76 お掃除とBBQ(3)
「とりあえずお腹がすいたから、片付けをどうするかは後に回して、ご飯にしようか」
フェイの提案に皆が頷いて庭に出た。
フェイは、庭で待機していたコックと給仕を全員下がらせた。
「どうも今日は、何の話が飛び出すか分からないからね。
うちの人間とはいえ、気軽に話を聞かせられる状況じゃないよ。
仕方がないからアレン式の、自分達で焼いて食べるスタイルでいくよ」
「ふむ。
俺は別に誰に聞かれてもかまわんぞ?」
なんてライオが言うから、俺は頭を抱えた。
「こっちが構うんだよ、頭いいくせになんでそんなにバカなんだ?
常識を考えろ常識を」
「くっくっく。
アレンの非常識さがうつったかな」
ダメだこいつ…
日本でサラリーマンを15年近くやった俺を捕まえて、非常識とは…
やっぱり頭を強く打ったとしか思えない。
「この常識の塊のような人間を捕まえて、訳のわからん事を言うな!」
俺はすぐさま抗議したが、姉上以外はなぜか俺を灰色の目で見てきた。
実に心外だ。
その後俺たちは、ドラグーン家のシェフが用意した、めちゃくちゃ美味いバーベキューセットを自分で焼きながら、歓談した。
フェイと姉上とフーリ先輩は、魔道具談義で盛り上がっている。
今話しているのは俺が監修した、自動掃除魔道具『ルンボ』についてだ。
「ほーぅ?
それもまた面白い設計だな。
私やローザにも同じものは作れないだろう。
いくらドラグーン家の資金力、サポートがあるとはいえ、入学からわずか4ヶ月で、すでにそれだけの分野で様々な魔道具を実用化しているというのは驚きだ」
「フェイちゃんは、凄い魔道具士になるね!
私お掃除苦手だから、一つ売ってくれると助かるなぁ〜」
どうやら魔道具士としてのフェイは、中々凄いらしい。
「勿論さ。
姉君には是非使って、魔道具士としてフィードバックしてほしいから、1つお譲りするよ。
まったく、アレンが次から次に非常識なものを考えるから、ドラグーン家の開発拠点の一部を王都に移したほどさ。
いったいアレンの頭の中はどうなっているのかな?」
「やったぁ〜!
フェイちゃん、ありがとう〜!」
しかしこいつら、随分と姉上と打ち解けたな。
2階でキャーキャー言ってた時に何かあったのか…?
恐くて聞けないけど…
俺は前世の知識を活かして、魔道具を次から次へとフェイに作ってもらっていた。
掃除や食器洗浄(ソーラ用)などの日常的なものから、坂道部や魔法研、地理研の鍛錬や研究活動に必要な魔道具は、すべてフェイの設計・開発だ。
ちなみに、フェイには材料費しか払っていない。
『開発費を相場通り請求すると、多分一つも払えないよ?』なんて言われたからだ。
仕方がないので、魔道具研究部を立ち上げて、フェイを部長に就任させた。
設計開発は部活動の一環という事にすれば、一応タダでも筋は通るからだ。
俺はアイデア料として、利用する分だけ材料費と引き換えに現物を受け取って、開発品に関する利権はすべてフェイに帰属させている。
ちなみに、魔道具研究部へも加入申請がかなりあるみたいだが、まだ部員は3名しかいないとの事だ。
フェイに言わせると、『今の時点で戦力にならないし、育てる時間もない』からほぼ断っている、との事だ。
まぁ、俺は必要な道具が入手できれば何でもいい。
「まぁ、アレンのアイディアは魔道具士として興味をそそられる、面白いものばかりだからいいんだけどね。
姉君も、アレンのアイデアで魔道具開発してるの?」
姉上は首を振って、じとりとした目で俺を見た。
「アレン君とは、魔道具に係る話をした事は、ほとんどないかな。
あまり興味がないと思っていたんだけど、そんなに色々と面白い事を考えるなら、もっと沢山お話ししておけばよかったよ」
それはそうだろう。
俺の発想の源泉は、ほぼ前世の記憶…
地球の電化製品や、ラノベや漫画で仕入れた知識が基になっている。
覚醒してから、受験前の数日しか過ごしていない姉上とそんな話をする時間はなかった。
「姉上が今取り組んでいる研究は俺も注目していますよ。
俺が、今最も必要だと感じている技術の一つだ。
余計な事を考えず、ぜひ自分の研究に打ち込んでほしいと思っているから、敢えて口出ししないんですよ」
姉上は通信魔道具の研究をしている。
この世界は通信魔道具がない。
厳密にいえば、例えば王立学園内のような、限られた空間で金に糸目をつけなければ、短い距離での有線通信は可能だ。
だが電波を利用しないためか、無線通信に関する魔道具は一切無く、スマホ依存症だった俺からすると不満タラタラだ。
姉上は離れてても俺と話したい、なんてアホすぎる理由で研究をしているようだが、もし実用化すれば画期的な発明になるだろう。
「へぇ〜姉君の最新研究か。
差し障りなければ何に取り組んでいるか聞いていいかな?
