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【Web版】剣と魔法と学歴社会 〜前世ガリ勉だった俺は今世では風任せに生きる〜  作者: 西浦 真魚(West Inlet)


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289 聖地・ルナザルート(6)



守備隊長の一人であるエリアルが次々に飛び込む凶報に慌てふためいて神殿長室を後にすると、ソファーに腰掛けていたトーモラは我慢できずに噴き出した。


「ぷ~っ! 『ムーラン司教を殺めた賊はまだ捕まらんのか!』。ひゃっ、ひゃっ。……犯人など捕まるはずがないでしょう。ここに居るのですから」


神殿長ピルカが思わず周囲に視線を走らせ、ぎろりとトーモラを睨む。


「……どこで賊が聞き耳を立てておるかも分からんのに人聞きの悪いことを申すな。私は昨晩からずっとそなたらとここにおっただろう。……ムーランが死んだのはすべて神の思し召しだ。こそこそと聖地内部の不正を暴こうなどと嗅ぎまわっておるから見てはならぬものを見て天罰が下るのだ」


「ひゃっ、ひゃっ! 神の思し召しですか。いや~何とも便利な言葉だ。それにしても、音に聞こえた聖騎士達もだらしがないですねぇ。たった一人の子供にここまでやりたい放題やられて。…………だから警告したのです。あいつは頭がいかれていると」


トーモラがそのようにピルカを挑発すると、隣に座っていたレッドがトーモラを肘で小突いた。


「止めなよ。……私は正体も知らずに奴と対峙している聖騎士の皆さんが気の毒だよ。奴の索敵魔法の実力は、あの泣く子も黙るユグリア王国騎士団でもすでにトップクラスだと噂だからね。昇竜杯でも各国の次世代を担う至宝たちを、高笑いしながら手玉に取ったって話だし。正体も知らぬまま闇雲に追いかけたって、そうそう捕まるもんじゃない」


ピルカは忌々し気にテーブルをどんっと叩いた。


「仕方が無かろう! 侵入者(やつ)の正体を、なぜ我々が説明できる! ここには馬鹿真面目なエリアルのような者もおるのだ! 万が一にも全貌が明るみに出たら聖地はおろか、新ステライト教会そのものが途轍もない批判に曝されるだろう! コルナール様はいったいなぜこんな危ない橋を……」


ピルカはそう言っていらいらと頭を抱えた。


「…………わしがどうかしたか、ピルカよ」


と、そこで急に部屋の奥から沈黙を破る声がして、三人はぎょっとした顔で奥の間へと続くドアを見た。


ドアを開けて入室してきたのはコルナールだ。その顔色はいつも通り、幽霊のように青白い。


「コルナール様……な、なぜ奥の間から――」


「わしに何ぞ文句でもあるのか? のぅ、ピルカよ」


コルナールがゆっくりと近づき何の感情も感じさせない顔で重ねて問うと、ピルカはごくりと生唾を飲み、慌てて首を振った。


「文句など……滅相も御座いません。ただ……私はただ、たかが一大司教に過ぎぬドゥリトルめの野心の為にコルナール様に危険が及ぶのは堪えがたいと……そう、言いたかったのです」


コルナールはふむと頷き、血に汚れた手を拭うようにピルカの顔を撫でた。


「耄碌したわしが、ドゥリトル如きの口車に乗せられて必要のない危険を冒しておると、そう言いたいわけか……。舐められたもんじゃ。のう?」


ピルカがその底冷えのする声に震えて二の句を継げずにいると、レッドが口を開いた。


「……コルナール様はもっと大きな世界を見ているのでしょう。世の秩序を保つ、神に選ばれし民としての責務を果たそうと。……コルナール様からすればドゥリトル大司教も聖女も、所詮は枝葉末節(しようまっせつ)に過ぎない」


