【ひとやすみ】マッサージ大作戦【ひとやすみ】
せっかくの温泉なので、おまけの話を書いてみました。
本編ではないので、劇の台本風にして遊んでみました。
時は戻って、昨晩のこと。
オレは温泉にゆっくり浸かった。いい湯だった。
食事の時間まで少し間があったので、ドワーフのオヤジにもらったマッサージのクーポン券を使ってみることにした。
やや緊張した面持ちでマッサージ店に入ると、先客が一人マッサージを受けていた。アイマスクをしていて顔は分からないが、どうやら女性のようだ。そして、その女性客にマッサージをしているチャイナ服が店主だった。
店主は入店したオレに気が付くと、振り返って、両手をワキワキさせながらオレに声をかけてきた。
店主:「いらっしゃいアルネ! お兄イサン、マッサージうけるアル?」
オレ:「あ、はい。お願いします」
店主:「その感じ、お兄いサン、もしかして、初めてアルか?」
チャイナ服の店主が、コテンと首を傾げて尋ねてくる。これが世に言う「あざとい」というやつか?
やや警戒しながら、慎重に答える。
オレ:「あ、はい。マッサージは初めてです」
店主:「大丈夫アルヨ! オネエサンが、手取り足取り教えてあげるネ!」
オレ:「いや、マッサージしてもらえればそれでいいです」
オレの返答にチャイナ服の店主がぷくーっと頬を膨らました。
店主:「む。それじゃぁ、童貞サマ一名、ご案な~いアル!」
オレ:「おい、やめろ!!! 風評被害ハンパないな!?」
しかし、店主は悪びれた風もなく、にへらと笑って、俺を空いているマッサージ台に誘導した。先客の隣の台だが、衝立が置いてあるので、向こう側の様子は見えないようになっている。
オレ:「あっ、そういえば、このクーポン券って使えますか?」
店主:「これは使えないアルネ!」
オレ:「使えないんかい!? さては、あのオヤジ騙したな?」
店主:「人聞きの悪いこと言わないアルネ。これはドワーフ限定のクーポン券アル。ドワーフでないお客サン使えない。それだけネ!」
オレ:「……なぜにドワーフ客限定?」
店主:「ドワーフの髭高く売れるアル。末永く来店心待ちにしてるアルヨ!」
オレ:「最悪だな! なんだか不安になってきたし、クーポン使えないなら、かえ」
店主:「メニューを見るアル! 好きなコを選ぶネ! 今なら色々サービスするアルヨ?」
オレ:「好きなコースと言いなさい。好きなコースと!! ……で、なになに、①店主の気まぐれコース、②店主にお任せコース、③店主の一押しコース……。お前、選ばせる気ないだろ?」
店主:「そんなことナイ! アル★ネ!」
オレ:「無いのか有るのかよく分からん返事だな。じゃあ、今隣の人が受けているのと同じコースでお願いします」
店主:「なんと、ぷるぷるスライムコースを選ぶなんて、お客サン、目が高いアルネ!」
オレ:「そんなコース、メニュー表に乗ってなかったよな!?」
店主:「裏メニューってやつアルネ!」
そういうと、店主はパンパンと2回手を打ち、助手を呼んだ。
助手:「はいは〜い♪ 喜んで〜♪」
店主:「助手ちゃーん、アレ持ってきて欲しいアル!」
助手:「そう仰ると思って、もう持って参りましたよ。じゃーん♪ うっかりバーサさん謹製『さっぱりオイル』で〜す♪」
オレ:「うっかりバーサって……ドジっ子ニーナの婆さんじゃねえか!? オレは股間からキノコを生やすつもりはないぞ! 帰る!」
店主:「あーん、勝手に帰っちゃダメ。アルヨ?」
耳のそばで囁かれた色っぽい声に背筋がゾワゾワする。気がついたら、店主に背後を取られていた。
この店主、只者じゃない……!
