1-07 猫と妖は騙し騙され
ある日妖怪により私は人間から猫になった。人の体を取り戻すため私は妖怪と共に行く。控えめに言って敵対関係。私は情報を集めるため。妖は弄ぶため。お互いに騙し合いを繰り返しながら過ごす。妖は人の体を使わなければ達成できない目的がある様で……。
暗い中を歩いていた。チカチカする電灯の下を抜けた。
わからない事だらけ。私は学校からの帰っていたはず。
でも気づいたらここを歩いていた。この先の見えない道を。
スマホは圏外。都心の住宅街にいたはずなのに。
色々わからない。焦る。私にそんな機能があった事にも驚く。
そこそこ深く包丁で指を切ってしまった時も焦る事ができなかったのに。
焦る機能が低すぎて今も歩いている。私よ、少しは走れ。
まぁ、焦ったところでミスが増えるだけ。しなくてもいいか。
現状の解決策はあるだろうか? 足を止める? なんか嫌な予感がする。
ぺたっ ぺたっ ぺたっ ぺたっ
頭の奥でちりちりとする何かがある。
急がないといけないと思わせる。でも何故だろう?
無用な焦燥感が私の足を速くしている。
振り返るべきか? 振り返るなら手持ちカバンの角でぶん殴らなきゃ。
もっと近づいたら、振り返る勢いを乗せてぶったたく。
怪談話みたいな空間に飲み込まれた気がする。だからなんだ。
ぺたっぺたっぺたっ
近い。軌道は上から下になる様に。
お化けの背が高くても低くても大丈夫な様に。
右足を軸に後ろに倒れる様に回転。
体の重心をカバンに移し
「ぶったたく!」
スカった。盛大にスカって1周した。
影。そう影だ。頭と思われる辺りをカバンが通ったはず。
でもそこに実態がないのか、完全にスカった。
私の運動神経が人並みにあった事に感謝。倒れなかった。
足音はサンダル。でも足も見えなかった。
マスクをしているけれど、あの影にマスクは利くだろうか?
お清めの塩は持ち歩いていない。対処法は思いつかない。
「しゃらくさい」
ガルル。むだに威嚇してみる。こういう相手には気迫が効くイメージがある。
怯懦を示すとそこにつけ込まれるというのがお約束じゃないだろうか?
あーでもエロが効くという話もある。私にエロい話はできないのでムリだけど。
お化けは詳しくない。これは何なのか知らない。
バックベアードとか? 足音と考えるとべとべとさん?
べとべとさんだと思って対処を考えるか。
「べとべとさん、お先にどうぞ」
これで道の端に寄ればべとべとさんなら前に行く。べとべとさんならだが。
べとべとさんは有名処だから、対処法も明確でいい。
べとべとさんじゃなかったらどうしよう? 困る。私の知識にない。
暴力は効きそうにないし、逃げるのも出口が分からない。
怪異だとしても知らないモノは知らないから対処の仕方がない。
うん。べとべとさんじゃないなら詰んだな。
GAHEAGHHBS
影が目の前を通っていく。
影の中に白い目があり、私はそれと目が合ってしまった。
その白い目に意識が集められ、それから目が離せなかった。
最後の記憶は白い目の中に入ってブラックアウト。
結局あれはなんだったのだろうか? わからない。
意識を取り戻した私は体を伸ばした。
うん。意味が分からないな。
私の手はなんで黒くて毛むくじゃらなのだ? ネコみたいな鼻先も見える。
力を込めれば爪が飛び出るし、これってネコの手ではないだろうか?
