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サリーのオバア  作者: NiO
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 私は携帯を取り出し、震える指で「チクザキ」と入力した。

 画面に現れたのは、見慣れない風習の説明だった。

 ――チクザキとは、沖縄で古くから伝わる祈願の酒。泡盛に菊の葉を浮かべ、家族の繁栄と安全を祈るもの。


 材料は、驚くほどすぐに揃った。

 オバアの親族が持ってきた泡盛(・・)の瓶。

 お仏壇に供えられている白菊。

 その、花ではなく(・・・・・)葉を(・・)、三枚、盃に浮かべてみる。


 透明な泡盛の表面に、緑の葉がゆっくりと揺れた。

 私は唇を近づけ、一口含む。


 ――強い。

 けれど、ただ辛いだけではない。

 葉から染み出す青苦さが、泡盛の重みと絡み合って、不思議とすっきりとした余韻を残す。

 菊の花弁を漬け込んだ酒とは、まるで違う。


 違うのは、材料や味だけではない。

 菊酒(きくざけ)が「自らの不老長寿(・・・・・・・)」を願うものだとすれば、

 菊酒(チクザキ)は「家族の繁栄と安全(・・・・・・・・)」を祈るものだった。


 私は深く息をつき、遺族に頭を下げた。


「……すみません。私、間違えて、作ってしまっていたようです……」


 けれど遺族は首を振り、柔らかく笑った。


「いいえ。あなたのおかげで、オバアの本当の気持ちを知れたわ。

 あの人はボケてても、やっぱり最後まで家族を想っていたんだね」


 母もまた目を赤くして頷いた。


「ありがたいことだねぇ」


 やがて盃は回し飲みとなり、親族も、私の家族も、涙ぐみながら菊酒(チクザキ)を口にした。

 青苦い後味の中に、それぞれの想いが溶けていった。


 けれど(・・・)ただひとり(・・・・・)――私はまだ(・・・・)答えを見つけられずに(・・・・・・・・・・)いた(・・)


 お酒を飲まなかった(・・・・・・・・・)理由は(・・・)分かった(・・・・)

 欲していたのは『チクザキ(・・・・)』で、私が作った『菊酒(・・)』ではなかったからだ。


 ――でも(・・)


 じゃあ(・・・)どうして(・・・・)サリーのオバアは(・・・・・・・・)あんなにも嬉しそうに(・・・・・・・・・・)……間違った菊酒を(・・・・・・・)抱きしめ(・・・・)ピースサインなんか(・・・・・・・・・)していたのだろう(・・・・・・・・)


 写真の中の笑顔が(・・・・・・・・)胸の奥でゆっくりと(・・・・・・・・・)ざわめき続けていた(・・・・・・・・・)

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