コルナールは、初めてその存在に気が付いたかのようにソファーに掛けるレッドに冷酷な目を向けた。


「……ほう? 飼い主に見捨てられた哀れな影如きに、わしの考えが分かると?」


レッドは背中に嫌な汗が流れるのをはっきりと感じながら、覚悟を決めてゆっくりと立ち上がった。どんなにか細くとも、自分が生き残るにはこの道を渡り切るより他ない。


「……確かに私は切り捨てられた。ですが、私が成した仕事と引き換えにかつての主はあの円卓へと再び座った。それは事実」


レッドがそう告げると、コルナールは首を傾げた。


「……何が言いたい?」


問われたレッドは、確信に満ちた声で答えた。


「チャンスが欲しい。奴と何度も対峙し煮え湯を飲まされた私だからこそ、奴の考えが、弱点が分かっている。必ず奴を……アレン・ロヴェーヌを御前に跪かせてみせます。もしそれが成ったら、貴方は単なる組織の資金源ではなく、歴史を正しい方向へと導く指導者となる。……ユグリア王国もステライト正教国もない。ハイドランジ家の後継者と目されていたほどの貴方には、貴方にふさわしい歴史の役割があるのでは?」


コルナールはそこで初めて眉をぴくりと動かし、僅かに感情を漏らした。


「……具体的には何とする」


レッドは、自分の首の皮がまだ僅かに繋がっている事を確信した。


「……奴は、どんな敵が目の前に立ちはだかっても決して恐れず、必ず打開する。そして逆境になればなるほど、信じ難いほどの力を発揮する。まさにドスペリオル家の血塗られた歴史そのものだ。だがそれは、どんな困難をも己の力のみで解決しようとする無謀さの裏返しでもある。現にこの聖地へと単身侵入し、暴れまわっている。その信じ難い行動力こそが奴の力の源泉であり弱点です。奴と真正面からぶつかり、捕らえようとするからいけないのです。待っていれば奴は勝手に飛び込んでくる」


やはり感情の籠もらない目でレッドをじっと見ていたコルナールは、やがて踵を返した。


「…………結果で示せ。塔を使って構わん。あそこは邪魔が入らない」


背中越しにそう言って、コルナールは奥の間へと消えていった。





「あの野郎……派手におっ始めやがって……」


リンドは呆れと焦りが綯い交ぜになった、何とも複雑な表情で聖地内部を睨みつけた。


聖地はそこかしこから火の手が上がり、怒声や悲鳴が飛び交い、蜂の巣をつついたような喧騒になっている。


当然ながら、門を固め内外を巡回している聖騎士の数も、その緊張感も、尋常ではなくなっている。


「……何する気?」


リンドが覚悟を決めたような顔で立ち上がったのを見て、ココはその背を掴んだ。


「……こうなっちまった以上、修行僧たちが外に出て内部が手薄になるのを待っても無駄だ。土塀を乗り越えて強行突破する」


「……いくら何でも、それは無謀。絶対すぐに見つかって、問答無用で捕縛される。ロサリオの警察から各方面に連絡が行ってるはずだから、そのうち応援が来るはず。せめて、その到着を待った方がいい」


だがリンドは首を振った。


「この状況でいつになるか分からねぇ援軍なんざ待ってられるか! それにいくら王国騎士団でも、いや騎士団だからこそ、証拠もねぇのに聖地を強制捜査なんて出来っこねぇ! かと言ってちんたら正規の手続きなんぞ踏んでたら、『証拠』そのもののリーナは間違いなく消されちまう。ここまで来て指くわえて見てて手遅れになるぐらいなら、飛び込んだ方がマシだ!」


「だからって……どう考えても自殺行為。きっとアレンもリーナも、それは望んでない」


ココが苦悶の表情でそう告げると、リンドはふっと笑って再度首を振った。


「確かにオメェの言う通り、犬死になるかもしれねえ。けど、りんごのリンドは自分の命惜しさに我が子を見捨てるほど落ちぶれちゃいねぇよ。……おめぇはもう少し距離を取って隠れてろ、ココ。もしお前の読み通り応援が来るなら、騎士団にこれまでの状況を正確に伝える役割が必要だ」