お腹を見ても黒い毛むくじゃら。意味が分からない。
「ありがとう」
声がした。見た。私がいた。
なんでやねん。わてのぼでぃを返せ。
インチキ関西人がでてきた。混乱が激しい。
私は何を見ているのだろう? わからない。
微笑む私はクスクスと笑って歩いていた。
追いかけた。意味はない。取り返す手段とか知らない。
私の体を取ったヤツに何の目的があるかを知らない。
ただこのままネコとして生きていくのは私にできると思えない。
私は人に媚びを売る能力なぞないのだ。狩りをする事もできないだろう。
野良ネコになるのはムリだ。死ねる。適性がない。
何かを噛んだり、引っ搔く事はできても、どんくさいところあるし。
動くには動けるんだけど、頭でっかちでワンテンポ遅れる。つらい。
そもそもここにまともな生き物がいるかも怪しい。散々歩いて何も見つけられなかったし、変な風にループしていそう。
考えるとここに一匹取り残されたら死ぬのはほぼ確実だろう。
行く当てもないし、ついていくのが今できる唯一の事だろうか?
何より思い入れはそんなにないとはいえ、あの体じゃないと本とか読めない。
「おいで」
何様だ、貴様。手を差し出しやがって。その体は私のだぞ。
まぁ、乗せてもらうがな。歩くのが大変なんだ。四つ足キツいわ。
この体歩きにくくて、ひょこひょこってなっちゃうんだけどさ。
手を肩に? これは肩に乗れと? おぉ、やったるわ。
いや、揺れるて。おふ。なにわろてんねん。
ちょっと足滑らせて後ろ足が背中側に落ちただけやん。
ツッコミとボケの時は似非関西人風に言いたくなる。
たぶん大分混乱しているのだろう。
面倒な事は自分じゃない他人に任せたいという意識がありそう。
「にゃ」
声がでない。鳴き声だ。これで意思疎通を人と図るのは困難だと思う。詰んだな。
「ふんふん」
私の体で何をハイテンションにしてやがる。
鼻歌なんてしおって。私のローテーションクールなイメージが崩れるじゃないか。
そんなに家々が珍しいか? 人を見て何が楽しいんじゃ。
「ねぇ、人間ってネコが好きなんでしょ?」
どういう意味じゃ。好き嫌いで言えば私自身、好きな方だろう。
だがしかしそれは愛でるという意味であればの話。なりたいとは思わない。
不眠症気味なのだ。あんなに寝られない。本も読めない。
「私が体を盗ったから、人間の望み『ネコになりたい』を叶えてみたの。嬉しい?」
人のしがらみから抜けられるという意味では嬉しい。
でも私は本を読みたいし、ネコにはなりたくない。
あ、喉をなでるな。ゴロゴロって声が出ちゃう……!
「よしよし」
ふと歩く道を見れば知っているとこだ。この足取りは私の家に行くつもりなのか。
まぁ、特に変わらないか。親は私がどうなろうと気づくと思えない。
いや、さすがにこのハイテンションでバレるな。私まず出来ないもん。
「君って家族と仲が良くないんだね」
記憶でも覗いているんだろうか?
それとも今の私の心とか読んでいるのだろうか?
まぁ、どちらでもいいか。別に話す事がないだけ。
家の人と年一で話せばいい方なだけだし。
あれ、ただ血がつながって同居しているだけの人だよなぁ。
「まぁ、そういう人だから僕みたいなのが入り込む余地があったのだけどね」
別にお金は出してくれるし、学校も普通に通えるしいいじゃん。
それって出来ない人から見たら大分贅沢でしょ?
そもそも私に話をする内容がないだけだし。
「あ、でもワガママは割かし通りやすいんだ? 不思議」
まぁ、品行方正で手のかからないレベルMAXなので。
趣味は読書で、それも図書館でアレコレ読むだけ。
小遣いせびるのが嫌というのが大きいけど。
「こんな都合がいいとは思ってなかったよ。君は飼えそうだね」
私が飼われるのか。
うわぁ。すごい脱走したい。でも生きるの絶対厳しい。地域猫とかも難しくない?
捕まったら去勢じゃん。避妊のために子宮とられるんでしょ?
確か耳に切り込みが入っているのが、去勢手術済みの証だっけ? 怖いな。
「大丈夫。優しくするからね」
ねぇ、エッチな同人誌の開始みたいな事を言わないでくれる?
趣味の読書のためにも私の体をさっさと返して欲しい。
言葉はどうすれば伝わる? スマホの操作? なんて言えばいいのさ。





