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【Web版】剣と魔法と学歴社会 〜前世ガリ勉だった俺は今世では風任せに生きる〜  作者: 西浦 真魚(West Inlet)


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290 聖地・ルナザルート(7)


皆様お久しぶりです、西浦真魚です。


更新大変遅くなり申し訳ありません。


生業の方が年度末の繁忙期かつトラブル続きで、生活が崩壊しておりました(›´A`‹ )


今日からぼちぼち再開しますのでよろしくお願いいたします!




「やはりあの村で馬を捨て、裏参道へと入ったみたいです。宿屋にロサリアの警察から貸し出された馬が三頭預けてありました。宿屋の主人によると数時間だけ休んで発ったようです」


裏参道への入り口のある村で情報収集をしてきたジャスティンがマントを着用しながら村の外で待機していた皆にそう報告すると、デューは頭痛を耐えるようにこめかみを押さえた。


「ったく、あのガキっ! ちったぁ大人しく俺たちの応援を待つなり悩むなり迷うなりする可愛げはねぇのか! ことごとくこっちからの連絡を飛び越えて進みやがって! …………まさか、証拠も無ぇのに聖地に忍び込むなんてバカな真似してねぇだろうな? ……流石にそれは無ぇよな?!」


デューのこの希望的観測を聞いて、パッチは思わず吹き出した。


「あっはっはっ! 昇竜杯の期間中に帝都のど真ん中で迷子になって、誰にもバレずに皇子とお友達になって帰ってきたアレン君ですよ? 忍び込まない、訳がないじゃないですか!」


隣でジャスティンがうんうんと頷く。


「ロザムール帝国で各国の重鎮に真正面から啖呵を切ったアレンが、今さらびびる相手とも思えないですしね。良くない噂も聞くし、アレンの事だからすでに生臭坊主(なまぐさぼうず)の一人や二人は血祭りに上げてるんじゃないですか? ね、パッチさん!」


パッチとジャスティンがそのようにるんるんと希望的観測を述べてデューを煽る。


「ん、んな訳あるかっ! さすがにあのガキにも敵国とそれ以外を区別するくらいの分別はあるだろ!? いや、ああ見えて意外と堅実なタイプだ! そうだよな、ダンテ!?」


デューは頼むから首を縦に振ってくれと祈るような顔でダンテを見たが、ダンテは気まずそうに目を逸らしてぼそりと言った。


「……燃やしてないといいですね……聖地を」


ダンテの不吉な予想を聞いて、パッチとジャスティンが爆笑する。


「あっはっはっ! 言うねぇダンテ君! よし、いいところ終わっちゃう前に早く追いかけよう!」


「ほらほら急いでデューさん! キレたアレンに聖地・ルナザルートの組み合わせはどう考えても僕らじゃ分不相応だ。『一瀉千里』、デュー・オーヴェルが遅刻すると、王国はうっかり世界を敵に回しますよ!」


三人がデューの返事も待たずに、放たれた矢のように一目散に走り出す。


「い……行きたくねぇぇぇえ!」


あっという間に見えなくなった三人の背を呆然と見ていたデューは天に向かって吠えた。



王国騎士団の精鋭四人が第三軍団の漆黒のマントをなびかせながら、裏参道を翔ぶようにして駆け上がる。





「ここがルナザルートの奥の院。そこから北東に……とするとあれが、封蛇の大岩」


ココは、生家で流し読んだ先祖の調査記録と周囲の状況を慎重に照らし合わせ、その昔聖者が妖蛇を封じたとされる場所に建立されている小さな社を目印に、さらに森を奥へと進んだ。


「…………あった。ドルリアンの樹」


そうして、カナルディア家の古い記録を頼りに探し物を見つけた。


ドルリアンの樹。それは呪われた果実と呼ばれる途轍もない腐臭を放つ果実が実る魔樹だ。


果実が樹になっている間はバナナのような甘い香りをあたりに漂わせているが、落実して実が割れた瞬間、近隣にいた生物が一匹残らず気絶するほどの激臭を放つとされる。


樹は気を失った生物を根で絡み取り、養分にする。


そして、カナルディア家の古い調査記録にはこんな記述もある。


『どんな生物も忌み嫌うとされるドルリアンの果実ではあるが、サン・アンゴル山脈の奥地で例外的事例を発見した。私は、落実して腐臭を放っている実に蝿の王の眷属が瞬く間に集り、持ち去るのを見た。――古くからの異名である「呪われた果実」には、別の隠された謂われがあるのかもしれない――』