ドラグーンの貴族学校で、あれほど頻繁に発表していた面白い基礎研究の成果が、近頃は全く見えないから気になっていたんだ」
「えーと。
ホントは教授に口止めされてるから、言っちゃいけないんだけど、アレン君の友達ならいいかな?
フェイちゃんなら、役に立つアドバイスをくれそうだし。
私が今やってるのは、離れた場所にいる人とお話しできる魔道具だよ。
空気中にある魔素を利用して声を伝達するんだけどね。
この家から王立学園にいるアレン君と毎日お話しできるように頑張っているんだけど、中々索敵防止魔道具が邪魔で、実現できないんだ〜」
その姉上の話を聞いて、フェイは絶句した。
その技術の有用性を即座に理解したのだろう。
「……念のために聞くけど、索敵防止魔道具さえ無ければ、もう実現可能、なんてことは言わないよね?」
「え?
うん、そこまでは出来てるよ。
その辺の家の索敵防止魔道具なら、こっそり中継基地をおけば何とかなるんだけど、あの学園のセキュリティが中々突破できなくて困ってるの。
何かいいアイデアあるかな?」
固まったフェイに代わって、フーリ先輩が姉上に問いかけた。
「ローザ…
私も今初めて聞いたけど、自分が何を作っているのか分かっているのか?」
「あ、うん。
ごめんね、教授に口止めされてて…
それだけならともかく、魔導基盤に回路を書き込む魔力操作の精度が足りなくてお前にしか作れないなら、研究は一旦止めて、今の形で量産化しろ、偉い人の命令だ!とか言って、偉そうな人のお手紙を持ってきて研究の邪魔をしてくるんだよ?
確かに、索敵防止魔道具を突破しちゃったらちょっと不味い気もするけど、私にしか作れない中途半端な試作品を沢山作れ、なんて、あの人は魔道具士失格だよ!」
姉上はぷんぷんと怒った。
フェイは頭を振ってライオに詰め寄った。
「……ドラグーンでは、把握していないよ。
先ほどの告白には驚いたけど、ザイツィンガーでは情報を把握していた、という事なのかな?」
「…全くの初耳だ。
俺のローゼリア先輩への交際の申し込みは、家の政治とは一切関わりない」
ライオは姉上とフェイを交互に真っ直ぐ見ながら否定した。
「確かにそれが実現できれば便利だな!
アレンの姉ちゃん凄い研究してるんだな!」
「アルは能天気でいいね…
便利、なんて言葉で片付けていい研究じゃないよ?
すでに実現している部分だけでも量産化に成功したら、はっきり言って、一国の国力が何倍になってもおかしくないよ。
もし今戦争になったりしたら、その結果に直結するとんでもない技術だ。
ザイツィンガーでも把握していないとなると…
姉君、その偉い人からのお手紙には、もしかして羽の生えた獅子が光る玉を咥えている紋章が押されてたりしなかった?」
「えっ!
よく分かったね、フェイちゃん。
教授が何枚も持ってくるから、めんどくさくて読んでないけど、確かそんな紋章だったよ。
確かリビングに捨てたから、まだその辺に落っこちてるかも」
…ふぅ〜。
まさかこの国の王家の紋章を知らず、リビングをゴミ箱と勘違いして手紙を捨てるバカがこの国にいて、それが自分の姉とはな…
王国旗に似ている時点で、何か思わないのか?
今すぐボコボコにしてやりたいが、返り討ちに遭うからそれすら出来ない。
とりあえず俺は、責任の所在をはっきりさせるため、声を張り上げた。
「姉上!
それはとっても偉い人のお手紙です!
先ほど、みんなで喧嘩した上に、王立学園1年Aクラス、アルドーレ・エングレーバーが放った水魔法でビリビリに破れている危険がありますが、今すぐ探して読みましょう!
万が一読めなくても、同じクラスのライオ・ザイツィンガーが、壊れたものは全て弁償してくれるらしいので安心です!」
◆
その後、皆でリビングを捜索し、それらしき物を発掘したが、水に滲んで中身は何も読めなかった。
俺はアルの肩を叩いて、『やっちゃったな?』とか言いながら、何とか責任を押し付けようとしたが、俺がアルに魔法の使用許可を出した事を皆が覚えていて、アルに全てを押し付ける作戦は失敗した。
「…はぁ、しょうがない…
ここはあの手しかないな」
俺は『どうせ読む気もなかったし、気にしなくていいよ』なんて能天気な事を言っている姉上を無視して、顔色の悪い皆を見渡した。
「流石はいつも奇想天外な発想をするアレンだね?
ここからどんな逆転の一手があるのか、聞かせてくれる?」
フェイが、そして皆が期待を込めた顔で俺を見た。
「俺たちは何も見ていないし、聞いていない!
以上だ!
さぁ、肉が焦げる前に食おう!
酒をたらふく飲む事も忘れるな!」
それ以外にないよね?
いつもありがとうございます!
また1日か2日ほどお休みします。
ちょっと書き溜めたと思うと、すぐ飲み会やらで貯金を使い果たしちゃいます(›´A`‹ )






