4
私は携帯を取り出し、震える指で「チクザキ」と入力した。
画面に現れたのは、見慣れない風習の説明だった。
――チクザキとは、沖縄で古くから伝わる祈願の酒。泡盛に菊の葉を浮かべ、家族の繁栄と安全を祈るもの。
材料は、驚くほどすぐに揃った。
オバアの親族が持ってきた泡盛の瓶。
お仏壇に供えられている白菊。
その、花ではなく、葉を、三枚、盃に浮かべてみる。
透明な泡盛の表面に、緑の葉がゆっくりと揺れた。
私は唇を近づけ、一口含む。
――強い。
けれど、ただ辛いだけではない。
葉から染み出す青苦さが、泡盛の重みと絡み合って、不思議とすっきりとした余韻を残す。
菊の花弁を漬け込んだ酒とは、まるで違う。
違うのは、材料や味だけではない。
菊酒が「自らの不老長寿」を願うものだとすれば、
菊酒は「家族の繁栄と安全」を祈るものだった。
私は深く息をつき、遺族に頭を下げた。
「……すみません。私、間違えて、作ってしまっていたようです……」
けれど遺族は首を振り、柔らかく笑った。
「いいえ。あなたのおかげで、オバアの本当の気持ちを知れたわ。
あの人はボケてても、やっぱり最後まで家族を想っていたんだね」
母もまた目を赤くして頷いた。
「ありがたいことだねぇ」
やがて盃は回し飲みとなり、親族も、私の家族も、涙ぐみながら菊酒を口にした。
青苦い後味の中に、それぞれの想いが溶けていった。
けれど、ただひとり――私はまだ、答えを見つけられずに、いた。
お酒を飲まなかった理由は、分かった。
欲していたのは『チクザキ』で、私が作った『菊酒』ではなかったからだ。
――でも。
じゃあ、どうしてサリーのオバアは、あんなにも嬉しそうに……間違った菊酒を抱きしめ、ピースサインなんかしていたのだろう。
写真の中の笑顔が、胸の奥でゆっくりとざわめき続けていた。




