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7.そういえば、鍛冶屋に行くんだった!

 サードタウンの街に到着するや、暗黒竜と聖女様は、ガイドブック一押しの温泉に行ってしまった。なんでも美肌効果があるらしく、二人のテンションが上がりに上がっていたので、止めることなど不可能だったのだ。


 かくして、男ばかり3人、雑踏の中に取り残されてしまった。俺たちは黙って顔を見合わせる。


「俺はこの剣を鍛えなおしてもらいに知り合いの鍛冶屋に行くけど、お前らはどうする? 先に温泉に行っとくか?」


 俺が尋ねると、魔王と邪神は首を横に振って答えた。


「注文した卵が届くまでまだ時間がありそうだから、温泉は後にしよう。鍛冶屋に同行するぞ?」


 待ってくれ、お前はどんな卵を用意しようとしているんだ? 卵、普通に売ってるぞ?



「私も美肌効果には興味があるんですけど、温泉は逃げませんからね。お供しますよ?」


 待ってくれ、お前は美肌効果に興味があるのか? ぷりぷり肌の邪神とか、俺は嫌だぞ?


 

 というわけで、3人でドワーフの鍛冶屋を訪れたのだが、俺の顔を見るや、ドワーフのオヤジは大きなため息をついて言った。


「おいおい、久しぶりに顔を見せたとおもったら、お前、相変わらず量産品の剣を使ってんのか?」


「お前にはそれで十分だっつって、剣を売ってくれなかったのはオヤジだろうが?」


「だからって、いつまでも量産品の剣使っとるやつがあるか!」


「俺は、オヤジが鍛えた剣が良かったんだよ!! 言わせんなっ!」


 怒鳴り合いの末叫んだら、ドワーフが突如ニヤニヤと笑い始めた。


「で、今日はついにワシの鍛えた剣を買いに来たって訳だな?」


「いや、違う」


「違うんかい!!」


 ドワーフが盛大にずっこけたが、もともと背が低いのでそれほど変わりはない。俺は構わず話を続けた。


「これ、元相棒の剣なんだが、ヒビが入っちまってな、治して欲しいんだ」


 元相棒から譲り受けた剣を取り出して、作業台にごとりと置くと、ドワーフは息を呑み、真剣な目つきで、検分を始めた。ごつごつと節くれだった指がそよ風のように優しく剣を持ち上げる。


 こうなると、オヤジは長い。まぁ、ドワーフのさがもあるんだろう。気の済むまでじっくり見てくれや。


 俺は店の隅から椅子を三脚引っ張ってきて、腰掛けた。









 ……3時間後。



「いやいやいや、流石にもう見飽きたんじゃね? そろそろ仕事しようぜ??」


「嫌だ。もっと見ていたいんだ!」


「駄々っ子かよ!」


「ふむ。お前、これがどういう剣か分かっているのか?」


「知ってるに決まってんだろう! エルフの国のお姫様に元相棒がもらったんだ。御託ならあのお姫様から延々と聞かされたぜ。それより、いい加減見積書を作ってくれよな」



 いつまで経っても剣を手放そうしないドワーフに痺れを切らし、三つ編みにされた髭を引っ張って、算盤台の前に座らせる。


 ちなみにドワーフの髭を三つ編みにしたのは、退屈した魔王と邪神である。三つ編みの端がピンクのリボンで結ばれているが、ドワーフは剣に夢中で気づいていない。



「これは、ドワーフの王が特別に鍛えた伝説の聖剣だぞ! 世界を滅ぼさんとする敵に立ち向かうべくエルフの勇者のために打たれたあの伝説の聖剣だ!」


「知ってる、知ってる。その伝説の聖剣にヒビが入っちゃったから、治してくれっていってるんだ」


「見てくれや、この黄金に輝く刀身を! 世界で一番硬いと言われる金属で作られた伝説の聖剣を!!」


「そうだな、その伝説の聖剣にピキっとヒビが入ってるの見えるか? 頼むからこれを治してくれ」


 