リンドはその背を掴むココの手を強引に振り切って止める間もなく走り出し、そして土塀を乗り越えた。


案の定、すぐに塀の内側が騒がしくなる。


「おい、誰だあいつ! 侵入者だ! 応援を呼べ!」


「どけぇてめぇら! ぶっ殺すぞ! どこだリーナ! 助けに来たぞ!」


その様子を聞いていたココは、唇を噛んでそっとその場を離れた。


「…………僕は……僕にできる事をする」





祈りの神殿の内部に発見した隠し通路を真っ直ぐに歩きながら、俺は血の混じった唾を吐いた。


覚悟を決めて聖地内の神殿を強引に捜索したのはいいが、探している二人は見つからず、探してもない腐敗の証拠、現場は山ほど発見してしまった。


風魔法を用いると空気の流れで隠し通路や隠し部屋の類は容易に発見できるし、ドアを開閉するための不自然な仕組みなども見つけやすい。


つっかえ棒程度なら外からでも風で飛ばせるし、たとえ開錠出来なくても中がどうなっていて誰かいるのかくらいは大体分かる。


そうして、風魔法を駆使して徹底的に捜索しても二人は発見できなかった。


残されたのは中央にある塔だが、ここの正面扉は厳重に施錠されており、他に出入り口も見当たらず入れなかった。


だが確か門番が、あの塔に籠もっているドゥリトルとやらも朝の祈りには来るような事を言っていた。


そこで、祈りの神殿と呼ばれているここを念入りに調べたところ新たに隠し通路を発見した、という訳だ。



歩きながら怪我を負った箇所に傷薬を塗り、槍傷を負った右太腿へ包帯がわりにハンカチを巻く。


通路の中ほどまで歩いたところで、先ほど俺が開いた後方を封じていた隠し扉が音を立てて閉じられた。


「ふんっ……やはり罠か」


俺は首をコキリと鳴らした。


さすがに満身創痍だが、魔力溜まりの影響かお得意の瞬間魔力圧縮の効率が桁違いに良く、体調自体は良い。


不思議と恐怖を感じないのは、捕まれば死という戦場で聖騎士を相手に剣を振るった事による興奮状態にあるからか、はたまたこの聖地の特異な空気の影響か。


何にせよ、俺の覚悟はすでに決まっている。罠だろうが何だろうが、二人がこの先にいる以上、飛び込まなければ助けようがない。


俺は中央の塔へと堂々と歩み入った。


そして――


風がその存在を教えてくれ、だんだんと内階段を上る足に力が入る。


三階の大広間で、俺はついにジュエを発見した。


鎖に繋がれ、全身から血を流して、そして隣には見るに堪えない下卑た笑いを浮かべている豚がいる。


「ジュエ……」


俺が声を掛けると、ジュエはまるで午睡から目覚めた子供のように、険のない顔を上げて笑った。


「きっと……来てくれると、信じていました」


「……あぁ。待たせたな、ジュエ」


だが俺が部屋の中ほどまで入った所で、後方からけたたましい笑い声が上がる。


「ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ! ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ! 度し難い! 本当に、救いようのないおバカさんですね。……全くもって理解不能です!」


ゆっくりと振り返ると、見覚えのある三下……トーモラが狂ったように笑いなら首を振っていた。


「…………武器を捨てろ、マッドドッグ」


続いて現れたレッドがリーナの首にショートソードを突きつけ、実に捻りのないセリフを吐く。


「…………二人とも、ちょっと待ってろ」


俺はレッドの要求通りに弓とダガーを捨てた。


「すぐに助ける」




気がついたら本話で閑話も含めたエピソードが300話目でした!


皆様、ここまでお読みいただきありがとうございました。


引き続き応援のほど何卒よろしくお願いいたします!


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― 新着の感想 ―
よく言われる言葉を一つ “荒らしに反応する君もまた荒らし“
ご報告・文章表現 今話中の文章 「通路の中ほどまで歩いたところで、後方の隠し通路を封じていた隠し扉が音を立てて閉じられた。」 文中の表現を簡略化すると「通路を封じていた(≒閉じていた)扉が閉じられ…
続き待ってます。
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