ゴクリと喉がなる。しかし、腰の剣(量産品)に手を伸ばしかけたところで、助手がとぼけた声で割って入ってきた。
助手:「お客様、ご心配なさらずとも、こちらの『さっぱりオイル』の安全性は保証されています。ほら、 お隣のお客様も使われていますが、さっぱりとされていますよ♪」
助手が言うと、衝立の向こうから、声がした。
無愛想な受付嬢(休暇中):「えぇ、このオイルはとても良いですね。私はこのところの残業と接客ストレスで疲れ切っていたのですが、このオイルのおかげで心も体もさっぱりしました(※個人の感想です)」
深夜の通信販売でよく聞くような感想なのだが、妙に耳に馴染んだ声で、うっかり信用したくなってきた。
助手:「とまぁ、このように効果はまちがいなしです♪」
オレ:「……本当に変な副作用はないんだな?」
店主:「もちろんアルヨ! 副作用はナイアルネ! ささ、早くサッパリしちゃうアルネ!」
店主と助手は、オレをマッサージ台に転がすと、さっぱりオイルをドボドボ垂らし、2人がかりでオレをもみくちゃにすると、最後の仕上げとばかりに大きなスライムを腰の上に載せた。スライムはテイムされているらしく、とてもおとなしかった。
程よい重さが腰にかかり、なかなかどうして気持ちがいい。しかもスライム特有のぽよよんとした動きが疲れをほぐしてくれる。
オレ:「あぁ〜、極楽、極楽ぅ」
満足気に目を閉じると、騒がしい店主と助手は「あとは、ごゆっくりアル〜♪」と店の奥へと引っ込んでいった。以外と気が利く。
オレ:「……あいつらのマッサージより、スライムのマッサージの方が気持ちいいな」
頭の中で考えたつもりだったのだが、どうやら口に出してしまっていたらしい。話しかけられたと思ったのだろう。衝立の向こうから落ち着いた声が返ってきた。
無愛想な受付嬢(休暇中):「実をいうと、私も今、同じことを考えていました」
オレ:「す、すみません。心の声がダダ漏れてしまったようです。えっと、地元の方ですか?」
どうしよう。会話が始まってしまった。仕事以外の場面で女の人と何を話せば良いのかわからない。だが、どうやって、会話を終わらせたらいいのかも分からない。
オレの動揺を感じ取ったのか、スライムがうごうごし始めた。
無愛想な受付嬢(休暇中):「いえ、私は旅行中で、この街には昨日来たばかりです。さっきはあんなことを言いましたが、実はこの店にもたまたま入っただけです」
オレ:「なるほど、そうでしたか。いやぁでも、こんなに気持ちいいなら、スライムをテイムするのは無理でも、旅の途中好きな時にマッサージを受けられるように、オレもマッサージ習おうかな〜と思ってしまいます」
無愛想な受付嬢(休暇中):「? マッサージを習っても、自分で自分をマッサージすることはできないのではないでしょうか?」
オレ:「あ、……ハハハハハ、ハ」
笑って誤魔化そうとしたが、衝立の向こうではクスリとも笑った気配がしない。
無愛想さんかよ!?
オレ:「まぁでも、仲間が疲れている時とかに、マッサージしてあげられたらいいかもしれないなぁー……なんつって」
無愛想な受付嬢(休暇中):「…………きっと、喜んでくだると思いますよ」
オレ:「だったらいいんですけどね。ただ、疲れを知らないような奴らばっかりなので、よく考えたらマッサージをしてやる機会があるかどうか」
無愛想な受付嬢(休暇中):「……たとえ、疲れていなくても、その気持ちが嬉しいのではないでしょうか? 今まで沢山の冒険者やパーティーを見てきましたが、仲間とは、そういうものだと思います」
オレ:「…………。そうか。そうだったらいいんですけどね」
オレはそういうと、大きく伸びをして、もう一度目を閉じた。うん、新たな混乱をもたらす未来しか想像できない。そう思うと、意図せず口元に笑みが浮かんだ。
そう思ったところまでは覚えている。だが残念ながら、オレにはこの後の記憶がない。
うっかりバーサ謹製の『さっぱりオイル』には、たしかに変な副作用はなかった。しかし、記憶がさっぱり消えてなくなる薬だったのだ。副作用にばかり気を取られて、メインの効用を尋ねるのを忘れていた。完全にぬかった。
それから、あのあと驚愕の事実が判明したような気がするのだが、どうにも思い出せない。顔もみていないし、名前も知らない。だが、たとえ気づかなかったとしても、あの女性といつかどこかでまた会えたらいいなと、そう思う。
王都で未知のハゲウイルスが流行る。このウイルスにかかるとみんな禿げてしまう。
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王都の偉い人が、ドジっ子ニーナにハゲウイルスの特効薬の作成を依頼する。
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ドジっ子ニーナ、『ケガハエール』を開発する。
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量産しようと思ったら、材料の一つであるドワーフの髭が足りない。
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ドワーフの髭が高騰する←イマココ続編書いてるからちょっと待っててネ!




