1-04 魔法少女にお願いっ! ~恋の魔法事務所がアナタの恋を安全・安心サポートですっ!~
私の通ってる蒼井森高校って、有名な事が二つあるんだよね。
一つ目は、飛行機部。【大空へ飛べ!!全国高校飛行機コンテスト】、愛称【飛べコン】で何度も優勝しているの。テレビ中継もされてるし、知ってる人も多いかな。
それともう一つが、有名なウワサ話。
【校舎裏にある泉に願いをかけると、魔法少女が現れて、恋愛をサポートしてくれる】んだって。
ここ何年もウワサは消えかけてたんだけど、最近になって再びささやかれ始めた。
でも……実はこれ、ただのウワサじゃないんだよね。
蒼井森高校1年生の私、相沢 唯。飛行機部所属。
実は!! ウワサの【魔法少女】、やってます!!!
嫉妬の心を植え付ける悪の組織【嫉妬団】から、みんなの大事な恋心を守るため。
ううん、人助けポイントを貯めて私の願いを叶えるため。――今日も、同じ黒猫事務所の魔法少女達と全力サポート中ですっ!
そりゃいつかは、大空を飛んでみたいなって思ってたよ?
少しでも先輩の夢に近づけるから。
でもまさか、魔法で自由に飛べるなんて……流石にやり過ぎじゃないかなぁ、これ!? ……うぅ。
「どうですかニャ、空の旅は?」
「どうって……夢なら覚めて欲しいかなぁ……」
空中に浮かんだ状態で、くるりと自分の身体を見回して呟いた。
ふわふわのフリルスカートが風に揺れて広がってる。
胸元にはキラキラ光るハート型の宝石と大きなリボンが付いたブローチ。
腰まで伸びた髪はアニメのような鮮やかなピンク色で、両側を猫耳のような大きなリボンの飾りでまとめてツインテールになっている。
足元なんて、ピンクのレース付き靴下に白い羽飾りのついたヒール靴だし。まるで子供服じゃん!
「ねぇ、私もうすぐ十六歳なんだけど! さすがにこの格好は無いと思うなっ!!」
「えー、可愛いじゃないですかニャ。ね、唯ちゃん」
「ふぁ……っ!?」
頬が熱くなった。……何言ってるのよ、もう!?
私は手に持っていたステッキを握りしめると、隣で飛んでいる“マスコットキャラ”を睨む。
「その姿で甘いセリフ言うの禁止! 禁止だからね!!」
「どうしてニャ? ボクのこの姿、好きなんじゃないですかニャ?」
「そっ、それは……まあ、好きなんだけど……」
「だったら問題無いじゃニャいか。もっと素直になるといいですニャ~」
そう言いながら彼は意地悪な笑みを浮かべた。
ううっ、その通りなんだけど。
だって、姿も声も顔も表情のひとつひとつも全部、――憧れの先輩にそっくりなんだもん。
違うのは、さわやかイケメンの黒髪に謎の猫耳がついてるのと、ヘンなニャとかいう語尾、あと『魔法少女のマスコット』って書かれたTシャツ姿くらい。
つまり、彼はマスコットで……。
「人型のマスコットなんて聞いたことないよぉ。出会った時は、全然違う姿だったじゃん!?」
「それはボクが、恋のキューピッドでもあるからニャ」
「なにそれ。恋のキューピットが“私のお仕事”なんだよね?」
「そうだニャ。でも、ボクもご主人様の恋を叶えたいニャ」
「ちょっ……! それどういう意味!?」
私が顔を真っ赤にして叫ぶと、彼は「フフン♪」と楽しそうに笑って答えた。
「そのままの意味ニャ。魔法少女になったのも、あの人の力になるためニャン?」
予想外の言葉に一瞬思考停止したけど、すぐに我に返った。
「ちょっ……なんで知ってるの!? 私何も喋ってないよねっ!?」
「喋ってなくてもボクは何でもお見通しですニャ。例えば、今日の下着の色は……」
「きゃあああっ!!!」
慌ててスカートを押さえると、クスクス笑い声が聞こえてきた。
「冗談ですニャ」
「っ……!! その姿で冗談も禁止なんだからね!!」
「はぁ、新しいご主人様は禁止が多いニャぁ~」
「禁止って言ったら禁止なの!!」
恥ずかしくて泣きそうになった。ああもう最悪だよ……。
私はため息をつくと、ふわりと宙返りをして目の前に浮かんでいた雲の中に飛び込んだ。
「はぁ……なんであの時『契約する』って言っちゃったんだろう」
今更後悔しても遅いけど。
まさか。
まさかさ。
【魔法少女が実在する】なんて、思わないじゃん!?