大広間にてジュエとリーナの二人を別々に人質に取られたアレンは、助祭司の責めに耐えていた。


武具の類はもちろん、持参した薬品類も全て没収され、さらに手には性質変化を阻害する魔封じの錠を嵌められている。


もっとも、元から性質変化の才能が無いアレンに魔封じの錠を嵌めてもあまり意味はない。


当然ながら抵抗することすら禁止され、その状態のまま筋骨隆々の助祭司――苦難の神殿長ピルカによって散々痛めつけられている。


精霊は存在するのか、それとも風という未知なる性質変化が存在するのかなどの様々な問いに、アレンは『さぁな』『あるといいな』などと、否定も肯定もせずに答え続けている。


徐々にピルカの責めは苛烈さを増し、感情のない顔でじっと耐え忍んでいたアレンはとうとう膝をついた。


「ひゃは! ひゃはははっ! 現れた時の威勢はどうしたのですか?! 『すぐに助ける』のでは無かったのですか?! この私を舐めるから! そうなるのですよ!!」


その様子を離れた場所でにやにやと見ていたトーモラは、堰が切れたように哄笑した。


だがリーナの後ろに隠れるようにして距離を取ったまま、不用意に近づくような事はない。


ピルカが膝をついたアレンの背に、容赦なく笞棒(むちぼう)を打ち据える。


それでもアレンは抵抗する素振(そぶ)りを一切見せない。


そして――


ピルカがこめかみに振り抜いた笞棒を受けて、アレンはついに地に転がった。


「手応えあった。……しばらく動けまい」


ピルカが淡々としと口調でそう告げる。


「れ……レン兄っ!」


すでに喉が潰れるほどに泣いていたリーナが、掠れた声で悲鳴を上げる。


「……まったく、興醒めです。こんな勢いだけのお馬鹿さんに、この私が煮え湯を飲まされただなんて……。まぁ現実はこんな物ですか」


先程までの上機嫌に笑っていたトーモラは、心底冷めた声で言い捨てた。


他方、トーモラ達とは対角に近い位置で成り行きを見ていたジュエは、ぎりと奥歯を鳴らして歯痒そうに鎖を軋ませる。


それを見たドゥリトルがいやらしく笑い、ジュエに再び貞節のチョーカーを嵌め、耳元で囁く。


「よく見ろジュエリー。お前が懸想した男の、あの様をな……。あいつは物語のヒーローでも何でもない、ただの子供だ。だが―― お前が私に生涯の忠誠を誓うというのなら、命だけは助けてやらん事もないぞ?」


「……私のアレンさんへの気持ちは恋などという浮ついたものではありません。……いずれにしろ、貴方に忠誠を誓うなどあり得ません」


ジュエは耳元に掛かる息を悍ましそうに身を捩って躱し、そう答えた。


「くっくっく。強がりおって。……生憎、私は人の好悪の感情に敏感なタチでね。心配せずとも、お前はあの子供に恋慕しておる。その事は私が保証しよう」


「……恋? この私が……?」


ジュエは、心底意外とでも言いたげに首を傾げた。


ドゥリトルが確信に満ちた顔で断言する。


「ああ恋だ。そして……あの子供がこれから切り刻まれ、殺してくれと許しを請い、最後にはジュエリーの代わりに自分を助けてほしいと懇願する様を見て、お前はしっかりと絶望するだろう。その時、お前は今のように強く自分を保っていられない。必ず私に屈服し――」


「……貴方の妄言はもう結構です」


ジュエリーが首を振って言葉を遮ると、ドゥリトルは皮肉げな笑みを浮かべた。


「くっくっ。本当は分かっているのだろう? この状況から逆転の目はどう考えてもない。奴がその性格上、無謀にもこの我々のホーム(ルナザルート)にまで単身乗り込んでくる事まで、全ては我々の筋書き通りなのだ。当然相応の準備をしてある」


