5
気がつくと、私は幼稚園の制服を着ていた。
小さな手を引いているのは、サリーのオバアだった。
これは夢だ――すぐにそう気づいた。
いつの間にか寝てしまったのだろう。
けれど、懐かしい手の感触はあまりに鮮やかで、胸が熱くなった。
きっと、昔の記憶を夢として思い出しているのだ。
まだ太陽の出ない早朝。
私たちは家の近くの枯れた井戸の前に立っていた。
オバアは小さな徳利を取り出す。泡盛だ。
それに菊の葉を三枚浮かべる。
「請い願います 尊き方、尊き方……」
両手を合わせ、オバアは呪文のような言葉を唱えた。
意味は分からない。けれどその声は、不思議に澄んでいて、耳の奥にしみこんでいく。
『サリー? サリーってなんだろう』
子供の私はそう首を傾げていた。
やがてオバアは盃を口にし、菊酒を一口飲む。
「これで今年も、家族は元気でいられるさ」
その言葉に、私は興奮して飛び跳ねる。
「え、そうなの? じゃあ、私も飲むね!」
サリーのオバアは前歯のない笑顔で笑い、首を振った。
「アンタは子供だから、水撫でしようね」
そう言って、中指を菊酒に浸し、私の額にちょんと触れる。
東の空が明るみ、太陽が顔を出した。
「ライオンキ◯ングみたい!」
笑う私の額を、サリーのオバアは指でゴシゴシと撫でる。
前歯の無い笑顔でくすぐったそうに笑うサリーのオバアの顔は、まるで猿みたいだった。




