で夜営しよう」
「「ハァ、ハァ、ハァ」」
「殿下、リサーナ。これでも飲んで」
「かたじけないルド殿」
「ありがとうございます。ルド殿」
「「ん、ん、ごくん・・・・プハァー」」
「生きかえるな」「生きかえりますね」
「所でルド殿、何故この木の下なのだ?」
殿下は尋ねつつ、白い葉をつけた木を見上げた。
「私も気になっていました。この木は一体?」
「この木は・・・・「魔物を寄せつけない聖樹、オプリの木だよ殿下」
俺が答えようとしたら、マリーダが割って入って来た。
「旅の時に役立つ、冒険者の豆知識ですぅ」
「こいつの下なら、安心して眠れるんだよねぇ」
・・・・俺の出番を取られた。殿下は「そのような木があるのか?」と首を傾げ。リサーナは「冒険者の方々は、私達が知らない知識をお持ちなのですね」と感心していた。
「・・・・取り敢えず、テントを張って夜営の準備をしようか。それと、夕食の準備を」
「はいですぅ」
「はーい」
「妾も手伝うぞ」
「テントなら、軍事訓練で張りなれてます。手伝わせて下さい」
「それじゃあ頼む。マリーダは薪の準備を、俺はその辺で何か狩ってくる」
「あぁ、分かった。美味い奴にしてくれよ」
「居たらな」
☆☆☆
フィオとリジー、それと殿下にリサーナは、テントの準備を始めた。
「フィオ、そっち持って」
「はいですぅ」
「姫様、そうではなくこう・・・・」
「こうか?」
「いえ、こうです」
「うぬぬ、こうか?」
「はい、そうです」
リサーナは兎も角、殿下はテント張り何てした事無いよな。王女様だし。
さて、何か狩ってくるかな。
道から森の中に入って百メートル程歩くと、いきなり巨大な鹿に出くわした。
「おっ、コイツは・・・・美味い奴だ!」
オッサンは、シュバっと目にも止まらない速さで動き、一瞬にして鹿の首を斬り落とした。
「ふう、いい奴に出くわしたな。後は・・・・おっと、血の臭いに寄って来たか」
暗い森の奥から巨大な狼の群れが、唸りながら近づいて来る。他にも、赤毛の大猿や木々の隙間から見える空に、黒いハゲワシの姿が見えた。
「夜営地に戻る前に、片付けるか」
『ドガーーーン、ドバーーーン』
オッサンと魔物の激闘。いや、蹂躙が始まった。
「ルドの奴、派手にやってるな。フィオ、お湯を沸かすから水袋を取ってくれ」
「はいですう」
フィオは、肩にかけるタイプのマジックバックから水袋を取り出して、マリーダに渡した。マリーダは集めた薪に火をつけて、ポットに水を注いでお湯を沸かし始めた。
「あの、大丈夫でしょうかルド殿一人で」
「妾達も加勢した方がいいのでは?」
淡々と、夜営の準備続ける紅き三ツ星。そんな中、リサーナと殿下はオッサンを心配していた。
「大丈夫っすよ。ルドさんなら全然平気」
「そうなのですぅ。心配するだけ損なのですぅ」
「放っておけばいいさ。ルドはこの辺りを良く熟知してるようだし大丈夫だよ」
「「・・・・・・・・」」
「あっ、音が止んだ。終わったみたい。何か美味い奴が取れたならいいけど。ねっ! 姐さん」
「この辺りの魔物の分布が分からん以上、どんな物を持って来るか分からんぞリジー」
「硬いお肉は勘弁ですぅ。後、ゲテモノも嫌ですぅ」
オッサンの心配ではなく、オッサンが取って来る物に心配する紅き三ツ星に、この程度は何の問題にもならないのだと少し安心するのだが、殿下とリサーナは戸惑ってしまう。
「おーい、大物取れたぞ」
『ドサッ』と、担いで運んで来た巨大な鹿を降ろしたオッサン。地面に降ろした鹿を見て、紅き三ツ星は驚愕した。
「「「森の王!!! キングディア!!!」
「何てもんを狩ってくるんだルド!」
「ルドさんが狩りに行ってから十分と経ってないのに・・・・化け物っす」
「ルドさんはおかしいですぅ。非常識ですぅ」
おい、折角取って来たのにそれは無いだろ!
「マリーダ殿、この鹿は凄いのか?」
「殿下、凄いなんてもんじゃ無いよ。Aランク以上の力があり尚且つ、Sランク並みの出逢わなさと逃げ足だ。ここ三十年は狩られて無い筈だ」
「ほう、さすがはルド殿だな」
「はい姫様。さすがルド殿です」
「なぁ、マリーダ。ここ三十年狩られて無いって言ったが、俺、この森で十頭は狩ったぞ?」
「はぁ? だが、ギルドにキングディアが持ち込まれたって話は聞いた事ないぞ?」
「そりゃ、持ち込んで無いからなぁ」
「はぁぁぁぁ?」
何故睨む? 売る売らないは俺の勝手だろ?
「あのルドさん、もしかしてですぅ。他にも、色々持ち込んで無い物があるですぅ?」
「まぁ、あるっちゃーあるな。後、別に隠してた訳じゃ無いぞ? 老後の備え的な?」
「いや、ルドさんは備える必要無いでしょ。稼ぎまくってるんだから」
リジー、備えは必要なのだよ。異世界なら尚更・・。
「もう、この話は終わり! メシにしようメシに!」
「そうだな。ルドが折角ご馳走を取って来た訳だし。メシにしよう。フィオ、火を頼む。リジー、キングディアを捌くの手伝え」
「マリーダ、血抜きはしといたぞ。夕食は俺が作ろう」
「ルドさんのご飯! 久しぶりですぅ」
「ルドさん手料理かぁ、久々だなぁ」
「じゃあ、料理はルドに頼むよ」
「おう、任せとけ!」
独身生活が長いオッサンは、料理が得意だった。
☆オッサンが料理を作っている頃、王都のお城では・・。
「何じゃと! ベゴン山脈を突っきるじゃと!」
「はい、私も馬車で途中まで送る際に聞いたのですが、どうやらそのようです」
「陛下! 直ぐに後を追いかけた方がよいのでは!」
危険地帯を突っきって行くと聞かされて、陛下と大臣は顔を真っ青にしていた。
「そのぉ〜、しかも殿下の護衛を、リサーナ殿以外を置いて行きました」
「「なにぃ!!」」
「どうしましょう陛下! そもそも、エバン殿も何故止めなかったのですか!」
「申し訳ありません。姫殿下が問題無いからと」
「陛下! どういたしますか?」
「んーむ、まぁ落ち着け、大臣よ。王国一の冒険者がついておるのだ。心配あるまい。それに、何かあれば・・・・。」
「成る程、あの計画を・・」
「そう言う事じゃ。とは言え心配じゃの」
「そうですね。あの者が居るとはいえ」
「ルド殿がついておりますし、大丈夫ですよ陛下、大臣」
「そうじゃの」
「えぇ、そうですね」
☆王都で三人が語らっている頃、ベゴン山脈では・・・・。
ベゴン山脈の中腹の洞窟。
「この匂い、これは彼奴の! ふわーはっはっは! 今度こそ! 今度こそ奴を!!」
巨大な何かが洞窟が這い出て、暗くなった空を見上げた。
「くっくっく、よい月だ。今宵こそ彼奴を倒し、この地一帯の主としての誇りを取り戻すのだ!!」
「ぐおおぉぉぉぉぁぉぁぁぁ」
ベゴン山脈に咆哮が轟いた。
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