◇ ◆
――――二日前。
「……は?」
放課後の部室で突然告げられた言葉に、私は目を丸くして固まった。
「だから。相沢がいいんだよ、俺」
「えっと……ごめんなさい、もう一度言ってもらえませんか?」
私は机の前に立っている拓真先輩の顔を見上げる。
緊張して震える声で告げると、先輩は驚いたように目を丸くしていた。
だけどすぐに嬉しそうに微笑んで、私の頭を優しく撫でてくれた。
「だからね。俺は前から相沢がいいなって思ってたんだ。――ダメかな?」
「それって……」
「……ねえ、返事聞かせてくれない?」
優しい笑顔に、胸がドクンッて鳴った。
顔が熱くなるのを感じながら俯いていると、先輩が私の隣に来て座った。
私はゆっくりと深呼吸すると、覚悟を決めて口を開いた。
「……はい」
「えっ……?」
「だから、その……よろしくお願いします」
消えそうな声で答えると、ぎゅって抱きしめられてしまった。
びっくりしたけど、すごく幸せで。
このままずっとこうしてたいって思った。
――なのに。
「いやぁ、ありがとう! 相沢ならマスコミ受けも良さそうだし、なにより軽いしさ、絶対向いてると思ってたんだ」
「……へ?」
「これで安心だな。大変だけどこれからよろしくね」
先輩はそう言うと、ポンポンと私の肩を叩いて笑った。
「あの……ちょっと待ってください。私、何を頼まれたんですか!?」
「ははっ、そんなの決まってるじゃないか。人力飛行機のパイロットだよ」
「……え? えぇっ?!」
先輩の後ろには、作成中の白い飛行機が置かれている。
ここ、蒼井森高校には有名な部活があって、それが今いる『飛行機部』。
テレビ放送もされてる【大空へ飛べ!!全国高校飛行機コンテスト】、愛称【飛べコン】で何度も優勝している強豪校なんだよね。
「相沢もさ、飛べコンに参加したくて入部してくれたんだよね?」
「そ、そうですけど……」
ウソだけど。
二年前にテレビで見た、空を見上げる先輩の笑顔。
貴方に憧れて受験して入部までたんです、なんて言ったら……先輩どんな反応するのかな……。
「大丈夫だって。相沢は根性あるしさ、何より可愛いから」
「か、かわ……」
「ああ、もちろん。相沢以外の人は考えていないからね」
……うう。
この人は……口を開けば飛べコンの話ばかりする「飛べコンオタク」なんだから!
今の“可愛い”も絶対絶対、特に意味なんて無いよね……もうもうもう。
「……相沢、大丈夫? なんか顔赤いけど」
「だ、だだだだいじょうぶですっ!」
「ホントに?」
「あのっ、先輩っ」
「ん?」
「私、やってみます! せ、先輩のため、に!」
心臓が爆発しそう。でも言った! 言っちゃった!!
「…………」
――。
「あ、あの……先輩?」
「……」
「えっと……その、何か言ってください」
先輩の反応が怖くて、恐る恐る顔を上げてみる。
するとそこには瞬きもせずに固まっている先輩がいた。……まるで、人形みたい。
「せ、先輩?」
「……」
「せんぱーい?」
「……」
「……えっと、もしもし?」
先輩の目の前で手を振ってみたけど、完全に無反応。
ど、どういうことなの!?
それに、急に部室の中、ううん、学校中の音が消えたくらい静かになった気がする……。
「良質な乙女エネルギーをキャッチしたニャ。キミがボクの新しいご主人様だニャ?」
「ふぇっ?」
「はじめまして、ボクは蒼井森高校に代々伝わる伝説の妖精猫だニャ」
突然聞こえてきた声に振り向くと、そこには真っ黒の子猫がいた。
「えっ? なになに!? どこから来たの?? というか今、猫ちゃん喋った!?」
「ねぇ、ご主人様。魔法を使えば何でも叶えることができるニャ?」
「何でもって?」
「もちろん、なんでもだニャ」
「うん。ボクと契約すれば魔法が使えるようになるのニャ」
「魔法、ねぇ。じゃあ……っ!」
いやいや、落ち着いて私。
これは……もしや夢の中なんじゃないかな? だって……猫がしゃべっているし!?
でも、それでも。
思わずゴクリと唾を飲み込む。
「た、例えば……だけど。飛べコンで飛行機がちゃんと飛べるようにっていう……願いでも……?」
「もちろん、余裕だニャ」
「じゃあ、契約する!」
「わかったニャ。さあ、ご主人様、目を閉じて……」
言われるままに目を閉じた。
「――――」
「――――」
呪文のような言葉が頭の中を巡っていく。
「すごいニャ! 成功だニャ!」
「な、なにが?!」
「これで、キミは魔法少女になったニャ!」
「まほうしょうじょ?」
ゆっくりと瞼を開ける。
すると、窓に映った自分の姿が見えて……。
「って、ええええっ?!」
――私の手にはピンクのステッキ。
背中には白い羽。
まるでアニメのコスプレのような、ピンク色でフリルいっぱいの衣装。
髪もピンクだし!
「何コレぇ!」
「初心者でも大丈夫だニャ、マスコットキャラのボクがついてるニャ」
「そ、そういう問題じゃないってばぁぁ!」
◇ ◆
――――。
「はぁぁ~……あんなの絶対詐欺だよ。クーリングオフを要求します!」
「魔法少女にクーリングオフなんて無いニャ!」
ふわふわ浮かぶ綿菓子みたいな雲の上に座って足をぶらつかせる。
右手で握っていたステッキを軽く振ると、小さな光が弾けて虹色の煙が溢れ出した。
キラキラした光の粒が舞う中、私が再び大きなため息をつくと、横のマスコットが大きな声を上げる。
「魔法のステッキが反応してるニャ!」
「はいはい。……ねぇ、ホントに人助けポイントが貯まったら願いが叶うんだよね?」
「本当だニャ、ウチは大手事務所だから安心ニャ」
「何それ。……もう、信じてるからね!?」
とは言ったものの、まさか自分がこんな格好をするなんて思ってなかったよ。
――先輩はどう思うだろ。
『すっげぇ似合ってる!』とか言ってくれる……わけないよね。
誰にもバレないように依頼を終わらせて帰ろう、うん。
「それじゃ、魔法少女ユイの初出動ニャ! 悪の組織【嫉妬団】の魔の手から、恋する乙女を救うニャン!」