 ドワーフの剥き出しの両肩を揺すってもう一度修理を頼む。


 ちなみに、退屈した邪神と魔王によって、ドワーフの服は芸術的に切り裂かれ、際どいビキニアーマーのようになっているが、ドワーフは剣に夢中で気が付いていない。



「なのに、なのに……。どうして伝説の聖剣に、ヒビがが入ってるんだーーーー!」



 とうとうドワーフのオヤジが爆発してしまった。ビキニアーマー&三つ編み髭リボンだけどな。



「いやぁ、話せば長いんだけど……」


「いいから話せ!」


「……実は、俺、元相棒と別れたんだよ」


「お前ら、付き合っていたのか?」


 ドワーフのオヤジがキョトンと首を傾げた。遅れて髭リボンが揺れる。


「違う違う違う!! 今のは俺の言い方が悪かったな。一緒にパーティー組んでたんだけど、方針の違いで俺がパーティーを出ることになっただけだ」


 追放という言葉を使わなかったのは、ささやかなプライドだ。だが、慌てる俺に対して、ドワーフのオヤジは興味を失ったかのように言った。


「冗談だ。そんなに慌てなくてもいいだろう。まさか、本当に好きだったのか?」


「んなわけあるかよ!!」


 おい、オッサン! ほっぺに真っ赤なチークを塗りたくるぞ!


 荒れ狂う俺をよそに、ドワーフのオヤジがどこまでも冷静に、「冗談さ、冗談。そんなことはどうでもいいから話を進めろ」と促してくるのが、またムカつく。おかしい、話を脱線させたのはこいつのはずなのに。


 しかし、相手はビキニアーマー&三つ編み髭リボン。この事実だけで、俺の心には余裕が生まれる。絶対に笑ってはいけない。


「とにかく色々あって、最終的に元相棒が冒険者を引退することになったんだが、最後に手合わせがしたいと言い出したんだ」


「お前今、盛大に端折ったな。まぁいい。それより、量産品の鉄の剣とドワーフの王が鍛えた業物なんて勝負にならんだろう? なぜ、聖剣にヒビが入るんだ?」


「元相棒が俺に向かってその聖剣を振り下ろそうとしたら、魔王に当たったんだ」


「なぜ、魔王に当たるんだ? ノーコン……なのか?」


「確かにアイツはノーコンだったけど、そうじゃなくて、魔王が俺たちの間に割って入ったんだよ!」


「……どうしてそんなところに魔王がいるんだ?」


「…………一緒にパーティーを組んでたから?」


「なんで、パーティーに魔王がいるんだ?」



 それは、俺が、聞きたいよ!!!!!!



「とにかくだ。伝説の聖剣は不幸な事故により、魔王に敗れた。だから、鍛え直す必要がある。やってくれるな?」


「ロマンあふれる話じゃねえか! 分かった。やってやろうじゃないか」



 かなり強引に持って行ったような気がするが、ようやく修理に取り掛かってもらえそうだ。俺はホッとして、ついでに気になっていたことを聞いてみた。



「ちなみに、その剣、魔王にかすり傷一つつけられなかったんだが、本当に本物なのか?」


「何百年もメンテナンスされていなかったようだからな。それと、使い手の問題もある。剣のスペックに頼って技量を磨かなかったと見える。ほら、ここ。刃こぼれしてやがる」



 おっと、突然辛辣な意見が飛んできたぞ。元相棒のためにもこの話題からは撤退するのが良さそうだ。



「で、修理にどれくらいかかる?」


「これなら1ヶ月くらいだな」


「なに? そんなにかかるのか? 内訳を言ってみろ!」


「修理に3時間、写真撮影に3日、鑑賞に3週間ってところだな! 写真集の注文書はこっちだぞ」



 案外、早く直りそうだな。ってか、本当なら今さっき鑑賞してる間に直ったんじゃねーか?



「よし、明日の朝取りに来る。それと写真集はいらねえ。じゃ、頼んだぜ」


 そういうと、「もうちょっとゆっくり温泉を楽しんで来てくれていいんだぜ」と温泉回数券やマッサージクーポン券を押し付けて来るオヤジに別れを告げ、俺たちは速やかに鍛冶屋を後にした。


 

 さぁ、いよいよお待ちかねの温泉だぜ!






 あ。回数券とクーポン券は、俺たちがありがたくいただきました!

ときに、エルフのお姫様と言ったら、やっぱり決め台詞はあれですよね?

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドワーフのオヤジさんがアレな感じに職人なのが良かったです [一言] 不思議と世界観に慣れてしまうと、すんなり変人が一般人に見えてくる文脈が素晴らしいです。
[一言] 凄いワロタW
[良い点] わーい、続きだ温泉だー! [気になる点] ドワーフのおっさんのビキニアーマーって誰得⁉︎
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