と、そこで閉じられていた扉がゆっくりと開いた。


入ってきたのはこの聖地・ルナザルートを統括する助祭枢機卿、コルナールだ。


両脇に凄腕と思しき側近の聖騎士を二人従えており、その指には全て異なる色の石が付いた指輪が四つ嵌められている。


もちろんそれらはただの装飾品ではなく、耐毒性の向上などの特殊効果が付与されている特殊魔道具で、売れば家が建つほどの高級品だ。


「…………ふむ。白々しいのう。大してダメージは入っておらんだろう。ピルカ如きは誤魔化せても、わしの目は誤魔化せんぞ?」


コルナールは地に転がったアレンをじっと見つめていたかと思うと、冷めた口調でそう言った。


その指摘を受けてアレンが何食わぬ顔で立ち上がると、ピルカは驚愕した。


「ば、バカな!!! 最後は確かに手応えがあった! わしがこれまで何人の人間を叩き潰してきたと思うておる!」


アレンは呆れたように首を振った。


「ふん。そんな素人(しろうと)どもと一緒にするな。俺ほど小さな頃から『いい塩梅(あんばい)でやられる事』に腐心した人間はいない」


もちろん、ローザによる無限おかわりを防止するための涙ぐましい努力の事だ。


「……不思議じゃのう。人質を取られ、武具を失い、魔封じの錠を嵌められて尚、まるで時を稼げば何とかなるとでも思うてそうじゃ」


「ふん。何とかなるんじゃなくて何とかするんだ、何があってもな。そっちこそ、そんなごてごてと指輪を付けて、まさかびびっているのか? たった一人、単身で乗り込んできた子供に」


二人が暫し視線を宙で交錯させる。


「……たった一人……? 青臭いのう」


コルナールは指をパチリと鳴らした。


すると、両手足を縛られ猿ぐつわを噛まされたリンドが屈強な助祭司の肩に担がれて運ばれてきて、床へ転がされた。


ここに運ばれる前に相当痛めつけられたのか、そこかしこから出血している。


「とうさんっ! 何で……何であたしなんかのために……」


助祭司により乱暴に猿ぐつわを外されると同時に、リンドはリーナに声をかけた。


「リーナ……お前は……一人じゃねぇ。一人じゃねぇぞ。てめぇら……か、うちの娘を、拐いやがったクソどもは……。今すぐ……リーナを、解放しやがれ」


リーナが嫌々と首を振って、嗚咽を漏らす。


「まさか仲間の存在がばれてないとでも思うていたか? ロサリオの街からしっかりと報告が上がっておるわ。もう一人の仲間は、森から『呪われた果実』をもいできて聖地に投げ込み逃亡したそうじゃが、こちらに被害はほぼない。じきに捕まるじゃろう」


アレンはやれやれと両手の掌を上に向けた。


「そうか、それは良かったな。で……わざわざ姿を現して、お前は何をそんなに焦っているんだ? 何かまずい事でも起こっているのか?」


アレンがそう言ってにやりと笑うと、コルナールは片眉を上げた。


「……人質は三人もいらん。特に屈強な男の人質など邪魔なだけじゃ。そうは思わんか?」


リンドの足元に立つ助祭司が斧を振りかぶると、アレンはふっと笑った。


「お前ら、あまりおやっさんを舐めるなよ? ……おやっさん、リーナのためなら死ねますか?」


アレンに問われ、一瞬虚をつかれたリンドがすぐさま嬉しそうに笑う。


「あたり、めぇだろ。俺は……りんごのリンドだ!」


コルナールがはっきりと苛立ちをその顔を浮かべる。


「……今さらハッタリでした、は通らんぞ? やれ、そやつは別に死んでもかまわん」


助祭司が振りかぶった斧を握った手に力を込めた瞬間、アレンは叫んだ。


「リーナ!」


アレンがきっかりとリーナの目を合わせて、力強く頷く。


「必ず助ける。信じて走れ」


リーナの目に勇気の光が灯ったのを確認したアレンが、拘束された手を勢いよく振り上げる。


と同時に、窓を暗く覆っていたカーテンが一斉に風によって捲れ上がり、全ての窓から部屋に光が差し込んだ。


「ちゃんと感じていますよ、キアナさん! あなたならそこにいる!」


次の瞬間、引き絞られていた強弓から放たれた矢が、窓の強化ガラスを粉々に突き破った。



◾️04/0912:40追記

筆者の予約投稿の操作ミス?のため、修正が反映されていないバージョンがなぜか朝投稿されてました(汗)

ラストの次話のおこぼれを見た皆様、忘れて下さい!(笑)



いつもありがとうございます!


田辺先生のコミカライズが先週金曜日に更新されています!

あのゆとり面接のプロフェショナルの登場など、見どころ満載ですのでぜひチェックしてみてください!


サブキャラもしっかりデザインしていただいて、本当にありがたいです!


よろしくお願いいたします!


■コミカライズ15話

https://comic-walker.com/detail/KC_002787_S/episodes/KC_0027870002500011_E?episodeType=first


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田辺狭介先生による剣学コミカライズ、3巻まで発売中です!

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― 新着の感想 ―
姉の横暴の方が拷問より過酷だったというわけか
なんだかんだ敵さんの拷問内容がお上品というか常識的なのに助けられてる感。腐っても聖職者ってことかな。現状まだSMプレイの範疇のような…もうちょっとこう…尊厳を踏みにじる系のやつを…え?ノクターン行きに…
キアナの監視は継続されていた訳か
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